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みかさに僭越ながら (3)

「ぼくって平熱ちょっと高いんだよね。」

「は」

「からかいの対象になるんだ、平熱がちょっと
   高いのは。これまですごい運動をしてきたって
   わけでもないのに、運動部でもないのに、みん
 なよりちょっとだけ代謝がいいのは。」

「ごめん。トイレ。」

「うん。」

2年生になってクラスが変わってしまったので、
車谷みかさとは疎遠になるはずだったんだ。
でもむしろ

「まこと」

トイレ戻りしなに車谷みかさは初めてぼくの名前を言った。

「さっきのあれ、どういうつもりで言ってる。」

「あれって」

「平熱」

「なにが、どういうつもりって?」

今日  車谷みかさはいつもと違う。

「帰ろっかな」

「そっか」

「じゃあ」

車谷みかさとちゃんと会話できる日は少ない。

ぼくに何度も話しかけてくるくせに、ぼくがちゃん
と会話に応じようとしだすと、車谷みかさはトイレ
に行きたそうにする。ぼくは車谷みかさを見ている
のは好きだけれど、向かい合って話をしていると帰
りたくなる。車谷みかさはぼくのこと、なんて思っ
てるんだろう。もてあそびさえも、ぼくにはしてく
れないみたいだ。

「ねえ」

「フランボワーズってさ、自己満足の領域じゃない?」

「それを言うならヴィシソワーズもね。」

車谷みかさのまねをした。車谷みかさを相手に、
意味のわからないことを言ってみたかったんだ。

「まこと」

「すごいすき」

「ぼくも」
の前に車谷みかさは出ていってしまった。

いつも、いつもと違う車谷みかさはそれでも
やっぱり、車谷みかさなんだ。

車谷みかさはエビアレルギーらしい。

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