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愛のカタチは薬指に。


山下「結婚指輪ってすごいよね」


〇〇「なにが」



山下「だって日本の人もアメリカとかイギリスの人も同じ意味の指輪を、しかも同じ指に着けるんだよ?」



〇〇「まあ、、、そうかもな」




もうすぐ日付も変わってしまうという頃、私と〇〇はカウンター席に並びながら好みのカクテルを楽しんでいた。


お店の中には強いアルコールの匂いが充満しており、呼吸をするだけでも顔が熱くなってきちゃいそう。




山下「まあ私にはそんなの一個もないけどね、、、ふふっ」




婚約も結婚も、そういうものが嵌まる予定が一個もない指を見て自虐的に笑ってみる。


それを見るあなたの顔は嫌いな食べ物、、、、、ポテトグラタンを目の前にした時みたいな顔をしていた。


その顔、私が大好きなやつだ。




山下「あ〜、、、もう飲み終わっちゃった、、、、、」



あなたの気まずそうな顔を肴にして飲むお酒は美味しい、そう思うのは私が性悪だからかな。


でも、あなたのせいでもあるから。




山下「んー、キスミークイックでも貰おっかな?」



〇〇「そんなの普段は飲まないじゃん」



山下「いいの、誰かさんに向けたメッセージだから〜」




空いたグラス越しにあなたを見る。


、、、、、、何でそんなに悲しそうな顔をしているの?


せっかくの夜だっていうのに、そんなだからどうしようもない勝手人間に育っちゃうんだよ?




山下「入籍はもうしたの?」



〇〇「あぁ、つい先週にね」



山下「じゃあもう既婚者かぁ、、、」



〇〇「まあね」



山下「っていうことは久保史緒里じゃなくて齋藤史緒里になったの?」



〇〇「そりゃあね」




彼は数年前から付き合っていた久保史緒里と入籍を済ませたんだって。


史緒里は私の幼馴染でもあるから自分のことみたいに嬉しいんだよ。



それは本心、たぶん。




山下「じゃあ、、、会うのもこれが最後かな、、、、、」



〇〇「えっ、あぁ、、、そうだな」




少し驚いたように、だけどすぐに自分の感情を隠して答えをよこす〇〇。


相変わらず普段はクールなくせに隠し事は上手じゃないんだから。




山下「なにその歯切れ悪い感じ。笑」



〇〇「そんなことないわ」



山下「あっ、私の身体が忘れられないとか〜?」



〇〇「品性のかけらもないな」



山下「オウム返しで」



私はスッと手を伸ばしてからの左薬指に嵌められたリングを撫でてみる。


愛がこもってるとは到底思えない。


酷く冷たい感覚が指先から伝わってくる。





山下「史緒里のこと、幸せにしてあげてね」



〇〇「、、、うん」




『こちら、キスミークイックでございます』





静かに置かれたグラスを見つめて少しの沈黙。


炭酸のシュワシュワという小さい破裂音が私たちの沈黙の間を埋めてくれるようだった。




ありがとう、やっぱりちょっと気まずいんだ。




山下「はぁ、、、史緒里もこんなクズと結婚しちゃうなんて」



〇〇「うっせ」



山下「二股野郎なんて全女子の敵だからね?」



〇〇「加担してたやつに言われたくないわ」




そう、私と〇〇の関係を一言で表すなら"二股"と言う単語がぴったり当てはまる。


〇〇が史緒里と付き合う前から関係はあったから、、、私は不倫された側になるのかな?


でも、私に文句を言う権利も弁護士を雇って訴訟を起こす権利なんかは全くない。





私が『二股でもいいから一緒にいたい』と言ったから。





〇〇「、、、、、、まあ2人で会うのは今日で最後にしよ」



山下「3人はセーフなの?」



〇〇「史緒里だって美月に会いたいだろうし、まあセーフ」




私はようやくカクテルの入ったグラスに手を伸ばして、天井のライトに透かしてみたりする。


ワインとかなら見たことあるけどカクテルでやってる人は非常識なのかな、よく分かんない。


気まずさを紛らわすためにそういう行動を無意識にやってしまう。




山下「ほら、早く帰ってあげたら?」



〇〇「、、、、、もうこんな時間か」




いつの間にか時計の針は2本とも『12』の文字を超えていた。


新婚なのに日を跨ぐまで奥さんを1人にするなんて最低だな。




〇〇「、、、、、、悪い」



山下「ほんとだね」


私の方に2人分のお会計を少し多めに置いてくれた。


そして椅子に掛けていたくたびれたジャケットを荒々しく掴んで店の外へ出て行った。




山下「はぁ、、、、、、ほんとに幻の恋だったな」




グラスの中で次々に消えていく小さい泡の粒。


まるで私の恋が終わっていくのを分かりやすく見せつけているみたいだ。




山下「いただきます」




本当に、あいつの事は好きだったんだけど。


長い幻を見ていたかのように急に現実の波が襲ってくる。


そして小さく『バイバイ』とだけ呟き、一気にグラスの中身を飲み干した。



少し、、、いやかなりしょっぱい涙の味がした。







AM0:47




〇〇「ただいま」




少し酔いを覚ますように辺りを散歩したのち、静かに家の鍵を開けた。


史緒里もとっくに寝ているだろうし、、、




久保「んっ、、、おかえりっ!」



〇〇「え?今まで起きてたの?」



久保「えへへ、、、〇〇くんの顔見たくて、、、、、///」


引越しのタイミングで新調したパジャマの上にグレーのパーカーを羽織った史緒里がリビングの方からやってきた。


史緒里は俺のことを好きでいてくれるし、こういう風に可愛らしい仕草を見せつけたりする最高の女性だ。




〇〇「寝ててもよかったのに、、、」



史緒里「いーの!ご飯あるけどどうする?」



〇〇「じゃあ、、、もらうわ」



史緒里「うんっ!温めておくから着替えておいで!」




何時間か前にした『仕事で遅くなる』という一文だけ。


それだけなのに何故こんなに、、、、、




史緒里「どうぞ!」



〇〇「今日はなに?」



史緒里「ポテトグラタンだよ!」



〇〇「、、、、、、そっか」




目の前に出された俺の大嫌いな料理。


そういえば史緒里には俺がグラタンとかじゃがいもが嫌いなこと言ってなかったな。


だって2つとも史緒里の大好物だから。




〇〇「それじゃあいただきます」



史緒里「はい!どうぞ〜!」




今の俺はうまく笑えてるんだろうか。


これからの関係を続けていくための仮面を着けているだろうか。


もしこれが美月だったら、、、、、、なんて。




〇〇(、、、、、、じゃあな)




心の中でもう一度、美月に別れを告げてスプーンを動かした。


もう戻ることができないあの日々に蓋をしながら。




〇〇「美味しいよ」



史緒里「ほんと!よかったぁ、、、///」



〇〇「うん、本当に、、、」




もう引き返せない現在地を潰したくなる気持ちを抑えながら。


俺は妻に嘘を吐いた。


左手薬指に嵌められた彼女からの指輪は今日も綺麗な瞳で僕を見つめていた。

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