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心にひきこもる

浮世離れなんて言葉では、もはや足りない。
最近の私は、浮世に背を向け、逃げ、隠れ、戸に鍵をかけ、家の一番奥にある自室に閉じこもっている。

11月中旬に会社を辞めてからの約2か月間、ほぼ誰とも会わず、文字通り朝起きてから夜眠るまで勉強しかしていない。

数少ない友人からの誘いも、試験が終わってからね、と断った。
出来るだけ外出しなくて済むように、毎日の食事内容を揃えた。
SNSは、見たくないものばかり目につくから、やめた。

あまりに陰鬱な文面とは裏腹に、今わたしは幸せでたまらない。
嫌なことからとことん目を背けて、一人で勉強と読書と散歩ばかりしている自分に一つ擬音をつけるとすれば、間違いなく「ほくほく」だ。

人とほとんど会話しなくなった代わりに、目の前のものにじっと向き合うようになった。

お気に入りの本に「こわめに炊いた米をよく噛むとうまい」、という一文を見つけ、いつもより水を減らしたご飯を噛みしめ、確かにそうだ、とうなずいてみたり。

お茶碗の中でお米ひとつひとつの粒がぴかぴかふんぞり返っているのが、みそ汁椀の底からもわんと上がってくる味噌を朝日が突き刺すように照らすのが、とても綺麗で見惚れたり。

みかんの皮をむいて日の光にかざし、小さな房のかげに長細い粒が何層にも深く透けるのを見て、初めて目にする妖艶さと、普段通りの無邪気な甘い匂いのアンバランスさに酔いしれたり。

色々考えごとをしながら、何の変哲もないご飯をちんたら食べている。

そのほかの時間は、小学生の頃の自分をお手本に過ごしている。

友達作りが下手な自分にとって、唯一の暇つぶしの手段は読書だった。
ご飯の時間まで、お風呂が沸くまで、夜寝る時間まで、他にやることもなく暇だったから本ばかり読んでいた。

あとの時間は、和室から見えるだだっ広い空き地を撫でる風や雲を眺めて、ぼんやりしていた。

あの頃はよかった、と思うことが増えた。
スマホもパソコンも家になくて、あり余る時間を贅沢に読書に注ぎ込んでいたあの日々は、美しかった。

そう思ったから、今はゆっくりあの時に戻っている。

勉強を目いっぱいできることだけでも嬉しくてたまらないのに、私には、大好きな本、音楽、ご飯がある、私だけの綺麗な場所がある。

ここに閉じこもるのが、今の私にとっての幸せ。


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