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CHANEL EGOISTE

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私を抱きしめたその男からは
シャネルのエゴイストのにおいがした。
ほんのり汗をかいた彼の胸に顔を埋めながら
「ああ、このにおいはこの男にぴったりだな」
ぼんやりと私は思った。

その男の名はエフゲニー・プルシェンコ。

なーんて、なんだか素敵なロマンスみたいだ。

先日シャネルを通りかかった時、エゴイストのにおいで唐突にその時の事を思い出した。
においって「見る」や「聞く」と違って、こちらの思惑はお構いなしに入ってきてしまう情報である。

もう何年もずっと思い出しもしなかった人の事を、名前さえ忘れていたその人との思い出を、そのにおいによっていきなり思い出して、切なくなったり、嬉しくなったり。
だってにおいを記憶してるくらいだから、それがどんな関係だったかに関わらず、かなり近しい関係だったって事だ。
そして普段忘れているって事は、その人はもう身近にはいないって事でもある。
仮にその人との関係が「現在進行形」だとしても、その人は「今、この瞬間」は自分の近くにはいないと言う事実。

だから私もそんなふうに他人に自分を印象付けたくて、自分のにおいをずっと探してるんだけど、いつまで経ってもいまだにしっくりとくるにおいに巡り会えない。

「大人になったらシャネルの香水をつけたい」

漠然と憧れていた子どもの頃。大人になって肌に乗せてみたら5番も19番もピンとこなくて寂しかった事。

10代、20代の時はポーチュガルや資生堂の薔薇のオーデコロンを使っていた。30代になった時、オリジンズの生姜のオーデコロンに出会って、それからはなんとなくそれを使っている。
でもなんだか、その行為は、自分でお気に入りのにおいを楽しんでいるだけで、それはそれで楽しいのだけど、
「においで自分を他人に印象付ける」
と言う密かな野望には足りないなと思う。

香水をつける、と言う行為は、
自分だけの小さな楽しみ、自己満足であり、
他人に対しては自己演出なのだ。

EGOIST
私がシャネルで唯一好きなにおい。
大好きな男が私を抱きしめた時のにおい。
エフゲニー・プルシェンコ。
フィギュアスケート界随一のエゴイスト。
なんとまあ、自分を知っている素敵なエゴイストだろうか。

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