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赤ちゃんの名付けに中国語も気にする時代

1-1 日本人の子供なのになんで中国語まで参考にしないといけないの?

 現時点でもみなさんの身の回りにメイド・イン・チャイナの製品はあふれていることでしょう。インバウンドがさかんになり中国、香港、台湾などからも多くの訪日客が観光や買い物をしているのを見かけるようになりました。中華圏からの留学生は何十年前から来日していましたが、日本人も中国語習得のためにあちらに行くことも増えています。ビジネスでも相互交流はますますさかんになっています。


 そんな中、名刺交換や顧客名簿などでお互いの氏名を目にする機会も増えています。皆さんが中華圏の人たちの氏名を見て、どう思いますか?例えば「李克強」という名前を見たら、日本人なら、「男性の名前かな」「親が子供に強く困難を克服してくれるようになってほしいと願ってたんだね」と思うでしょう。「蔡英文」という氏名はどうでしょう。「英語が上手になってほしいと名付けたのかな?」とか「へー女性の名前なんだ、日本だったら男性名だよな」と感じたかもしれません。

 同じように中華圏の人たちも皆さん日本人の名前を見て、その漢字を見ていろいろ思うわけです。「米津玄師...ミージンシュェンシー(中国語での読み方)?...日本の偉いお坊さんかなあ?」「西村雅彦?ああ、女性の名前でしょ!(中華圏では女性名にも”彦”が使える)」「広瀬すず...ゴァンライ...前の二文字は読めるけど後ろの二文字はなんだよ読めない!」「関根勤...ああ、この人は華僑かな関羽の子孫の関氏かもね。で下の名前が根勤(ゲンチン)っと...」

 いかがでしょう?日本人ならありえない捉え方ですよね。でも中華圏の人々は漢字から受けるイメージがすべてです。ひらがな、カタカナは読めない人が圧倒的多数。漢字も日中でまったく同じ意味とは限りません。

 日中間、日台間などではなまじ共通の漢字文化があることで、お互い「読めて」しまうわけですが、意味が違う漢字があったりすると、滑稽に見えたり、場合によっては卑猥に感じたりと、笑われるとか馬鹿にされたりとかが起きえるのです。

 もしこれから生まれてくるお子さんのために、日本語だけでなく、中国語でもよい名前を考えようという親はまだ少しづつではありますが増えています。親が中国語習得者、または中華圏出身者ならば余計にタブーな字を避け、好字を求めるでしょう。お子さんが将来中華圏に留学する、ビジネスで行く場合はもちろん、ずっと日本国内にいるとしても中国語使いが向こうから今よりたくさんやってくる時代です。彼らと付き合うのに有利な名前というのももちろん考えようによっては付けられますが、まずは変な意味にならないといったくらいでも気にしていただけたらと思います。

 この記事はそういった中国語での読みや意味を意識した名付けに関するもろもろを書き記したものです。場合によってはすでに付けられているお名前が中国語ではおかしな意味や読みになってしまっていてお気を悪くされる方もいらっしゃるかもしれません。そこは申し訳ないなと思います。ただ主目的はこれから名前をもらう人たちへの手助けの一つとなるようなことですので、なるべく忌憚ない意見を述べさせていただきたいと存じます。


1-2 中国語とひとくちに言うけれど

 筆者は中国、日本にも住んでいたことがあり、現在は台湾在住です。台湾では「中国語」「中国人」はアイデンティティーにもかかわる非常にデリケートなワードですが、日本ではあまり気にしない方も少なからずいらっしゃる印象です。ここではなるべくイデオロギー抜きにして、多くの方にとってのわかりやすさを優先しています。

 この記事での「中国語」は日本国内の大学とかNHK中国語講座とかで教えられる言葉、「こんにちは」が「你好(ニーハオ)」、「ありがとう」が「謝謝(シェーシェ)」の「中国語」「チャイニーズ」です。中国(中華人民共和国)では「普通話」とも言います。日本でいう標準語のことです。広い中国には各地に方言もあり、日本の博多弁や秋田弁といった差異よりもドイツ語とフランス語くらいの差異があると考えたほうがいいです。中国にも上海語、広東語、福建語とかあるのに対して、普通話を北京語と呼ぶこともあります。

 台湾(中華民国)では公用語として使われている言葉は日本では中国語と呼んでも、台湾の国内ではあくまで「国語(グォユゥ)」と言います。「華語(ホァユゥ)」と表記することもあり。

 字体についても記しておきます。中国(シンガポールも)では簡体字と呼ばれる、日本の漢字よりももっと省略化した文字を使っています。「中華」は「中华」、豊田は「丰田」という画数の少ない字になります。台湾(あと香港、マカオ)では正体字(繁体字)という日本も戦前頃まで使っていた画数の多い文字を使っています。「国語」は「國語」、「豊田」は「豐田」と表記します。

 表音文字としては中国は「ピンイン」と呼ばれるローマ字表記が使われていて、日本国内での中国語学習はこのピンインの授業から始まることがほとんどです。台湾では「注音」という漢字の部首みたいな文字を幼児教育で習い、小学校低学年では注音と漢字併記で文字を習得していきます。

 ここでは日本の名前の漢字を中国語でどう読むかを論じる時に、基本的にピンインとカタカナ表記を併記するようにしていきたいと思っています。カタカナ表記は非中国語学習者のためにできるかぎり近い音を表したものですが、そのまま読めば通じるかというと限界があります。中国語には「声調」という抑揚があり、それが違うと同じ音でも全然違う意味になってしまいます。ピンイン表記はローマ字ですが、英語と異なる音も存在します。「que」は「que sera sera(ケセラセラ)」の「ケ」ですが、中国語で「que」は「チュエ」と読みます。同じ「チュエ」でも抑揚なく平坦に読めば(一声)「缺(欠けるの意味)」、勢いよく言い切るように読めば(四声)「雀」「確」になります。 

 例えば「美夢」と書いて「みむ」ちゃんと名付けるとします。では中国語ではなんと読むか?ピンインでの表記は主に二通りあります。ローマ字の上に「、」とか「v」といった記号を付けるものです。美夢は「měi mèng 」と書きます。 měiが三声(メーイと下をえぐるように読む)、mèngが四声(勢いよく落ちるようにモン!と読む)。もう一つの表記は「mei3meng4」というような書き方です。同じくmeiが三声、mengが四声だと示しています。本記事では作業の都合上、後者の数字を用いる方式で記述していきます。

 では今度は別のピンインを挙げてみます。

「jiao」

 カタカナ表記するなら「ジャオ」です。

「jiao1」一声では「交」

「jiao2」二声では「嚼」

「jiao3」三声では「餃」

「jiao4」四声では「叫」

同じ「ジャオ」でも読み方次第で交通の交から咀嚼の嚼、餃子の餃、さらには叫ぶの叫という字へと変わってしまうのです。


2-1 中国語も考慮した名付けの方法

  親が中国語学習者だったり、中華圏出身ならば、最初から中国語的思考で命名ができますし、香港や台湾なら最初から占い師に丸投げすることもあります。しかし本記事をご覧いただいている方はほとんどそうではない方でしょうから、名付けにおいて中国語まで考慮する場合の方法や流れについての想定を記していきます。

1.最初から中国語ができる人に候補を挙げてもらう。

 これなら中華圏で変な意味にならずかつ普通に通用する名前を考えてもらえます。ただ、候補をもらったら必ず日本で使えるか人名漢字当用漢字などをチェックしてください。親御さんによってはそれから画数を調べたりします。中国人にお願いするなら簡体字でなく日本の漢字にしてもらったほうがいいでしょう。

2.まず日本語でいくつか候補を考え、中国語の素養がある人にみてもらう

 親がいくつかの候補を考えて、それから人の意見を聞いたり、画数を調べて消去法で残ったものを名前にするのはよくありますよね。その人の意見を中国語ができる人にも拡大するわけです。

3.有料サービスで中国語のよき名を考えてもらう

 上の1と2は身内や知り合いに中華圏の人や中国語のわかる人がいて、ただでやってもらえるならいいですが、なかなかそんな都合がいいこともないですよね。中華圏の国々なら算命師や風水師といった占い師のような人が商売で子供の命名を請け負ったりしていて、一定の金額を支払えば、納得いくまでよい名前を考えてもらえます。もちろん苗字との組み合わせもちゃんと考慮してくれます。あとから画数を調べる手間も省けていいですが、デメリットとしてはそこそこの費用がかかること、占い師によって真逆の意見が出ることもある、また「業界」の命名ルールに則った結果、同世代に似たような名前が乱立するなんてことも。

 私自身、周りから中国語での名付けの相談をよく受けていますが、調べものとかで意外と時間がとられる作業です。これを不特定多数の方々にボランティアで行うことはとうていできることではありません。さほど遠くない将来、ちょっとした報酬をいただく形で命名相談をさせていただく可能性はありそうです。

 私もツイッターで発信していますが、DM やコメントで相談されましてもお答えすることはできかねると思います。ご期待された方いらっしゃいましたらご意向にそえず申し訳ありません。


2-2 日本語での読みは考慮しなくて大丈夫

 教育現場や医療現場、サービス業などからは「若い子の名前が読めない」「難読名多すぎて業務に支障をきたす!」といった声が相次いでいます。日本では名付けは出生届としてそれぞれの市区町村役場へ届け出ますが、そこでチェックされるのは文字が人名で使える漢字であるかとか常識の範囲であるかといったことで、ふりがなの読みまではとやかく言われることはすくないと思います。「月」を「ルナ」、「岩楽」で「ロック」、「紅果」で「いちご」などいろいろあるそうですが、中華圏に行ったら、あくまで漢字しか読まれません。その読みが表に出てくるのはおたがいが英語でコミュニケーションを取るときです。

 名刺や名札に漢字で印刷してあったら、まず第一印象はその漢字です。「池上月(いけがみ・るな)」さんなら中華圏の人には「qi3shang4yue4(チーシャンユエ)」と読まれて、頭の中には「夜中の庭園の池に、澄んだ夜空の満月が水面に映し出される」光景が浮かんでいることでしょう。

 

 

 



 


 

 


 

 




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