ナイトルーチン #シロクマ文芸部 1157字
布団から上の体だけ出してベットレストにもたれる。人より長い自慢の脚はあぐらに畳んで。風呂上がりにクリーム塗りたくったすへすへの肌はシーツの衣擦れが好き。
わたしは言った。
「睡眠不足…って、すいみん〝ぶ〟そく、なのか。すいみん〝ふ〟そく、なのか。濁点の使い所(ところ)……これは〝と〟でもいけるよね? そのつかいところって、なんだかなあ。とても難しく感じることがあるの」
え。急になんのこと?
そう思うよね。
きみにかまってほしくてさ。あえてどうでもいいことを言ったわけ。
羽毛〝ふ〟とんを引っ張り上げた。濁点って、強い感じがして、好きじゃないんよなあ、って言いながら。
手元灯をつけて、お気に入りの文庫を枕に並べて、お湯を一杯持って上がって。きみはちらりとわたしを見ただけ、また眼を閉じた。
その様子。
ちょっとムスっとしてみたり。
もうちょっと、かまってくれてもいいじゃない、ってさ。
きみとはまだ付き合いが浅くて。一緒に住むようになってから、きみのことを色々知った。感情の乱高下が激しいきみは愛情表現も相応に激しくて。獣のように激しくもみゅくちゅ求められるわたしの身体は傷がいつも絶えないし、もうきみのくさい匂いが分からなくなるほどすっかりきみに染まりきった。
布団の中のすへすへの脚。傷だらけの脚は温まっていた。わたしはもう一度トライした。
「とうもろこし…とうもろこし…とうも〝ころし〟…。ねえ。とうもころしが宇宙からやってきたって話、きみは信じる?」
きみはちらりと眼を開け、また閉じた。ふふふ。これでもだめか。
きみの頭を撫でた。きみの頭はとても形が良くって、鼻のあたりからおでこに沿って指をついいっっ…と滑らせて、頭のてっぺんをうわうわ撫でるとわたしはとてもしあわせな気分になる。きみは眠りについてしまった。
もう寝たの?
あんだけ激しかったのに。
先に寝るって反則じゃない?
シーリングライトを消して手元灯のルーメンを下げる。真っ暗のなか、わたしの世界は淡い手元灯の明かりが届く範囲だけ。きみの金色の髪を梳く手には幾枚かのバンソーコー…。ペリペリ剥がすときみにつけられた傷はまだ閉じていなくって。寝る前のハンドクリームを塗ったらバンソーコーはもうくっつかなくなった。
きれいな手って、言われてたのにね。
手をかざし、どうでもいいことをぶつぶつ言いながら、わたしの夜は更けていく。
どうせきみは早く起きるんでしょ?
わたしの夜ふかしなんて我関せず。
散歩に行こうよって。
淡い手元灯を消すとわたしの世界は閉じてしまった。次に眼を覚ますのはいつなのか。生まれ変われるのなら、毎朝きみに起こされる、いつものわたしに変わりたい。
世界は、毎朝、更新される―――
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