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幼馴染はキスがしたいそうです。

田村「あんな?保乃な?」


〇〇「ん〜?」



クーラーをつけるにはまだ少し早い、だけど暑い。

そんな季節。

風通しの良い僕の部屋は窓枠にかけてあるネイビー色のカーテンがふんわりと広がっていた。



田村「前からずっと気になっててな?」


〇〇「なにを?」



僕好みにカスタマイズした自室には幼馴染でクラスメイトの田村保乃と僕の2人だけ。

保乃の家は僕の家より200mほど離れたところにあるのだが、僕の家に着いた際に『暑い〜!〇〇の部屋で休ませてや〜!』と大声で騒ぎ立て、、、


今は網戸が全開の窓の前でぐだぐだと漫画を読み込んでいる。

初めで僕の部屋に上がった時の謙虚さはどこかに捨ててきたらしい。



田村「〇〇にしか言えんけどな?あんな?」


〇〇「だからなに?」



さっきから一向に本題に辿り着かない保乃の会話に少しだけイラつき、僕は答えを急いだ。

眺めていたスマホから顔をずらし、フローリングに寝そべりながら足をパタパタと動かす保乃に目線を写した。


バレー部らしい筋肉のついた太ももと下着が見えそうなくらいにはだけたスカート。

いくらなんでも危機感というか羞恥心というか、、、



〇〇「あとさ保乃、パンツ見えるよ」


田村「別に見てもええんよ?」


〇〇「恥じらいの感情捨ててきた?」


田村「なにいうとんねん、保乃ちゃんは女の子らしさの塊やで?」

絶妙にダサいポーズを僕に向かって決めてくる。

とりあえず軽く無視して話を続けていこう。



〇〇「それたぶん僕の知らない保乃ちゃんだわ」


田村「いてこますで?」


まだまだ西日が強く差し込む午後4時ごろ。

2人でいると話が脱線しやすいのがこんなところでも存分に発揮されていた。

まあ保乃も僕もそういうくらいの空気感がちょうどいいんだけど。



〇〇「そんで気になってるってなにが?」


田村「なんのこと?」


〇〇「いや保乃がさっき言いかけたこと」


田村「ん〜、、、あぁ、思い出したわぁ」



眠りから覚めたパンダのようにのそのそと起き上がろうとする保乃。


、、、、、、今日の保乃は白色だった。



田村「あんな、保乃な?」



少し乱れた制服のまま、そして髪の毛も普段の整ったものとは違って乱れていた。

こんな保乃を観れるのも僕の特権だろうな。

読んでいた漫画を床に置き、保乃の唇がゆっくりと動き出した。



田村「キスしたい」


〇〇「、、、、、は?」


田村「だからキス、してみたい」


〇〇「、、、、、、ん?」



何回か保乃の言葉を反芻してみるけれど、一文字も理解できた気がしない。

なのに保乃はすっとぼけたような顔でただ僕の顔を見つめるだけ。



田村「なぁ、聞いてる?」


〇〇「、、、かろうじて」


田村「なんやそれ〜笑」


いやそれガチめにこっちのセリフなんだけど。

だというのに保乃はケラケラと僕の方がおかしいかのように薄ら笑いを浮かべていた。



田村「まあでもキスしたいんよ、分かるやろ?」


〇〇「分からんわ、、、」


田村「ほえぇ、不思議やなぁ」


〇〇「いつからそんなラブコメ思考になったん?」


田村「うーん、、、いま?」



そう言いながら保乃は自分の顔の横にさっきまで読んでた漫画をパタパタと見せつけてくる。


あれは、、、、、そうだ。

僕が先週に買ってきたラブコメ漫画だ。



田村「この主人公がめっちゃキュンキュンするチューしとってな!保乃もこんなチューしてみたい!」



確かあの巻は最後に主人公とヒロインが玄関先でキスするんだったな。

ちなみにその2人の関係性も僕らみたいに幼馴染だったと思う。



〇〇「彼氏とでもしとけよ」


田村「おらん存在とはちゅーできませーん」


〇〇「え?保乃って彼氏いないの?」


田村「そやで?っていうか今まで1人もおらんし、、、///」



まじか、、、、、、


僕が言うのもなんだけど、保乃は小さい時からめちゃくちゃ可愛かった。

幼稚園の時は必ず隣によく分からん男子がいたし、小学生の時はよく男子からちょっかいをかけられていたし、中学の時は告白されてたのも何度か見てきた。

だから彼氏の1人や2人、絶対にいると思ってた。



田村「はぁ、、、なんで自分で言わなあかんねん、、、、、///」


〇〇「なんかごめん、、、」


田村「謝るなや!あんたのせいやろが!!」



そう言ってまたフローリングに寝そべって足をバタバタと動かすようになった保乃。

もう下着が見えるうんぬんなんて関係ないらしい。


、、、、、、ん?



〇〇「あんたのせいってどういうこと?」


田村「えー?きーこーえーなーいーっ!!」


〇〇「聞こえてんだろ」



昔から保乃は自分に都合が悪いことがあると5歳児並みの駄々をこねる節がある。

そんな姿には正直見慣れてしまったが、今はそれどころではない。



田村「うっさいあほ!ばか!チビ!」


言葉も子ども並みの保乃に罵られながら僕は彼女の近くに腰をかける。

あとチビじゃないし、180あるし。



田村「、、、〇〇はその、、、、、したことあるん?」


〇〇「一応聞くけどなにを?」


田村「なんでわざわざボヤかしたのに聞くん!キスやキス!!」



気づけばもう日が沈んでいきそうな、紫色の空が窓の外に広がっていた。

保乃の表情も薄暗がりに隠れて見えづらくなっている。

だけど顔の赤さっていうのは自然とよく分かった。



〇〇「、、、ないけど」


田村「へっ、、、へぇ〜、、、、、///」


〇〇「はぁ、保乃は?」


田村「〇〇と同じやけど、、、///」



少し気まずい沈默が部屋に広がっていく。

保乃も僕も、その場で座っているだけで精一杯な状態だ。

お互いの顔を見ることもできずに目を逸らしたまま何分がたっただろう。



田村「もっ、、、、、もう帰るわ!」


〇〇「、、、おう」



気の利いた行動も返事も出来ずに立ち上がり、一応は玄関まで送り届けることにした。

2階の部屋から1階の玄関までがこんなに遠いと感じたことはなかった。



〇〇「じゃあまた明日な」


田村「うっ、、、うん、、、、、///」



玄関先で靴を履く丸まった背中に声をかける。



〇〇(はぁ、、、何でこんな気まずくなってんだよ、、、、、)



やけに息苦しさを感じ、首に巻きついたままであった制服のネクタイを緩めていく。

すると保乃が靴を履き終えたようで僕の方をくるりと振り返ってくる。



田村「よいしょ、、、今日はありがとな!」


〇〇「おー」


田村「、、、、、、、、、」


〇〇「え?」



帰りの挨拶も済ませたはずなのに立ち止まったままの保乃。

口角が少し緩み、頬は薄いチークを塗ったようにほんのり赤い。

そして潤んだ目元は玄関にから差し込む夕暮れのオレンジ色を吸収し、キラキラと輝いている。



田村「、、、、、、ごめん」


〇〇「え?」


田村「もう、、、抑えられへん、、、!」


保乃の言葉を最後まで聞いたと思った瞬間、緩んだネクタイが引っ張られた。

さっきまでぎこちない空気だった僕たちの距離は一気に0へ。

世界中の時間が進まなくなった気がした。



〇〇「んっ、、」


田村「んんっ、、、キスってこんな感じなんやな、、、///」



時間としてはとても短かったと思う。


一言だけそう呟いた保乃は口元を手で覆って一瞬の感触を噛み締めているようだった。



〇〇「お前マジで何やってんの、、、///」


田村「まあ、、、あの漫画みたいでドキドキしたやろ?」



『しなかった』といえば嘘にはなるけど。

まだ絶叫マシンに乗ったばかりのように心臓が忙しなく動いているし。



田村「あーもう!今日はこの辺で勘弁したるわっ///」

今更恥ずかしくなったらしい保乃が僕の胸に手を置いて離れようとする。

っていうかさっき『もう抑えられへん』とか言ってたし。

僕もいいよな。



〇〇「、、、まって」ガシッ


田村「えっ?」



逃げようとする保乃の細い手首を逃げないようにしっかり掴み、また壁に押し付ける。

今にも泣きそうな保乃の顔が僕の独占欲を痛いほどに刺激した。



田村「ふぇっ!ちょっ!心の準備がまだ」


〇〇「うっさい」



保乃の柔らかい唇に僕のを押しつけ、逃げられないように背中に手を回す。

今度は震えた唇を舌でこじ開けて。

柔らかい髪の毛を撫でながらさっきのよりも長めのやつをする。



田村「んっ、、、」ギュッ



保乃のしなやかな手が僕の背中に。


人生で2回目のくせに、ただただお互いを求めるような生意気なキスをした。



田村「んんっ、、、はぁ、、、、、好きやで」


唇を離して数秒、保乃が口を開いた。

僕を逃さないように背中に手を回したままでそっとつぶやく。



〇〇「それいま言う?」


田村「うっさい!いきなり舌入れてくるやつに言われたないわ!!」


〇〇「悪かったって、、、」



ハリセンボンのように頬を膨らませ、さっきよりも水分を多く含んだ目で僕を見つめてくる。

頭を2度撫でると、保乃が続きの言葉を呟いた。



田村「ほんで返事は?」


〇〇「、、、僕も好き」


田村「へへっ、知ってるわ!」ギュッ



僕の胸に顔を押し付けるように抱きつき、上目遣いで顔を覗き込んでくる保乃。

そんな保乃を見てると「もう一回」と言う欲望がとめどなく溢れてくる。



〇〇「、、、まだしていい?」


田村「そうやって聞くのはモテへんで?」


〇〇「じゃあやめとく?」


田村「、、、、、、いじわるやなぁ」



そういうと保乃は僕の胸から顔を離し、大きな目を閉じる。


僕も応えるように保乃の頬に手を添え、また2人の距離を近づけていく。


そして3度目のキスをしようとした時、、、



ガチャッ‼︎



天「たっだいまー!天ちゃんのおかえりだ、、、、、え?」


〇〇「なっ!」 田村「てっ、、、天ちゃん?!」



まるで見ていたかのように最高のタイミングで帰ってきたのは妹の天ちゃん。

そういえばもう部活から帰ってくる時間だったな、、、!



天「ふぅん、、、」



目を閉じて僕の背中に手を回す保乃と唇を近づけている兄貴の姿を見れば状況を察するのはバカでもできるだろう。


案の定、天ちゃんも一瞬で僕らのしていること理解したらしい。



天「あぁ〜、、、なるほどなるほど、、、、、」ニヤッ



最高のイタズラを思いついた子どものような笑顔を見ると、靴を脱ぎ捨てて2階へと駆け上がっていく天ちゃん。

するとそのすぐ後に電話の発信音が聞こえた。



天「あっ!もしもしお母さん?!今ね今ね!!」



〇〇「おいこら待てやーー!!」

田村「待って天ちゃん誤解やってーー!!いや誤解ではないんやけど!!」

〇〇「んなことはいいからあいつ止めるぞ!!」



2人で駆け足で階段を登り、妹の暴走を止めようとしたけどもう遅い。

夕食の時に保乃を呼び、母さんと天ちゃんから爆いじりされることまで決定しました。

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