あとで読む・第7回・堀静香『せいいっぱいの悪口』(百万年書房、2022年)

地元の小さな書店で藤岡みなみさんと堀静香さんのトークイベントに参加した。来店参加者10名ほどのこぢんまりした会で、日曜日の昼間に、時間がゆったりと流れることを味わう。私の目的は、お二人のトークに加えて、藤岡みなみさんが最近発刊したZINE『超個人的時間旅行』を入手することだった。自分で言うのもおこがましいことだが、藤岡みなみさんとはちょっとした知り合いで、その感性には常々敬意を表している。その一端はエッセイ集『パンダのうんこはいい匂い』(左右社、2022年)からも実感することができる。もちろん私は、STVラジオ「おささらナイト」のリスナーでもある。

堀静香さんは、失礼ながら初めて聞くお名前だったが、『超個人的時間旅行』の執筆者のひとりである。そもそもこの本の執筆者は、藤岡みなみさんと、『文にあたる』(亜紀書房、2022年)の著者・牟田都子さんのお二人以外は、初めて聞くお名前ばかりだった。もちろんこれは、たんに私の視野が狭いからに過ぎない。

お二人の対談で興味深かったのは、お二人は同じ大学の出身者で、しかも学年が近いので在学中は同じキャンパスで過ごしていたにもかかわらず、在学中に出会ってはいなかったということだった。大学時代の仲良しだからという理由で、このZINEの執筆者になったというわけではなく、純粋にその文章に惹かれた藤岡さんが、堀さんをスカウトしたら、たまたま同じ大学の、しかも近い学年の人だった、ということのようである。してみると、ほかの執筆者も、藤岡さんの以前からの友人とかではなく、文章を通じてつながった人たちなのだろうと想像する。ZINEの中でそれぞれの文章が響きあっている。

私は研究を生業としているが、ひとつのテーマをめぐって何人かの研究者と共同研究をおこなうときには、おもに2つのパターンがある。1つは、むかしから知っている気の置けない仲間たちとチームを組むパターン。もう1つは、研究論文を読み、この人ならば一緒に面白い研究ができるのではないかと、一から人集めをするというパターン。たいていは前者の場合が多いが、どうしても研究成果が予定調和的になる。後者は、不確定な要素も多いが、お互いに刺激し合うことで思わぬ研究成果が生まれたりする。研究者同士の適切な距離感が、お互いへの敬意を生み、それぞれの研究が響き合うことになる。かなり強引な喩えだが、藤岡さんの場合は後者のような気がする。根っからのプロデューサー気質なのだ。

実際、お二人にとって初めての長時間の対話と思われるにもかかわらず、その対話は尽きることがなかった。堀静香さんの本は、あとで読むというより、すぐに読むことになるだろう。明日から3日ほど入院するのでわりと時間ができる。「あとで読む」本を何冊か携えていくつもりだ。


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