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スタバへ行くことは、なかった私

においに鈍感である。
洗濯の部屋干しのにおいが気にならない。焼肉した後の部屋のにおいも感じない。
妻に指摘されても、感じないし気にならないものはしかたがない。
そんな男が、喫茶店のコーヒーや飲み物の、香りや味を語ることはできない。

たいせつなのは、落ち着ける雰囲気。
私にとって、喫茶店に行くということは、店の雰囲気と時間を買うこと。

だから古ぼけた、雰囲気のある、歴史を感じるような店が好きだった。
若き日、花の都で生活していたころ、よく喫茶店で仕事をサボっていた。
一人で、先輩と、後輩と・・・。
神保町の「さぼうる」で暑い夏の日に飲んだパインジュースは、若き日の思い出の味。「ミロンガ」、「ラドリオ」あの路地の店は暗くて、人を放っておいてくれる気楽さが好きだった。

それからもずっと、多店舗展開しているチェーン店でコーヒーを飲むことはほとんどなかった。

そんな日々からすでに三十数年、縁あって長野市に住んでいる。
長野市といえば、「牛に引かれて善光寺詣り」で有名な善光寺。わたしの休日の散歩は、長野駅から善光寺にかけてのエリアの徘徊である。

善光寺の参道を上がっていき、仁王門をくぐってすぐの右手に、わたしの行きつけ「スターバックス信州善光寺仲見世通り店」がある。
・・・・代表的な全国チェーン店である。

注文するのは、ブレンドコーヒーのS。マグカップに入れてもらい二階へ上がる。壁側にベンチシートの席があり、そこがわたしのお気に入りの席だ。ゆったりと間隔をおいて、丸いテーブルが置かれている。いま、一番落ち着けて、雰囲気を感じられる喫茶店がここである。

観光で長野に来て、スタバはないだろう。長野にしかない店に行ったほうがいいと思う。が、長野在住のわたしとしては、この特別なスターバックスはなくてはならない存在となっている。350円で買えるこの時間と雰囲気は手放すことができないのである。





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