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連想読書・三上修『電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?』(岩波書店、2020年)と、笹山敬輔『笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗』(文藝春秋、2024年)

以前の職場の同僚で、いまは同じ中央線沿線に住む友人のAさんから先日いただいたメールの中に、三上修さんの『電柱鳥類学』という本が面白かったのですが、ご親戚ですか?と聞かれたのだが、たぶん親戚ではない。
Aさんのメールの中に、
「増田書店で見てなんだこれはと思って前書きに目を走らせたところ、「『電柱鳥類学』などという私が勝手に作った学問が本当に成り立つのか自信はありませんが、なんとかなるのではないかと思っています」という一文に行き当たり、購入を決意しました。鳥だけではなく電柱と電線の知識も得られます」
と書かれていて、これはひょっとして「出落ち」ならぬ「タイトル落ち」の本なのか?と思ったが、「岩波科学ライブラリー」のシリーズの1冊なので、れっきとした科学の本のようである。
これはぜひ読まねばと思い、出張の旅のお供にと、新幹線に乗る前に丸善で手に取り、レジに進もうとしたところ、途中で別の本が目に入った。笹山敬輔さんの『笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗』という本で、喜劇役者・伊東四朗さんの歴史をまとめた評伝である。
私はこの本を見て、体に電気が走った(電柱だけに)。この本は、『電柱鳥類学』とセットで読まなければ意味がない!と。
若い世代にはどうしてそうなるのかまったくわからないと思うので放っておくとして、私の世代で「電柱鳥類学」と聞いたら、それは伊東四朗ことベンジャミン伊東の「電線音頭」をおいてほかにないのだ!
「電線音頭」が流行しはじめたのが1976年というから、私が小学校低学年の頃である。つまり私の小学生時代は、「電線音頭」とともにあったのである。「電線にスズメが三羽止まってた」という歌詞で始まる電線音頭は、電柱と鳥類との関係をいやがおうでも意識の中に植え付ける力を持っていた。
新幹線の中でさっそくこの2冊をならべて読んだ。三上修さんは鳥類学者なのだが、『電柱鳥類学』では鳥類の話よりもむしろ電柱や電線の話が多くを占めていて、それがめちゃくちゃ面白い。TBSラジオのパーソナリティーである石山蓮華さんが「電線愛好家」と名乗りたくなる気持ちもよくわかる。「電柱鳥類学」という新たな学問を開拓しただけでも面白いが、ギリギリ悪ふざけにならない線をねらって書いている文章は、自分もこうありたいと望む文体で、読後感は清々しくさえ感じる。学問をこんなふうに語れたらどんなに面白いだろう。

それで私は、これまでにない読書の仕方を思いついた。それは「連想読書」である。ある1冊の本に対して、一見して全然関係ない本を見つけてくる。その2冊が関係ないようにみえて、実は深いところでつながっているのだと意識しながら読むと、これはまた格別の味わいを生み出すのではないだろうか。結びつくことがないと思われる喜劇役者の評伝と学術書が、実は私(たち)の意識の奥底で連結していることに気づかされるのだ。さらにそこからまた連想が広がる。こうして、垣根を越えて果てしない読書体験ができる。各人がそういうプレゼンをする読書会をやっても面白いかもしれない。…やっぱり難しいか。

さて、気になるのは『電柱鳥類学』の学術書の中にはたして「電線音頭」は登場するかどうかである。…それは実際にこの本を手に取って確かめてほしい。

『笑いの正解』についてもっと書きたいことがあるのだが、別の機会に。




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