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いつか観た映画・『死刑台のエレベーター』(フランス、ルイ・マル監督、1958年)

フランス映画「死刑台のエレベーター」はとても思い出深い映画である。
高校時代、必修クラブという時間があった。いわゆる課外活動の部活ではなく、授業の一環としてのクラブ活動である。必修なので、生徒は必ず、どこかのクラブに属さなければならない。
高1の時、私は「フランス語クラブ」を選んだ。顧問の先生はH先生だった。
私はとりたててフランス語を学びたいというわけではなかった。「大学でフランス語を専攻している女子大生を講師として招き、フランス語を学ぶ」というふれこみだったので、その宣伝文句につられて選んだのである。おそらく、H先生の教え子だった人なのだろう。
女子大生にフランス語を習う、というのが、当時高1だった私にはとても新鮮だった。それだけでも楽しい時間である。だがその女子大生の講師は、毎週教えに来るというわけではなかったと記憶する。
女子大生がお休みのときは、顧問のH先生が、たぶんお茶を濁す意味があったんだろうな、古いフランス映画をビデオで見せてくれたのである。もちろん字幕付きで。
そういうことが何度もあったのだが、その時に初めて観せてくれた映画が、「死刑台のエレベーター」だったのである。
授業時間は50分だから、当然、映画を最後まで観ることはできない。2週に分けて観たと思う。
それでも、私にとって「死刑台のエレベーター」は、初めて観るフランス映画として、鮮烈な印象を残した。
当時私は、部活の友人の影響でジャズという音楽にも興味を持ち始めた時期だったから、音楽がマイルス・デイビスだったこともまた、この映画の印象をより強いものにしたのである。
もうひとつ、その授業の中で観た映画として鮮烈な印象を残したのは、アランドロン主演の『太陽がいっぱい』(ルネ・クレマン監督、1960年)である。
のちにマット・デイモン主演の『リプリー』(1999年)という映画を観たが、『太陽がいっぱい』のリメイクで、これもまた面白かった。
というわけで、フランス語を教えに来てくれた女子大生の印象は、すっかり薄れてしまったのだが、H先生が観せてくれた映画は、後々まで、私の心の中に残り続けたのである。
で、数年前、数十年ぶりくらいにちゃんと「死刑台のエレベーター」を見返してみたのだが…。
おもしろい、たしかにおもしろいのだが、なかなかツッコミどころ満載の映画だ、ということに気づいたのである。
この映画は、細かいところをつつき出すとキリがない。しかしこの映画の本質はたぶんそこではなく、周到に考える者も、行き当たりばったりで生きる者も、どんな人間であれ、犯罪に対しては浅はかな考えが露呈することがつきものである、という点にあるように思う。そう考えると、思わずツッコミたくなるような登場人物(犯罪者)たちの「脇の甘さ」こそが、この映画の仕掛けであると思わずにいられない。

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