みかさも然ることながら (2)
「現代社会ていう言葉はさ、現代社会を揶揄する
空気感のこともまとめて指している場合ばかりだ
と思わない?あれよね、批判的思考力とやらの過
度な反応よね。」
車谷みかさは変わった。
「フィジカルというのをメンタルとかスピリット
とか、そういうものと同義に捉えておられる方が
多くいらっしゃるようだけれど、それは全くの反
対で、わかるかしら。物質的、物理的というのが
英語の原義で、身体的、肉体的という意味が正し
いわ。強靭な肉体や身体的能力をもつプロスポー
ツ選手に対する賞賛の言葉として使われるうち、
フィジカルを〈精神的な強さ〉という意味に捉え
る誤りがされるようになったのかしら。世も末ね。」
車谷みかさはもう、最寄りのパーキングでソフト
クリームを買わない。
「ロクシタンってなんだっけ。なんか憎めないやつって語呂しない。なんでだろう。まって、語呂の語源が気になって眠れない夜が容易に想像できる。今夜あたり調べようかな。」
あの日から車谷みかさの性質をぼくの中で定めて安心していて、こうしてたまに足元をすくわれて、家に居るのに帰りたくなったりするんだ。どこへ?
「こっち向いて」
ぼくはずっと車谷みかさを見ている。
「見ているでしょう」
「もっと見てほしい」
車谷みかさは変わった。と思っていたんだ。
思っていたんだけれど、昨日からすこしずつ
前みたいな車谷みかさになるんじゃないかな
って思うんだ。
というかずっと車谷みかさは車谷みかさで、
ぼくは
「みかさはヨーグレットが好きなの」
「いや、ヨーグレットよりもチーズおかきが好き」
「そうなんだ」
車谷みかさは放課後うちに来るようになった。
水曜と土日は来ないけど、あとは来る。たまに
来ない。いつもヨーグレットを帰りに2つぶく
れる。ぼくはハーベストのセサミ味をあげる。
なんというか、ロクシタンはハンドクリームと
か売っているところだと思う。
「あ、わかった。ロクデナシと似てるからだ。」
「そっか」
車谷みかさと話がしたい。いつも車谷みかさが
話しているのを聞いて、そうなんだとかそっか
とかを言っているだけで、居るだけで、すこし
も車谷みかさに取り合えていない。
「ねえぼくってさ」
「ぼく」
「詰まらないやつかなぁ」
「うん」
「でも、好き」
って言ってくれないかなぁ。
「明日 誕生日なんだよね。」
「そっか」
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