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2020年夏にカリフォルニア州で発生した計画停電の概要①停電の経緯

2020年8月14日-15日にかけ米国西部を記録的な熱波が襲い、カリフォルニア州では需給逼迫に直面、California Independent System Operator(以下、CAISO)は大規模な計画停電に踏み切った。

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CAISOは10月6日に計画停電の中間報告書を発表したが、今後の対策についてはCAISOで検討が続いており、連邦エネルギー規制委員会(以下、FERC)もCAISOの対応に不備があるとの指摘を行っている。

中間報告書では、今回の計画停電の原因として以下3点を指摘している。

①既存の供給力確保プロセスでは、今回のような猛暑に十分対応できるよう設計されていない。

②クリーンで経済性のある電源構成に移行する際に、現在の供給力確保計画では、夕方の需要に対応できるように設計されていない。

③前日市場における一部の市場取引の慣行は、需給逼迫時に供給力を確保する際に、足かせとなった。

本稿では、カリフォルニア計画停電の経緯を説明する。


1. 8月中旬に米国西部を襲った熱波

8月14日から19日の間、カリフォルニア州に熱波が襲来し、例年に比べて5-10℃気温が高い状態であった。

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この熱波は米国西部全域を襲い、南西部(ラスベガス、フェニックス)と太平洋沿岸北西部(ポートランド、シアトル)で過去最高気温を記録した。国立気象局(NWS)によると、この熱波の影響を受けた市民は約8,000万人だった。

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熱波の影響により空調需要が急増、Western EIM全体で需給逼迫に直面した。CAISOエリアでは恒常的に他州からの電力輸入に頼っているが、この熱波により他の複数のエリアでも需給バランスが逼迫したため、電力輸入量が激減した。

更に、カリフォルニア州内の水力発電所では、山間部の降雪量が少なく、2020年夏は例年よりも発電出力が得られない状態であった。


2. 計画停電の時系列

・8月12日(水) CAISOは8月14日-17日にカリフォルニアを含む米国西部に熱波が襲来、需要急増に伴う需給逼迫を予測、RMO(※1)を発令した。

※1 RMO…Restricted Maintenance Operationsの略。需給逼迫の可能性がある場合、CAISOが発電事業者に対して計画停止を延期して、供給力を確保できるように要求する通知のこと。


①8月14日計画停電の時系列

計画停電の発生した8月14日は、山火事が主要送電線に影響を与え続け、CAISOの系統運用に大きな影響を与えた。

・8月13日(木)9:00 CAISOは需給逼迫の恐れが高いとして、8月14日15:00-22:00を対象にFlex Alertを発令、市民に節電を呼び掛けた。このFlex ArertはCAISO Webサイト、CAISOアプリのプッシュ通知、市場通知、メディア(KCBS、KNX 1070ロサンゼルス、KPIX / KBCW – TVサンフランシスコ、KGO TV、KTVU Fox2、KFSN-TVフレズノなど)を通じて発信された。

・8月13日(木)15:00まで CAISOは8月14日17:00-21:00まで供給力不足に陥る可能性を予測、grid-wide Alertを発令した。これにより、市場参加者に追加供給力の拠出と市場入札を促し、需要家には節電を奨励、またCAISO は PG&E・SCE・SDGEに8月14日-17日の供給力・需要の見通しを確認するように依頼した。

・8月14日(金)朝 CAISO内では、需要・供給力見通し、緊急DR(RDRR ※2)発動可能容量を再確認したほか、①緊急DR発動指令、②供給力不足に伴う計画停電 といった緊急対策の必要性について議論した。

※2 RDRR…Reliability Demand Response Resourceの略。緊急時に発動できる事前確保型DRのこと。RDRRは他のリソースと異なり、Flex Arertが発令された後にのみ発動でき、発動にあたっても回数制限や、継続時間の制約が存在する。例えば、あるリソースは1日1回/1か月10回の発動で1回の発動時間は最大6時間といった稼働制限が存在する。尚、RDRRは指令から40分以内に応答する必要がある。

・8月14日(金)11時51分 CAISOは供給力不足が解消できていないとしてgrid-wide Alertを再通知。また、CAISOはPG&E・SCE・SDGEに対し、14日中に緊急DR(RDRR)を発動する可能性が高いことを通告したほか、他のBA(※3)に対して、緊急支援の可能性を確認した。

※3 BA…Balancing Authorityの略。ISO/RTOを含む、需給バランス調整に責任を負う公益事業者の総称。

・8月14日(金)14時57分 Blythe Energy Center(Riverside郡、送電端出力494MW、発電端出力507MW)が設備トラブルにより計画外停止した。停止時の出力は475MWであった。CAISOはBlythe Energy Centerの計画外停止に伴い、直ちに代替供給力を確保(※4)した。

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↑ Blythe Energy Centerの位置と外観(AltaGasパンフレット)

※4 …NERCとWECC(※5)がCAISOに課している信頼性基準では、CAISOが確保すべき供給力は電源脱落、系統の計画外停止、電力輸入の停止といった突発事態に対処できるよう設定されている。
※5 NERC…North American Electric Reliability Corporationの略。WECC…
Western Electricity Coordinating Councilの略。いずれも、CAISOに対して課す信頼性基準を設定し、BAを監督する役割を負っている。詳細については後述。

・8月14日(金)15:00頃まで CAISOでは追加供給力確保や他のBAからの緊急融通の依頼を出し続けており、カリフォルニア州とオレゴン州を接続する連系線(COI)における融通量は18:00-23:59まで189MW増加した。

・8月14日(金)15:20 CAISOはリアルタイム市場上で、RDRRの稼働を指令した。

8月14日(金)15:25 CAISOは15:20-23:59までStage2 Emergency(第二段階緊急事態)を宣言した。(※6)

※6 …Stage2 EmergencyやStage3 Emergencyの宣言にあたってはStage1 Emergencyを宣言する必要はない。

8月14日(金)15:25まで CAISOはWECCから定められた予備率6%の基準の維持が困難になると予測しており、10分以内に遮断できる負荷をnon-spinning contingency reserves(非回転不測事態予備力)として計上することで、予備率基準を維持することとした。CAISOはPG&E、SCE、SDGEと連携し、比例配分に基づき約500MWの需要をnon-spinning contingency reservesに指定した。

8月14日(金)17:00まで 需給バランスは改善せず、CAISOは約800MWのRDRRを追加で手動制御した。RDRRは前述の通り、指令から40分以内に応答する必要がある。

8月14日(金)18:30まで CAISOが確保したすべてのDRに稼働が指令されたが、需給バランスは改善しなかった。電力需要のピークは16:56に発生したが、太陽光の出力が急激に減少し、残余需要は高い状況であった。CAISOはPG&E、SCE、SDGEと連携し、更に500MWの需要をnon-spinning contingency reservesに指定し、合計1,000MWの計画停電対象需要を確保した。

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・8月14日(金)18:38 CAISOは予備率要件を維持できなかったため、Stage3 Emergency(第三段階緊急事態)を宣言した。供給予備率が要件に満たない状態で運用を続けた場合、更なる電源脱落や系統支障が発生した場合に、米国西部の電力系統全体を不安定にする恐れがあった。このため、CAISOはnon-spinning contingency reservesを発動し、輪番停電に踏み切ることを決意、PG&E、SCE、SDGEを通じて輪番停電を実施した。

・8月14日(金)19:40まで 需給バランスが改善し、輪番停電を中断しても予備率要件を確保できる見通しとなったため、輪番停電を中止した。

・8月14日(金)20:38 CAISOは発令されていたStage3 EmergencyをStage2 Emergencyにレベルダウン。

・8月14日(金)21:00 CAISOはStage2 Emergencyを解除した。


②8月15日計画停電の時系列

8月15日は、PG&Eのサービスエリア全域で雷雨により、送電線が影響を受け、太陽光の出力が限定的であった。

・8月14日(金)14:24 CAISOは8月15日17:00-21:00まで供給力不足の可能性があるとしてgrid-wide Alertを発令した。

・8月15日(土)朝 CAISO内では14日朝と同じく、需要・供給力見通し、緊急DR発動可能容量を再確認したほか、①緊急DR発動指令、②供給力不足に伴う計画停電 といった緊急対策の必要性について議論した。

・8月15日(土)12:26 CAISOはgrid-wide Alertの対象時間を12:00-23:59に変更。

・8月15日(土)14:00-15:00 嵐により日照量が低下したため、太陽光発電の出力が1,900MW以上減少した(下図黄色線の赤枠)。一方で、需要は増加傾向であり、予備率はWECCの基準(6%)ギリギリまで低下していた。

・8月15日(土)15:00 CAISOは891MWの緊急DR(RDRR)を手動制御した。8月14日と異なり、太陽光の出力減少に伴い、急激に需給バランスが悪化したため、CAISOはすぐにRDRRを制御した。

8月15日(土)15:00-17:00 CAISOでは追加供給力確保や他のBAからの緊急融通の依頼を出し続けており、カリフォルニア州とオレゴン州を接続する連系線(COI)における融通量は15:00-22:00まで増加した。

・8月15日(土)17:12-18:12 風力発電の出力が1,200MW減少した(下図青線の赤枠)。CAISOはPG&E、SCE、SDGEと連携し、比例配分に基づき約500MWの需要をnon-spinning contingency reservesに指定した。

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・8月15日(土)18:13 Panoche Energy Center(Fresno郡、航空機転用OCGT、送電端出力394MW、発電端出力400MW)が設備トラブルにより出力が394MWから146MWに減少、248MWの供給力が失われた。これは、CAISOが発電所に対して誤った出力値を指令したことが原因とみられている。

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・8月15日(土)18:16 CAISOはStage2 Emergencyを宣言した。

・8月15日(土)18:28 CAISOは予備率が維持できなかったため、Stage3 Emergencyを宣言し、約500MWのnon-spinning contingency reservesを発動し、PG&E、SCE、SDGEを通じて輪番停電を実施した。

・8月15日(土)18:48 風力発電の出力が500MW以上増加、CAISOは輪番停電を解除し、Stage2 Emergencyにレベルダウンした。

・8月15日(土)20:00 CAISOはStage2 Emergencyを解除した。

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③8月16日-19日の状況

8月16日-19日まで、カリフォルニアでは猛暑が続く予報であった。このためCAISOは8月16日-19日を対象にRMOとgrid-wide Alertを発令し、更に各日15:00-22:00を対象にFlex Arertを発令した。各種指令の発令状況は下図の通りである。

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8月16日、ギャビン・ニューサム カリフォルニア州知事は州全土に異常気象による社会システム維持を目的とした緊急事態を宣言した。緊急事態宣言により、以下の緊急対応が可能になった。

①従来、定置型発電機や携帯型発電機はCo2排出量が州基準以下のものでなくては利用できなかったが、基準に達していないものでも緊急利用できる。

②8月17日-20日にカリフォルニア州内の港湾に来航した船舶は、8月24日までは停泊中の電力は陸上からの給電に頼ることができない。船舶自身の補助エンジン(発電機)を活用すること。

また、ニューサム知事は8月17日に業務命令N-74を発令、これにより8月20日までは発電設備の大気汚染基準の制限が一時停止となり、更なる供給力を確保できた。

以下の図は8月17日-19日の前日予測(点線)と実際の需要(緑線)を示したものである。ピーク需要を前日予測と比較して4,000MW削減し、計画停電を回避することができた。

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8月19日以降は需要が低下し、需給逼迫の可能性が下がった。


3. 顕著な成果が出せたDR等、供給力確保の取り組み

顕著な成果を出せたアクションは以下のとおりである。

①DR創出

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②供給力の追加確保

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4. 関係機関の役割

(1)California Independent System Operator (CAISO)

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CAISOはカリフォルニア州の電力需要のうち、80%に相当する電力系統の運用・需給バランス調整を担うRTO(地域送電運用機関)である。残りの電力需要(20%)は、ロサンゼルス水道電力局(LADWP)やサクラメント市公益事業団(SMUD)のような自治体公営事業体が電力供給・系統運用を担っている。

CAISOはWestern Energy Imbalance Market(Western EIM)に加盟しており、Western EIMを通じた需給管理および管内の卸電力市場運営を行っている。

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CAISOはFERC、西部電力調整協議会(WECC)、北米電力信頼度協議会(NERC)の規制を受けるほか、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)からはCAISOが確保すべき供給予備力の基準が設定される。

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(2)California Energy Commission(CEC:カリフォルニア州エネルギー委員会)

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CECは、電力・ガスの需要予測、州で販売される家電製品や建築物のエネルギー効率基準の設定、エネルギーに関する緊急事態が発生した際の州政府行動計画の策定や実際の指示など、電力・エネルギー分野における政策機能を有する。

CECは、CAISOが確保する供給力の基準策定にあたって必要となる需要予測を策定する。この需要予測は「1-in-2」ピーク需要予測と呼ばれ、気温予測の変動を考慮して、実際の月次ピークが予測よりも高いか低いかのどちらかになる確率が50%になるように構成されている。

(3)California Public Utilities Commission(CPUC:カリフォルニア州公益事業委員会)

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CPUCは、カリフォルニア州のエネルギー・電気通信・水道・公共交通・輸送などに関する多くの規制責任を負っている。CPUCはCECが設定した「1-in-2」ピーク需要予測を元に、CAISOが確保すべき供給力を策定している。CAISOが確保する必要のある供給力は「1-in-2」ピーク需要×115%である。

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