小杉さん③薪運び


 去年の冬に小杉さんが焚き火をしたいと言い出した。先輩によく連れて行ってもらっていたらしい。

 僕は後輩2人を呼んだ。すずめにジェットというコンビを組んでいる、桜井と浦出を呼んだ。僕の一個下で小杉さんの2個下にあたる。

 小杉さんがよく連れて行かれていた場所まで向かった。一面は砂利で覆われており、すぐ横に川が流れている。川の反対には木が生い茂った崖が壁のようになっている。
 焚き火に向いている場所だ。しかしこの日は雪が積もっていた。落ちている木も湿っていた。

 場所に着いた。僕ら3人は小杉さんに「どうしたらいいですか?」と指示をあおぐ。

 小杉さんは「よう考えたら、俺ずっと薪運びさせられてたから、火の付け方分からへん。」と言った。
 え?初耳やねんけど。ヤバこいつ。
 後輩2人は「あ、そーなんですねー。」と言っていた。小杉さんになにか指摘したら、殺されると思っているのだろう。可哀想に。

 もちろん火起こしは難航した。雪が降っていて全ての物が湿っている。火の起こし方を調べようにもスマホは繋がらない。
 ただ小杉さんは大量の薪を集めてくる。恐ろしい量の薪を、とんでもないスピードで集める。何も言われてなくても、薪運びやってたんやなと分かったと思う。
 

 後輩も一応、薪を集めてくれている。ここで違和感に気づいた。小杉さんは買っておいた軍手を付けていなかった。
 刺がある木もある。軍手をせずに大量の木を持ってくる事は不可能だ。
 てか軍手余ってんのに何でしてないの?
「軍手余ってますよ。」と伝える。
「俺大丈夫。」
しろよ。

 そして小杉さんは、スマホのライトを使っていなかった。これは本当に凄い。山の夜は想像よりも暗い。何も見えない。
 その暗闇に、なんの装備もなしに突っ込んで行く。怪物。

 火も着いて、僕と後輩は火に当たって休憩する。その間も小杉さんは薪を集め続ける。
 なんで来たかったん?ってぐらい働いてた。

 常に何も見えない暗闇から、パキパキ音が聞こえる。鳴り止むととんでもない量の薪を抱えた怪物が現れる。これの繰り返しだ。
 後輩は遂に「ありがとうございます。」とも言わなくなった。

 後輩が僕に「いくらなんでも、薪を多く持ってこれ過ぎてます。」と言った。そもそもそんなに薪は落ちていないらしい。
 そんな筈が無い。事実、何度も大量の薪を持った怪物を見ている。怖くなった。


 僕らはパキパキと音のする暗闇に近づき、スマホのライトを当てた。


 
崖の絶対に登れない高さに、怪物がしがみついていた。
 


 高い場所には、木が多く生えているらしい。

 僕らは見なかった事にして、火にあたり続けた。 

 

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