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【GS4感想】100年生きろ

 白羽空也、全然儚くなかった。
 個人の感想です。 ※スクショあり


 私は生命力の塊が好きなので、白羽空也のような、窓際から外に目をやって己の寿命を見据えているような美青年に興味を抱くことがあまりない。
 だが、初めて見たときから白羽空也は忘れられず、ある休日を彼と主人公・マリーに捧げた。

 ある期間までに指定のパラメーターを満たし続けないとエンディングまでのフラグが折れる、注文の多い料理店みたいな登場人物・白羽空也。
 プレーヤーからすると面倒極まりないし、主人公の女の子は努力を重ねすぎて学園どころか世界的アイドルのポテンシャルを秘めたスーパーヒューマンと化した。

 学力パラ150で一流大学に行けるのに、全てのパラメータが150〜300の超人が誕生した。そのくらいの実力を主人公に求めてくるのだから、白羽空也は超有名なアイドルで、butterやdynamiteなどを歌いつつ大病も患っている皇室育ちのイケメンだと思ってた。

 だが、蓋を開いてみれば、彼はただの人だった。トラブルに巻き込まれやすい体質な上、やさしい性格なのでつい人助けをしてしまう。高校の成績はパッとせず、性格はぼんやりとしている。

 容姿と口調が大人びているから、出会った直後は精神的に余裕がある歳上キャラに感じるのだけど、知れば知るほど彼は「自分を知らないただの学生」だった。

 なるほど、彼以外の登場人物にはなにかしら秀でた特技がある。
 特別な存在に隠れてしまう「本物の凡人」だからこそ、彼は「隠しキャラ」なのだ。特別な女の子である主人公は、非凡な才人に好かれる素質がある。凡人は才人の後ろに立たされてしまうので、主人公の目につきにくいのだろう。

運動キャラ:颯砂希

 実際、主人公が白羽空也以外の男子と仲良くなると、ステータスを満たしていても彼とのエンディングを見られない。
 プレーヤーからすると「なんて面倒な……」というのが本音だが、彼の話を読んだあとだとしっくりくる。白羽空也は普通の人だから、特別な存在である主人公の記憶から薄れやすいし、選ばれた男の子たちが白羽空也の実力を簡単に上回るのだろう。

 ときメモGSは主人公のステータスを上げて憧れの彼に見合う女の子を育成するゲームだが、白羽空也の場合は立場が逆転した。白羽空也が努力をして主人公に追いつく話だった。
 白羽空也は紆余曲折あって、主人公の前で1年留年宣言をする。努力家の主人公に感化されて、いい大学に入るために勉強をした。

 彼のおかげで乙女ゲームのイメージが完全に崩れた。乙女ゲームに「人間」はいないと思っていた。「乙女ゲームとは絵に描いたようなイケメンを揃えて、女性の本能をくすぐるように作られた幻想」という偏見がどこかにあった。ひどい。

 白羽空也はあまりにも人間だ。

 ……。

\好きだ〜〜! 人間の話だ〜〜!/

 白羽空也が人助けに腐心してたのってもちろん親切心もあるのだろうが、姉と弟の影響だと思っている。

左:大地 右:空也
弟の白羽大地も攻略対象

 白羽空也は京都出身で、おそらく関東住まいのお姉さんの家に弟と居候している。(主人公の修学旅行先が九州かつ、標準語と方言の区別がされているのではばたき市は関東だと思っている)
 白羽空也の弟・大地はなにをやらせても上位を取ってくる才人で、お姉さんは関西から関東にわざわざ移り住んで働いている、多分、自分の意思で物事を決められる芯の通った人だ。
 そんな2人の真ん中に生まれたから、「人は何者かになるべき」という認識に至るのが自然な流れだ。けれども、白羽空也には目標も好きなことも特技もなかったから、人助けを介して何者かになったのだろう。

 特別な人になれるか否かの分かれ道って、こだわりがあるかないかだと思う。
 「なりたい自分になる」なんて言葉が平成から令和にかけての流行りだけど、そもそも90%の人はなりたい自分像を持たないわけじゃないですか。
 ほとんどの人が「そんなものない」って思いながら適当な成績を収めて、ほどほどに生きて「もっと頑張ればよかった」と言い、労働後に机へ向かうこともせず"年下へのアドバイス"を生き甲斐にするわけですよ。(我ながら途方もないチクチク言葉だ)

学力キャラ:本多行

 白羽空也を除いて、作中に出てくる特別な男の子たちはみんなこだわりを持ってる。
 学年トップの成績を誇る本多行は学習そのものが大好きだし、陸上を愛してやまない颯砂希は卓越した実力の持ち主だし、オシャレに余念がない七ツ森実は正体を隠して学校に通う現役売れっ子モデルだし……。好きなものこそ上手なれ、を若いうちから体現できている子には最初からスポットライトが当たっている。

 白羽空也が他人より秀でていることといえばおそらく顔だ。文化祭のときに「かっこいい」と言われていたので、顔はいいのだと思う。
 生まれながらの造形のよさはもちろん"才"だけど、それは彼自身が求めて会得したものではない。「困っている人や急なハプニングに遭遇しやすい」と彼は不思議な力のように話すけど、人のよさそうなイケメンは他人の目につくのだから、体質ではなく顔のせいだろうと思ってしまう。
 周りよりちょっと見栄えのいい、ただの人間がこの作品における特殊なキャラだった。

おっくうなんだね

 作中で語られない部分もあったので妄想も入るが、白羽空也も目標なく周りに流されるばかりの日々を後ろめたく思っていて、過剰に人助けをしてしまう。ただでさえ人に注目されやすい容貌なのに、自分から進んで手を貸すので一部の人からは都合がいい存在になっている。そしてとうとう悪徳な人間に利用されて、女性を売る商売に手を貸してしまう。そのことを主人公が真正面から叱ってくれて、白羽空也はその叱咤を受けて自分で未来を選ぶ決心をする。

 主人公が白羽空也にとって光すぎる。

 白羽空也は白羽家を「楽しい」と評していて、これは本心だと思うのだけど、ひと呼吸入れてから言うあたり思うところはありそう。家族に叱られた経験とかないんじゃないかな……。

「楽しそう? ……そうだね、楽しいよ、白羽家は」

白羽空也

 空也はただでさえ聞き分けの「いい子」で、白羽家自体も大らかで、幸せを絵に描いたような家族だからこそ、白羽空也は空っぽのまま育ってしまったのではないだろうか。好きなようにしていいよ、と言われて喜べる姉と弟に挟まれて、「好きなことなんてない」とは言えず、成人間近までアイデンティティを放棄して生きてきたのではなかろうか。

  白羽空也は主人公が「白羽さん」と呼ぼうとすると、「空也がいいな。みんなにそう呼ばれているから」と断りを入れる。関西から移り住んでるのも相まって、ここの解釈は人それぞれだと思う。
 私は、家族のことを好いているのは本当だけど、幸福を形にしたような親族に劣等感を抱いているのではないかと思った。家族のことは好きだし、血も繋がっているはずだけど、他人のように遠く感じた日が何度もあったんじゃないかな。

 中身のないまま他人のために生きているうちに、善悪の判断すらできない人間になりかけていて、初めて目を見て叱ってくれたのが尊敬できる歳下の子だった。主人公があまりにも光。

 主人公に光を見出してからの白羽空也は、そのときの自分では手の届かないところまで欲するようになる。それは一流大学に合格することだったし、主人公に並べる存在になることだった。

 主人公が明確に白羽空也の人生を変えた。

 ときメモGSは1人でも生きていけそうな子たちに主人公の存在を組み込んで、彼らの人生をより彩るところがすごい。彼らは主人公に出会わずとも好きなことをして、きっとそれまで通り生きていけた。
 でも、主人公に会うことで彼らは新しい人生の価値を知る。そのプラスとプラスの掛け算が心地いい、晴れやかなゲームだと感じていた。

 けれども白羽空也は主人公に出会わなかったら、マイナスに踏み込んでいた存在だ。ほとんどの人が位置する「普通」の世界線に生きていて、一歩間違えたら抜け出せない蟻地獄の斜面でふらふらと生きていた。主人公がいなかったら彼は意図せず犯罪者になっていたかもしれないし、それは創作上の話ではなく現実的な設定だと思った。

 他のルートは1が10になる話だが、白羽空也は0が1になる話で、まっさらな彼が色を覚えた物語だった。

 ときめきメモリアルガールズサイド、よすぎる。

 人間の不得手な部分と人間関係のいい部分を抽出して、過剰な演出を加えず簡潔に描くこのコンテンツはなに? そりゃこっちは「君と好きな人が100年続きますように」って願っちゃうし、コンテンツも20年続いちゃうわけだよ。

 20周年ってなに? 成人おめでとう。

 ただでさえいいゲームだなと思ったのに、白羽空也のような人間臭いキャラクターも出してくれるコンテンツだと知って余計に離れがたくなった。
 白羽空也に「推せる」より「共感」を覚えてしまった時点でもうダメだ。
 「ただの人」は自分より信じられるものを求めながら生きている。だから愛を求めるし、宗教に縋るのだと思うし、私は無宗教だが宗教の意義は理解できる(なんの話?)。
 つまり……自分より信じられる存在に出会えてよかったね、と感涙してしまった。マリーと白羽空也のお話をもっと読みたい。手始めにダウンロードコンテンツを買いました。

 老若男女問わず、ときめきメモリアルガールズサイドで愛を知ろうよ。

 (ときメモGS4以外の過去作は未プレイだが、そういえば隠しキャラの印象が全体的に薄く、もしかしたら全て白羽空也のような話なのかもしれないと思うと、今から震える)

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