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極論から考えるデッキ構築論

0. はじめに(Who am I)

 ちわ。吉住です。吉住イクルです。
 僕はハースストーンを6年間くらい遊んでて、腕前はラダーのアジアサーバーでのランキング3桁くらいです。フレンド申請は、受け付けると悪口を言われることが多いので基本は却下して孤独に遊んでいます。
 そのうち沢山強くなって、大きな大会に出場して、活躍できちゃったら良いなぁ、なんて思いながらハースに向き合ってます。

1. 記事の概要

 ハース歴は6年ですが、大体はコピーデッカーとして遊んでいて、自分でデッキを作っていたのは最初の数ヶ月くらいだけでした。そんな僕でしたが、この前デッキを自作してみたらいろいろと思う事が多くって、、、

 それこそ6年前は
「デッキっていうのは、まずコンセプト(アグロ/ミッド/コン/ミル)を決めて、強いカード(パワーカード)をいっぱい入れて、1から10コスまでのカードをコンセプトに合ったバランスで配置すれば作れるんでしょ?」

くらいの認識だったのですが、久しぶりに最近デッキを組んでみたら
「デッキ作りとは、まず、①弱い構築を事前に避けながら、②デッキパワーの確保を考えて粗組みし、それから③環境との噛み合わせを意識しつつ、④実戦を伴いバランスを調整していくものだ」
という構築法のプロセスが自然と頭の中に浮かび上がってきました。それを一通り文章化してみたのが、この記事です。

2. 記事の目的

 この記事の対象者は、一言で言うと「どんな細かいことにも理由をつけて納得したい理屈バカ」、つまりはみたいなタイプのプレイヤーさんです。そういう人への何かしらのヒントになれば良いなと思う気持ちが1割、そして自分自身の成長のためという気持ちが9割で、この記事を作ろうと思いました。
 俺の考えはまだまだ未熟で浅いところが多いので、文章化していく事で少しでも考えが進化して、自分が更に成長できれば良いなと思っています。

3. 手法の全体像

 冒頭でも触れましたが、
①弱い構築の回避②デッキパワーの確保による粗組み、それから
③環境との噛み合わせの考慮、④実戦のフィードバックによる細かい調整、これが僕の考えるデッキ構築のプロセスです。
 では、具体的な各方法論に移りましょう。

 3(1).弱い構築の回避

 ハースストーンのデッキには何通りの組み方があるのでしょう? カードが300種類以上あって、その中から30枚を重複無しで選ぶだけでも1億の5乗、10000000000000000000000000000000000000000通り(!)もあるようです。こんなもの、いちいち総当たりで試せませんよね? ですから、あからさまに弱いデッキ構築を事前に排除しなくては、時間がいくらあっても足りません。
 しかし、一般的に弱そうに見える構築法だとしても、場合によって強いこともありえます。デッキの大半が小型の呪文カードで構成されるクエストハンターや、パワーの低い小型ミニオンばかりでできたプレスタードルイド等がその例です。
 なので、一般的に弱い構築の典型例を把握しつつも、「弱い構築がどうして弱いのか」その理由を正確に把握しておくことも重要だと思います。それを知っておくことで、時としては「セオリーに反した強い構築」を発見できるようにもなるからです。
 では始めましょう。

  3(1)-a. 高コストばかりの構築

 さて、貴方には自身がハースストーンの熟練者であることを一旦忘れてもらって、無垢な初心者の気持ちに戻ってもらいます。
「わ~~~い、イラストが武骨でカッコいい~! いろんなキャラクターがいて面白そ~! あれ? でもなんでこのゲームって女キャラの目が光ってるんだろう?
 ……貴方はカードバインダーをスクロールするうち、後半のページに目が留まるでしょう。

 パワー8、HP8で、毎ターン陣地を1/1のドラゴンでいっぱいにするドラゴン。パワーとHPが12で、しかも場に出た時に相手のミニオンを全て破壊するドラゴン。……メチャ強そうですね。見ているだけでワクワクします。
 ですが、こういう巨大なカードだけで貴方のデッキ30枚を構築すると、どうことになるのでしょうか?

超レアで強力なドラゴンや魔神ばかりを採用した、夢のダイナミックデッキです!
どんな敵ミニオンが立ちふさがろうと、パワーでボコボコにしてやりますよ。
くう~、今から使うのが楽しみです
ぬわ~! この最強軍団が酒場のオヤジごときに負けるとは……!
しかもリーサル確定なのに、無駄にヒロパを使われたり、無駄にミニオンを追加で
召喚されたりといった、煽り行為も沢山されて、私の自尊心はズタボロです! 
もう二度と私がこのゲームを起動することは無いでしょう……さようなら。。。

 ありゃりゃ。なんと、練習モードの酒場の親父(ノーマルモード)ごときにも無惨に負けてしまいました! 一体、このデッキ構築は何が悪かったのでしょう? 理由は主に2つあります。

【弱点その1】高コスト構築は、序盤に弱い
……とっても当たり前ですね! 小学3年生にだって分かりそうです。実際、さっきの酒場の親父との練習戦でも、リバー・クロコリスクとブラッドフェン・ラプターの弱小コンビに気づけばライフを20点以上も奪われてました!

くう~! 僕の最強ドラゴン軍団が、こんな奴らごときに……!

【弱点その2】高コスト構築は除去札に弱い
……これは、当たり前だったでしょうか? その1は誰にとっても自明でも、その2が自明かどうかはプレイヤーの熟練度次第だと思います。
 ええ、そうです。高コストカードは、それよりも低コストな除去カードに弱いです。

例えばこういうカード

 今、貴方が9マナか10マナを使って、超~強いミニオンを召喚しました。それを相手は4マナの「動物変身」で無力な羊に変えてしまい、残った6コストでそこそこ強いミニオンを召喚しました。そして貴方はまたメチャ強い大型のミニオンを……。
 ……もうお解りですね? 図体の大きな巨大ミニオンカードは、1ターンに1枚しかプレイできません。それを5コスト程度のカードで相殺されて、残ったコストで中規模のミニオンを召喚されれば、自ずと有利になるのは相手です。
 高コストミニオンは、(中コストの)除去カードの格好の餌食。これは心に留めておきましょう。

【例外】
 ただし高コストカードが非常に多い構築なのにも関わらず、強いパワーを発揮するデッキタイプも存在します。例えばビッグプリーストとか、ランプドルイドです。

ランプドルイドの使う「野生の繁茂」
ビッグプリーストの使う「影の真髄」

 これらのデッキは、相手よりも速く大量のマナを稼げるようになったり、中盤にデッキ中の大型ミニオンを特殊召喚したりすることで、序盤の隙を減らします。
 そして、これらのデッキは
・序盤に負ったライフの損失を埋め合わせるためのライフ回復や装甲強化カード、強力な挑発ミニオンカードの採用
・単体除去によるマナ消費の差分を埋め合わせるための、軽量な「ミニオン復活」カードだったり、相手の陣地のミニオン全てを1枚きりで空白に変えるカードなりの採用
 がある事で、大型カード偏重構築に特有の欠点を上手にカバーする作りにもなっています。

  3(1)-b. 低コストばかりの構築

 では、今度は低コストカードばかりでデッキを組んでみましょうか。低コストのミニオンだって、沢山召喚すれば全体としての強さは高コストカードの、はるか上です。
 ……これは本当のことです。高コストミニオン単体のスタッツ(パワーとHP)よりも、それと同じコストを使って沢山の低コストミニオンを召喚した場合の合計のスタッツの方が高くなるようにハースストーンのカードは設計されています。つまりハースの低コストミニオンは、高コストのミニオンに比べてマナの効率に大きく優れているのです!

「あらあら、奥さん、聞きました? あのヒョロヒョロだった超うざい調剤師くんも、
10コスト分まとめて召喚すれば、20/20の最強ミニオンに早変わりするようですわよ?」
「まぁ! それなら、あの最強のドラゴン、オニクシアも一撃でKOですわね!」

 それに先ほどの高コスト構築に比べてみても、「序盤に弱い」、「中コストの除去カードに不利」という弱点も、低コスト構築では全く心配ありません。さあ、早速、低コストカードだけで構築した「(実はマナ効率最強の)低コスト軍団デッキ」で酒場の親父にリベンジです!!

グああぁぁ~~~! くやし~~~!
こんな思いをするくらいなら草や木に生まれてきたかったですよ!

 ……また負けたよドラえも~~~~ん!!
 どうして僕は負けてしまったのでしょうか? 試合を見てないから分からないって? それはごもっとも。でも、なんとなく推測できることもあるのでは? 僕の手札が0枚で、更に終盤なのにマナが9個も余ってますよね。

【弱点】手札の枚数に対する効率が悪い
 ええ、そうです。マナ効率に重点を置いた低コスト構築は、手札が枯渇してしまいます。もっと細かく言うと、低コストカードは「1マナあたりにどれだけの仕事をするか」のマナ効率には長けていても、「カード1枚あたりにどれだけの仕事をするか」のハンド効率がすこぶる悪い。だから、終盤になるに従って相手の使うカードの『枚数』が自分の枚数と釣り合ってくると、途端に力負けしてきて、状況が悪くなってきます。
 それじゃあ、ドロー呪文を使えば弱点は補えるでしょうか?

 例えば『滋養』で3枚ドローすれば手札枯渇の問題は消えますので、こういう風にドロー呪文で死角をなくせば低コストデッキは最強になるのでしょうか? ……いえいえ、ドロー呪文の使用にもマナが必要である事を思い出してください。ドロー呪文はマナと引き換えに手札を増やしますが、盤面に対する貢献を一切行いません。つまり、折角の低コスト構築の長所である『高いマナ効率』が損なわれるのです。
 まあ、一切のドローカードを積まずに相手を倒せないままハンドが枯れてしまうデッキよりは、マナ効率が劣化してもドロー呪文を積んだ方が強いでしょうが、決してドロー呪文が低コストデッキの抱える問題に対しての特効薬にならないことだけは覚えておきましょう。

【例外】
 低コスト構築でも強いデッキは沢山あります。いうまでもなくアグロデッキ全般(または一部のテンポデッキ)がその好例です。ハンド効率の問題に対処するためにアグロ(テンポ)デッキが採る対処策は様々です。

 相手の手札使用枚数がこちらに追いついてくる前に、相手のライフをゼロにしてしまうとか。

はい、ここでナゾナゾの時間です。お前から俺への反撃を封じる最良の方法、
それって、一体な~んだ? ……答えはお前を殺すこと! (グシャッ!)

 手札を減らさないように攻め続けるとか。

おっと、この中に約1名、ヒーローパワー1発で
簡単に死んでしまいそうな、頼りない子が紛れているわね!

 マナ効率の劣化を最小限にしながらハンドを補充する呪文の採用だとか。

ただし盤面にミニオンが沢山いるときに限る。

 ところでアグロ系のデッキに対して、コントロール系のデッキで戦った回数が多い人なら、こんな経験をした事もあるのではないでしょうか?
 ……アグロ側のミニオンをAOE呪文で全て焼き払って『ふぅ、やれやれ。焦ったよ。でも、これで俺はもう安全だな! GAHAHAHAHA!』と思っていたにも関わらず、相手の手札がまだまだ多く残っていたために、沢山のミニオンを再び展開されて押し負けてしまった……そんな苦い経験が。
 低コストカードは決して、弱っちいカードではありません。先述のようにマナ効率自体は割と高いのです。なので手札が枯れない限りは、低コストカードを連打することで「1ターンあたりに盤面に投入するスタッツ(パワー・HP)の総量」は、中規模サイズのミニオンカードたちに比べて、結構高くなりやすいです。
『ハンド死すまでアグロは死なず』……少し話が脇道に逸れた感はありますが、これも覚えておいて損はない考え方だと思います。

  3(1)-c. 完全コスト均等割りの構築

 高コストばかりでも、低コストばかりでも、弱点が出てくる。ならば、低コストから高コストまでのカードをバランスよく採用したら良いのではないでしょうか。
 ……ええ、それはきっとその通りでしょう。実際にラダーで活躍するデッキの多くは、それぞれの中で低いコストから高いコストまでのカードがわりとバランスよく分布している印象を、誰でも抱くと思います。

 ところで、低コストから高コストまでのカードを均等に配置したデッキがもしも有望であるならば、『1コストから10コストまでのカードを各3枚ずつ配置した計30枚のカードからなるデッキ』、いわば“完全均等バランスデッキ”をラダーで見かけない理由はなんでしょう? バランスの話をするなら、その“各コスト3枚ずつ”の配分が、最も平等で完璧なのでは?

 確かに数学的にはそれが一番均等ですが、実際のデッキの多くは、低コストのカードの方を多めに採用していますよね。そこにはおそらく(少なくとも)3つの事情が関係しています。

【弱点】活用可能性の格差・スノーボール・シナジーの不在
 まず1つ。序盤に引いた高コストのカードは、その時点で一切使うことができないけれど、終盤に引いた低コストのカードには、ある程度の使い道がある、という事。例えば8ターン目に1コストのカードを引いたとしても、
『7コストのミニオンと一緒に出す』といったような形で、盤面を補強したりできますね。

 そしてもう1つ。ミニオンを序盤に、より速く、より多く展開できたプレイヤーが、そのまま盤面の主導権を維持しやすい……いわゆる『スノーボール』と呼ばれる戦略があるためです。

 最後の1つ。単純にコストのバランスだけ考えて組んだデッキにはシナジーが期待できない。これが最も大きな事情かもしれません。
 ハースのデッキはカード同士の相乗効果(シナジー)を意識することでなるべく高いパワーを発揮するように作られます。それはデッキ全体の構造による『グローバルシナジー』または、複数のカードのみが関与する『ローカルシナジー』のいずれかに分類できますが、これは構築手順②“デッキパワーの確保”に深くかかわってくるトピックなので、詳述は後回しです。

【例外】
 もしもハースストーンのカードから、
・あらゆるシナジー要素が失われて、
・なおかつ10ターン目以降もきっちりと全てのマナを使い切るよう場合と、余りマナを出してしまう場合とで、とてもとても大きくパワーに差がついてしまう
・更に盤面のスノーボール戦略が機能しない(ほとんどのカードが突撃持ちなど)
・そして勝負の決着が20ターン付近に長引くような、
 こういう環境になった場合(そんな詰まらなそうな環境になったら、みんなすぐにハースを引退するよというツッコミは置いといて)。こういう状況になってしまえば、実はこの完全コスト均等割りの構築はなかなか強くなります。より厳密に言うと、9~10コスのカードの枚数をちょっとずつ下げて、1~2コスのカードを少し増やした方が、この状況でも多少は強くなるのですけれど……しかし完全均等割りもなかなかに優秀です。まぁ、この話の詳細は、実際に環境がそういう感じになったときに改めて語りましょうか。

  3(1)-d. コンボに対する誤った分量の投資

 強いコンボのためには沢山のカードをデッキに投入し、弱いコンボのために投入するカードの量は控えめにする。これはカードゲームの基本です。
 例えば祝福プリーストの『超越者の恩寵』コンボ。

わぁ、私の盤面強すぎ!? 感謝します

 これは、わずか4~5ターン目にしてパワーとHPが10や20を超えるオバケミニオンを2体も召喚するコンボです。この『2体』というのがミソで、5ターン目に使える量のマナでは2体を同時に処理することは難しいです。そのため、大抵はこのまま相手が降参してゲームが終わります。

 この超越者の恩寵コンボはゲームを早期の段階で、即座に終わらせる、大変強力なコンボです。なので、デッキ全体のカードを(ほぼ)このコンボ完成のためだけに準備したデッキ、ミラクルプリーストは大変有力なデッキタイプになっています。

 次に例示するのは『寝返りハウルフィーンド』コンボです。

 相手にハウルフィーンドを押し付けて、細かい火力スペルで傷つけていき、相手の手札を大量に破棄させる……このコンボは一見してとても派手ですが、実はそれほど強くはありません
 相手の手札が次々と捨てられていくのは見てて爽快なのですが、こちらがこのコンボを完成させるためには少なくとも『ハウルフィーンド』と『寝返り』の2枚。それと幾枚かの火力呪文を消費します。なので、手札の状況によっては「自分が5枚のカードを費やして、相手が捨てる手札も5枚」という風な、完全にイーブンなトレードが成立するだけで終わってしまうこともあります。
 そしてこのコンボは相手の手札が大量に破棄されるだけで、デッキのカードまで破壊できるわけではありません。なので、(一部のデッキに相対したときを除いて)それだけでゲームを終わらせるには力不足です。よって、このコンボの完成のためだけにデッキの全てのカードを整えるようなデッキ構築は、大変弱いものになるでしょう。

 もう一度、繰り返します。『強いコンボには沢山のカードを費やして良いが、弱いコンボには沢山のカードを費やさない』、これが基本的な考え方です。(各種ドローソースも含めて)もしも20枚程度のカードを、コンボのために費やすのであれば、”相手がほぼ確実に即死する"くらいのリターンは欲しいものですし、それくらいのカードを費やすことでデッキの勝率も安定して高くなるように思います。
 上記のミラクルプリーストデッキに対して、例えば、

『とりかえばや』や侍女を抜いて、デッキの柔軟性確保のために『導きを求めて』と2~8コストのカードを各種ピン刺しする、といった構築は折角の必殺コンボの完成を遅らせてしまいデッキが弱くするだけですし、
 また上記のハウルフィーンドコンボのデッキに対して、

今はもう使えない? あ、ごめんッス……

 コンボパーツを集めるためのカードを何でもかんでもデッキに採用する構築は、コンボ完成直後に相手からの反逆で顔面をタコ殴りにされる未来が見え透いています。
【弱点】デッキパワーの低下
 そもそも「誤った分量の投資」と前置きしているわけなので、この構築は必然的に総合的なパワーが弱いです。
【例外】
 もしも、あまりカードを大量に消費せずとも勝手にコンボが完成してくれるような場合……極論ですけど
『このカードは必ず最初の貴方の手札に来る。敵のヒーローに猛毒カウンターを1つ与える』
『このカードは7ターン目までに必ず手札に来る。敵のヒーローに猛毒カウンターを1つ与える。猛毒カウンターを2つ得たプレイヤーはゲームに敗北する』
こんなカード2枚が実装されたら、このコンボを7ターン目よりも前に完成させるためにいろんなドロー呪文を採用する価値は、あまり高くありません(※相手が全く同じデッキを使ってきたら話は別ですが)。
 ここまで極端でなくても、デッキに含まれる他のシナジー・ムーブを推し進めるうちに自然とコンボの準備が整うような場合(連続クエストプリーストとか連続クエスト海賊ウォリアーとか)も、あえてコンボの完成を援助する必要は薄いです。

  3(1)-e. 効率の鈍化

 例えば貴方が手札破壊をデッキに取り入れたとします。

 火あぶりを2枚、そして上述の『ハウルフィーンド+寝返り』コンボを狙ったカードの採用……さて、この構築は有用でしょうか? 答えはノーだと思います。相手の手札を大量に除去してしまえば、相手は次のターンから“引いたカードをそのまま場に出してターンを終える”、いわゆるトップデッキ戦術に以降する確率が高いです。そうなると、2回目、3回目にこちらが手札破壊を試みても、見返りはあまり大きそうではありません。

 武器破壊や沈黙付与のカードに関しても、現在の環境では事情は似ています。もちろんデッキタイプにも大きく依存する話なのですが、沈黙は1度付与したらからには、状況を大きくリードして相手が挽回できないようにして勝負を決める。武器破壊も、1度行ったからには、2度目の武器装備をされる頃には他の手段でその武器からの脅威を緩和できるように準備を整えておく。そういう方針の方が勝率は高くなりやすいでしょう。というのも、武器破壊や沈黙、手札破壊をしつこく狙い続けるデッキには明確な弱点があるからです。

【弱点】デッキパワーの低下
 下の図を見てください。

 ある動きやシナジーに対しての、カードの投入枚数と効果の高さを(適当に)示したグラフです。このグラフがテーマとしている題材は何でしょう? 手札破壊? 武器破壊? 沈黙? あるいはミニオン同士の獣シナジーやナーガシナジー? ……僕がこのグラフで示したかったのは、それらの動きやシナジーの全てです。もちろん、具体的な内容によって、この曲線のカーブはそれぞれ違った形を描くのでしょうが、大まかな形はこんなもんじゃないのでしょうか?
 先ほどのコンボの話にも似ていますが、どんな動きやグローバルなシナジーにだって、効率の良い投資の分量というものはあり、それ以上のカードを投入するくらいであれば、他の動きを狙うカードを採用する方が総合的に強くなる公算が高いのです。

【反例】
 環境が大きく武器や強力な断末魔ミニオンに依存したものになれば、沈黙や武器破壊は2枚でも3枚でも4枚でも5枚でも、積んだ方が良い状況になることはあります。例えば「コボルトと秘宝の迷宮」環境における悪魔キューブウォーロックの席巻に対しては、沈黙付与を多く採用するデッキが散見されました。

  3(1)-f. 汎用性の権化

 初級者にありがちなことですが、
・強力な武器を採用したデッキに2回負けたから武器破壊カードを採用し、
・ソリティア型のデッキに負けたから手札破壊カードを採用し、
・強烈なアグロデッキに負けたからライフ回復カードを採用し、
気が付けば動きが全て中途半端になった挙句に、平均勝率が元より大きく落ちているデッキで戦い続けていた……そういう経験はありませんか? ご存知の通り、それは弱い構築の典型例です。

【弱点その1】役割被りのリスク
 まず、貴方のデッキが本当にその特殊な『動き』を必要としているのかを自問しましょう。例えば現在(2022/10月付近)有名なデッキタイプでいうと、ミラクルプリーストには武器破壊カードが採用されていません。
 もしも巨大な武器でライフを0にされそうになっても、巨大な挑発ミニオンを特殊召喚する、というそのデッキのメインの動きがそのまま武器カードへの対処として機能します。
 こんな風に、『巨大なミニオンを沢山召喚する』『猛攻により勝負を5~6ターン目あたりに終わらせてしまう』『相手の手札を中盤に一挙に破壊してしまう』といった、デッキのメインとなる動きによって、特別な武器破壊・沈黙付与などのカードを不要にできます。
 そのメインの動きが不運にも不発に終わってしまった場合には、特別なカードが状況に噛み合うのでしょうが、大体の場合はメインの動きが不発に終わった時点でどちらにせよ既にゲームが覆せない敗勢であることが多いです。

【弱点その2】平均勝率の低下リスク
 Tredsred氏の(無料公開)note記事における議論を、僕が部分的に、かつ微妙にデフォルメした形で引用させていただきます。
 強力な必殺武器を採用したデッキにコテンパンにやられた貴方が、武器破壊カードをデッキに採用したとします。さて、貴方が同じデッキと再戦したときに起こる状況は以下の4通りです。
[ケースA] 相手が武器を引く。貴方も武器破壊を引く。
[ケースB] 相手が武器を引く。貴方は武器破壊を引かない。
[ケースC] 相手が武器を引かない。貴方は武器破壊を引く。
[ケースD] 相手が武器を引かない。貴方も武器破壊を引かない。
 この4つの状況のうち、元々の状況に比べて貴方が有利になっているのは、[ケースA]の1通りのみです。そしてBとDは大した変化がなくて、[ケースC]に至っては無駄なカードを引かされているため、貴方は少し不利だと言えます。
 分かりますか? 4つの未来のパターンのうち、2つは変化無しで、1つは有利になって、1つは不利になってます。そしてこれは、武器を持つデッキに当たった場合のみの話であって、他の(武器を1枚も積んでいない)デッキと対戦した場合には、武器破壊カードがお荷物になって勝率が確実に劣化します。ですから、対策カードの採用は単純に思ったよりも高い効果が望みにくい措置なのです。

【反例】
 2つめの弱点<平均勝率の低下>に関してですが、コントロール系デッキではこれはリスクになりにくいです。というのも、コントロールデッキは大体、手札が潤沢に溢れていることが多いので、ケースCによる不利の度合いは(手札が常に少ないデッキタイプに比べて)低くなります。また、試合が長引く傾向にあるため、そもそもケースCが起こりにくくなり、ケースAが起こりやすくなっています。

 3(2). デッキパワーの確保

 さて、弱い構築になってしまう原因に気づけたなら、次はデッキを強くする方法について考えましょう。ところで、以下のカードプレイを見てください。

 順当なマナカーブの通りに、適性スタッツのミニオン(※ちょっと変なのいますが)をプレイし続けることで、場に投入できるスタッツの合計量はパワー15とHP20で、合計35点分です。今度は以下の例を見てください。

3つの心が1つになれば~♪ 1つの正義は100万パワー♬

 マーロックを順序よく、場に投入しました。合計スタッツは、パワー33とHP30で合計63点分です。……約2倍に増えました!
 今度はこの例をご覧ください。

ときには足し算ではなく引き算の発想で

 盤面に付け足したスタッツは、7ターン目まで来たのにパワー14/HP16ですが、相手が盤面に投入した大量のスタッツを引き算して、相手が奪ったヒーローのライフも回復して、相手よりも相対的に高いスタッツを盤面に出現させています。

 序盤・中盤・終盤といったタイミングの違いはあれども、いずれかのタイミングで相手よりも相対的に高いスタッツ量・多いハンド資源・高いライフポイントを稼ぐ度合、これが俺が『デッキパワー』という概念に与える定義です。
 単純に各ターンに、強そうなミニオンをプレイし続けるだけでは大したデッキパワーの発揮は望めず、大小さまざまなシナジー、特別なコンボ等を利用して、高いデッキパワーの確保を狙うこと……これが具体的なデッキ構築の出発点だと思ってます。
 このデッキパワーの確保が不十分なデッキでは、強力な環境デッキたちが発揮する高いデッキパワーに押し負けてしまい、そもそも勝負にすらならない……そして、この後に控える『デッキの微調整』の工程をいくら頑張ったところで、根本的なデッキパワーの不足はなかなえ補えない……ゆえに最初にこれを考えることが重要なのです。

 例として、ミラクルプリーストは光熱エレメンタルとプリーステスのコンボによって5ターン目にスタッツをパワー80、HP80の合計160くらいを一気に投入し、その時間帯に相手より優越するパワーを叩き出します。
 ランプドルイドは5~8ターン目にかけて相手のスタッツを0に引き戻してから、次々と場に高スタッツを投入し続けます。対象的にアグロドルイドは4~6ターン目に自陣のスタッツを純粋に最大化して相手のライフを0にします。
 それぞれのデッキは、いつ・どうやって、相手よりも高いパワーを捻出するのか、そのへんがしっかりと決まっているわけです。

 例外は、呪いインプウォーロックやナーガプリーストといった、複数の狙いをもつデッキでしょうか。これらのデッキは複数の勝ち方のプランを内包しているデッキです。こういうデッキは、
・それら複数のプランが互いの達成を援助しやすい構造になっていたり、
(例:インプ速攻プランでHPを削っておくことで、呪い蓄積プランで相手のライフを0にするまでの速度が上がる)
・両方のプランに共通して貢献するカードの種類が多かったりすることで、
(例:ナーガプリーストのヘビカズラや光熱のエレメンタルは、テンポプランとコンボプランの両方に貢献する)
複数のプランが同居しやすい構造をとっています。

 そしてデッキパワーの確保の仕方を考えたら、いろいろな落とし穴に気を付けながらデッキを大雑把に粗組みしましょう。
 ……意味もなく高コストのカードばかりに偏っていませんか?(①-a) 低コストばかりで手札が息切れしないでしょうか?(①-b) あまり強力でないコンボのためにデッキのスペースが広く費やされていませんか?(①-d) 複数回繰り返す事で効果が薄くなっていくような大量ミニオン除去・大量手札破壊・武器破壊のような類の行為を、何度も繰り返す構造になっていませんか?(①-e) いろんなリスクや可能性を考慮した挙句、どっちつかずの中途半端な構成になってませんか?(①-f)
 

 3(3). 環境との噛み合わせを考慮した調整

 ここからは、具体例がないと説明しづらいため、僕が2022年11月に作った寝返りウォーロックを題材として話を進めます。その当時の環境は、
・インプ軸やフェル呪文型のアグロデッキ
・HP40(デッキ40枚)の打たれ強いドルイドや泥棒ローグデッキ
・中盤に"インチキ”で即死級のミニオンを召喚してくるコンボ型デッキ
この3種が多数派であるという印象でした。

 こうした環境の事情を受けて、
『寝返りウォーロックを使えば、コンボ型とアグロ型に大きく有利を取った挙句に、40枚デッキとも互角以上に戦える(※これに関しては完全な間違いであると後で分かりました!)のではないだろうか?』
という着想を得て、更には
「寝返りコンボを決めるために、沢山の便利な補助役のカードが多く使えそうだ」という見通しもあった上で、デッキを組み始めました。
(※上述の「デッキパワーの確保」と微妙に順序が逆になっているようですが、両プロセスはある程度は同時進行で行われるものだと思います。)

 そして、コンボ型のローグデッキにはドラカがいて、更にはアグロデーモンハンターも強力な武器を振り回してくるため、クサリヘビを1枚だけ採用しました。

 アグロやコンボに安定して勝つことを目標にしつつも、40枚デッキに対しての安全な勝ちは見込めなさそうな事にすぐ気が付いたので、それは考慮に入れなくなりました。環境デッキの全てに安定して有利をとれるデッキなんていうものは、どうせ存在しません。潔く不利な対面を受け入れた方が全体的な勝率はかえって伸びやすいものです。

 そうして、アグロ・コンボには『寝返り+終末預言者』の組み合わせで勝ち星を稼ぎつつ、コントロール(40枚デッキ)気味の相手に対しては、能動的な勝ちを放棄して、『寝返り+ハウルフィーンド』によりキーカードを手札から沢山除去することでのラッキー勝ちを期待する程度です。

 そのため僕は、このデッキにウォーロックの『呪い』効果に関するパーツを採用しませんでした。

 呪い効果はコントロール系の相手に対しては強力ですが、アグロ・コンボデッキ相手には効果が薄く、これをデッキに採用するよりはアグロとコンボに安定して勝てる構築にする方が総合的な勝率は伸びると判断したためです。
 ノームフェラトゥも採用しませんでしたが、事情は似たようなものです。

 ノームフェラトゥが意味を持つのは、互いにデッキを最後までドローしききることが前提の、対コントロール(40枚)デッキ戦のみです。その代わりに僕はドロー呪文やミニオン除去カードをデッキに増やしました。
 僕の選択が正解だったかどうかは分かりませんが、ともかく、以上のような思考と選択のプロセスが『環境を(総合的に)考慮した上でのデッキの調整』の具体的な実例です。

(……俺はこういう作業がハッキリと下手なのですが、これを読んでいる皆さんはもっと上手に的確にできるでしょう。)

 3(4). 実戦を通じた微調整

 俺は、できたばかりの荒っぽい『寝返りウォーロック』を携えて何度かラダーに潜ったときに、「コントロール戦には有利にならなさそうだ」と事前に思ってはいたものの、それにしてもコントロール相手に本当に何もできなかったために、ブランとデナスリアス伯爵を採用しました。この両名は、ミスリルロッドでコストダウンすることで同一ターンに出す事もできるため、対コントロール戦の決着の切り札として働く……ときもありました。少なくとも、この両名を出す事で対コントロール戦を勝った試合の数はゼロではないです。

 もちろん、安易な対応力の確保は器用貧乏になるリスク(①-f)をはらみますが、ブランもデナスリアス伯爵も、対アグロや対コンボ戦でもそれなりに強い役割を持てたため、採用して正解だったと感じています。おそらくこの2枚の採用で、環境における総合的な勝率は下がっていません。

 他には、実戦を通じて「放火の告発」をデッキから外す決断をしました。

 このカードは単体除去として序盤は便利なのですが、こっちがヒーローカードで変身してしまうと、都合よく自ヒーローにダメージを与える手段がなくなってしまい、使い勝手が途端に悪くなるためです。
 そして俺は、相手の強力なミニオンの単体除去という仕事が、他のカードの組み合わせによってもある程度は実現できることに気づき、そっちの動きの強化にカードのスペースを費やすことを決めました。
 実はこの記事を書いている時点で、まだ寝返りウォーロックの理想的な構築は全く完成しておらず、絶賛、手探りで模索をしている最中です。
(追記:何をどうやっても弱い仕上がりにしかならなかったのであきらめました!)
 ですが、こうして記事にいろいろな事を書いてみた結果、自分の中の認識が深くなって、より素晴らしい構築に仕上げることができたら良いなと思いながら、ひとまず筆を置く事にします。長文をお読みいただき、ありがとうございました。

4. まとめ

 デッキ構築のプロセスは、①弱い構築の回避②デッキパワーの確保による粗組み、それから③環境との噛み合わせの考慮、④実戦のフィードバック
による微調整だと思います。以上。



<謝辞>

 俺にハースの技術を教えてくれた(直接的であれ、間接的であれ)、全ての人に感謝します。Tredsredさんの様々なネット記事、koronekoさんの視聴者コーチング企画、Kenjiさんの視聴者コーチング企画およびデッキビルドに関するブログの随想、更には『自分の考えをなるべくしゃべりながらラダーする』企画を行ってくれたテンペストさんの配信、佐藤九日堂さんのブログ記事。これらの物には沢山お世話になりました。
 また、ごく最近では、ナーガプリーストの細かなプレイングを教えてくれたBloodEdgeさんのサポートや、プレイの細かい考えをしゃべりながら行う眠たげなクマさんの配信など。そういう先人が共有してくれた知恵を取り入れることで、自分のプレイングや、このゲームに対する考え方を、効率よく改善させることができました。ありがとうございます。

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