【東方Vocal曲紹介 Track.7】忘却の雨

君がいない。もう止まらない時と雨に、思い出さえも流されていく――


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基本情報

曲名

忘却の雨

サークル

IOSYS

収録アルバム ※初出のみ記載

ROCKIN'ON TOUHOU VOL.1(2012年)

※リンク先でクロスフェードデモの視聴ができます。

原曲

  • 亡き王女の為のセプテット

出典:『紅魔郷』6面ボステーマ
関連キャラ︰ レミリア・スカーレット

評価

オススメ度

★★★★★(並←→極)
覚悟と悲哀を越えた先の無常感を丁寧に光景へと溶け込ませた1曲。
じっくり聴いて、余韻を浸るところまでが1セット。

前提知識

★★★☆☆(少←→多)
知識なくてもなんとなくストーリーは理解できるので、雰囲気は十分味わえる。
レミ咲の関係を把握しておくと解像度が一気に上がるので、やはりある程度原作には触れておきたいところ。
ただ、原作で彼女たちの活躍を観るときの気持ちがちょっと変わってしまうかも……

原曲度

★★★☆☆(弱←→強)
イントロはそれなりにガッツリ。
あとはサビで使われているのが比較的わかりやすい……けどわかりづらい。

雰囲気

★★★★☆(軽←→重)
いつか訪れる結末。
歌詞は重いけどメロディで少しカバー。

カラオケ

JoySound

解説

すでに泣きそう。
なのであっさりいこうそうしよう

選定理由

実はTrack.4で雨を降らせてから、Track.5, 6と、あれこれそれっぽい言い訳をしつつこっそり傘キャラ(幽香、紫)を連続でピックアップしていることにお気づきでしょうか?
というわけで今回も傘キャラ登場、ついでに雨も降らせて華麗に締めます!
なんと、わちきが戦力外ともうすか! うらめしやー!

原曲について

毎年行われる人気投票で常にトップを争う位置に立っている、すべての原曲の中でも最も有名な曲の一つです。
(ちなみにライバルは妹さんのテーマ曲)
『紅魔郷』がWin版最初の作品ということもあって触れている人口が多いだけとか、キャラ人気に引っ張られているとか、懐古補正とか言われることもありますが、そういった要素を抜きにしても素晴らしい1曲であることに異論はないでしょう。

そんな原曲を率いるレミリアさんは吸血鬼でして、『紅魔郷』のメイン舞台である紅魔館の当主です(※)。
外見はまだ幼い女の子ではありますが、すでに500年という時を生きており、実力・威厳ともに十分で、当主の風格はしっかり持っています。
異変を察知した霊夢と魔理沙が、紅い霧に覆われた館に侵入し、紅々と輝く月の下でレミリアと対峙する――そんな熱いシチュエーションで静かに始まるイントロに、摩耗しかけたプレイヤーの心は否応なく高揚したことでしょう。
「王」の名を冠するに相応しい、堂々たるメロディラインで、どの部分を聴いてもキャッチーではあるのですが、やはり実際に原作をプレイしてイントロから感じていただくのが最高だと思います。


※【Topics!】溢れ出すカリスマ、レミリア・スカーレット――
というわけで、はい、上ではめちゃくちゃカッコいい感じで書いてましたが、そのカリスマをあっさり投げ捨てられるのも、またレミリアお嬢様というキャラクターの魅力です。
『紅魔郷』の決闘後はしっかり霊夢たちと仲良くなっていますし(神社の留守を任せられるくらい)、『永夜抄』で自機化した際は飛ぶ鳥をフライドチキンと形容するユーモアも披露してくれます。

一応まだ「おちゃめ」くらいで済んでいたカリスマさんが、ついにいろいろな意味でブレイクしてしまったのが『萃夢想』。
東方Project最初の小数点作品で、他サークルの黄昏フロンティアさんとコラボして制作された格闘ゲーム風の外伝となっており、こちらにもお嬢様は自機として出演しています。
ストーリーモードでも結構な崩壊っぷりを見せていますが、通常プレイでも多用される下段ガードのモーションが多くのプレイヤーの度肝を抜きました。

『萃夢想』で霊夢さん(右)にカツアゲされるお嬢様(左)の図
(これ撮るために久々に起動しました……)

かわいすぎんか……?
えー、一応、ZUNさんはモーション作成に直接関わっていないです。
ただ、黙認している=公式設定のような扱いとなっており、二次創作ではカリスマの欠片もないおぜうさまお嬢様が大量発生することになりました。
(ちなみにうーうー言い出したのは、もう少し先のお話。某有名ハンバーガーチェーンのCMをパロった動画がニコニコ動画に投稿されてからです。とはいえ、そのネタ自体は『萃夢想』の少し前に出ていたのですが……)
ちなみにガチの公式設定でも、血を吸うのが下手とか納豆が好きとか、謎に属性が盛られているので、ZUNさんも結構お嬢様のことを気に入っているのかもしれません。

ともあれ、そんな感じで「カッコよさ」と「かわいさ」の二刀を併せ持つことになったお嬢様。
もともとWin版初ラスボスということもあって人気はあったのですが、二次創作ではその使い勝手のよさ扱いやすさからさらに拍車がかかり、「シリアスからギャグまで多方面で違和感なく活躍できるユーティリティキャラクター」の地位を不動のものとしました。
キャラ人気投票ではTop10常連で、そうした二次創作でのがんばりが票に繋がっているのは間違いありません。
というわけで何卒みなさま、お嬢様に紅き一票を!
(ぼくは咲夜さんに入れときますね)


感想︰曲調とボーカル

イントロから原曲が使われていますが、ストーリーがストーリーなので威厳は抑えめ――というより、もはや儚いと言ったほうがいいくらいのアレンジとなっています。
ボーカルが入り始めてからのメロディラインではさらに鳴りを潜めて、サビでも原曲を感じられはしますが、意識して聴けば使われているのがわかる程度。
精神的に弱っているレミリアの様子がどことなく感じ取れ、聴いているこちらも少々落ち着かない心地になります。
とはいえ、このへんの情緒的なあれこれは、歌詞のところで詳しく話したほうがよさそうですね……

というわけでボーカルのあさなさんですが、どうやらIOSYSさんと同郷(札幌)らしく、おそらくそのよしみでゲスト参加されていたようです。
はじめにでも触れていますが、IOSYSさんと言えば、かの有名な『チルノのパーフェクトさんすう教室』をはじめ、『マクドは大変なものを作っていきました魔理沙は大変なものを盗んでいきました』『患部で止まってすぐ溶ける ~ 狂気の優曇華院』など数々の名曲迷曲を生み出し、電波らしく斜め上の方向から東方Vocal界隈から東方Project全体の盛り上げに大きく貢献したサークルさんです。
上に挙げたような曲が次々とニコニコ動画でヒットし、すっかりそちら方面で有名になってしまったIOSYSさんですが、今回の紹介曲のように、それらに負けないほどマジメ方面ですばらしい曲もリリースしてくださっています。
あさなさんは健全な方なので専らこちら側です。安心。
電波担当のmikoさんもKENZENな方なので安心ですね

その中でもこの曲はシリアス度が飛び抜けていて、特にサビでの悲痛さに抗うような声が、より一層胸を締め付けます。
AメロBメロでは結構冷静な感じで歌われているので、そのギャップがまた心に響くんです。
あさなさんの声はハスキー寄りのキレイ系(雑分類)で、歌詞のシチュエーション的にも相性がいいのかもしれません。あさなさん選んだ人ナイス。

いつもどおりなんとか冗談交えながら空気が冷えないように気を遣っていますが、ここまでの説明ではこの曲が鬱曲と疑われかねないので今のうちに誤解をといておくと、意外とテンポは早めで歌詞を気にしなければノリよく聴くことができます。
これもまたギャップってやつですかね。
ギャップといえば、大サビからもまた雰囲気が変わります。
お嬢様の気持ちを想像しながら、歌声・歌詞とのマリアージュをお楽しみください。

感想:歌詞

というわけで問題の歌詞ですが、ネタバレ上等でまとめると、「従者である十六夜咲夜(※)との死別」を描いています。
レミリアは吸血鬼でほぼ不死と言える存在ですが、咲夜は主人公の霊夢たちと同じ人間です。
東方Projectにおいても吸血鬼は人間を眷属とする能力を持っているものの、咲夜はレミリアの眷属となることを拒んでいます。
そのため、(レミリアにとっては)そう遠くない未来、咲夜は主人を差し置いて先に旅立ってしまうことがほぼ確定しています。

こうした寿命差による「いつか訪れる結末」を題材とした二次創作も、それなりな数があります。
関係性がわかりやすいレミリアと咲夜のほか、紫と霊夢、アリスと魔理沙など、人妖でゆかりのあるペアにはどうしても立ちはだかる問題となっています。
原作はほぼサザエさん時空なので寿命差に触れられることは基本的にありませんが、その例外の一つが『永夜抄』において咲夜が眷属化を断ったシーンです。

話を戻しまして。
1, 2番のA, Bメロは、生前の咲夜との思い出に耽る歌詞となっています。
サビでは現実に戻ったレミリアが、周囲の穏やかでない景色に哀しみを重ねる場面に切り替わります。

1番では「君の煙」を遠くから眺める描写があるため、今まさに荼毘に付されているタイミングかもしれません。
なぜレミリアが「遠く」からそれを見ているのかは説明がありませんが、おそらく、咲夜を人間として人里で弔ったことがなんとなく察せられます。
そして、吸血鬼のレミリアは流水――雨の中を移動できないため、紅魔館から煙が上っていくのを見ていることしかできません。

2番では、「時の流れ」によって(咲夜のいない現実を)受け入れた、とあるため1番から少し時間が経過している模様。
窓の外の荒天を見て、あの日の哀しみが蘇ってきたのでしょう。
しかし、ここまである種の平静さを保っていたレミリアですが、とうとう涙を零してしまいます。
そしてここからラスサビにかけて、平静さの裏側にあった本当の気持ちが吐露されます。

どれだけ呼びかけても、旅立ってしまった彼女を取り戻すことはできません。
記憶に残る面影も、時間とともに色褪せてしまう――吸血鬼であるがゆえに永い時を生きなければならないレミリアにとって、かけがえのない従者を二度も喪うことは、自身が思う以上に耐えがたい苦痛ということなのでしょう。

ちなみに歌詞は最後まで喪失感を表現していて、ほろ苦い後味となっています。
自分が初めて聴いたときは、野球中継を見ながらではあったのですが(失礼)、それでもすぐに次の曲に進めず呆然としてしまいました。
みなさまにおかれましては、初視聴の際はこの曲に集中して、できれば雨の日に聴いていただきたいところですね。


※【Topics!】完全で瀟洒なメイド、十六夜咲夜――
咲夜さんは紅魔館のメイド長です。
配下のメイドは近所の妖精たちが大半で、最近やってきたホフゴブリン(誤字に非ず)の指導も咲夜さんが担っているものと思われます。
外見は蒼眼銀髪の当然メイド服、能力解放時には両眼が紅くなる厨二仕様も搭載。
得物はなんと吸血鬼の弱点である銀製のナイフで、紅魔館で働く前は吸血鬼ハンターをしていたようですが……?

トレードマークは懐中時計。
それに絡んで、「時間を操る」というメイドに持たせるにはあまりにもったいない能力を持っています。
時間を戻すことはできませんが、止める・進める・遅くするは可能です。
さらにはこれを空間に応用して、紅魔館内部の広さを不自然に拡張しています。
(ほぼ同じことを『永夜抄』ラスボスの蓬莱山輝夜(ほうらいさん かぐや)も行っていますが、関連は不明)
ただ、広くしている分メイドとしての仕事も増えてしまい、使えないメイド妖精を横目に日々時間を止めながら激務を消化しているようです。

年齢的に紅魔館のメンバーとしては新参のはずですが、主人であるはずのレミリアにもタメ口っぽく話すこともあったり、より古参と思われる門番の妖怪には厳しい言葉を投げかけるなど、序列上位の風格が滲み出ています。
初登場の『紅魔郷』ではその主人から「使えない」と言われてしまっていますが、相手が主人公ズだった(そしてその主人も負けた)ので、失態は水に流されたのかもしれません。

ちなみにその戦闘では、時空間を操る能力を存分に発揮……できません。
幻想郷で適用されているスペルカードを用いた決闘ルールでは、相手が回避できない弾幕を放つことができず、つまり時間停止中に敵を戦闘不能にするといった行為が禁じられているためです。
そのため、咲夜さんはナイフを弾幕として大量にバラ撒く攻撃を基本としています。
……いや、普通に危険じゃね?
ちなみに、ナイフの準備は簡単ではないようで、放り投げたあとはまた時間を止めて回収しているそうです。
裏には涙ぐましい努力があるんだなー。


ねぇ咲夜、何か良い歌持ってきて〜

変なの混ぜて持ってきそう
さて、今回は曲のシリアスさに引っ張られてマジメな解説になってしまったので、最後くらいゆるーく締めましょう。

こちらなど如何でしょうか、お嬢様

  • あたし色(原曲:亡き王女の為のセプテット)

綺麗なIOSYSさんから同じ原曲でおかわりのもう1曲。
我儘というより強欲な、レミリアらしい王女像がストレートなセリフで表現されています。
人生一度はこれくらい強く求められたい。

パチュリー様から、これも聴いておけと言付かっております

  • 笑顔のままで(サークル:はちみつれもん)

二人の別れを咲夜さん視点で描写した1曲。
タイトルの意図を理解すると……
サークルは違いますが、一緒に聴くことで涙腺を緩める効果がより一層高まります。


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