てんかん病理におけるアストロサイトの役割 2

前の記事では、脳のエネルギー源であるグルコースを代謝する解糖系が、てんかんを悪化させること、その療法としてケトン食や解糖系を阻害る薬剤療法について述べた。本記事では、アストロサイトネットワークを司るギャップ結合を形成するコネキシンという膜貫通タンパク質について扱う。

ギャップ結合
そもそもギャップ結合とは何だろうか。ギャップ結合は細胞間結合の形態の一種であり、この結合を介して細胞間で水溶性のイオンや分子のやり取りが行われる。そして、このギャップ結合を形成しているのが膜貫通タンパク質のコネキシンである。コネキシンが6個集まってできた集合体をコネクソンといい、ある細胞のコネクソンと別の細胞のコネクソンが結合してギャップ結合を形成している。アストロサイトに発現しているコネキシンにはサブタイプがあり(Cx43・Cx30・Cx26・Cx40・Cx45・Cx46)、この中で最も発現しているのがCx43である。

アストロサイトにおけるギャップ結合の役割は多岐にわたり、以下のようなものがある。

  1. グルコース輸送とグルコース代謝 
    ニューロンの活動が著しく上昇している際には、アストロサイトは遠方か らグルコースを輸送して局所的なグルコース需要の高まりに応答する必要がある。

  2.  カルシウムシグナルの細胞間伝播
    アストロサイトは電気的に不活性といっても過言ではないほど、電気的な応答をしないが、活発なカルシウムシグナルを発していることが知られている。なお、カルシウムシグナルの伝播はニューロンの活動電位の伝播と比べてはるかに遅く、20-40μm/sである。

  3. カリウムイオンの細胞間輸送
    ニューロンは、細胞外のナトリウムイオンが細胞内に急激に流れ込むことによって脱分極が生じ、活動電位を発生させる。このとき、静止膜電位よりも正に傾いた細胞内の電位を元に戻すために、カリウムイオンが細胞外に放出されるようになる。アストロサイトは、細胞外に滞留したカリウムイオンを除去する機能(カリウムクリアランス)を有している。ギャップ結合を介して繋がったアストロサイトは、細胞間のカリウムイオン濃度勾配にしたがって、高い方から低い方へと輸送される。

上記の通りギャップ結合はアストロサイトのはたらきの重要な一部分である。続いてこれらがどのようにてんかんと関わっているのかを見ていきたい。

カリウムイオンが細胞外に滞留している状況は、ニューロンが常に興奮状態にあるということを指す(通常時はカリウムイオンの細胞外濃度が細胞内濃度よりも低い)。アストロサイトは、細胞外に滞留したカリウムイオンを除去する機能(カリウムクリアランス)を有している。ギャップ結合を介して繋がったアストロサイトは、細胞間のカリウムイオン濃度勾配にしたがって、高い方から低い方へと輸送されていく。この機能が欠損していると、てんかんの重篤化につながる。したがって、ギャップ結合はてんかんの重篤化を抑制するうえでは重要なファクターである。

しかしながら、ギャップ結合が逆にてんかん原性の獲得に寄与することを示唆する研究もある。アストロサイトのギャップ結合はカルシウムシグナルの伝播を円滑にするため、それが結果としてニューロンからアストロサイトへのループを形成し、てんかん原性の獲得につながるということが考えられる。つまり、この場合であればギャップ結合を抑制する療法が示唆されるのである。

ギャップ結合阻害剤として挙げられるのが以下のような薬物である。
カルベノキソロン(Carbenoxolone; CBX)
メフロキン(Mefloquine)
キニーネ(Quinine)

一方で、これらの薬物の正確な作用機序等については議論があることも確かであり、一般的な合意は得られていない。

他にも、エンドカンナビノイドのファミリー物質であるアナンダミドオレアミドはアストロサイトのギャップ結合を阻害することでてんかんを抑制する可能性を示唆する研究が報告されている。

参考文献:

  1. An Excitatory Loop with Astrocytes Contributes to Drive Neurons to Seizure Threshold

  2. Intercellular Calcium Signaling in Astrocytes via ATP Release through Connexin Hemichannels

  3. The Impact of Astrocytic Gap Junctional Coupling on Potassium Buffering in the Hippocampus

  4. Gap Junction Blockers: An Overview of their Effects on Induced Seizures in Animal Models


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