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『肉体の門』(原作:田村泰次郎 1964年5月31日公開)個人の感想です


『肉体の門』

毎度、毎度であるが、私は、文学音痴で、読んでから観るのか、観てから読むのか、で言うと、観てから調べるのタイプなので、今回も内容を知らずに鑑賞した。

観終わって最初に浮かんが疑問は、なぜ『肉体の門』なのか、である。調べてみると、『門』の意味には、家族、一門、一族と書いてあるではないか、なるほど、そういうことか、〇〇一門という意味の『門』なのか、それなら、このタイトルにも合点がいく。また、屋敷という意味もあり、こちらの意味も含めたタイトルならなおさらだ。いつも思うが小説家は言葉の選択が巧みだ。

さて、ストーリーだけれども、端的に言えば、パンパンガール(娼婦)4人と復員兵との共同生活の物語だ。パンパンが色付きのスリップ一枚、復員兵は、上半身裸、これが『肉体の』であり、仲間と共同生活のアジトで『門』と称したのだろう。娼婦の構成としては、リーダ「小政のせん」、貧しさから娼婦の世界に飛び込んだ「ボルネオ・マヤ」、戦争未亡人の「マチ子」、あとは、バイブプレイヤーの2人。復員兵は、盗んだ進駐軍の物資を横流しして、進駐軍に足をナイフで刺され、パンパンガールのアジトに転がり込んできた、伊吹という男。伊吹は、強く、荒い男であったが、女どもは自然と伊吹に服従されていき、寂しさから伊吹の肉体を奪い合おうとする。

そして、2つの事件が起こる。
最初に事件を起こしたのは、マチ子だ。
『金をもらわずに男と寝ない』という4人の掟を破ったのだ。マチ子は、未亡人から以前のような普通の主婦に戻りたいと思っており、街の商人と恋仲になり、金をもらわずに寝てしまう。そしてそれが、他の仲間にバレてしまう。
この掟破りに対する仕打ちは、激しいリンチである。素っ裸にされ、腕を縛られ、3人が棒で裸体を殴りまくるのだ。そして、最後に陰毛をそぎ落とす。このリンチは、小説を映像化した際によりリアルに感じれるように力を入れたシーンに違いない。『金をもらわずに男と寝ない』は、彼女らの正義だ、その正義を破るとどうなるのか、観ている人達を巻き込んで見せしめとして訴えているこのシーン、この映画の最大の見せ場なのだろうと思った。

次の事件は、ボルネオ・マヤが起こす。
伊吹は、行商の荷運びようの牛を盗んでアジトに連れ込み、そこで牛を解体し、パンパンにその肉を街で売らせ、その金で焼酎を手に入れ、パンパン達に肉と焼酎をふるまった。みんな飲み食いを派手にやり、酔いつぶれてしまう。皆が酔いつぶれてるそのすきにボルネオ・マヤが酔いつぶれた伊吹を皆のいないところに引きずって行き、伊吹を起こし、伊吹をものにしてしまう。そして、そのアジトから、二人して遠くに行く約束を伊吹と行う。

が、しかし、そのことは直ぐにばれて、マチ子同様にリンチが加えられる。伊吹は、やくざにペニシリンを売る約束をしていて、やくざとの待ち合わせの場所に行くが、やくざが伊吹との待ち合わせを進駐軍にチクって、進駐軍と一緒に伊吹の元に行き、伊吹は進駐軍に撃たれ死亡する。その場所は、ボルネオ・マヤと遠くに行くための待ち合わせ場所でもあった。ボルネオ・マヤがその場所にやってきて、伊吹が川で死んでいることに気づき、そこで、この映画は、終わる。

実は、この映画を観て、何を思えばいいのか、良く分からず、しばらく考えた。戦後直後に貧しい女性たちがパンパンとして生きて行かざるを得なかった敗戦国のむなしさを感じることなのか、それとも、パンパンが生きる逞しさを感じるべきなのか。

最後に私なりに思ったことは、この映画のメッセージは、みんな荒廃した世の中から抜け出したいと思っているけど、『抜け駆けは許さない』、ということかと。

作者は、1911年生まれで、1940年(昭和15年)応召、敗戦まで中国大陸を転戦し、1946年復員、そして、この小説は、1947年に書かれている。まさに、つらいけど、『抜け駆けは許されない時』を多く過ごされているのではと思った。非国民は許されない、自分ひとり助かろうなんて思ってはいけない、死ぬのであれば、集団自決、そんな話や映像は今でも見聞きする。そして、戦後、みんなみじめな時代から抜け出したい、だけど、自分だけいい思いするのは許されない、許してくれない、許したくない、そんな心の葛藤を人間の本能のひとつである『性』の世界に投影し表現されたのではないかと思った。

『抜け駆け』というのは、仲間がいて、自分だけがいい思いをする、明らかな抜け駆けの場合もあるが、社会的に常識に反することをして自分だけいい思いをしやがっていうことで、『抜け駆け』扱いを受けて攻撃される場合もある。前者の場合は、禊で済まされるかもしれないが、後者の場合は、いろいろな形で処罰を受けるので、皆さんも後者のようなことがことが起こらないよう気を付けて生きて行きましょう。

では、また。

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