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人生の道しるべ
橋田東声 その二(湯浅先生の鑑賞)
遠くにて鴉なきしが冬の日のはや暮れ落ちて音ひとつせぬ
橋田東声
この歌の概略を述べてみましょう。
ひそまりかえっている御陵の山の、どこか遠いところでからすの鳴く声がした。それも数かさねて鳴いたのではない。一声か二声かきこえたが、それっきりあとはもうすっかり短い冬の日も暮れ落ちてしまって、夜にはいる前の深い深い静寂の中に、万物はしみいるようにとけこんでいる。そこにはもう耳にはいるべき物音ひとつないという歌だと思います。
これも前の歌と同じように、その状態の中に作者がふかく浸り入って、たとえようもない静けさを感じている心のうちがうかがえる作品だと思います。そして同じく感じられることは、その中に潜んでいるそこはかとない作者の淋しさです。もともときわまりない静かさだったところに、夕まぐれのねぐらにつくからすが、何かのことで鳴き声をたてた、それがただひとつの耳に残る音で、それが消えるととたんに、死の静寂とでもいいたいようなひそまりの中に自分ひとりが包まれてしまうのです。御陵のあたりの欝蒼(うっそう)としげった山中に、暮れ落ちたうすぐらさのただよわせるある種の気分が、ひしひしと読む者の心のうちにも迫ってくるのを覚えます。言葉に表れていることの奥に作者のこころがこもっていると、それが間違いなく読む者の心にもひびいてくるということを学ぶことのできる作品だと思います。
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