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私のテコンドー 二話

第二話「love it ?」
今日は姫乃が通っているテコンドー教室の体験入門だった。
「ごめん!コンビニ寄ってて遅れた!」
「いいよ。まだ時間あるから。」
どうしよう、もう既に楽しみだ。

「今から行く道場は、石見山中学校って所の柔道場。使える時間帯が午後1時から午後3時まで。それ以降は入れないから、忘れ物は注意して。」
「わかった。というか、土曜日は午前中補習だから荷物パンパンで困るよね。」
「進学校だもの。これはもう運命だからしょうがない。」

駄弁りながら歩いているととうとう目的地の石見山中学校に着いた。
「開けるよ。」
がらがらがらがらとやけに重い音を鳴らしながら引き戸が開かれる。
見渡して見ると、数人の人がいた。中には俺よりも明らかに年下の子もいた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ~。」
「おつかれさまです。」
「お疲れ様-。」
少し眠そうな声が響く。
その中でひときわ明るい声がこちらにやってきた。
「こんにちは-!初めまして。俺はここの道場の師範を務めている遠野一平です。姫乃ちゃんから話は聞いてるよ。」
「は、初めまして。渡辺凰翔です。」
「おうしょう、凰翔くん。滅茶苦茶かっこいい名前だね!ところで、姫乃ちゃん?」
「なんすか。」
遠野さんはさっきの態度を一変させ、恐怖に犯された顔をした。まぁいわゆるすんごいキモい顔を姫乃に向けた。
「聞いたよ~。男子二人蹴り殺したんだってぇ~???君の蹴り、くっっっっっっっっそ痛っいんだよ分かるかぁい?あんなクソヤバい蹴り俺が教えたから教育委員会に通報されて尋問されて終いに身ぐるみ剥がされたらどうしてくれんの!」
「事実無根ですよ。それに顔キッショ。そんなだからモテないんですよきっと。着替えて来ます。」
うわぁ・・・・・・切れ味すご・・・・・・。なんかもう汚物を見るような目してるし。
遠野さんの顔を見ろ。干し柿みたいになってる。相当ショック受けたんだな。
「優しくしてよォーーー!!」

茶番はあったがいよいよ体験が始まった。
準備体操を終え、俺は遠野さんに教えてもらうことになった。
「まずはそうだな。基礎中の基礎、ヨッチャギからやってみようか。」
「ヨッチャギ?」
「韓国語で横蹴りってこと。」
横蹴り・・・・・・。姫乃が真田に蹴った蹴りか。
「これお手本ね?」
すると、遠野さんはゆっくりと力強いヨッチャギを披露した。
細部まで伸びた脚、正解を叩きつけるほどの勢い。素人でも分かる隙のなさ。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気など微塵もなく、むしろ気迫があり、少し怖い。
「・・・・・・かっこいい、ですね。」
「ふふっ。ありがとー。」

「まず、横に向きます。今回は右で蹴ろうか。それから、片足を前に上げます。そうそう。腿上げみたいに上げて。」
「・・・・・・おっと。」
「最初はバランスとりづらいかもね。次に測足、つまり右足の外側を軸足の内太ももに着けて。」
難しい。普段使わない筋肉が伸ばされているような感覚。これを姫乃が素早く蹴っていたと思うと、本当に感心してしまう。
「その後はかかとが上になるように足を突き出す。この時、腰を左側に捻るんだよ。勢い良く。」
腰を左側に・・・・・・捻る!
フォームは不恰好。かかとも上じゃない。けど今俺はテコンドーのヨッチャギを蹴ったという実感が体中を蝕んだ。
「・・・・・・!」
「うん。初めてにしては上出来。君が見たであろう姫乃ちゃんの蹴りみたいだよ。」
出来た・・・・・・!出来た・・・・・・・・・・・!!
遠野さんの方をばっと見ると、そこに他の人達も一緒に立っていた。
「すごい!本当に初めて?」
「おじょうず、ですね。」
「バランス保って蹴れるってなかなか出来ることじゃないよ。」
一気に注目を浴びて、俺は
「あ、あ・・・・・・はい。ありがとうゴザイマス。」
と、照れた返事しか出来なかった。

休憩中、姫乃に話しかけられた。
「凰翔。」
「姫乃。どうしたの?」
「・・・・・・楽しい?」
「んー・・・・・・楽しいって言うより、もっとやりたいって気持ちが強いかな。」
「そう。・・・・・・・入門の手続き方法が書かれた資料が私の手にあるのだけど。」
「・・・・・・受け取らせてもらっても良い?」
「勿論。」

「・・・・・・。」

「じゃあ、次はこれやってみようか。」
その後も、様々な蹴りを自分でしてみたり、難しい蹴りを見せてもらったりと、俺の気持ちを高ぶらせることしか考えていないような時間が続いた。
・・・・・・これは、やってくれたな?今まで熱中出来なかった俺が今魅せられている。有本姫乃はどこまで俺の心臓をかき乱すのだろう。

「俺!入門します!」

「じゃあ、来週この紙持ってきて。道着とかは時間かかるからしばらくはジャージとか運動出来る服持ってきてね。」
体験の終わり、遠野さんに説明を改めて受けた。遠野さんは最初に会ったときみたいな気さくな雰囲気に戻っていた。
このギャップ、本当にモテない人なのか?
「ところでこの後、姫乃ちゃんとどういう経緯で知り合ったのか教えてよ。もしかして、付き合ってたり!?もしそうだったら妬まし・・・・・・いやいや!応援するよー。まぁ付き合ってたら即座に爆発しろって言うね♪」
あっこの人モテないな。確実にカップルを憎んでる。
なんてことを考えながら更衣室へ向かうと誰かに肩を掴まれた。
「痛っ、なんですか。あな・・・・・・」
「渡辺凰翔、だったよな?」
俺の肩を掴んだそいつは中学生くらいの奴だった。しかし今にも殺しにかかってきそうな雰囲気を醸し出している。
そいつが口を開いた。
「お前、なんで姫乃につきまとってんだよ。見え見えなんだよ下心が。」
「・・・・・・・・・へ?」


遠野一平 設定







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