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信じられるのはあなた、、、、だけ?

櫻坂高校 PM10:24




瞳月「はぁ、、、怖い、、、、、」




深夜の学校ほど怖いと感じる状況は他にあるんだろうか。



先ほどまで窓から差し込んでいた月明かりも今は雲に隠れて完全な闇が通い慣れた校舎を包んでいる。




瞳月「もぉ、、、ほんまにキレそう、、、、、」

そんな廊下を独り言をぶつぶつ言いながら歩く女子高生が1人、山下瞳月だ。



どうやらダンス部の夜練が終わって帰宅する頃、提出予定ギリギリの課題を教室に置き忘れたことを思い出したらしい。



同じ部活のメンバーを誘ったものの『帰りたい』『私もその課題やってない!やばい!』などという理由で断られ、、、、、




瞳月「1人は無理っていったやん、、、、、」




諦めることも考えたが、その課題の担当教師は『鬼武者』というあだ名が付いてることで有名。



怒ると机や黒板をバンバン叩くという教師としては最低ランクのため、なんか強そうな単語を並べたあだ名となりました。



ということで、1人で夜の校舎探求という無謀すぎる行動に出たわけです。




瞳月「うぅ、、、、、」




風が窓を叩きつける音、水道の蛇口から水滴がこぼれ落ちる音、瞳月自身の足音、、、、、



それらがすでに半泣きな瞳月の精神をどんどんと削っていく。



結局、普段は歩いて数分で着く教室へカタツムリより遅いスピードのまま約20分かけて到着。




瞳月「誰もおらんよなぁ、、、、、?」

ドアに併設されている小さな窓から教室の中を覗く。



そこにはいつものように教室でバカなことをやる男子も、流行りのコスメで騒ぐ女子も、瞳月とラーメンの話題でよく盛り上がる的野の姿はない。




瞳月「えっと、、、夜の教室では声を出したらあかん、、、、、夜の教室では、、、、、」




彼女は今、今日の昼休みにクラスメイトの村山美羽と的野美青から聞いた話を思い出していた。



それはこの学校が代々受け継いでる七不思議だかなんだか、、、



詳しいことは覚えてないが、とにかく明るい話ではないことは分かった。



的野「この学校って七不思議あるんだって、知ってた?」


村山「へぇ、、、そんなのあったんだ?」

瞳月「、、、、、、、、、」



親友の3人で机を囲むように置き、それぞれのお弁当を食べながら他愛のないガールズトーク。



その中で急に美青が急に柄にもなくホラーチックな話を始めてきた。




的野「なんか夜の10時過ぎとかに教室で音を立てると死ぬんだって」



村山「雑過ぎ、、、笑」



的野「でも1個上の先輩とかも夜の学校で行方不明になったとか、そんな噂だってあるよ?」



瞳月「そっ、、、そんなん聞いたことないで?」



村山「しーさん、声震えてるよ」



的野「あっはっはっ!瞳月ってほんとに怖がりだよね!笑」




精一杯の強がりも仲良しな2人にはバレバレみたいで、そのまま笑いながらお弁当を食べ進める。



まあ夜の10時に教室に行くことなんてないから!



、、、、、、、、、なんて思ってたのに。


教室の扉をゆっくりと開け、中の様子を慎重に確認する。


そして深呼吸を何度かしてまたゆっくりと足を進めていく。



こんな時に限って私の机は入り口から遠い窓側の席、、、、、ほんまにキレそう。




瞳月(一応は静かにしとくか、、、)




美青の話を完全に信じたわけやないけど、とりあえずは声も足音も出さずに歩いてみる。



さっきみたいにゆっくりと歩いてるおかげで足音なんて全く聞こえないです。




瞳月(えっと、、、あっ!あったあった!)




ようやく見つけたお目当ての課題ノート、RPGゲームでラスボスを倒したような達成感!



そう安心して気が緩んだ時、、、、、




「、、、瞳月?」



瞳月「きゃっ!!」


後ろから私の名前を呼ぶ誰かの声がした。



気が緩んでいたこともあって思いっきり叫び声をあげ、ノートも落とし、机や椅子にもぶつかり、、、、、



お化けもびっくりするくらいの音を立ててしまいました。




瞳月「うぅっ、、、ホンマに無理やってぇ、、、、、」




腰がすっかりと抜けてしまい、その場にしゃがみ込んでしまう。



目からは涙が床に向かって溢れ落ち、茶色い床を小さく濡らしていく。


あぁ、、、私はここで死ぬんだな、、、




〇〇「ちょっ!大丈夫?!」



瞳月「、、、、、、〇〇?」



〇〇「こんな時間に何やってんの?」




後ろからもう一度、私にかけられた声に振り向けばクラスメイトの村井〇〇がそこにいた。



サッカー部のジャージを身につけ、首にはスポーツタオルをぶら下げながら私の肩に手を添える。



あと、しーの好きな人。




〇〇「声かけただけでそんな驚くなよ、、、笑」



瞳月「うぅっ、、、うっさいわぁ、、、、、」グスッ



〇〇「えっ、泣いてる?」



瞳月「ほんまに怖かってん、、、あほ、、、、、」

制服の袖で溢れる涙を拭って〇〇に向き合う。


そして軽くグーパンチもお見舞いしてみる。




〇〇「痛いて、、、」



瞳月「ビビらせた罰や、お詫びにしーをちゃんと送り届けな許さへん!」



〇〇「どこに?」



瞳月「そら家までやろ!ばか!あほっ!」



〇〇「身長だけじゃなくて語彙力も小学生かよ、、、」



瞳月「あーっ!しーの悪口も言ったからラーメン奢りの罰もな!」




気づけば七不思議のことなんて頭から離れ、〇〇と話していることを楽しんでしまっている。



これなら夜の学校も悪くないかな、、、、、




〇〇「まあいいや、それなら早く行こ?」



瞳月「うんっ!」ギュッ



〇〇「、、、、、、なんでくっつく」



瞳月「、、、、、、腰抜けて1人じゃ歩けへんだけ」



〇〇「汗で冷たくなってるからやめい」



瞳月「ええから、、、、、、でも冷た過ぎひん?」



〇〇「着替え忘れた」



瞳月「ふふっ、アホやなぁ〜」




どさくさに紛れて〇〇の冷たくなった腕をギュッと掴み、2人で教室を出る。



〇〇とラーメンデート(強制)の約束も取り付けたし、なんやかんやで良い日になったかもなぁ、、、///



部活の話とか、帰ったら何をするかとか、いろんな話をしながらあっという間に昇降口へ。



なんやったら行きも〇〇がいれば良かったのに、、、




〇〇「ついたついた」



瞳月「ちょっと!しーのこと置いて行かんといて、、、!」

靴箱の前で上履きからローファーへ履き替える。



〇〇もいつの間にか靴を履き替えてたらしく、もう昇降口から出ていく所だった。



もぉ!相変わらずマイペースなんだから、、、!




瞳月「よいしょっ、、、待ってや!」




踵をしっかりと靴に滑り込ませ、小走りで〇〇の元へ向かう。


〇〇も私の方を向いて待ってくれているようだ。




瞳月「はぁ、、、ちゃんとしーのことも見て動いて!」



〇〇「、、、、、、瞳月は俺のこと好き?」



瞳月「そやけど!そんなことよりしーを、、、、、、え?」



〇〇「だよね、知ってた」




、、、、、、、、、はぁっ?!



なんで急にそんなアホなこと聞いてくるんっ、、、!!



しかも『知ってた』ってどういうことなん?!




〇〇「俺も瞳月のことが好きだよ」



瞳月「はっ、、、はぁっ?!」



〇〇「今なら誰もいないし、何をしても良いんじゃない?」



瞳月「えっ、、、えっ、、、何って、、、、」



〇〇「キスしよ」




ゆっくりと私の方を近づいてくる〇〇。



そんな、、、いくらマイペースだからって、、、、、///



そんな戸惑いとは裏腹に私の方からも〇〇に近づき、俯きがちに彼の胸へ。




〇〇「やっとか、、、」




子猫を可愛がるかのように優しく頭を撫でてくれる〇〇。



『やっと』ってことは、そんな前からしーのこと好きやったんかな、、、///




私は目を閉じ、少しだけ唇を尖らせた。


〇〇の両手が私の頭を包み込むかのように、そしてだんだんと2人の距離が近づくのがわかる。



そして、、、、、彼の唇の感触が、、、、、、、、、










〇〇「あれ?瞳月じゃん!こんな時間に何やってんの?」



瞳月「、、、、、、、、、え?」




私は少し遠くから聞こえた声に、咄嗟に目を開ける。



目の前には先ほどまで一緒にいた〇〇はマジックのように消えてしまっていた。



その代わりに、私より数十メートル離れたところから〇〇が走ってくる、、、、、、え?




〇〇「こんなところに1人で、しかもぼーっと突っ立ってたし、、、笑」



瞳月「なっ、、、だっていま、、、、、、しーと2人で、、、」



〇〇「僕?今は部活の片付けがやっと終わったとこだよ?」



瞳月「だっ、、、、、、だって!いま学校から出てきたところやんっ!!」




全く状況が理解できない。



これまで一緒にいたのは〇〇で、今やってきたのも確かに〇〇だ。




〇〇「だから部活の片付けしてたばっかだって。熱でもあんじゃないの?」




彼の大きな、そして暖かい手のひらが私の額にぴったりと当たる。




〇〇「そういや課題のノート取りに来たんだっけ、取りに行くの付き合ってくんね?」



瞳月「いっ、、、いやっ!!」



〇〇「え?なら1人で行くけど、、、」



瞳月「1人で帰るのももっと嫌やって!!」



〇〇「はぁ?マジでどうしたの?」



瞳月「とにかく、、、今は1人にせんといて、、、、、、」ギュッ


相変わらずこの状況は1mmも理解できない。



だけど目の前にいるこの〇〇だけは、彼の暖かさだけは信頼できる気がした。



恐怖に支配されそうな体をなんとか動かして彼の胸に飛び込む。




〇〇「、、、、、、わかったわかった。今回は鬼武者に怒られてやりますかね〜」



瞳月「ほんまにごめん、、、」



〇〇「いーよいーよ、とりあえず家まで送るわ。」



私の背中を何度か擦り、安心させるように抱きしめてくれた〇〇。


そして私は〇〇にぴったりくっつきながら、なんとか家まで帰ることができた




翌日。



的野「ねぇねぇ!昨日の七不思議なんだけどさ!」


村山「まだ言ってんの?」



瞳月「きっ、、、聞きたいっ!」




今日もまたいつもの三人で固まりながらお弁当を食べていた。


すると美青が嬉しそうに七不思議の続きを話してくる。



私は昨日のことがなんだったのか知りたい一心で、食い気味に答えた。




的野「おっ!瞳月いいね〜!」


村山「あれ?なんか珍しいね」


普段からホラー系の話に乗ることはまずないのだが、今日だけは別だ。



昨日の出来事のせいで一睡もできず、微睡む脳を一生懸命に動かして美青の話を聞く。




的野「なんかね、夜の教室に行くと自分の好きな人が出てくるんだって」



村山「なにそれ?本物?」



的野「ううん、偽物。それで偽物がわざと音を出させようと仕向けるんだって!」



村山「なんで」



的野「教室で音を出すのがあの世に引っ張り込む条件だとか、まあ準備みたいなものだって」



瞳月「そっ、、、そしたらどうやって、、、、、、」



的野「それはね〜!チューするんだって!」



村山「急にラブコメみたいな、、、笑」



的野「まあまあ!それで偽物とチューしたらそのまま、、、ってことらしいよ!先輩が言ってた!」



瞳月「、、、、、、、、、」




さっきまで意識のはっきりとしない頭がようやく覚醒した。



そして昨日の出来事が美青の話通りすぎて戦慄する。



確かに思い返してみれば不自然なところがたくさんあった、、、



〇〇は自分のことを『俺』とは言わない。

異常なくらいに冷えた体温。

そして『やっとか』という言葉は『やっと好きと言えた』じゃなくて『やっと引きずり込める』という意味だったんだ。




瞳月「そういうこと、、、、、」




〇〇「わっっ!!」




瞳月「うわっっ!!」




私が考え事をしていると後ろから近づいてきた〇〇に気づかなかった。


しかもこんな時に限って脅かしてくるなんて、、、!!




的野「おっ、〇〇くんじゃん」


村山「鬼武者にガチギレされてた人だ。笑」


〇〇「うっせ。笑」




私は驚いて乱れた制服を直し、〇〇の方をギロリと睨む。




〇〇「そんな怒んなって笑」



瞳月「ほんまに怖かってんけど!!」

〇〇「まあ落ち着けって〜」




ほんとになんでこんな奴のこと好きになったんや、、、、、



いや、むしろこんなんだからかな?




〇〇「っていうかさ、いつ行く?ラーメン奢るの」



瞳月「いつでもええよ?〇〇の財布に余裕がある時なら」



〇〇「お前、、、、、俺の財布になんの恨みが、、、」



瞳月「あははっ、、、、、は、、、」












あれ?







本物の〇〇とラーメン奢りの約束ってしたっけ?







そもそもこの〇〇、自分のこと"俺"って言った?










「次はないから」







瞳月「っっ、、、!!」





私が視線を〇〇に戻した時、もう〇〇(?)はそこにいなかった。





的野「え?〇〇くんは?」


村山「、、、、、、消えたんだけど」




ガラララッ




〇〇「購買のパン売り切れてた、、、」



村山、的野「「えっ?」」


〇〇「え?」



村山「いま、、、教室にいたよね?」


〇〇「いや購買の帰りだけど」


的野「これってまさか、、、、、」



瞳月「ううっ、、、もういややぁっ、、、、、」グスッ



〇〇「はっ?どうした瞳月?」ナデナデ




私は泣きながら、〇〇の暖かい手で慰めてもらいました。


もう2度と、夜の学校には行かない。


私は泣きながらそう決心しました。

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