風の色 #シロクマ文芸部 #BL風
風の色が変わった。いや、正確に言えば風の髪の色が変わったということなんだけれども。
風の新しい髪色はアッシュがかかった青みのある黒だった。それじゃ黒と変わんねえじゃんって? 高校生なんだ。分かりにくいくらいじゃないと生徒指導に見つかるだろ。
風の新しい色はさりげなかった。それこそ気付いていたのはおれを含めてクラスでは数人、先生も大体は気付かなかったし、気付いていたとしてもこれまで品行方正でやってきた風のことをとやかく言う奴はいなかった。風がそこまで計算していたのは言うまでもないが、新しい色で素っ気ないくらいクラスに馴染む風がおれは好きだった。
風の色の変化に気付いたクラスの女もいるにはいたし、違うクラスからわざわざ見に来る女、勇気を出して風に問いかける女もいた。だが風はいつも。
「気のせいだろ? 馬鹿じゃね」
風の色。
ここだけの話、おれが言ったんだ。
「お前、顔いいんだし、部活も止めたんだからちょっとは垢抜けろよ」
「はあ? お前関係ねえだろ、誰が芋くせえだよばあか」
「関係ねえことねえよ、親友だろ?」
風の色を染めてやりたかったといえばヤラシイが、ただでさえ女にモテる風にヤキモチ妬いていたのは認めるよ。でも大体において、というか九割九分九厘の男同士の友情は仮にそれが愛に変わったってそれは一方的なものだし、忌避され避けられるべきで、おれが風に正面切って「好きです」なんて言ったら風に嫌われて友情どころじゃなくなってしまうしそれに受験を控えたこの時期にお互いヤバい状況になるってのは目に見えてるから、だから風を垢抜けさせて彼女でも作ってもらって幸せそうな風を遠目で眺めては満足し、分不相応な恋の代償、つまりは夜な夜な枕を濡らす覚悟がおれはできていたってのに。馬鹿な風が言うんだ。
「お前がこの色好きだって言うから染めたのに」
ちょっと待て。
このセリフ、どう解釈すればいい?
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け餅つけ―――
「ばあか、真に受けてんなよ。全然似合ってねえっつうの」
嘘だよばあか。
めっちゃ似合ってるっつうの。
風が好きだ。マジで。
風の色。
それはおれの好きな色。