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私のテコンドー 一話

第一話「嘘からでたまこと」
あらすじ 渡辺凰翔(わたなべ おうしょう)は自分を変えたいと思っているが、いまいち変われず平凡な日々を過ごす高校生。唯一の生き甲斐はクラスメイトで凰翔が片想いしている有本姫乃の存在だった。ひょんなことから凰翔は姫乃に嘘告白をする事になってしまった。この時凰翔は知らなかった。姫乃が最強のテコンドーの使い手だと。

風を捌く音がした。俺は見惚れていた。理由は明確だ。目立たないと思っていた貴女が、か弱いとばかり思っていた貴女が、俺のやるせない日々を蹴り壊してくれたから。

俺は渡辺凰翔。ただただダラダラと日々を過ごしている高校一年生だ。まあでも友達や(入学式の時のノリで仲良くなった。割と陽キャな奴らだ。)家族にも(偏差値が60もある高校だが、ずっと応援してくれた。ちゃんと合格できたし。)恵まれているし、不足はない。
「渡辺ー!食堂行こうぜー!早くしねーと混雑する時間帯になっちまう。」
「渡辺、次体育だから尚更急がないと。」
「今行くー!成瀬と真田は席確保しといてー!」
あー・・・・・・。面倒くさ。
ふいに一人の女子生徒と目があった。
「・・・・・・!」
やっば、あからさまに目反らしちゃった。
・・・・・・食堂行こ。

「何かさ、最近退屈じゃね?」
唐突に成瀬がぼやいた。
「確かに。大きなテストも終わったし、いよいよ暇がやってきたって言うか。」
「おい真田、俺のセリフとるなよ。」
「そんでさ二人に提案なんだけど、同じクラスの有本姫乃っているじゃん。あいつにさ、嘘告白しねぇ?」
「え・・・・・・?」
「有本姫乃ってあのきっつい目付きした奴?え?ぶっ殺されるんじゃね?」
「それか、意外と初心でまさかの処女説!」
「いや、処女は明確!」
「てか、何でさっきから渡辺は黙っているんだよ。」
だって、さっきから俺の嫌な妄想が離してくれないから。離れてくれないから。
有本姫乃は、俺が片想いしている女子だった。
なんなら、さっき目が合った子だ。
もし、本当に嘘告白したら・・・・・・。
「渡辺くぅーん?黙ってるってことは了承ってことだぜ。」
「じゃあさ!渡辺が嘘告白したら?俺らならまだしも渡辺ならギリギリガチっぽいだろ。」
「賛成!じゃあ放課後屋上で決行しよ。・・・・・・っていうかうちの高校屋上OKだっけ?」
「うん。本当はアウトだけどドアノブ壊れててコツ掴めば容易に入れる。」
断る隙なんてなかった。雰囲気を壊したくなかった。なんて、今更言い訳か。ごめんね。有本さん。

「『有本さん。俺と付き合ってください!』・・・・・・こんなスタンダードな告白で良いかな?」
「良いんだよ真田。どうせ嘘告白なんだし、適当適当。」
結局来てしまった。
「なんだよ渡辺。緊張してんのか?大丈夫だって!」
「あ、うん。はは・・・・・・・・・。」
その時、ぐきいいいいと壊れたドアノブ特有の音がした。
「ほらっ行け!」
半ば強引に押し出され、あ、もう止められないのだと実感した。
俺は昔から何も変わっていない。

小さい頃から、俺は「俺」がなかった。熱中できるものもない。自分の意見がいまいち分からない。好きなものもほとんどない。
だから今まで、「好きなもの」を探してきた。
読書、ギター、サッカー、バスケ、習字、絵画、ファッション、英検
やってもやってもやってもやってもやってもやっても見つからない。
次第に
「ああ、俺にはもうなにもないのかもしれない。」
と思った。これ以上、期待しても見つからない。
だから、俺は今も俺が大嫌いだ。

「お、おう。有本、さん。」
「渡辺、何の用?というかここ入っちゃダメなんじゃ・・・・・・。」
「まぁ、先生来たら隠れたらいいよ。あはは・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・言わなきゃ。でも、口がこれ以上動かない。二人が見てんだろ。でも、嫌だ。有本さんは何も悪くないのに。もし今本気で告白したとしても、「嘘」で片付けられてしまう。ふざけて告白しても有本さんの俺の印象は下がる。どちらにせよ最悪の未来にしか繋がらない。どうすれば良いのか分からない。どうすればどうすればどうすればどうすれば!俺は、俺は・・・・・・!
「渡辺?大丈夫?」

「ごめん!有本さん。実はこれ、嘘告白なんだ!」
「・・・・・・えっ?」
だったら、今ここでネタばらしした方がいい。後でいくらでも攻められてやるさ。でも、
「俺が友達に提案して、そんで協力してもらって。今に至ります。本当にごめんなさい。本当に・・・・・・・・・・・ごめんね。有本さん。」
「・・・・・・・・・・・・わ」
「「おいおいおいおいおいおいおい!ふざけんじゃねーーー!」」
「・・・・・・は?」
「何でネタバレしちゃうかなー?せっかく面白いところまでいったのに。気分悪っ。」
「いや、本当に!頭おかしいんじゃねーの?ネタバレサイト見たくらいショックなんだけど。」
もういいよ。俺の高校生活なんて糞食らえだ。

「・・・・・・最ッ低だな。あんたら。」
俺の声じゃない。じゃあ誰だ?
刹那、風を捌く音がした。

「大体さ!渡辺はっっっっっっっっ!!!」
真田が何か言おうとした直後、有本さんがいきなり飛び出し、真田の溝尾を正確に蹴り飛ばした。
「おい、真田・・・・・・?」
有本さんは成瀬に背を向けて立っている。
「危ない!有本さ」
「大丈夫」
なんと有本さんは蹴った足を軸にして振り向くと同時に成瀬の首を思い切り足で弾いた。
その姿は小さい頃見た、カッコいいけど「自分が正しい」というようなわがままで、勝手な正義を持ったヒーローみたいで。
「・・・・・・・・・えっ?何今の。」
「こっち。」
俺らは屋上を後にした。

「・・・・・・・・・あの~有本さん?聞きたいことが限界突破しそうなんデスガ・・・・・・。」
「いいよ。気使わなくて。この辺り人あまり通らないし。騒いだら響くけど。」
「じ、じゃあ遠慮なく。まず、さっきのキック何?なんかアクション映画みたいだったけど。」
「あれは、テコンドー。」
「テコンドー?」
「端的に説明すると、足のボクシングって感じ。」
「へ、へぇー。じゃあ、何であいつらの事蹴り飛ばしたの?」
「・・・あんたが泣いてたから。」
「・・・・・・は?いや、そんなこと・・・・・・。」
「本当は、嫌だったんじゃないの。あの人たちと居るの。昼休みで目合ったとき、あり得ないくらい沈んだ目してたし。空虚だよ空虚。なんか好きなこととかして一旦気分転換したら?なんかはまっているものとかさ。」
無いよ、はまっているものなんて。
でも、さっきから俺の心臓が存在を主張している。わくわくするくらいに。感動?そんな言葉じゃ表せない。あぁもう。自分の語彙の少なさが歯がゆい。
「・・・・・・あのさ、俺今まで熱中できるものがなくて。その、今さっき起きたこと、俺とってもドキドキしたんだ。なんかこう、憑き物が落ちたような感覚。だからさ、」
この人と一諸に居たい。この人といると、何かが変わるかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・・・・それ、俺も出来る?」
「・・・・・・鉄は熱いうちに打てってやつかな。」
この時俺はテコンドーという聞き慣れない単語に胸を踊らせていただけのかもしれない。しかしこの時点で分かっていたことがあった。俺のいつも通りが良いほうに流れて行く事が。

「・・・・・・そういえば有本さん。あの二人は?」
「姫乃でいいよ。私もあんたの事凰翔って呼ぶから。」
「わかった。姫乃。で、あの二人・・・・・・。」
「あー・・・・・・。とりあえず、豚串にする?」
「・・・・・・え?」


有本姫乃 設定
渡辺凰翔 設定

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二話↑

https://note.com/preview/nd0b69d4b31bf?prev_access_key=3e596cc595085660316e8e66ebff8a69

三話↑

物語の説明

大まかなストーリーの説明をすると、主人公の凰翔がテコンドーに熱中して、やりたいことや好きなことを深める話です。いわゆるスポ根です。今の凰翔の目的は「姫乃を振り向かせる」
というものですが、今後どう変わるのか。また、テコンドーを通じて人と交流するのも見所です。

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