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難しいステルスロック ポケモン対戦


今回はポケモン対戦について書く。といっても、いつも対戦の心構えとか、スタイルのようなマインドセットに関してばかり書いているので、より実践的な戦術について書きたいと思う。


新作スカーレット・バイオレットがもうすぐ発売されるので、新たに対戦を始めようと思う人の参考になればと思い、数回に分けて主要な技や用語の解説を行っていくつもりである。


そうは言ったものの、構築の組み方や実際の立ち回り等に関しては、僕のような弱者の意見はあまり参考にせずに、もっと上位の方が投稿している記事や動画を参照してもらいたい。ポケモン対戦の基本3要素は「構築」「選出」「プレイング(技選択・交代)」と言われているが、これに関しては多くの人が考えを表明しているので、僕の領分ではないと思う。


一方で、プレイヤーが当たり前のように使っているにも関わらず、あるいは当たり前すぎるがゆえに、初心者向けの解説が存在していない戦術や技・用語があるので、僕はそちらにスポットを当てたいと思った。


最強の技=ステルスロック


たとえば今回は”ステルスロック”を考えてみよう。この技は多くの強者から「最強の岩技」と称されるほどであるが、その意味を明確に言語化できるプレイヤーがどれくらいいるだろうか?


もちろん「言葉にできない=理解できていない」という意味ではない。動画や構築記事で”ステルスロック”という技名を見るだけで、ほとんどのプレイヤーは「この構築ではこういう意図で石を撒くわけね」と自然に汲み取っているのだろう。


ただ、立ち止まって考えてみると、相手を攻撃しない技(対戦用語で”補助技”と言う)が最強の技だと言われても、対戦歴が浅いプレイヤーにはその理由がわからないだろう。


あるいは「ステルスロックを撒けば勝てるようになるのか」「自分の構築にはステロ撒きがいないからダメだ」というように、ステルスロックを採用することに固執するあまり、意味なく技スペース(1匹のポケモンが覚える4つの技)を圧迫したり、構築全体のバランスを崩すことにもなりかねない。


僕も対戦を始めた頃は、とりあえずステルスロックを採用していた経験がある。しかし、実際の対戦ではステルスロックを採用しない構築も多々あるし、明確な意図がなければ無意味に1ターン消費するだけなので、必ずしもすべての構築が採用しなければいけない技ではない。このことを理解しておかないと、ステルスロックの自己目的化が生じてしまう。


これを踏まえたうえで、なぜステルスロック=最強とまで称されるのか、強者はどのような意図でこの技を使っているのかを、具体例をあげながら解説していく。


こいつを見るとステロを撒きたくなるらしい



①きあいのタスキを潰す


ステルスロックの効果を確認しておこう。この技を使うと相手の”場”(画面に映る盤面上という意味)に尖った岩を設置して、相手がポケモンを交代する度に、場に出たポケモンに定数ダメージ(最大HPの1/8)を与える、という効果がある。つまり、自分から攻撃しなくても、相手が交代を繰り返しているだけで勝手にダメージが蓄積していくのである。




この技の効果はタイプ相性の影響を受けるので、飛行タイプなら場に出るだけで1/4、炎・飛行複合タイプのホウオウなら半分もダメージを受けてしまう。逆に岩タイプを半減(効果はいまひとつ)できる鋼タイプであれば1/16で軽減することができる。



こいつを見るとステロ撒きたくなる②
足を痛めないためにおしゃれなブーツを履いていることも多い



これについてはサイクルの制限の項にて詳述するが、大切なことは「一度ステルスロックを撒かれると、交代する度にダメージを受けてしまう」ということである。


似た技に”まきびし”があって、こちらは現実にあるものなのでイメージしやすいかもしれない。”まきびし”は交代する度に足元のまきびしを踏んでダメージを受けるという仕様で、1度しか撒けないステルスロックと違って最大3回、撒けば撒くほど与えるダメージが増え、しかもタイプ相性を受けないという特徴がある。


これだけ見ると、まきびしの方が良さげに見えるかもしれない。しかし、まきびしは飛行タイプや特性”ふゆう”などの浮いているポケモンには効果がない。そのため、一切の無効化を受けないステルスロックの方が、まきびしより採用率が高いのである(あとは技マシンがあるので覚えるポケモンが多い)。



前座が長くなったけど、これで「気合いのタスキ潰し」の意図は理解できたと思う。気合いのタスキ(”襷”と略す)や特性”頑丈”は、HPが満タンであれば、瀕死になるような攻撃を受けても必ずHPが1だけ残って耐えることができる、という強力なアイテムである。先発のポケモンに持たせて行動保証として使う他にも、カウンターやミラーコートを覚えたポケモンに持たせて相手の積みエースに切り返す、といった使い方が可能である。



襷を盾にしてカウンター・ミラーコートで切り返す



裏を返せば、HPが満タンでない=1でも削れてしまえば、このアイテムは効果を発揮できない。剣盾のダイマックス環境では、ダイマックスによって素早さや攻撃ランクを上昇させながら、疑似的に積みエース化していく戦術を採用する構築も多い。その時にブレーキとなるのは、相手の襷持ちのポケモンによる切り返しであるが、先にステルスロックを撒いて襷を潰しておけば、積みエースを止められる心配がなくなるのである。


このような理由から、いわゆる対面構築やダイマックス・エースによって展開を荒らすことをコンセプトとする構築では、先発要員として耐久が高くステルスロックを撒ける”場づくり”役のポケモンを採用することが多く、代表的なのはカバルドンである。


第五世代から第一線で活躍する大ベテランのカバオくん



②相手のサイクルを制限する


先ほど「ステルスロックが撒かれると、交代する度にダメージが蓄積する」と書いた。「対面とは何か」についてはいずれ別の記事で書く予定だが、ポケモン対戦が他のゲームと圧倒的に違う点として、場にいるポケモンを交代させながら戦うこと(サイクル戦)があげられる。


たとえば、剣盾で最も採用率が高かった2匹である、ザシアン及びサンダーを使う相手と対戦する状況を考えてみよう。物事を単純にするために、あえて3匹目のポケモンはいない状況を想定する。


こちらはザシアンを無力化できるヌオー、サンダーを完全に受けきれるラッキーを選出している。こちらがとるべき選択はいたってシンプルで、ザシアンが出てきたらヌオーを、サンダーが出てきたらラッキーをぶつけて、回復技を連打していればほぼ100%突破される心配はない。


一躍トップメタに躍り出た1年間だったね


しかし、もしヌオーがザシアンの”じゃれつく”を急所に被弾してしまったり、ラッキーがサンダーの暴風で混乱を引いて回復できなかったりすると、不運な形でこちらの守りを突破されてしまうことになる。交代を繰り返せばそれだけ被弾する回数が増えてしまう(試行回数が増える)ため、運負けの危険性は高まってしまう。


友人からもらったミスドラッキー


ここで、もしラッキーがステルスロックを撒いていれば、相手のサンダー(回復技を持っていないとする)は5回場に出るとHPが0になるため、相手は無暗に交代することができなくなる(=サイクルの制限)。結果として、サイクル回数を減らして急所・混乱による”事故”の可能性を低くすることができる。


初心者向けに話を単純化したが、強者はより複雑な盤面上でこのことを半分無意識的に思考している。サイクルの遂行速度を速めてダメージレースに優位にたつなど、色々なことを考えているのである。


しかし最も大切なことは、実際にステルスロックによってダメージを与えること自体ではない。「交代したいけど襷が潰れる」「交代を繰り返せば不利になる」といった、交代によりデメリットが生じる状況を相手に押し付け、相手の行動を制限することで自分の安定行動をより確かなものとすることが、最大の狙いである。相手にはリスク行動を押し付けながら、自分は安定行動で勝ち切ることが、勝率を上げるために必要な考え方である。


そりゃそうだ


元ネタはガラルのネタツイ王=らくラージさんです


③確定数の変動


最後は少し込み入った話になるが、定数ダメージによる確定数の変動も重要である。少し前の禁止伝説2体環境からの実例で、しかもステルスロックではないのが申し訳ないが「定数ダメージで確定数をずらす」というコンセプトには変わりない。ステルスロックの良い例が見つからず、綺麗な計算結果が目に見える方が伝わりやすいと考えたので、ご了承いただきたい。(編集後記:むしろ、後述するステルスロックの利点を示す意味でも、このサンプルが優れているかもしれない。)


”ゴツゴツメット”は「接触技で攻撃された際に相手にもダメージ(最大HPの1/6)を与える」という効果を持つ道具である。ザシアンでヌオーを殴りに行ったら、ヌオーがとげのあるヘルメットを被っていてザシアンも傷ついてしまった、というイメージである。要はステルスロックと同じように「殴ってくる相手に定数ダメージを蓄積させる」ことができるアイテムである。


痛そう



このアイテムはあまりにも効果が優秀過ぎて、特に接触技しか持たないザシアン対策として非常に重宝された。僕が以前に解説動画を投稿した、白バドレックスで最終2桁を達成したとかげさんの構築記事から引用させて頂く。




とかげさんの構築のコンセプトは、最速白バドレックスが”高速移動”によって素早さをザシアン抜きまで上げることで、本来は不利である相性関係を覆して全抜き体勢を整えることである。白バドは素早さが低いため、通常は素早さの遅いポケモンから行動できるようになる”トリックルーム”を展開して使うことが一般的なのだが、とかげさんは白バドが素早さ2段階上昇で最速ザシアンを抜けることに気が付き、トリックルーム警戒を逆手に取った構築で結果を残された。


補足しておくと、トリックルームには5ターンの制限があり、制限ターン内に勝負を決められないと、エースが一気に機能停止に追い込まれるデメリットがある(現在の火力インフレ下ではトリックルームの再展開は容易ではない)。しかし、高速移動で一度積んでしまえば、ターン経過を気にせず行動できるので、長期戦になっても白バドが止まりにくいことにとかげさんは注目したのだ。


雪原の王すら恐るネタツイ王らくラージ氏


話をスリップダメージに戻すと、白バドのメインウェポンである氷技は、鋼タイプのザシアンに半減で受けられてしまう。ザシアン側は一度白バドの攻撃に耐えて、次の返しで一撃で仕留めることができるのである。


白バドはサブウェポンとして地面技の”10万馬力”の採用率が高く、とかげさんも対ザシアンを意識して抜群をつけるこの技を採用している。しかし、実際には10万馬力が媒体のダイマックス技(ダイアース)では、弱点をついても耐久に厚いザシアンを一発で仕留めることができないので、切り返される可能性が高い。


対策としては、命の珠などの火力アップアイテムを使うことがあげられるが、とかげさんの白バドは高速移動するために1ターンを消費しなければならず、”やけど”による攻撃力半減や”まひ”による素早さ半減への対策として、状態異常を回復する”ラムの実”を白バドに持たせているので、火力を上げることはできない。


そこで白バドの相棒として、ザシアンの攻撃をほぼすべて半減以下で受けることができ、なおかつトリックルーム展開も可能で、特性”炎の体”で30%の確率でザシアンを機能停止に追い込めるシャンデラを採用した。持ち物はゴツゴツメットである。


ザシアンの攻撃に対してシャンデラを投げることで、ゴツゴツメットに触らせて1/6=16%のダメージを与えることができる。ザシアンは基本的にシャンデラに不利なので、交代するかザシアンを捨てるかを迫られる。仮にザシアンを温存されても、定数ダメージによって削れているので、その後の展開で白バドのダイアースで確定1発をとることができるのである。


このように、本来なら1発耐えて切り返せるはずの攻撃を、ステルスロックや天候ダメージ・ゴツゴツメットといった”スリップダメージ(=定数ダメージ)”を絡めることで耐えることができないようにして、エースの障害を取り除く狙いがある。



ステルスロックが最強な理由


以上の3つが、ステルスロックの主な狙いになる。もっと言えば、①襷潰し②サイクルの制限③確定数の変動、はステルスロックに限らずあらゆる定数ダメージに共通している。


しかし、まきびしは浮いている相手に効果がないし、天候は5ターンで終わってしまう。ゴツゴツメットは非接触技(火炎放射のような相手に触らない技)には効果を発揮しない。定数ダメージはその強さ(攻撃もせずに相手にダメージを与えるなんてチートみたいなもの)故に、時間・タイプ・技的に様々な制約が課されている。


この①②③をわずか1ターンで、同時かつ半永久的に可能にしてしまうことが、ステルスロックが最強と言われる最大の理由であろう。


今回はステルスロックについて、これから対戦を始めるつもりの人にもわかりやすく解説した。ただ、この記事はわかりやすさを重視して話を単純化しているので、あくまで「原理・原則」であることに注意してほしい。理屈を理解しても、実際の対戦を経験しなければ正しい運用は習得できない。


とはいえ、ここまで読んで頂ければ、実況者の動画を視聴する時や構築記事を読む時の理解度・解像度が上がっているはずである。「なぜ?」「この行動の理由は?」がわかるようになると、インプットの効率が格段に高まり、ポケモン対戦の腕も速く上達するだろう。


次のテーマは「受けとクッションの違い」または「有利対面とは何か?」について書くと思う。対戦初心者の参考になれば嬉しい。



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