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Happy birthday。


幼なじみの香月かづきは優しい子だった。
そして、頭の良い子だった。

故に変わってしまった。

高校に入ってからの香月の口癖は『生きてる事に意味あるのかな?』になった。

憂うべき時代。
憂うべき環境。
人の罪悪が蔓延る世界を憂い、自分を否定する様になった。

香月誕生日前日。

「なぁ、香月」
『なに?』
「明日誕生日だろ?」
『そうみたいね』
「また他人事みたいにさぁ……」
『誕生日が来る度に思うわ、生まれて来なければ良かったって』
「お前なぁ……」
『人間なんて自然界に不要な存在よ。自分本位に暮らすために環境を壊し続けてる。長寿を望みながら、自ら毒を取り続けたり。訳分からないわ』
「…………」
『矛盾の生き物にして無用の極み。これが人間。わたしも同じ』
「香月……」
『生きてる意味ないよ……』

ーー俺に何が出来る?香月のためにしてやれることって何だ?

思案の果て。

ーーーこれしかないか……。

香月誕生日当日。

香月の両親は共働き。
学校終わりすぐには帰ってこない。
香月は寄り道などはせずにまっすぐ家に帰る。
ふたりきりになれる時間は、ほんの数時間。渡すんだ。
ーー心からのプレゼントを。

俺の制服のポケットには香月へのプレゼント。
香月より早く先回りして香月の家へ。
サプライズだ。
香月が帰ってきたのを見て声を掛ける。
『なにしてるの?』
「誕生日だろ、中入れてくれよ」
2階の香月の部屋へ。

「プレゼントがあるんだ」
俺は満面の笑みで両手を上着のポケットに入れた。
取り出したものはーーナイフだった。

『な……なんなの?』
俺は笑って答える。
「香月。俺はお前が好きだ。だから……お前が最も欲しいものをあげる」
驚愕する香月。吐き出される言葉は焦燥に満ちていた。
『ばっ……馬鹿なこと言わないで!そんな事したらあなただってタダじゃ済まないわよ!』
俺は嗤う。
「俺はどうなろうと関係ない。この世界に絶望した香月に贈ることが出来るもの……それは死だけだ」
香月も嗤った。
『ふっ……やれるもんならやってみなさいよ』
香月は俺が本気じゃないと高を括っている。左手で持ったナイフで香月の肩口を狙う!
服に滲む紅。
『っ……いっ……た』
更に嗤って俺は言う。
「香月、死には痛みが伴う。死ぬ本人じゃない。残された人の方だ。お前を愛している人達に痛みを残す」

畏れ。香月の視線はそれだった。

半狂乱になった香月は自分の周りのものを俺に向かって投げ始めた。
拒絶。完全なる拒絶。
だが……。

俺は投げつけられたものを弾き飛ばしながら左手のナイフを壁に叩きつけた。その大きな音に香月は怯み大人しくなる。壁には刃がめり込んでいる。
「香月、ならば不公平を受け入れるよ。痛みなく殺してあげる」

息を飲む香月。
俺は右手のナイフで香月の心臓を狙う。香月へと疾走はしるナイフ。

香月へと刺さる凶刃。
迸る鮮血。
香月の心は貫かれた。

『ううっ……』
香月、驚愕の表情。
そこから徐々に表情が変わっていく。
俺はゆっくりナイフを引き抜いた。

「え?」

香月の拍子抜けの声。
俺は笑う。

『なんで……生き……』
香月は気付いた。
このナイフが玩具だということに。
吹き出しているこの血も。

「香月!!!!」
俺はめいっぱいデカい声で名前を呼ぶ。
『はい!』
吃驚した香月もつられて大声に。


「Happy birthday」

香月はそれを聞くと
力無く微笑んで……
めいっぱい泣いた。

[完]





またも古いデータからの再編集ですがほとんど手は加えてません。

昔のわたしのままの物語をどうぞ(笑)

サポートなんてしていただいた日には 小躍り𝑫𝒂𝒏𝒄𝒊𝒏𝒈です。