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【日記】よかった日

 知り合ってから、半生をともに生きている友だちがいる。今日はそんな2人と出かけた。好きなアニメとショップがコラボするから行こうと誘われて、外に出た。

 彼女たちとは価値観が合うわけでも、性格が合うわけでも、好みが合うわけでもない。共通点は「オタク気質」ただ1つだ。

 ショップの最寄り駅で合流する。
 しばしの沈黙が流れて、「どういうルートで行こうか」から会話が始まる。「会えて嬉しい」とか、「楽しみにしてた」とか感慨深げな言葉は誰も口にしない。
 低血圧気味の女3人が集って、黙々とそぞろ歩いた。

 最近、私はオタクらしいことをしてなかった。なにかに熱中することもなく、流れる日々を傍観していた。なので、目の前にいる2人をただ眺めていた。

 仕事が苦手な上に社交を不得手とする私は、社会に馴染めない気を抜くと人生について考えてしまう。なにかに熱中しているときは上手く現実逃避できるのだが……。
 ここ数週間は鬱屈とした気分でいた。寝つくまでの時間が長くなっていた。前に不眠で心身を壊したので多少の焦りを感じていた。本当は出かける気分じゃなかった。
 そういった経緯もあり、余計に話すことができなかった。いい天気だったので、ただただ「秋晴れだなあ」とか思っていた。

 買い食いをしたり、ウィンドウショッピングをしているうちに会話が増えた。2人から最近ハマっているものを聞いていたら、私も話したくなって口を開いた。思いの外、言葉がぽんぽん出てきた。
 そうやって意味もなくお喋りしてたら、友だちが「休日って感じ」と呟いた。ベンチに座って海を眺めていたときだった。大きい船と小さい船が浮かんでいた。
 彼女の言葉を聞いて、休日だという実感が湧いた。力が抜けて、笑いのタガが外れた。なにを話したかは覚えてないが、そこから帰るまでずっと心の底から笑っていた。

 話は変わるが、小学生の頃、グラウンドを眺めながら「ここで生きていけないかも」と思ったことがある。
 小学生時代の記憶など、もはやほとんどない。
 しかし、ここで生きていけないと思ったことと、晴れ渡った空だけ異様に覚えている。最近、やたらとその光景を思い出す。

 私はあの頃からSOSを出していたんだという遅すぎる気づきを得てから、ずっと息苦しい。「ここで生きていけない」と悟ったときにどこかへ逃げるための能力を身につけていれば、今、苦しい思いをせずに済んだかもしれない。
 ダラダラと進学して、ダラダラと社会に出なければ……。そうやって情けなく、不甲斐ない後悔を引きずっている。

 でも、海を眺めながら「休日って感じ」と笑い合えるこの友だちに出会ったのは、高校生の頃だった。
 流されるまま入った高校で、私たちは出会った。時間に流され続けて、考えることを放棄して、年月を重ねたから休日をともに過ごせている。

 そう思うと、通俗的で、普遍的だが、人を救うのは人なのだなあと感じた。
 私はたくさんの人とは仲よくなれないけど、深い仲の人が身近にいる。幸運だと思う。

 このところ、幼い頃の悟りを無視してきた自分を叱咤していた。
 なぜ周りに馴染めないと理解しながら、努力できなかった? そんな後悔が頭をぐるぐると回っていた。

 逆に言えば、今の友だちがいるのは、自分の本音に耳を傾けなかったおかげだ。
 今から本音に従って生きれば、最高の友を手にした状態で自分の願望も叶えられる。

 実は最善の道を選べているのではないか? 
 先が見えないと思っていた自分の人生。実は最高すぎて、先を見ていなかったのかもしれない。いくら落ち込んでも遊んでくれる人がいる幸運。
 私に伴侶はいないし、この先もおそらくできない。友だちも似たり寄ったりで、学生時代の延長線上に今がある。
 関係の変わらない友だちがいるのは随分幸運なことだと、孤独死などのニュースを見て思う。

 友だちと散歩をしたあと、苺のアイスとベリーのケーキを食べて、安い化粧品を眺めて解散した。
 「お腹いっぱいアイスを食べられて嬉しい」と言ったら、「大人なんだからアイスくらいめいっぱい食べなよ」と返された。カップいっぱいのアイスを食べてたら、文化祭を思い出したんだよ。

 トータル約5,000円の出費をした。社会人の会合にしては比較的ささやかな出費だと思う。
 けれども、五つ星ホテルに宿泊するより満足した。五つ星ホテルに泊まったことなんかないけど、多分、どんなおもてなしにも越えられない時間だった。

 いい日だった。
 文字に残したくなるほど、いい日だった。

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