みかさに及ばずながら
「見てる分には全然いいんだけれど、参加してみたらてんでだめでってこと、ない?蛸ときゅうりの酢の物みたいな。」
なんでそんなに顔を近づけて話すのだろう。
「激落ちくんとか マロニーちゃんとかを、激落ち、マロニーって馴れ馴れしく呼ぶ人と、わたし付き合いたいんだけど、どう思う?大切にされないかな?」
車谷みかさはもうすぐ目的地に着くのにパーキングでソフトクリーム買っちゃうみたいな人だ。見ていてとてもいらいらする。でも、ぼくの好きな顔だ。
「ねえ、もみあげ触ってもいい。」
ついプリントから顔をあげる。いつもよりもすこし真剣な顔をしていたので、困った。
「いいよ。」
言う。できるだけ落ちついた声をして言う。ぼくは
蛸ときゅうりの酢の物は嫌いじゃない。そんな声。
ぼくの好きな顔と、白い手のひらがこちらへ伸ばされる。さっきずっと話しかけてきていた時よりも距離は短い。
切りたてのもみあげに、冷えた風があたる感じがする。上に下に滑らされて、また滑らされて、首がふるっと震えたのに車谷みかさは気づいただろうか。エッチって、言うだろうか。
「うん、気持ちいい。」
「よかった。」
なんで触りたくなったの、と聞きたかったけれど、
聞けなかった。車谷みかさには車谷みかさなりの
考えが有る、とクラスのみんなは心得て、余計な
ことは聞かないふうにしている。ぼくはそれに倣う。
車谷みかさは聞いてほしいのだろうか。
どうしてリュックをしょって教室移動をするのか。
どうして封筒に小銭を入れて持ち歩いているのか。
どうして最寄りのパーキングでソフトクリームなのか。
どうしてこんな放課後いつもぼくに話しかけるのか。
「みかさ」
車谷みかさはうれしそうにしていた。
ぼくは初めて車谷みかさの名前を声に出して読んだ。
「ありがと」
ヨーグレットを2つぶくれた。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?