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新入生の後輩たちに好かれ過ぎてるんですが、、、[第1話]

〇〇「桜か、、、」



1年間という年月を経てこの制服にもだいぶ着慣れてきた。



目の前を白やピンクの花びらが舞い散っている、今年で見るのは2回目の景色だ。



通学路の途中にある桜の木が街路樹として植えられた歩道、僕がお気に入りの場所。




〇〇「今日から新学期だしなぁ、、、」カシャカシャ




僕、小林〇〇は歩道を鮮やかに彩る桜吹雪の中を歩きながらその空間をスマホで切り取っていた。



機種変更して性能の上がったカメラで撮ると、どんな景色でも賞を取れそうな気がする。




〇〇「なわけねぇか笑」




綺麗に取れた写真だけを保存し、肩紐のずれたリュックを背負いなおす。



あっ、ネクタイずれてる、、、



電源を切ったスマホの画面に不恰好に曲がったネクタイが見えた、姉ちゃんがいないから気づかなかった、、、




〇〇「よっ、、、、、これでいいかな〜」




去年まで2歳上の姉ちゃんと一緒に高校に通っていたのだが、今年はもう卒業して大学へ進学してしまった。



僕に対して過保護すぎて疲れることもあったが、いざいなくなってしまうと寂しいもんだな。




〇〇「、、、、、、やべ!バスの時間気にしてなかった!!」




写真撮ったりネクタイ直したり、、、、、



普段はやらないことに時間をかけ過ぎて、気づけばいつも乗っているバスの時間に遅れてしまっていた。




〇〇「いつもより1本遅いやつに乗るか〜、、、」




数分前の自分を少し恨みつつ、僕はまた歩道を進み始めた。




〇〇「ふぅ、、、何とか間に合いそうかな」




比較的新しい市営バスのふかふかなシートに座り、ほっと一息つく。



天井の広告に貼り付けられた女優の笑顔が『よく頑張りました!』と僕に労いの言葉をかけてくれているようだ。




〇〇(うちの高校の制服着てる、、、、、)




バスには僕の他に11人の女子高生、しかも僕と同じ高校の制服に身を包んでいた。



運転手さん以外に同性の人間がいないので少し気まずい、、、笑




「次は櫻坂病院前〜、、、櫻坂病院前〜」




頬杖をつきながら窓に流れる景色を見るのが登校前のルーティンだ。



元気よく走る小学生、友達と仲良く話している中学生、歩きスマホをしているサラリーマン、、、あっ、電柱にぶつかった。




〇〇「ふっ、、、笑」




こういう何気ない日常の風景を見るというのも面白い、まあ今は別の意味で面白かったけど。



さてと、次のバス停を過ぎたらいよいよ僕らの高校だ。



仲良いやつと一緒のクラスがいいな〜、、、あと担任はめっちゃ優しい菅井先生がいいな!




プーーッ、、、ガチャッ、、、、、、




おっ、櫻坂病院前のバス停に着いたみたいだ。


他に乗ってる女子高生達もヘッドフォンを外したり、財布の中身を確認したり、バスを降りる準備を始めていた。




「櫻坂病院前に到着しました。お乗りの方はICカードおよび定期け」







『動くな』





〇〇「え?」




僕も降りる準備に財布からICカードを取り出そうと顔を下げた。



しかし次の瞬間、低い男の声が乗車口の方から聞こえてきたんだ。




『お前らも動くんじゃねえぞ、もし動いたらいつでも殺してやるから』




朝には全く似合わない黒ずくめの格好の男が、運転手に向かってサバイバルナイフを突きつけていた。


、、、、、、朝にその格好だと逆に目立って仕方ないだろ。




『おい、入り口閉めて高速に乗れ』



「はっ、、、はい、、、、、」




男がそう指示すると、運転手は怯えた声を出しながらバスを動かし始める。




『おぉ、、、良いツラしてる女子高生が多くていいねぇ笑。』




気色の悪い言葉を発しながらバスの中を一望するバスジャックさん、あと何気に僕のこと無視するのやめてもらっていいですか?



そしてバスは僕の目的地である櫻坂高校とは真逆、1番近い高速道路のインターチェンジに向かって走り出した。




〇〇「えぇ、、、、、めんどくさ、、、」



『あ?何だお前?』




あっ、思わず口から不満がダダ漏れになってしまった。



だって櫻高の生徒指導担当って死ぬほど厳しくて有名なのに、新学期初日から遅刻なんてめちゃくちゃキレられるに決まってる。



それに、、、、、、




「うぅ、、、」グスッ


「なんでこんなことに、、、、、」




後ろの方で怯えきってる後輩達も初日からどやされるなんて勘弁なことだろう。



それにこのバスには僕以外でまともに動ける人はいない、運転手さんは首元にナイフ突きつけられてるし。



ここで先輩らしい背中を見せとくってのもいいだろうなぁ。



ほら、なろう系主人公みたいでこれもかっこいいでしょ。




〇〇「すみません、やっぱ下ろしてもらっていいですか?」



『あ?頭湧いてんのかお前?』



〇〇「それはこっちのセリフっすね」




僕は座席からゆっくりと立ち上がり、一応は両手をあげて抵抗の意識がないこと見せびらかす。



周りの後輩たちから驚きなのか、それともドン引きの悲鳴が小さく上がる。



大丈夫、あと数分で終わらせるから。




〇〇「バスを占拠するのにたった1人、それに武器もしょっぼいナイフ、、、あとその目立ちすぎる服ね。」



『うっ、、、うるせぇっ!!』



〇〇「自分に不都合があったら声を荒げるとか、、、、、、もしかして小学生ですか?」



『てめぇ、、、、、!!』




バスの中全体から『それ以上煽るな』という空気をビンビンに感じながら僕はゆっくりと犯人に近づく。



まあこのタイプの犯人なら制圧しやすいな、親父が言ってた通りだ。



いつの間にか運転手に向けられたナイフは僕に向けられており、完全に頭へ血が昇っているご様子。




〇〇「後ろのみんな、ちゃんと掴まっててね」



『俺に楯突いたことを後悔させてやんよぉっっ!!』




幼稚園児の運動会みたいに一生懸命に走り、僕にナイフを突き立てようとしている。


次の一瞬間、今度は僕が運転手に向けて声を荒らげた。





〇〇「ブレーキ踏めっっ!!」



「はっ、、、はいっ!」





キィィィィィッッ‼︎!




「「「「「きゃーーッ!!」」」」」



『なにっ、、、?!』



〇〇「止まれないっしょ、、、っと!!」




後輩達の悲鳴を背中に、僕は両側の座席シートを軸にして犯人へ膝蹴りをした。



全力走ってくる犯人は急ブレーキに体勢を崩し、僕の膝蹴りが思いっきり顔面にヒットしてしまった、、、、、、痛そう。



とりあえず慣性の法則を発見したニュートンには感謝しておこう。




「はぁ、、、はぁ、、、、、、」



〇〇「運転手さん、ナイス判断でした!お怪我はないですか?」



「はい、、、こちらこそ指示をありがとうございます、、、、、、」




部活用に持っていた細長いスポーツタオルでブラックアウトした犯人の手首を縛る。



軽く放心状態になってしまった運転手さんに話しかけつつ、後ろの後輩達にも声をかける。




〇〇「よいしょ、、、みんなは怪我なかった?」




「「「「「、、、、、、、、、///」」」」」




〇〇「ん〜、、、大丈夫そうだね」




みんなも怖かったんだろうな、僕に向けて首を振るのが一生懸命なようだ。



それに顔もめちゃくちゃ赤くなってるし、、、バスジャックが本当に怖かったんだよね、、、




〇〇「それじゃあ僕は父に連絡してこいつ引き渡しておくから、みんなはそのまま学校に行きな!」




僕は運転手さんに出口を開けてもらい、犯人の首根っこを持ちながら下車。



そして彼女達を学校へ送り届けるよう頼みながらスマホをいじって父さんに電話をした。




〇〇「あっ、もしもーし。バスジャック犯捕まえたんだけどさ〜、、、、、、」



2時間後。



〇〇「それじゃあとりあえず学校行ってくるわ」


「送ってこうか?」


〇〇「歩くのめんどいし頼みますわ」




バスジャック犯を県警に勤めている父へ引き渡し、事情聴取もようやく終わった。



このまま家に帰ろうかと思ったけど、一応は始業式だし学校に行くところ。



っていうかまだやってんのかな?




〇〇「小池の美波さんに聞いてみるか、、、、、」




父さんの自車に乗りながらメッセージアプリを開く。


そして昨日、夜中だというのに愛犬の写真を何十枚も送りつけてきた美波とのトーク画面を開く。


「みーさんみーさん」〇〇


「もう学校終わったー?」〇〇

みぃ「誰かさんがバスジャックに巻き込まれたとかでまだ教室で待機中!」

みぃ「それより〇〇は大丈夫なの??」

「全治1ヶ月っす、、、」〇〇

みぃ「えぇっ?!」


みぃ「そんな大怪我しちゃったの、、、😢」

「うそ」〇〇

みぃ「知ってた笑」


みぃ「〇〇がそんな怪我するないもん笑」

「信用してくれてありがと笑」〇〇


「んじゃとりあえず学校行くわ」〇〇


「またな」〇〇

みぃ「うん!」


みぃ「私たちも体育館に集合するっぽい!」

〇〇「おけー」


シートベルトを閉めながら美波とのトーク画面を閉じる。



どうやら僕のせいで始業式が始まらずにみんなが待ちぼうけを食らっているんだと。



、、、、、、いや僕のせいじゃないよ、犯人のせいだわ。




「とりあえず校門まででいいよな」



〇〇「おー」



「んじゃ、行くぞ息子よ」



〇〇「頼むぞ父よ」




こんなよく分からない父親が警視だなんて、、、


一瞬だけ日本の未来が不安になるけど、まあいいか。


僕は父さんの車に揺られてようやく目的地の櫻高校へと向かいました。




「じゃあ帰りは気をつけてな」



〇〇「っていうか時間大丈夫なの?」



「ああいいよ、ちょうどサボる口実できたし」



〇〇「働け」



「はいはい、それじゃ」




軽い挨拶だけ終え、僕は少し急ぎ目に足を動かして体育館へ向かう。



入った瞬間に式が終わったりしたらめちゃくちゃ気まずいな、、、笑









菅井「あっ、〇〇くん!早く早く!!」


〇〇「おはようございます、友香先生〜」




体育館の前には僕の担任希望である菅井友香先生が待ってくれていた。



ちょっと抜けてるところがあるけど愛嬌たっぷりの先生で、彼女に沼っている男子生徒も少なくないとか、、、




菅井「〇〇くんは怪我とかしてないかな?」



〇〇「実は犯人のナイフが脇腹に刺さって、、、いててっ、、、」



菅井「えぇっ?!じゃあ早く病院行かなきゃ!!」



〇〇「いや嘘っすよ、もし刺されてたらここにいないっす」




やっぱ友香先生はリアクションが良くて嘘のつきがいがある!



こんなふうに生徒の言うことはなんでも信じちゃうピュア過ぎるところも人気の理由ですね。




菅井「もぉっ!先生に嘘をついちゃいけませんっ!」



〇〇「ほんと可愛いですよね〜笑」



菅井「だから嘘は、、、」



〇〇「嘘ではないっす」



菅井「もぉ、、、、///」




照れてる菅井先生を横目に体育館の扉をゆっくりと開け、中の様子を見る。



今は校長が新入生の一年に向けて話をしてるところかな、、、




菅井「あっ!〇〇くんは先生と一緒に来てね?」



〇〇「はーい」




僕はとりあえず先生後に着いていき、体育館の端を通ってステージの方へ、、、、、、なんで?



少しずつクラスメイトや上級生達が僕の存在に気づき始め、ざわざわと騒がしくなっていく。




〇〇(あっ、美波だ)



美波(やっほ〜)フリフリ

〇〇(なんかあんの?)



美波(まあ見てれば分かるっ!)




呑気に手を振る美波と口パクで会話。



見てれば分かるって何を?




菅井「それじゃあ〇〇くんはステージに立ってね!」



〇〇「え?そういうの嫌なん」



菅井「初日から課題出しちゃうよ?」



〇〇「、、、、、、パワハラ」




優しい菅井先生が一瞬だけ悪魔のように見えてしまったが、僕はそのままステージへ上がる階段へ。



いつの間にか校長も話を終えて僕がくるのを待っているようだ。




「えぇ、、、本日、皆さんは市内でバスジャック事件があったのをご存知ですよね?」




やっぱその件についてかぁ、、、



校長が僕の腰に手を添えながらマイクに向かって誇らしげに話し始めた。




「この中にはその事件に巻き込まれてしまった人も何人かいると聞いています。」




そういえばあの子達は無事に来れてるのかな。



この体育館の中にもいるだろうし、先生に質問責めとかされてたら可哀想だな。




「そしてこの〇〇くんもその事件に巻き込まれてしまった生徒の1人!そして犯人を捕まえた功績もあるんです!」



パチパチパチパチ👏




やめてくれやめてくれ、、、



こんなつもりで犯人を捕まえたわけじゃないし、ただ単に犯人が馬鹿だったから捕まえれただけだし。



これ絶対にクラスメイトから爆イジリされるやつじゃん。




山下「あっ、、、あの人が、、、、、!」


谷口「バスジャックから助けてくれた人だ、、、///」


的野「あの人に似ててカッコいい、、、///」


小田倉「あの人執事にしたいかも、、、///」


村井「あっ!私の王子様だぁ、、、!」


村山「、、、、、、、、、ふふっ」


石森「まずは胃袋から、、、、、だよね!」


小島「やばい、、、、、好きになっちゃったかも、、、///」


理子「りーの彼氏さんになってくれるかな、、、」


中嶋「うへへ、、、付き合ったら何しよう、、、///」


向井「いひひっ♪まずはどんどんアピールしよっ!」


〇〇「、、、ん?」




なんか視線を感じた気がする、しかも1つや2つじゃない。



んー、、、、、まあ気のせいか。



にしても早く終わんないかなぁ。




「みなさんも〇〇くんのように誰かのために、、、」




うちの校長は一般的なイメージ通りに話の長い素晴らしい校長です。


はぁ、、、 はやく帰りたい、、、、、、




「「「「絶対に先輩と付き合ってやるっ!」」」」

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