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あとで読む・第44回・古賀及子『おくれ毛で風を切れ』(素粒社、2024年)ほか

三鷹の独立系書店UNITEでおこなわれた藤岡みなみさん(文筆家・ラジオパーソナリティー・タイムトラベラー)と古賀及子さん(ライター・エッセイスト)のトークイベントに来店参加した。

古賀及子さんのお名前は、藤岡みなみさんが編集したZINE『超個人的時間旅行』で初めて知ったが、このトークイベントは、古賀さんの最新刊『おくれ毛で風を切れ』と『気づいたこと、気づかないままのこと』(シカク出版、2024年)の刊行を記念してのものである。

お二人の話は楽しく、多くのパワーワードをもらった。お二人とも、お話しするときの言葉のチョイスがすばらしい。藤岡さんはラジオ番組を10年担当しているのでさすがだと思ったし、もし古賀さんのラジオ番組があったらリスナーになりたいと思う(…と思ったら、YouTubeのいろいろなところでトークをしているようなのであとで聴くことにする)。

メモしておきたいお話がいくつもあったが、不覚にも筆記用具とメモ帳を持っていくのを忘れてしまった。トークイベントが終わってからコンビニに駆け込み、ペンとメモ帳を買って、記憶の鮮度が高いうちに印象的なお話をその場でいくつかメモした。全然正確なものではなく、私の誤解もあるかもしれないが、以下は私が印象深いと思った言葉と、それについての私の感想メモである(「→」以下が私の感想メモ)。

・「青春は若者のためだけの言葉ではない。いくつになっても青春と思える瞬間がある。日記は神様に捧げる青春の記録である」(古賀さん)

→正確な引用ではないけれど、この言葉に痺れた。私事だが、昨年、職場で大きな企画展示を担当したが、それはまるで仲間と高校の文化祭の準備をしているような青春を感じたものである。若者の特権とみられている「青春」像を解体したい、という古賀さんの言葉に大きくうなずいた。

・(日記にウソを書くこともあるかという問いに)「小学校の頃の日記を読み返していて、これは明らかにウソを書いているという記述を見つけて、そのときの事実が鮮明によみがえってきた。たとえ過去の日記にウソを書いていても、それを読み返す未来の自分はウソと見抜くことができる」(藤岡さん)「なるほどそこまでが1つのパッケージとなって日記が完成するのですね。まさにタイムトラベルですね」(古賀さん)

→藤岡みなみさんが筋金入りのタイムトラベラーだと感じるエピソードである。「日記をあとで読み返す」が、重要なキーワードでもある。

・(公開を前提とする日記と公開しない日記はどのような違いがありますかという問いに)「いま、過去の自分の日記をすべて読み返しているが、公開を前提として書いた日記が、公開しない日記よりもつまらないと思えることが多い。自分があとから読み返したときにおもしろく思える日記は公開しない日記の方にあるのかもしれない」(藤岡さん)

→ここでも「日記をあとで読み返す」という言葉が出てきた。してみると日記とはやはり時間旅行を可能にするアイテムである。

・「日記は翌朝に書く。前の晩、寝る前にまどろんでいたときに考えたことも書きたいので」(古賀さん)

→いつ日記を書くのが正しいか?むろん正解はないのだが、平安時代の貴族は日記を翌朝に書いていた。『九条殿遺戒』という、貴族への訓戒を書いた書物には、朝にすべきことの1つとして「昨日のことを記せ」とある。また、人間は眠る直前に思考が整理されるとも聞いたことがある。翌朝に昨日の日記を書くという行為は、理にかなっているのではないかと感じた。

・「日記は時系列にそって書くことが基本かもしれないが、時系列を前後して書くことでよりリアリティーが増す場合がある」(藤岡さん)

→これにも共感する。人間の思考に寄り添うとすれば、かならずしも時系列通りに書く必要はないのだ。

・「忘れることは贅沢な行為である。体験したことを記録せずに忘れてしまうことはもったいない、つまり贅沢なんです」(古賀さん)

→私の理解が不正確かもしれないが、これにもハッとさせられた。

・「藤岡みなみ著『パンダのうんこはいい匂い』(左右社、2022年)というエッセイ集は、差別や戦争をなくしたいという想いから書いた。でも、それをストレートに書いてしまうと敬遠されてしまうかもしれないので、思わず笑ってしまうようなエピソードも織り交ぜた。笑いはともすれば加害的な行為となり、それでなくては笑いが生まれないという風潮があったりするが、いやいや誰も傷つかない笑いも成立するでしょう、と」(藤岡さん)

→「誰も傷つかない笑い」といえば、私の中では「クレージーキャッツ」のコントがむかしから思い浮かんでいる(古いね)。藤岡さんの言うとおり、「誰も傷つかない笑い」というのは十分に成立するのだ。

・「輝かずろくでもない、けれど案外かけがえない」(古賀及子『気づいたこと、気づかないままのこと』159頁)

→藤岡さんが古賀さんの本から引用した一節。この言葉にも痺れた。自分が専門とする歴史に対するまなざしも、こうありたいと思う。

最近、直近のことでも忘れっぽくなり、記述も不正確で、何を書いているかわからないかもしれない。これは私用のメモにすぎない。このトークイベントの様子は5月13日(月)までのアーカイブ配信を購入できるので、よろしければぜひ。

【アーカイブ配信】4/13(土)~5/13(月)「私を編む──暮らしと仕事のテキスタイル」(登... (unite-books.shop)


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