長い間仕舞いっぱなしにしていたLPレコードを復活させる
最近アナログレコードを聴くのにどっぷりはまっている。状態の良いレコードの音を聴いてしまうと、CDの音がどうにもこじんまりとしてつまらなく感じてしまう。
45年ほど前の学生時代はまさにレコード文化のピークで、欲しいレコードは山ほどあったが如何せんカネが無い。指を咥えて我慢するしかなかった。そしてその数年後からCDが登場する。まさにコンパクトで軽く場所も取らない。ましてあのレコードに付き物のノイズが無い。関心は一気にCDに向かっていった。
あれから長い年月が過ぎ、またアナログ・レコードに食指が動き始めた。しかしかつて指を咥えるしかなかった名盤はほとんどが中古品で、欲しい盤が必ず見つかるというわけでもない。入手にあったては中古レコードショップのオンライン通販やヤフオクなどを漁ることになるのだが、あったとしても値段は当時の新譜の数倍という高級品になっている。それでも程度の良いものを入手できれば良いがその保証はどこにもない。
自分がかつて購入したレコードも本棚の中にずっと眠ったままで、久しぶりに取り出して聴いてみると、あれだけ大事に扱ってきたはずなのに「チリチリ」「ザザッツ・ザザッツ」とノイズの嵐だ。これではノイズが気になって音楽どころの話ではない。そこで、これらのノイズを何とか軽減して「聴けるレコード」に復活させようというのが今回の試みだ。
【ノイズの元は何だ?】
外側から何らかの力や衝撃が加わってできた傷はどうしようもないが、「チリチリ」「ザザッツ・ザザッツ」というノイズの原因はどうやら音溝にこびりついた何らかの物質によるものらしい。それは単なる塵や埃ではく、実はかつて大切にメンテしようと吹きかけてきた「レコード・スプレー」に含まれている化学物質がビニール盤の音溝にこびりついたものだという説があった。私も昔は「レコード・スプレー」を吹きかけては、せっせとベルベット状のクリーナーで盤面を擦っていたものだ。それが結局ノイズの元となっているというのだから、泣いても泣き切れない。
【音溝にこびりついた物質は取り除けないのか? 1 】
色々調べてみると方法はありそうだ。それは「水洗い」
この「水洗い」にもレコード店独自のやり方や、レコード関連グッズのメーカー推奨のやり方などいろいろある。私も最初NAGAOKAの推奨方法にトライしてみた。レコード盤用ウェットクリーニンググッズ 6点セット(①レコードのラベルを保護するプロテクター ②表面が音溝に入り込む細かい繊維状になったウエットブラシ ③アルカリ電解水の洗浄液 ④クリーニングクロス ⑤レコード針クリーナー ⑥レコード・スタンド)を購入して説明書通りに洗浄作業をやってみた。しかしその結果はあまり芳しいものではなかった。ノイズは多少減ったような気がするが、「聴けるレコード」とはならなかった。
【音溝にこびりついた物質は取り除けないのか? 2 】
私がイメージしていたのは、風呂の掃除のように浴槽にこびりついた汚れを洗剤をつけたスポンジでゴシゴシ擦り落とすというものだった。NAGAOKAのウエット・クリーニング方法もウエットブラシで音溝を擦って汚れを掻き出すというイメージなのかと思う。そこで少し発想を変えてみた。それは「音溝にこびりついた物質を水に溶け出させよう」というもの。要は盤面にたっぷりの水を含ませて、その水の力で化学物質を浮き上がらせ溶かし出してもらおうというものだ。NAGAOKA レコード盤用ウェットクリーニンググッズ 6点セットは決して無駄にならなかった。この方法でもこれらグッズは大活躍する。
【私的音溝水洗いのやり方】
<用意するもの>
① レコードを載せる防水マット
(私は使っていないプレイヤーのターンテーブルのゴムマットを利用)
② 大判のガーゼ
③ ラベル・プロテクター(片面のみ)
④ クリーニングクロス(吸水拭き取り用)
⑤ ウエットブラシ(どうしても取れない汚れがあった場合のみ)
作業場所はキッチン。それは何と言っても水の取り回しが良いことと、盤から外に水が零れても問題ないため、水洗い作業には最適。
<レコードの手入れをする際の注意事項>
・レコード盤を乾いた状態で擦らないこと
(傷をつけるリスク 静電気を発生させない)
・レコード盤を磨くときは必ず音溝に沿って行うこと
(音溝に対して垂直方向に力を加えると、簡単に傷つく)
<作業工程1>
・ガーゼを適度な大きさに折り畳み、たっぷり水を含ませる。
・音溝に沿ってゴシゴシと磨く。
(力で掻き出すのではなく、音溝に満遍なく水を行き渡らせるイメージ)
盤面の状態は磨いている手にダイレクトに伝わってくる。音溝がクリーンな場合はどこにも引っ掛かりが無く、滑るようにガーゼを動かすことが出来る。一方音溝が汚れている個所は引っ掛かる感覚がある。そういう場合は、その個所を集中して少し力を込めて磨いてやる。(ただし、たっぷり水分を与えた状態で)
<作業工程2>
・ガーゼの水気を絞り盤面を撫でるようにして水を拭き取る。
・ラベル回りは乾いたクロスで注意して水気を拭き取る。
(水がラベルにつくと色落ちしてしまう)
(ラベル・プロテクターは結構重いので、慎重に両手で取り扱わないと滑って盤上に落っことしてしまうことがあるので要注意。経験談)
このとき水気を綺麗に拭き取りきらないである程度残しておくのがコツ。
<作業工程3>
・プレイヤーで再生させる
あくまでこれはクリーニング作業の工程なので実際に音は出さないほうが良いかもしれない。このとき作業時間を短縮したければ45回転で再生させても構わない。これが実は水洗い作業の肝心要の最終工程でもある。カートリッジの針が溝をなぞるということは、水分を含んで剝がれやすくなっている音溝に残った物質をレコード針が掻き取ってくれることにもなる。
・レコード針が掻き出したゴミ(ノイズ原因物質)を乾式クリーナーで拭き取ってやれば一通りの水洗い作業は完了だ。
もちろん針先にも汚れがこびりつくので、それはスタイラス・クリーナーで取り除く。このときカートリッジの後ろ側から前側に向かってクリーナーのブラシを動かすのが基本動作らしい。プレイヤーの回転方向を考えれば、針先の後ろ側が最初に音溝を擦ることになるので当然といえば当然か。
<作業工程4>
・確認作業としてプレイヤーで再生させてみる。
どうですか? あの「チリチリ」「ザザッツ・ザザッツ」といった気になるノイズが劇的に低減していませんか?
<作業工程5>
・レコード盤をしまう前にしっかり乾燥させる。
・クリーニング・クロスで撫でるように仕上げ拭き。
※このクロスは繊維が出ない東レのトレシー素材だと思う。 ちなみに
NAGAOKAの商品(クリーニング・クロス CLV30)は二枚入りです。
これは水気を残したまましまってしまうと、今度はカビ等の問題が起こるので、そのリスクを回避するためある程度の時間(30分程度)自然乾燥させるもの。
蛇足ながら、NAGAOKAのレコード盤用スタンドSTL01はなかなかの優れモノだ。この水洗い作業をするときは連続して何枚か作業する方が効率が良いので、このスタンドで乾燥させている間に次の盤の水洗い作業を進めることが出来る。
【最後に】
このやり方で私の経験的には90%以上の確率で「聴くに堪えないレコード」が「聴けるレコード」に復活した。一度の水洗いではなかなか復活しない場合でも、二度三度とトライすることで効果が現れることも期待できる。もちろんそれでもダメなこともあるだろう。その場合は音溝の摩耗などの別の要因があるかもしれない。
しかしこの「水洗い」作業、私にとっては結構な労働だった。毎日1枚2枚やって聴くという感じではない。やるときはそれなりの覚悟で集中して取り組む作業だと思う。普段のお手入れはもっと簡単で楽なものでなくては長続きしない。次はその「私的日常のお手入れ方法」をご紹介できればと思う。
それにしても某N●G●OK●O社のレコード・メンテナンス商品はなかなか高価だ。もう使うことは無くなったが、レコード・スプレーなどはあっという間に無くなるしコスト・パフォーマンスは極めて悪い。アルカリ電解水の洗浄液もなかなかのお値段だ。日常使いのこういうメンテ用消耗品がこんなに高額というのはいかがなものかと感じている。厳しい時代にもかかわらず、この国のアナログ・レコード文化を守り続けてきた企業であることには素直に敬意を表するが、それが為にユーザーにあまりにも負担を求めるのはちょっとどうかなというのが正直な感想だ。
最後の最後に昨日今日の2日間で「聴けるレコード」に復活した顔ぶれをちょこっとご紹介。
まずはヤフオクでまとめ買いで落札した商品
次に40年前に購入しずっと放置されていた面々
以上