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女の子の名前に「菜」をすすめない訳

1-1 野菜や料理を人名に入れるの?

 中国語で「菜」は「cai4(ツァイ)」 と発音します。意味は主に四つあります。

 一つ。菜っ葉の菜、野菜ですね。「白菜」はそのまま「白菜(bai2cai4)バイツァイ」、「チンゲンサイ」は「青江菜(qing1jiang1cai4)チンジャンツァイ」といいます。

 二つ目。「料理・おかず」の意味。中国の家庭では親が子によく「多吃点菜(duo1chidian31cai4)ドゥオーチーディエンツァイ」(おかずをたくさん食べなさい)と言っています。町中の看板で「川菜(chuang1cai4)チュアンツァイ」とあったら四川料理のこと。「湘菜(xiang1cai4)シャンツァイ」は湖南料理です。

 三つ目。「素人」「門外漢」という意味。もともとの中国語では「菜鳥(cai4niao3 ツァイニャオ)」から、「菜」一文字でも「素人」を表すようになっています。「我的菜日文怎麼通用呢(ウォーダツァイリーウェンゼンモトンヨンナ)?」(私の素人日本語でどう通用するというの?)というふうにも使えます。

 四つ目。「好み」「タイプ」の意、といっても主に異性の好み・タイプに使われます。「他是我的菜(ターシーウォーダツァイ)」(彼は私の好みです)という言い方は最近になって台湾から始まった表現です。

1-2 「菜」がつく名前が面白くなってしまう

 「葉物野菜」「料理」「素人」「好み」といったいろいろな意味がある「菜」という漢字。「陽菜」とか「遥菜」などは人気上位の女の子名ですが、中華圏の人がみたらそういう野菜があるのかと思ってしまうでしょう。

 具体的に見ていきます。「菜摘」という名前は中国語でもそのまま「野菜を摘み取る人」と受け取られるでしょう。

 「菜香」は「野菜の香り」か「料理の香り」の意味。

 「香菜」は「パクチー(コリアンダーの葉)」のこと。

 「菜々子」は中華圏で「々」の字はほぼ使わないので表記上は「菜菜子(ツァイツァイズ)」と語感も面白くなってしまいますが、「おかずおかずの子?」「ど素人の子?」みたいなイメージになりかねません。

 「真菜」も「ど素人」か、「どストライク(の好み)」と取られるかも。

 「花菜」だとブロッコリーやカリフラワーを想像してしまう。

 「菜花」は性病の一種、尖圭コンジローマのことですから、意味を知ると名付けには躊躇してしまいますよね。

 ※中国語で「なのはな」を表したい時は「油菜花(you2cai4hua1)ヨウツァイホァ」と書きます。

1-3 慰めになるかわかりませんが

 こう書いていくと、すでに名前に「菜」の字を受けている方にはショックなこともあるでしょう。しかし漢字というものはその一文字に実に多様な意味が込められているものです。前述四つの意味だけではなく、中華圏では「偕音(シエイン)」という同音異字でいろんな語呂を考え出して縁起をかつぎます。

 台北にある国立故宮博物院。やはり展示の目玉は3階展示室にある「翠玉白菜」です。清王朝11代皇帝光緒帝に嫁した側室の瑾妃(チンフェイ)が嫁入り道具の一つとして後宮に持参したと言われる至宝です。この白菜に子孫繁栄や純潔や清廉などいろいろな意味が込められていると言われ、レプリカや白菜グッズが故宮のミュージアムショップや町中のお土産屋で売られています。白菜は「百財」や「百才」と同音であることから多くの財産や才能に恵まれるといった意味もあるようです。

 台北の龍山寺という古刹に文昌帝君という学問の神様が祭られています。受験シーズンになるとお供え台に大根を供えているのが見られます。台湾では大根のことを「菜頭(ツァイタオ)※台湾語の発音」といい、やはり受験生が「才がトップになる」よう願掛けをするものです。

 このように中華圏では「菜」という字は「財産」や「才能」に通じるということでありがたがる一面もあるのです。


2-1 代替案「奈」はどうでしょう

 「菜」と「奈」は日本語ではどちらも「な」と発音します。ですから、この「奈」を女の子の名前に使う場合も多いですね。中国語では同音ではなく「nai4(ナイ)」と読みます。 

 「奈々子」さんは「奈奈子nai4nai4zi(ナイナイズ)」となります。声調は違いますが、「奶奶(nai2nai)」=おばあちゃん のイメージが強いかもしれません。

 「奈米(nai4mi3)ナイミー」は名前には使われないと思いますが「ナノメートル」を表す単語です。

 「奈良(nai4liang4)ナイリャン」は中国人にも台湾人にも人気観光地です。

 ただ中華圏の人々にとって「奈」の文字はあまりなじみがなく、「無奈(wu2nai4)ウーナイ」=しかたない、やるせない といった意味に使われることくらいしか想像できないでしょう。

2-2 代替案「那」はどうでしょう

 「那」は読み方は日本語のそれと近く、「na4(ナー)」と読みます。意味は「あちら/あの」といった使い方がメインです。

 中国の姓にも「那」があるくらいです。清朝の西太后の一族の子孫ともいわれます。

 「那那子」だと「ナーナーズ」という間延びした音になってしまいます。「佳那(jia1na4)ジャーナー」「紗那(sha1na4」シャーナー」という名前は日本語の音を別として、さほど変にはならないと思います。

 中華圏では女性名にはおんなへんを付けて「娜(ナー)」の字の方が多いです。漫画「ワンピース」の女性キャラ「ナミ」は「娜美(ナーメイ)」と表記します。欧陽菲菲(オーヤンフィーフィー)の姪っ子のタレント欧陽娜娜も有名です。しかし日本の人名用語的には使えそうもないのが残念です。

2-3 「な」の代替案その他

 「菜名」で「なな」と読ませる名前もありますが、中国語ではまさに「料理の名前」の意味。そういえば「名」も「な」ですが、中国語では「ming2」です。「名名」なら「ミンミン」と読ませることができます。

 同じ「ミン」でも「銘(ming2)ミン」なら男子名でよく使われます。

あと「南」という字を組み合わせて「な」と読ませるパターンもありますね。「可南子」で「かなこ」、「真南美」で「まなみ」など。「可南」だと「ke3neng2(コーナン)」となり、名偵探・柯南(ミンジェンタン・コーナン) (名探偵コナンの中国語タイトル)と近くなります。こちらでも大人気漫画・アニメですので、覚えてもらいやすさは間違いないです。「嘉南(かな)」と書く名前もありそうですが、台湾では南部の穀倉地帯「嘉南平原(ジャーナンピンユエン)」を連想します。

 

 

 

 

 


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