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さっちゃんの いない夜


 よる、ベッドに入る、あの感じが好き。 お湯を、一杯汲んで、持っていく。 北海道は、まだ寒いから、モコモコ靴下は欠かせない。


 ひとり、取り残されたみたいに、止まった空気。 雪が降れば尚更。 時々聞こえる、キシッって音が、一瞬、わたしを世界に繋ぎ止める。


 音がするのは、冬の間。 雪を支える音だと思う。 木の柱が、折れずに 踏ん張っているんだって。 いっそ、折れて、潰されてもいいのになぁ。 なんて思って、ひとり笑う。


 さっちゃんは、どうしてる? 彼女は、突然、いなくなった。 妖怪になって、鏡の中に、入っていった。


 わたしは、怖い。 だって、妖怪、ニンゲン食べるでしょう? さっちゃんも、食べるかな。 さっちゃんなら 食べられてもいいな。 わたしの、どこを齧るだろう。 脚かな、手かな、おしりかな。 顔は、嫌だな。 おしゃべりしたいから、できれば、最後で。


 よる、寝るときの感じは怖い。 夜間高速は、とても静か。 このあたりも、人が減ったって、大人の人が言っていた。 仕事が欲しくて、みんな妖怪になったって。 「帰ってくればいいのに。」 って、言うけどさ。 きっと、居心地いいから、帰って来ないよ。


 目を閉じれば、夜の音が、よく聞こえる。 ずっと遠くに、シャボンが弾けるような音。 ああ。 戦争、やってんだなあ。


 意識が、泥に沈む瞬間、地鳴りが、一度、聞こえた。 妖怪には、なりたくない。 戦争にも、行きたくない。 さっちゃん妖怪に、食べてほしい。


 ゆめの中は、気持ちいい。 妖怪だって、学校、行くんかな。 きっと、偉い先生が、ニンゲンをこらしめる方法について、授業するんだ。






 ぬらりひょん先生(以下、ぬ): 全く、人間のすることは、訳がわからん。 お陰で、鏡の世界は、元人間を語る連中で溢れかえっておる。

 確かに、妖怪人口が増えるのは、ありがたいことだ。 産業革命以後、信仰は薄れ、電気が夜を照らし、学をつけた者共が、ロジカルシンキングという名のもとに、妖怪、ユーレイ、超常現象、果てはロズウェル事件までもないがしろにしておる。 

 近頃では、論破なる風潮が持て囃され、コンビニの本棚には、論理的思考術や、仕事の合理性を高める本が、犇めいておる。 これは、由々しき自体だと言えぬだろうか。

 人間どもは、理解ができない事象を 我々のせいにしてきた。 ロジカルに考えないからこそ、不可解な事象の説明として、我々が生まれたのだ。 雪男も、イエティも、チュパカブラも、一反木綿や砂かけババァとおんなじだ。 今や、世界中で、超常現象の説明とされていた彼らは、ロジカル思考や、論破的風潮に、いつか消されるのではないかと怯えておる。

 わたしが、元人間の妖怪や、ユーレイがこちらに渡り、妖怪人口が増加することに、なぜ警鐘を鳴らしておるか。 今、ここで講義を聞いている聡明な諸君には分かるであろう。

 ぬ: そこの君。 答えなさい。



(えっ。わ、私? 嘘、全然予習してないよ! やばいやばい)

 私: は、はい! ちょ、超常現象のキャラクター化と、人間のくだらないロジカル思考が、鏡の世界に流入するから、 ……ゴニョゴニ。


 ぬ: 続けなさい。


 私: は、は、ハイッ……! 妖怪ウォッチ、アマビエ、各種媒体では、す、すでに、その兆候が見られております。 ほほ、本来怖がらせる役割の我々が、は、白昼堂々、コミカルに、可愛く演じられ、場合によっては、人間に触れられ、なな、殴られ…! ギャクキャラ扱いに成り下がっています! こ、これでは、ま、まるでポケモンです!


 ぬ: 続けなさい。


 私: ひゃ、ひゃ、ひゃいぃぃ! そ、そのダメージは、計り知れなく、よよ、妖怪国勢調査では、毎年、世界の100を超える、ちょ、ちょうじょう現象、及び妖怪、ユーレイ、チュ、チュ、チュパカブラが、心を砕かれ、つ つ、つ、露と消えています! ろ、ロジカルさは、我々の、敵です! 今、鏡の世界では、元人間が持ち込んだロジカルパワーの脅威にさらされています! か、彼らは、アイフォーンと、6Gと、課金ゲーを求めております! 考えれない事態です! 妖怪労働省、幽霊司法省は、た、立ち上がり、元人間を消すべきですぅぅぅ、 ……ゴニョニョ

 (あわわぇえあぁ。 い、い、言っちゃった、言っちゃった! こ、こんな過激なこと言ったら、単位落としちゃうよ。 やばいやばい)


 ぬ: 貴様。 何回生だ。 名は、なんという。


 (ほほほら来た! やばいよやばいよ。 まじ留年決定だよ、お父さん お母さん、ごめんなさい!)

 私: ひゃひゃいぃぃ! い、い いきゃい、ゲホゲホ。 ……い、一回生。 ま、豆谷ソイ子です。 豆乳の妖怪です、 ……ボソボソ


 ぬ: うむ、豆谷君。 後で、教授室に、来なさい。


 「やるじゃん! ソイ子!」

 さっちゃん! 怖かったよぅ。







 妖怪の学校は、きっと、こんな感じだ。 強面のぬらりひょん先生と、お色気轆轤首先生、用務員のおじさんたちは、きっと河童だろうな。 なんだか楽しそうだな。 学校、ずっといけてないや。 戦争、早く、終わればいいのに。


 さっちゃんのいない夜。

 わたしもなって、いいのかも。

 夢の続きが見てみたくって、夢の中で、そう思った。



〚おわり〛


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