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恋愛映画は始まらない バックストーリー

  • 前書き

メグは空を見ると申します。
ボカデュオ2022参加曲「恋愛映画は始まらない」の世界観が始まった
小説です。この小説の内容をもとに、
team Americano制作で絵、動画、曲は作られました。
主人公に何が起こったのか、どこからこの作品が生まれたのか、
もしお暇ならばご覧ください。


  • 思い出の彼方_恋愛映画は始まらない

主な登場人物
・ヒカリ  『みんなが気に入ってる私は、本当の私じゃない。』
    主人公の女の子。
    高校は中の上くらいの偏差値の進学校だった。
    大学は私立大学。大学では合唱サークル所属。
    周囲に自分を合わせるのが当たり前だと思っている。

・ユウタ     『かわいい子いれば付き合うっしょ』
    主人公の高校の時の元カレ。バスケ部のエース。

・リク  『困っている人を見ると、
      なんか助けてあげたいって思うじゃん』
ヒカリが気になっている男の子。大学は地元では有名な国立大学。大学交流合唱コンテストのためにヒカリの大学の合唱サークルと合同練習をしている。その際にヒカリと仲良くなった。誰にでも優しい。落ち着いた雰囲気。

・カナエ 『いろんな人と話すのって楽しい!!』 
      リクのことを気になっている別の女の子。
      ヒカリと同じ合唱サークルに所属。茶髪。
      天真爛漫な笑顔。目が大きい。

  • 第1章 高校時代

「ヒカリってさ、本当は俺のこと好きじゃないっしょ。」
 夕方。学校の帰り道。ユウタは突然ヒカリの方へ顔を向けて言い放った。
「どうして?ユウタがバスケ部終わるまで待ってたんだよ。こんな健気な彼女はなかなかいないよ。」
ヒカリは動揺を隠して答えた。
「だってさ、俺の顔見て話ししないじゃん。手つなぐのもキスするのもなんか怖がってない?俺ってこう見えて昔からモテるから、女の子の気持ちなんとなくならわかるんだよね。」
「・・・・・・。」
「前から思ってたけどさ、ヒカリって無理して笑顔作ってるじゃん。なんで彼氏の俺の前でも
無理矢理な笑顔してんの。」
「いや、そんなことないよ・・・・・・。」
図星だった。どうしてばれているの。ヒカリの顔から笑顔が消えた。
「俺たちさ、別れよう。それがお互いのためだよ。」
「・・・・・・わかった。ユウタ。・・・・・・ごめん。」
「・・・・・・謝るなよ。こっちだって辛くなる。」
そのまま、二人は黙って駅まで歩いた。長い長い帰り道だとヒカリは感じた。

 ヒカリは、クラスではそれなりに友達がいる方だった。周りに合わせるために、YouTube、テレビ、ファッション雑誌、なんでもチェックしていた。しかし、高校2年2学期になると、みんな彼氏の話をしだすようになっていた。勉強しろよ、と内心では思いつつ、自分も彼氏がいないと話に着いていけない気がしていた。

そんな時に、ユウタから告白された。バスケ部のエースで顔も悪くない。いろんな女の子に手を
付けているのはわかっていたが、逆に言うとそんな人気なユウタが私に告白してくれたと思うと、ヒカリはとりあえず付き合ってみるかと告白を受け入れた。

 しかし、ヒカリは内心は微妙に感じていた。いつもユウタ自身の話ばかりしていて、それがそんなに面白くない。まあ話を聞いて笑顔を作るだけのお仕事ならそんなに悪くないかと思って
適当に相槌を打っていた。結局、この人も、本当の私を知らずに外面の私を好きなんだろうなと、冷めた視点で考えていた。

 ユウタからの別れ話では、別れたことよりも自分の本質を見透かされていたことに動揺
していた。ヒカリは、自分の笑顔を完璧だと思っていた。理想の彼女を演じていたつもりだった。

 別れ話の後しばらくは動揺を隠しきれていなかった。しかし、ヒカリは、別れたことがショックで、と友達にごまかして話した。
髪の毛を切ってショートヘアにした。失恋を断ち切るため、ユウタから本質を見透かされていたのと同じことが起きないようにするため。
それ以降は平凡な日常が続いた。だが、心の中で無理して笑顔を作る自分が引っかかりつづけた。受験は第1志望に行けなかった。

どうして、こんな私になっちゃったんだろう。ヒカリは、幼少時代から今までを回想した。

  • 第2章 回想 幼少時代~中学時代

「やっぱりヒカリは賢いなあ、お父さんに似たんだろうなあ。」
「いや、お母さんに似たのよ。そうよね、ヒカリ?」
 ヒカリの父親も母親も仕事が忙しく帰りが遅かった。
小学校の頃は鍵っ子で、母親が朝準備した料理を夜電子レンジで温めて一人で食べる。
そして両親の帰りを待つ。ヒカリは寂しかった。
両親の仕事が忙しすぎて深夜まで帰ってこないことがあった。小学生のヒカリは泣きつかれて
そのまま寝た。朝、両親が家にいることにほっとした。
テストで100点を取ると両親は喜んだ。頑張って勉強するんだ。必死に勉強した。

喜んでほしい。周りの人に。両親に。

そのためには頑張らなきゃ。頑張らなきゃ。頑張らなきゃ。

点数がもし取れなかったら? 見捨てられる。かわいい娘でいなきゃだめだ。
言うことは何でも聞くんだ。

先生には気に入られるようにしよう。クラスメイトとは仲良くしなきゃ。

一人ぼっちになりたくない。誰も私を見捨てないで。

ヒカリは、小学校、中学校で成績はトップクラスだった。内申点も高く、地元ではそれなりに
有名な公立高校に入れた。ヒカリは、自分の道は正しいのだと思い込んでいた。

舞台は大学に移る。

  • 第3章 大学時代 始まりの始まり

 最初は第1志望の国立大学に入れず落胆していたが、ヒカリはそれなりに大学生活を楽しんでいた。
 高校時代は部活に入っていなかったが、大学では合唱サークルに入ることにした。
新歓であっちこっちに勧誘された中で、部員たちの仲が良さそうだったし、もともと音楽を聴くのが好きだったからだ。周りに合わせるのが得意なヒカリでも、そもそも集団自体の仲が悪いところにいるのはしんどい。

合唱サークルのメンバーを中心に交友関係は広がっていった。大学生になって髪を染める人は多かったがヒカリは黒髪のままだった。髪型もショートのままだった。はしゃいでいる友達
に合わせること自体は出来るが、心のどこかで冷めた目線で周りを見つめていた。
おしゃれをすること自体は好きだったが、あまり目立たないような服装を心がけていた。

ヒカリの人生に激動が起こるきっかけになったのは大学2年生の夏休みだった。
「サークルのみなさん聞いてください!」
合唱サークル部長がミーティングで意気揚々と声を出した。
「今年の秋に近隣の大学の交流合唱会が開かれることになりました。早い話、他の大学の
人たちと一緒に歌います。そのため、今年の夏休みは他大学の人たちと練習します。
あのM大の人たちとももちろんやります!合唱なら俺たちのサークルも負けないってことを見せましょう!」
M大はヒカリの第1志望の大学だった。すこし複雑な気持ちはあるが、どんな人達がいるのだろうという興味の方が勝った。

  • 第4章 大学時代 幸せの始まり

 合同練習はヒカリの大学で行われた。いつもはだだっ広かった練習用の教室に、たくさんの学生がひしめくようになっていた。その中で、ヒカリの目を引いたのはM大のリクという男の子
だった。M大の人はどこか勉強に集中していた名残がある固い人が多かったが、リクは明るく
気さくで誰とでも話すタイプだった。ファッションも洗練されていて、おしゃれだけどどこか知的な
感じをうかがわせる。少し細身で、黒髪だけど自然にくしゃっとした短めの髪型は、ヒカリの
大学にいないタイプだった。そもそも私の大学の男の子ってちゃらくてはっちゃけすぎてるんだよな、とヒカリは思考した。
「ヒカリさん、おはよ。今日も元気そうだね。」
「おっはー。私は笑顔と元気と愛嬌が取り柄だよ!」
リクはヒカリを見るといつも挨拶してくれる。ヒカリは声をかけられると少しテンションが上がってしまう。
とはいえ、リクがヒカリだけを特別視してるわけじゃないのもわかってる。リクはヒカリたちの
大学の子達に積極的に話しかけてくれる。
「カナエちゃん、アロハー!」
「アロハー、ってなんで急にハワイなの!?リク君めっちゃ面白い!!私ねー、ちょっと髪型かえたんだー。」
「えー、だってめっちゃ暑いじゃん外。教室クーラーあってがち涼しいね。ってか髪型変わってるの?」
「今日はちょっと髪の毛跳ねてる!!」
「それ一緒じゃね!?」
「かわいさが3割ましだから!」
「はいはい、わかったから・・・。」
 ヒカリはカナエのことは何となく苦手だった。別にカナエが悪い子じゃないのはわかっている。
むしろ「いい子」だから苦手だった。自分が必死に見つけた他者の心への取り入り方を
「自然」にこなしている。そして「心から」笑っている。人間観察は得意なヒカリだからこそ、
自分とは違う天真爛漫さに少し嫉妬してしまっているのかなと、自身は考えている。
髪型もヒカリと同じようなショートヘアだった。カナエの方は茶髪だった。
自分に似ていて、自分と違う女の子、まともに相手したら敵わないな、と妬ましかった。

  • 第5章 大学時代 アメリカーノは始まりの合図

 それは、夏休みの終わりごろであった。夏休みも終わりに差し掛かり、景気づけにサークルのメンバーのうち何人かでお酒を飲みに行くことになった。その中にヒカリ、リク、カナエがいた。

その日、ヒカリは何となく気分が乗っていなかった。場は盛り上がっていたが、夏休みの練習やたくさんの人との交流で疲れてしまっていた。20歳の誕生日を超えてからよく飲んでいたカルーアミルクが、
今日は甘ったるかった。

リクが静かに声をかけてきた。
「ヒカリさん、なんか今日は疲れてる?無理してお酒飲まなくていいよ。」
「ありがとう。なんか夏休みあっという間だったなあって。バイトや練習やら楽しかったけど、ちょっと疲れた。でも、みんな盛り上がってるっぽいし私も盛り上げなくちゃ。元気は出してくよ!」
精一杯の笑顔を作ってヒカリは返答した。
それを聞いたリクは今度はさらに顔を近づけて耳打ちした。
「ヒカリさん、二人で抜けだそっか。ここより静かなところで飲もう。」
ヒカリは少し動揺した。ヒカリはリクの落ち着いた声、所作が好きだった。リク自身のことも、すこし意識していた。だけど、自分はふさわしくないだろうと明確なアプローチはしていなかった。
恋愛で自分の本質がばれてしまうことをまだどこかで恐れていた。
「・・・うん、いいよ。」
ヒカリは、気づいたらリクの提案を肯定していた。この場のノリに疲れていたのと、リクともっと2人で話したいという気持ちで。
リクはヒカリのサークル部長に声をかけた。その後リクとヒカリは合図しながらそっとその場から立ち去った。カナエだけがこっちに気づいて複雑な、少し切なそうな顔をしていた。いつも笑顔のカナエがそんな表情をしているのはなぜだろうか、とヒカリは一考したが、わからなかったのでリクのことだけ考えることにした。

リクが連れてきたのは半地下にあるおしゃれなバーだった。正直
こんな落ち着いた雰囲気の店に来るのは初めてだった。しかも気になっている男の子と2人きりで。

リクはバーテンダーに「アメリカーノ2つ」とオーダーした後、黙って
遠くを見つめていた。ヒカリにはリクが悲しみを湛えているように感じた。

じきにグラス2つがヒカリたちの前に置かれた。赤とオレンジと茶色が
混じりあった複雑な色合いをしていた。

「ヒカリさん、アメリカーノ。俺が好きなカクテル。とりあえず飲んでみて。」

言われるまま口に含める。少しほろ苦かった。でもそのほろ苦さが
今の自分の気持ちに合っているような気がした。

「リク君、飲みやすいね。このお酒。」
「気に入ってくれてよかった。」

2人は黙っていた。ヒカリは人といるときに沈黙が訪れたら積極的に話そうとする。しかし、リクの横顔は、そんなことは必要ないと
言っているようだった。

「ヒカリさんってさ、普段から少し無理してるよね。」
ヒカリは少しドキリとした。まさかリクにもばれているのか。本当の私が。
「そんなことないよ?」
「いや、隠さないでいい。俺も同じだから。」
「・・・どういうこと?」
思わずヒカリはリクに尋ねる。
「俺も、自分を演じてる気がするんだ。多分物心ついた時から。」
リクはヒカリの方を向いて話すが、ヒカリより向こうの虚空を
見つめているようだった。
「俺の父と母は公務員でさ、昔からよく勉強させられてた。」
リクはヒカリの目を見つめた。
「まあ『いい子』に育つようにしつけられたよ。俺もいい子になろうと頑張った。柄にもない生徒会役員にだってなったりさ。」
話は続く。
「高校の時も死ぬほど勉強した。塾にも通った。M大になんとか
入れた。辛いとかそんな気持ちはなかった。ただ親の期待に応えたかった。まだ大学2年だけど、公務員試験の対策もしてる。
俺はレールから外れるわけにはいかないんだ。合唱サークルは楽しい。歌っている間は俺と周りの人たちと過ごす今に集中できるから。」
「私も、おんなじだよ。」
ヒカリは、今までの自分の人生をリクに話した。
自分も、『いい子』と呼ばれるために頑張っていたこと。
周りに見捨てられるのが、怖かったこと。
周りに合わせて『仮面の笑顔』でいたこと。
ユウタのことはぼかしたけど、昔、自分の本質を見抜かれた気がして動揺した経験があること。
偽りの自分が見透かされて、本当の、か弱い自分がばれて他の人たちに避けられてしまうのではと恐れていること。
ヒカリはいつのまにか泣いていた。背中をとんとん優しくたたかれていたことに気づいたが、ほっとした気がしてそのままにしていた。
ヒカリは話し終わった後も泣き続けていた。リクは黙ってそれを見ていた。

ひとしきり泣き終わった後、リクが優しく語りかけた。
「俺が言えることじゃないけどさ、あんまり無理しなくてもいいと思うよ。素直なヒカリさんだって魅力的だよ。」
「でもリク君そんなに本当の私のこと知らないでしょ。」
「そんなことないよ。現にヒカリさんの仮面を見破ってるんだから。
人の本質はちゃんと見てるつもり。」
「ありがと・・・・・・。」
なんか感情がぐちゃぐちゃだった。自分が隠していたものをさらけ出して、なんだか訳がわからない。でも悪い気分じゃないとヒカリは
思った。
「少しリク君のおかげで吹っ切れた気がする。ありがと。」
「まあ、困っている人は助けたくなる性分なもんでね。」
「そっか。」

それから少し会話した後二人はバーを出た。
「私、地下鉄で帰るから。」
「地元の実家暮らしだもんね。駅まで送ってくよ。」
「ありがとう。」
ほんの少しだけ、このまま私を帰しちゃうんだ、とヒカリは思った。
でも、自分も感情を整理する時間が欲しかった。

アメリカーノの味を、思い出しながら眠りについた。

  • 第6章 大学時代 恋愛映画は始まらなかった

二人で飲んだ後から、ヒカリはリクのことがさらに気になりだしていた。ヒカリ自身は、まだ『仮面の笑顔』を捨てきれないでいた。
だが、リクの前では少しだけ本物の笑顔で話せるようになった気がする。
実際、二人で話す時間は増えた。いつか、思いをちゃんと伝えたい
と思った。

その事件は、大学の夏休みが終わって授業が始まってしばらくしたころに起きた。
サークルの合同練習後、ヒカリは一旦家に帰ろうとしたが、ポーチを
教室に忘れたので夜遅く取りに戻った。ポーチの中に定期券を閉まっていたので、地下鉄に乗ろうとしたときに忘れたことに気づいた。
 その日はサークルの練習後大学の図書館で翌日の講義の
レポートを書いていたので、気づくのが遅れてもう夜遅くになってしまっていた。
 サークルの練習室に明かりが点いていた。まだ駄弁ってる人たちがいるのかなとヒカリは思った。教室の扉の小窓から中を覗くと、
リクが座っていた。一瞬心がときめいたが、隣に女の子の座っている後姿が見えた。茶髪のショートヘア。カナエだった。扉の前でヒカリは立ち止まった。声はかすかにしか聞こえず、会話内容は聞こえない。
リクが、男らしい顔をしていた。優しい顔で微笑んでいた。ボディタッチが多かった。ヒカリが知らないリクがいた。
ヒカリはずっと立ち尽くしながら見ていた。逃げ出したい気持ちと、
真相を確かめたい気持ちの両方があった。
今の時間まで二人きりで話してたの・・・・・・。いつからそんなに二人は仲が良かったの・・・・・・。

そして、リクとカナエの顔が近づいた。二人はキスをした。
ヒカリは、その場から立ち去った。女子トイレの中にこもった。
なぜか涙が溢れてきた。別に私とリク君はただの友達だし、
私に嫉妬する権利はない。でも、どうして私じゃないんだろう。
カナエの『本物の笑顔』を思い出す。私はカナエに勝てるところ
はすぐに見抜かれる脆弱な演技力以外なかった。カナエには
勝てるわけがない。『仮面の笑顔』では勝てない。リクにさえ、
完全に仮面を捨て去ることは出来ていなかったのだから。

教育棟全体の照明が落ちて、女子トイレと教室の電気も落ちてから、ヒカリはポーチを取りに行った。あの後二人はどこへ行ったんだろう。そんなの知らない。

私が主演の、恋愛映画は始まらなかった。

第7章 大学時代 アメリカーノ<届かぬ思い>を口に含んで

次の日、リクはヒカリにいつも通りあいさつをした。ヒカリは、
自分がきちんと『仮面の笑顔』であいさつできたかわからなかった。
リクがカナエにあいさつしているのを見た。さもいつも通りかのように。

週末、ヒカリはターミナル駅近くのカフェで一人でコーヒーを飲んでいた。ためいきをついた。なんなんだろう。私って。
アメリカーノをスマホで検索した。カクテルにカクテル言葉というものがあるのを知った。アメリカーノのカクテル言葉は「届かぬ思い」であった。なんて私にふさわしい言葉なのだろう。
浮かれていたのは私だけだった。リク君にとってはたくさんいる有象無象の人間の内の一人でしかなかったんだ。

そのまま映画館で映画を見た。その映画は、好きな女の子と世界の危機どちらを救うかで主人公は好きな女の子を選ぶ映画だった。そもそも私は選択の対象ですらないよな。私は観客でいることしかできない。どうすればいいのだろう。1年前から人生をやり直したとしても、結末は変わらないな、と思った。

その後も、サークルの合同練習は続いた。リクとカナエが二人で
いるのを直視できなかった。学内で二人で歩いているのも何度か
目撃した。ヒカリは『仮面の笑顔』で周りと接した。私がいつも通りにしていれば世界は変わらない。リクにも精一杯の『仮面の笑顔』
を貫いた。私の思いが届かないように。そもそも、そんな意味すら
ないのかもしれないけど。

交流合唱会は何事もなく終わった。M大との合同練習は
回数を減らすが継続することが決まった。私はいつまで『いい子』
でいられるだろうか。
リクとカナエが付き合っているという噂を聞いた。これで良かったんだ。ヒカリはそう自分に言い聞かせた。

恋愛映画は始まらなかったのではない。終わっていたのだ。

fin

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