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脳内晩酌

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何年ぶりだろう。新宿ゴールデン街。
ギシギシいう階段を上って鍵のかかったドアのすりガラス越しに中をのぞいていると、開店前の店の中から声をかけられた。

「ちょっとあんた、久しぶりじゃないの。
おばちゃんになっちゃったね」

そりゃそうだ。考えてみたら10年はこの店に来ていない。…それにしても相変わらず無駄にでかい声である。

私はこの治子ママのつみれ汁が大好きで、大学生の頃はよくこの店に通ったものだった。

「今日はたけのこだよ」と言うことで、茹でたての糠がついたたけのこの皮を、アチアチ言いながら2人で剥く(もっと早くに煮て冷やしておけば良いのに!)。

「ほら、飲むかい?」と聞かれたので「タダなら」と言うとキンミヤ焼酎をコップに注いでくれた。「レモンください。」と言ったらくれたけど「ホッピーにするなら400円」と言われたのですかさずご辞退する。

たけのこの皮を剥きながら
「ヤスダさんが亡くなった」とか。ふむふむ。
「あとさ、あんたとちょっとアレだったワタナベさん、知ってる?仙台に帰っちゃったの」
…シラネ。
別にどうでもいいです。アレでもなかったし。

2時間くらいダラダラと話をして、なんとなくもう話題がなくなったのと、これ以上長居すると金を取られそうなので帰ることにした。
午後6時。開店まであと1時間。

「来年になったらまた来るかも」って言ったら
「あんたそう言ってて10年来なかったでしょ」
…なんだ、ちゃんと覚えてたんだね。

かばんをガサゴソしてキンミヤ焼酎のお金を出そうとするとママはそのお金は受け取らず、小鉢を出してくれた。
「あれ!つみれ汁じゃん。もっと早く出してよ」
忘れてたけど、ママのルールではこのつみれ汁は客が帰る前のシメなのであった。

「じゃあ。また来るかも」ともう一度言うと
今度は「またおいで」と答えてくれた。
…たぶん当分行かないけど。

新宿、ゴールデン街、三都物語。
次に訪ねるのはいつだろう。

____以下説明____
今日の脳内晩酌。完全なるフィクション。
本当は「二都物語」
(治子ママなんて人はいない)

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