LuckyJ論序盤の役牌打牌選択~mortalとNAGAニシキとの比較~
はじめに
LuckyJとは、最近天鳳十段に到達したAIです。このnoteを見て下さっている方々には恐らくもう説明不要であるため、この程度に。
なぜ底辺魂天の私が研究したいと思ったかというと、
「なんとなく打ち方似てね?」
ただそう思ったからです。
似て非なるものとはその通りで、とてもじゃないですが実力は遠く及びません。
しかしながら他AIとは違った打牌選択があるという情報を耳にしたため、他AIたちの点数やratingが他魂天の方々と比較して低い傾向にある(下手)私なのに昇天できたという点において参考にできるものがあるのではないか?と、漠然と考えるようになりました。
つまり、LuckyJの打牌選択に近づくことが私にとっての上達の一歩なのではないか、と考えたのです。
先行研究者のゆうせー氏によると、
とのことでした。勿論現代麻雀においてそれは正しいことと思います。
ですが本連載はLuckyJ特有の打牌に焦点を当て、新しい選択を取り入れることはできないかという点で論を展開していきます。
打牌選択~序盤の役牌の扱い~
…とにかく残す気がする。
ゆうせー氏の記事には、役牌の価値を高く見ている旨の記載がありました。
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役牌を残すということは打点上昇を明確に狙っていると考えられます。いわゆる「他家が重ねる前に切る」という考え方からは直感的に大きく離れているように感じますが、果たして本当はどのような意図があるのでしょうか。
検証方法
こちらを検証するために、十段昇段直前10半荘以内の5半荘データを用いて、役牌所持時にどのような進行を行ったか整理していきます。
様々な要因が重なって選択されていると思われるのですが、ここでは単純に
・場況
・点数状況
・巡目
・その理由(推測ですが)
に着目し、他Alや私との差異がどう生じているのか調査します。
この役牌が最初に切られた巡目を
「役牌所持時初回打牌選択平均巡目」とし、巡目に焦点を当てて検証します。ここでいう役牌の定義を
「他家河に2枚以上切られておらず、役として成立する可能性のある牌」
とします。
注1)基本的にはLuckyJが切り鳴き判断した通りに進行したと仮定していく ので、途中で選択が違ってもmortalが続けて検討してくれるようにその項目で判断していきます。
注2)他AIの方が役牌を切る巡目が遅くなった場合、LuckyJが役牌を切ったときの他AI推奨打牌が実際に切られた巡目を他AIが切ったと仮定して巡目を算出します。
注3)浮牌ではないもの(トイツアンコカンツ)のみ所持していた場合、その局は統計から除外します。
注4)私の選択はLuckyJが選択する前に自分だったらどうする?と考えて選択しています。やってるうちにLuckyJに染まりわけわからんくなってきたのは内緒
結果
結果は以下のようになりました。
抽出した5半荘の、それぞれ打牌した瞬間の情報をまとめてあります。(穴だらけだけど見ていただければそれだけで頑張った甲斐があります)
それぞれの「役牌所持時初回打牌選択平均巡目」は
となりました。
LuckyJはどちらのAIよりも役牌をより遅く切っていることが分かりました。
それだけではなく、着順によっても変わっています。
2着以上のときは若干早く切り、3着以下のときはより役牌を保持する傾向にあることが分かります。これは、役牌による翻数アップをギリギリまで粘って見ているのではないかと考えることができます。そしてその役牌と合わせて打点上昇が見込める役をホンイツと捉えて進行している回数が多いことも、調査表から分かります。
mortalでは全く逆の傾向が見られました。これは打点上昇や速度をタンピン系に求めていることが多かったことを示しているのではないでしょうか。
NAGAは着順状況において殆ど差異が見られませんでした。NAGAは役牌を自身の打点上昇に使うものとしての評価を、LuckyJほど行っていないのではないでしょうか。
他にも差があった例として、安全牌を抱えて進行しようとするよりは、なんとかして役牌の重なりを求めていたものが挙げられます。
他AIは方向性が決まってきたため他家が重ねる前に切ってしまいたいという意図が多数存在するものの、LuckyJはホンイツに使える可能性のある役牌は、たとえ相手の進行がはやそうに見えても抱え続ける傾向が表から浮かび上がってきました。そしてその傾向は、順位が3着以下だった場合や僅差の場合により多く出現しています。ラス目やそれに近い状況に近づけば近づくほど明確な打点を意識して突っ込んでいく、いわば「ガン攻めモード」に切り替わっていっているように見受けられました。
実際の牌譜で特徴的だったものをいくつかピックアップします。
第1例
この牌姿から打8sとします。意図としては恐らく
・自風アンコとチャンタ系で役を付けにいった
・チャンタ系にしたいが3sがドラのため4sは保持した
・メンツのある色の数牌が一番多いため、ホンイツを見た
大体そんなところでしょうか。
ラス目と僅差の3着、少しの打点上昇も逃したくない、そして役牌を鳴かせないようにしつつ自身で重ねる方に重点を置いているように感じます。
対してmortalとNAGA。
mortalは役牌ということで一応発にも割合がありますが、南という役を狙うよりも北アンコで一役ついているため、他家に重ねられる前に切るという選択をしています。W南重なりが最悪ですからね。
NAGAに至ってはそれすらも許さず、相手に重ねられたら嫌な牌を積極的に切ろうとする、現代において最善と思われる打ち方をしています。
これらは点数状況も加味し、速度で上回りつつ相手の手配価値を少しでも下げようとする意図が見られます。
一見、LuckyJはミスをしているのではないか?という風にも見えるのですが、劣勢の場面かつ役牌+ホンイツが狙える場面ではたった5半荘であっても複数件選択していることから、やはり役牌に価値を置き、ホンイツと複合した時の破壊力をかなり評価していることが伺えます。
役牌を切ったのがこの場面。親から立直を受けて現物として切っています。白は2切れだったためツモ切り。
手配価値としては役牌+チャンタ三色やドラ含みで立直といったところでしょうか。3翻をつけるために手を進行させている、なんとなく昔ながらのにおいを感じさせます。
ここの押し引きの感覚(AIにその言葉が適切かはさておき)が優れているため、圧倒的な成績を残せているのではないかと感じました。
第2例
打9s。
全ての役牌を抱えるとターツオーバーの危険性があり、索子で一通も狙える場面ではありましたが、このような選択となりました。意図としては恐らく
・南3でラス目のため、このままオーラスに入るとラス率が大幅に上昇するため、速度を上げられる役牌候補を残した
・親が3着目のライバル。ここは絶対に連荘させてはいけない場面のため役牌候補を残した
・萬子と索子の数が殆ど同じかつメンツのないドラ色ホンイツよりは役牌で役を付けた方がはやいと判断
まだまだ要素はありそうですがこのような感じでしょうか。
点数状況によって速度派、打点派と使い分けつつ、その中でも役牌重ねの価値が大きいと判断しているように見受けられます。
対してmortalとNAGA。
両AIとも役牌を抱えすぎることを嫌い、一つは処理するように促しています。W南の価値を高く見ているため一枚切れであっても南は残す選択をしていることもほぼ同意見と言っていいでしょう。あわよくば平和一通という立直手順で対抗していきたいという意図が伺えます。
結局ここで打中。6pでピンズ回りを引いて平和系に向かいたい意志も伝わってきます。ちなみにmortalは同意見、NAGAは打発としていました。
凄く細かいですが、緑一色ケアで発から、というような繊細さは持ち合わせていません。そんなことどうでもいいでしょ?といわんばかりの打牌です。それなのに役牌を抱えていっていることがLuckyJの攻撃性を物語っているのではないでしょうか。
ここはNAGAと同意見。しかしmortalは打発。mortalの方がより数牌をくっつきを見ていました。
最終的には3着目親から立直が来てオリ。1メンツW南トイツだけでは速度的に全く見合わない。もしかすると、こういう立直に対応するために役牌を残しており、現物化の可能性も追っているのでしょうか。そこまでは私では判断つき兼ねました。研究の幅が広がります。
第3例
最後に、意外だった場面。
大トップ目。この場面ではLuckyJの方が役牌を先に切っていました。
選択の意図は恐らく
・点数が充分、ここで打点を狙う必要はない
・対面がドラ2含みの仕掛けを行ってきたため、相手が重なる前に切る、もしくはさっさと切ってバックで放銃することを避けたかったのではないか
・3着目の仕掛けであるため、むしろ鳴かせて局を進行させたい
・自身の手配価値が極端に低い
といったところでしょうか。打点上昇のためだけに役牌を残しているのかと思いきや、トップ目での状況判断が非常に優秀であるように映りました。
「親以外が頑張るのであれば、さっさと頑張ってくれ!」と言っているようにも思えます。(とってもよく分かる)
対してmortalとNAGA。
両AIは鳴かれることを嫌ったか、はたまたこちらが重ねて抱えることを狙ったか。いずれにしてもLuckyJの選択に大きく疑問を残しています。ドラ2副露者に対するケアが、全く違ったアプローチとして出現していることが分かります。やはり、LuckyJは独特の押し引きの感覚を持っているのではないでしょうか。
まとめ
以上の結果から、
他AIよりも役牌を残して進行するケースが多い
が、
なんでもかんでも役牌を残していくというわけではなく、非常に繊細な状況判断のもと役牌を残して進行しようとしている
のではないでしょうか。そして、
自身の着順によっても細かい判断が行われている。
ということも見えてきました。
両AIとこれだけ判断が分かれながらも天鳳十段達成したというのは、上振れの可能性も考えられます。ただ5半荘調査しただけでも明確に役牌を切る巡目に差が見られたということは、もう少し多くのデータを調査することによって繊細な部分が紐解けるのではないでしょうか。
今回は役牌のみに焦点を当てましたが、字牌選択という観点で論を展開したいと思っていました。ただ、はやくこの記事を公開したいと思っていたたため、役牌に絞っていったという次第です。
そうした役牌選択は、とても高度な押し引きバランスによって、既存のAIと一線を画したシステムを実現できているのではないでしょうか。
LuckyJの研究を進めていくためには、やはりその押し引きに焦点を当てていかなければならないと思います。
それについても研究を進めていきたいと思います(時間が欲しい…)。
※私の選択については参考で載せてるだけですのでご批判は受け兼ねます泣
最後になりましたが、先行研究記事に言及することを許可して下さったゆうせー氏、NAGA解析を手伝って下さったvOmOv(おも)氏に、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。