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一人勝手に回顧シリーズ#マーティン・スコセッシ編(13)#アビエイター/大航空王

【映画のプロット】
▶︎地獄の天使
"QU。"
"AR。"
"ART。"
"INE、AR。"
"ANT。"
"INE。"
裸の少年は、水を張った大きなたらいの中に立ち、母親に、石鹸で洗われる。
"QUARANTINE. "
"QUAR。"
"ANT。"
"INE。QUARANTINE. "
"コレラは?"
"知っている。Mam. "
"黒人の家に、張り紙が。"
"見たよ。"
"チフスは?"
"知っている。"
"危険な伝染病よ。"
"Yes mam. "
"用心しないと。"

複葉機。
"今日の空中撮影は、絶対にやめてくれ。"
"僕に、できないとは、言わせないぞ。"
1927年ハリウッド
"大編隊の横転飛行は、危険過ぎる。"
"映画のクライマックスだ。死んでも撮るぞ。"
長じたハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)が言う。
"ルローヌ・エンジンは、軌道角60度でも停止しない。"
"カメラが、2台足りない。シーンを削ろう。"
"カメラは、調達する。5分後にリハーサルだ。"
"Mr ヒューズ。ノア・ディートリッヒです。"
"凄腕のディートリッヒだな。履歴書を見た。どんな人材を探していると?"
"ヒューズ・ツール社の幹部ですね?財務を統括する人物。"
"相応しい人材を探している。1つだけ、忘れるな。両親が他界して、僕が、遺産を相続。うちの本社が反対しても、金は、好き勝手に使う。それが、僕のルールだ。You got it? "
"はい。"
"Good. 前の年俸は5,200ドルだな。1万ドル出そう。"
"2倍働きます。"
"4倍働けば、君を半額で、獲得した事になる。採用だ。スポークスマンになれ。僕の事は、『ジュニア』でなく、『Mr ヒューズ』と呼ばせろ。"
"いつ、ヒューストンへ?"
"行かない。1913年に、コレラで、2,000人死亡。あそこは、疫病の巣だ。チフス、マラリア、コレラが、蔓延している。見るがいい。これが、世界で一番でかい個人の空軍だ。"
切り開かれた空港に、沢山の複葉機が停まる。
"どう思う?"
" Your money. "
"エンジン・スタート。"
"Hell's angel"撮影1年目
一団の複葉機が、空を上って行く。
"Coconut Grobe"
ダンスホールは、男女で賑わう。
♪天国に梯子をかけよう
 新しいステップを毎日 作ろう
 天国に届くまで あきらめない
 僕のそばから どうか離れないで 
 空は晴れているのに 僕の心はブルー
 靴よ 軽やかに進め
 天国に梯子をかけよう
 新しいステップを毎日 作ろう
ハワードは、一人、フロアを歩く。
"ブラウニング監督の『真夜中のロンドン』を見た。ロン・チェイニーは、見事な怪演ぶりだよ。まず、ヒット間違いなしだ。"
"メイヤーさん。覚えていますか?ヒューズです。ちょっとお話が。"
"Yeah. 飛行機の映画を撮っているとか。"
"Exactly. 『Hell's angel』です。"
"Yes."
"そこで、相談ですが、カメラが数台、必要です。"
"Yeah."
"正確には、2台。大規模な空中戦を撮る予定ですが、カメラが2台足りません。MGMの協力を。"
"協力?" 
"カメラです。"
“我々は、通常、ライバル会社には、協力しない。"
"今、カメラは何台?"
"24。"
メイヤーは、咳き込む。
"待ってくれ。24台もあるのに、後、2台必要だと?" 
"That's right. Yeah."
"不足か?"
"足りません。"
"そう言われても。カメラは、すべて使用中だろ?"
"2台だけでも。"
"お若いの。"
"ハワードです。"
"ハワード。助言しておくが、稼いだオイル・マネーは、掘削機で稼いだ金は、銀行に預けろ。このまま、映画を作っても、配給はできん。誰にも見て貰えず、オイル・マネーも使い果たす。それが、ハリウッドだ。"
"覚えておきますよ。メイヤーさん。"
"Good luck."
"26台なんて、正気じゃない。"
ハワードは、またフロアを歩き回る。
"ズボンを見ると、酷い有様さ。"
男が立ち上がる。
"Boss."
"もう行け。"
女を払う。
"酒だ。"
"ミルクを。フタ付きのままで。"
"大御所は?"
"あのクソ爺い、1台も貸す気がない。"
"今あるカメラで、辛抱を。"
"いい映像が撮れない。"
男が吸っているタバコを取り、グラスに入れる。
"この作品に、僕の名誉がかかっている。失敗したら、本社に戻って、一生、掘削機作りだ。"
"24台で行けます。デミルの話によれば、キリストの磔刑シーンを撮影していたら、農業トラックが現れ。"
"ジョニー。ジョニー。ジョニー。"
"うちの広報担当だろ?"
"Ya."
"ハリウッドの表と裏を知っているな?"
"Ya. Abusolutely. "
"だったら、任せろ。To me."
"Oh yeah."
"葉巻、タバコ?"
売り子がやって来る。
ステージのシンガー。
"踊ろう。"
"テルマ。ほかの店かと思ったよ。トレキシー...、テレサ..."
"マーガレット。"
"マーガレットは、元気か?" 
"紹介しろ。"
"I'm sorry. テルマ。ヒューズだ。カメラを、どう捻り出すか、相談中でね。"
"Cigarettes? "
"要らない。吸わないんだ。君のセクシーな魅力に、クラクラする。頼みがある。僕のために、笑ってくれ。"
テルマは、笑顔を作る。
"上唇が薄い女の笑顔は、たまらないね。美女は、どうすれば、喜ぶのかな?こうやって、そっと触れたら、喜んでくれるかな?この指先で。感じる?どう?君を喜ばせたいんだ。君の事を知りたい。何もかも、すべて教えてくれないか?"
"30分で、仕事がオフよ。"
"僕の部屋は。"
"217。"
"217だ。See there. "
"ジョニー。ユニバーサルとワーナーから、カメラを2台調達しろ。借りられなきゃ、盗め。"
"やりますよ。必ず。"

モノクロの飛行場の映像。
"ヴァンナイズは、噂で持ち切り。テキサスの実業家ハワード・ヒューズ氏が、大金を投じて、映画製作。137名のパイロット。87機の戦闘機。35人のカメラマン。2,000人のエキストラ。実戦より金のかかる大作は、いつ完成するやら。"
"駄目だ。こんなにゆっくり飛んでいたら、模型と同じだ。"
試写室のヒューズは、怒る。
"Son of the bitch. "
"ハワード。"
"飛行機の背景に、何がなければ。スピード感が出ない。動きを比較できないからだ。UCLAから、優秀な気象学者を、1時間で引っ張って来い。Right? "

夜の飛行場。
"いい知らせか、悪い知らせか。"
"悪い知らせを。"
"450星型だと、振動に耐え切れず、エンジンをかけると、ヒビが入る。"
"Good news."
"ない。"
"450型エンジンが、デカ過ぎるなら、どうする?"
"すべて試して、お手上げだ。燃料タンクを空にすれば、時速288キロは出る。"
"320は、欲しい。"
"セダ・バラにふられそうだ。"
"あきらめるな。エンジンを支えられなければ、支柱を取っ払え。"
"上翼が落ちる。"
"落とせ。" 
"What?"
"『上翼が必要だ』と誰が言った?必要ないさ。"
"Monoplane?"
"フランスじゃ普通だ。上翼も支柱も、要らない。"
"550型ワスプ・エンジンを。"
"ハイオクで、凄い馬力が出るぞ。"
"700馬力。"
"1,000馬力出れば、世界最速機だ。"
"既に、20万ドルも、この飛行機に注ぎ込んでいます。"
"端金さ。"
"オーディ。造り直しだ。"

気象学者。
"あなたがご所望の入道雲ですが、形は。"
"満タンのデカパイのような雲だ。"
"さよう。盛り上がった巨乳のような雲です。だが、いつ発生するかは、保証できん。だから、待たねば。"
"I'll wait. UCLAの給与の2倍払う。僕のために、雲を探せ。雲を探せ。雲を探せ。"
"よろしく頼むぜ。"
"どうも。"
奥にいた男が、瓶を掲げる。

"ベース・キャンプ"
男が、車で乗り付ける。
"雲待ちで、撮影延期"
ヒューズが気象学者を伴い、現れる。
"サンタクルーズにも、サンディエゴにもない。ベーカー・フィールドにも。8か月待った。雲は、どこだ。"
"移動したんです。雲は、動くんですよ。それが、雲ってもんだ。1日5,271ドル費やして、飛行機は、飛べないままだ。早く、雲を見つけろ。"
"『地獄の天使』撮影2年目"
"Nice day."
男が言う。
"よく言うぜ。"
"本社が、頭を抱えている。"
"会計報告するな。"
"違法です。"
"違う。ただのズルだ。"
"テキサス州の法人だから、会計報告が必要です。"
"新たに、ヒューズ・エアクラフトを設立だ。リベットは、必要か?"
"固定しないと、外れる。"
"邪魔だ。何とかしろ。"
"空気抵抗を?"
"なくせ。"
"カリフォルニアは、法人税が高い。"
"上手くやれ。"
"ヒューズさん。オークランドです。"
気象学者が、走って来る。
"雲が出てます。"
"今か?"
"Yes."
"間違いない。I promise. オークランドに雲が。"
"そう興奮するな。"
"オークランド!オークランドだ!オークランドに飛ぶぞ。"
一斉に、飛行機めがけて、駆けて行く。
雲を背景に、飛行機の編隊が飛ぶ。ヒューズも、飛行機の先頭に乗り込み、カメラを回す。
"左へ急降下。"
カメラが飛ぶ。ヒューズは、ハンディカメラを回す。黒煙を吐き、降下する飛行機。交差し、乱舞する飛行機。
"完璧。"
"HELLS ANGEL''の文字を添えた飛行機の氷塊。
"2年の苦戦の末に、『Hell's Angel』が完成。今夜は、打ち上げパーティーです。製作費は、何と200万ドル。全国民が、チケットを買えば、利益が出る計算です。"
"入道雲が見つからず、飛行機は待機。次から次へと災難続きの撮影だった。そうだろ?撮影が、無事に完了すると思ったか?"
"Come with me."
モノクロの映画。
"ママ。ショーが成功したら、引っ越そう。ブロンクスに住む。緑豊かで、ユダヤ人も多い。ギンズバーグ、ゴールドバーグ、ユダヤ名が、溢れている。"
ヒューズは、男に言う。
"観衆は、これを求めている。サイレント映画は、古い。"Hell's Angel"は、トーキーに。"
"部分的?"
"全部だ。覚悟しとけ。170万ドルの追加だ。"
"No."
"きっと儲かる。何とかしろ。"
♪ブルースカイが 僕に微笑みかける
 見えるのは 澄んだ青空だけ
"地獄の天使"撮影3年目
"ヒューズ氏は、オフィスで、来る日も来る日も、全長40kmのフィルムを編集中です。"
ヒューズは、一人、フィルムを試写する。
"Who is it? Come in."
"本社と電話で3時間も、帳簿操作の話をした。"
"Wait, wait."
ヒューズは、電話を取る。
"10巻目のシーンが、ダブっているぞ。チョコチップ・クッキーを10個持って来い。表面に、チョコがないクッキーだ。Got it?"
"10巻目のシーンは?"
"No. 10巻目は覚えてないし、内容も知りません。私もあなたも、ビジネスマンです。Look. 遊びは十分です。大いに楽しみました。毎日、2万5,000ドルの支出ですよ。Every day. "
"So? どうしろと?"
"選択の余地は、ありません。店仕舞いです。勇気ある撤退を。本当に残念ですが。"
ヒューズは、頭を抱える。
"10巻目です。"
"本社を抵当に。全資産を抵当に入れろ。"
"失ったら。"
"I won't. I won't."
"All right. そうします。"
"頼むぞ。"
ヒューズは、指先を見つめ、両手を掲げ、指を見つめる。

"ハリウッド大通りは、50万人の人垣。ご覧ください。4万5,000台の車で、道路は大渋滞です。ハワード・ヒューズは、感無量。"
"株式市場が暴落。パイロット3人が、死亡した末に、400万ドルの超大作が誕生。"
"映画史上、最大の製作費は、彼にすれば、小遣い程度。"
ヒューズは、女優と正装して、車列に加わる。
"これほどの人手は、過去にも、未来にもないでしょう。スターやセレブを見ようと、ひしめく50万人の群集。"
上空を飛行機の編隊が飛ぶ。
"海兵隊の3っつの中隊と、250人の警官が、交通整理に当たっています。"
"ハリウッドの部外者が作った初めての作品。陰口を叩く映画人も。" 
ジョニーは、ヒューズを迎えるべく、人払いする。
"いよいよ主役の登場。"
"ヒューズ氏の車が、着きました。彼が、エスコートするのは、ジーン・ハーロウ。この作品で、デビュー。輝くプラチナ・ブランドと曲線美の新人スターです。"
2人は、盛大にカメラのフラッシュを浴びながら、カーペットの上を歩く。
"ハワード。"
"ヒューズさん。何か一言。"
"待望の夜ですね。"
"記念すべき夜ですね。"
"盛大な夜だ。"
"超大作について、コメントを。"
"Yes. "
"正直なところ、400万ドルも自費を投じて、不安じゃありませんか?"
"作品を楽しんでください。" 
"それでは、ご紹介しましょう。主演女優のMiss ジーン・ハーロウ。"
"Thank you. この場を借りて、チャンスを与えてくれたヒューズ氏に、感謝します。Thank you."
"名優R.アーバックル氏が、ペットを紹介してくれます。"
"名前を間違えるな。"
"I'm sorry. R.ターナー氏とギルモア君です。"

"HELL'S ANGELS"
沸き立つ雲。空中の銃撃戦。
ゲストたちは、映画を見る。
"撃て。"
敬礼しながら、将官が倒れる。 
飛行船が、撃墜される。
"やったぞ。"
"政治家が始めた戦争は、ただの殺し合いだ。"
ヒューズは、女優の手を握る。
荒地を進軍する兵士たち。
映画が終わる。スタンディング・オベイションが起こる。
"立って、挨拶を。"
女優が、促す。ヒューズは、立ち上がる。

"4巻目が、長過ぎて、観客が退屈していた。シーンを少しカットする。グレンを呼べ。リベットを打て。" 
"そうだ。"
"急いで。"
ジョニーが招く。
ヒューズと女優は、群衆の前にも立つ。
"見逃せない話題作。言葉を越えた映像美。久しぶりに、甦る感動。400万ドルならではのスリル。他の作品が、色褪せて見えます。"
♪忘れられない夜を ありがとう
 こんな夜は 2度と来ないだろう
 熱い思い出が 僕の胸をよぎる
 懐かしいメロディー
ビーチでの映画撮影。女優、スタッフが、空を見上げる。1機の飛行機が、雲の中から現れる。
♪あなたを愛し そして失った
 君を愛した事に 悔いはない
 どんな代償にも 優る恋
飛行機は、海上を旋回し、海に着き、ビーチに乗り上げる。
♪僕は世界を手に入れた
 たった1日だけの皇帝
 あなたにありがとう 僕を導いてくれた人
 パラダイスへ
飛行機から、ヒューズが降り立つ。
♪あなたと別れても 感謝は忘れない
"明るいシャドーにしないと、フランケンシュタイン顔よ。"
ヒューズが、K.ヘプバーン(ケイト・ブランシェット)に声を掛ける。
"雑誌で読んだが、ゴルフをするそうだな。"
"On occasion."
"Have a 9hole. "
"今から、ヒューズさんと?"
"手合わせを。Miss ヘプバーン。"
 
▶︎K.ヘプバーン
2人は、ゴルフをプレイする。
"フォロースルーが駄目ね。ゴルフも人生も、仕上げが大事よ。でしょ?『暗黒街の顔役』は、暴力的よ。"
"Reallitics. "
"映画と現実は、違うわ。演劇の方が、リアルよ。生身の人間が、目の前で演じるわ。ポップコーンを食べながら、見るのは失礼よ。Do you like theater? "
"No."
"私は、大好き。生の舞台は、最高。イプセンを教えてあげる。共和党が禁止しなけりゃね。1932年の選挙は、共和党に投票?"
"棄権だ。"
"選挙権を、どぶに捨てるなんて。"
"ジンジャー・ロジャースを口説いたそうね?"
"ただの友達だ。"
"あり得ないわ。女は、抱くか、捨てるか。原始時代から変わらない男の衝動よ。獲物を追い、殺して食べる。これが、男ってもんよ。"
"Excuse me?"
"耳が遠いようね。補聴器を付けたら?父は、泌尿器科医で、体は全部つながっているって。私の健康法は、1日7回のシャワー。だって、アウトドア派だもの。と言うより、スポーツ派ね。よく汗をかくの。お互いの真実が分かったわね。汗かき女と耳の悪い男。ミスマッチのコンビね。"
ヘプバーンのパットで、入る。
"3。"
ヒューズのパットは、ショートする。
"立派な心掛けね。私を口説く積もり?そうね。"

ヒューズが、機体を、入念にチェックする。
"駄目だ。リベットの頭は、沈めろ。ネジも継ぎ目を平らに。空気抵抗をゼロにしろ。cleanに仕上げろ。cleanだ。Do you understand?"
"OK. "
"話にならない。"
"何だ?"
ジャック・フライTWA幹部。
"TWAには、新型機が、必要です。"
"どんな?"
"DC-3は21座席、寝台席が14です。" 
"大型機を?"
"50席で、上昇高度は、3,658m。"
"いや、6,096mだ。高度6,096mなら?"
"揺れない。"
"そうだ。高く飛べば、天候に左右されない。旅客機に乗ったアメリカ人は、わずか1%。死ぬのが、怖いからだ。高度2,134mは、揺れる。もっと上を飛べば、男性も女性も子供も、安心して乗れる。亜成層圏を飛べる飛行機なら、国を飛び越えて、世界を横断できる。未来はそうなる。分かるか?"
"Yeah."
"率直に言え。TWAの重役陣は、僕の案を支持するか?"
"ケチな連中だ。"
"財政的には?"
"厳しい。"
"赤字は?"
"77万ドル。"
"株価は?"
"8ドル。"
"底値だな。やるぞ。"
"何を?"
"買収だ。"
"航空会社を?"
"飛行機造りを、事務屋に妨害されたくないだろ?TWAを支配するのに、必要な株の総額は?"
"1,500万ドル。"
"べら棒だな。"
"ディートリッヒに買収させろ。"
"待って。You sure? 5分考えてみては。"
"虎の尾をつかんだら、絶対に離すな。"
ヒューズは、言い残して、去る。

テディは、ヘプバーンを伴い、Coconut Grobeを訪れる。 
"いらっしゃいませ。お席にご案内します。飛行は?"
"順調だ。"
"I'm so grad. Good evening, Madame"
"Miss よ。"
"Miss."
"いつも通りに?"
"そうだな。"
"ご婦人には、スープと野鴨のロースト。デザートは、バラ風味ソースの洋梨が最高です。"
"美味しそう。"
"お気に入りの店なのね。意外だわ。"
"ホットドッグも食うさ。朝の4時までやっている屋台で。"
"4時まで?Marvelous. "
♪僕の足はご機嫌
 低音ビートが響くと すぐ踊り出す
"ハワード。"
ジョニーが、ヒューズを見つける。
"Hi 隅に置けないな。"
"ジョニー・メイヤー。うちの広報担当だ。"
"大ファンです。"
"嬉しいわ。"
"エロールだ。"
"フリンさん。"
"高貴なボストンなまりの素敵なヘプバーン。石鹸は、『ラックス』を?"
"エロールと共演したら?"
エロールが、隣のテーブルから、何かを持っていく。
"持っていくな。"
"名案じゃないか。"
"無理よ。ヴァラエティ誌曰く、私は、『客を呼べない女優』。そっぽを向かれて、賞味期限切れらしいわ。"
"放っとけ。ゲスな映画人ばかりだ。ジョニーの話じゃ、西部劇を撮るって?"
ヒューズは黙っている。
"西部劇を撮るの?ハワード。"
"そうだ。題名は、『ならず者』。"
"何を隠そう。SEX映画さ。ずばり、SEXだよ。"
ジョニーが、茶化す。
"Western."
"濡れ場は駄目だ。"
"本番のSEXじゃない。"
"『暗黒街の顔役』はギャング映画、『ならず者』は西部劇。SEXと暴力で味付けする。"
"タバコを。"
"食事よ。"
"肉と豆12粒とミルクです。"
"またタバコか。"
"2人は、食事を注文したの?席に戻って、食べたら?"
"夜は、長いさ。"
"ハワード。"
エロールが言う。
"SEX scene を、マジで入れるなら、オーディションの審査員に、僕を加えろ。"
豆を1粒つまみ、食べる。ヒューズの顔が険しくなる。
"才能を見抜く目がある。そうだろ?"
ヒューズは、ナイフとフォークを投げ出す。
"タイツの衣装は、最悪だな。"
"でも、あの映画で、ヨットを買った。"
"週末、カタリナ島でセーリングだ。"
ヘプバーンが、心配そうに、ヒューズを見る。
"楽しそうだな。" 
"行こう。"
"オリヴィア・デ・ハヴィランドと美人の姉を招きたいが、母親について来られちゃ、手も出せない。"
ヒューズは、しきりに食べかけのステーキのプレートを見る。
"あの清純なイギリス姉妹を襲おうぜ。"
"どうだ?"
ヒューズは、引き攣った笑いを浮かべる。
"I got go. 悪いが、これから行く所がある。"
ヘプバーンも席を立つ。
"お楽しみか?"
"では、失礼。"
"梨を注文したら、どう?最高ですって。"
"ヒューズ氏のお帰りだ。"
"何だ。"

"私のヒーロー。映画界のネタって陳腐ね。"
ヘプバーンは、ヒューズを気遣う。
"ムッソリーニの話題の方が、マシよ。どこに行くの?"
"アドベンチャーは?"
"お気に召すまま。"
"英国のクソ野郎。"
"タスマニア人だ。"
殴り合いの喧嘩が始まる。

ヒューズが操縦する飛行機で、2人は、夜の街を見下ろし、遊覧飛行する。
"メイヤーの屋敷だ。次は、ワーナー邸だ。"
"操縦桿に、何が?"
"セロファンさ。他人の手は、バイ菌だらけだ。"
"バイ菌って?"
"知らない方が、いい。"
"握って。"
ヘプバーンに、操縦桿を渡す。
"緊張しないで、力を抜いて。"
"エンジンの振動を、指先に感じるだろ?どう。"
"感じるわ。"
"その調子だ。"
"凄いわ。"
"操縦を頼むよ。"
"Where are you going? "
"ミルクを飲むだけさ。進路は、そのまま。"
"All right."
ヒューズは、後部シートから、ヘプバーンの顔を見つめる。
"ハワード。目の前の山にぶつかるわ。"
"操縦桿を少し引け。Go on."
"スッゲー。"
"スッゲーなんて叫ぶ女性は、生まれて初めてだよ。"
"All right? 代わろうか。"
"コツをつかんだわ。"
"ミルク、飲む?"
"飲むわ。"
ヘプバーンに、ミルクを飲ませる。
朝焼けの中、飛行機は着陸する。
"もう、最高。また水曜日に乗らない?ゴルフには、早いわね。"
"あそこが自宅だ。1杯どう?"
"勿論。パー4で、操縦をマスターね。"
2人は、家に入る。
"デザイナーに、壁紙や室内装飾をやらせたが、悪趣味なゲイでね。この部屋は嫌いだ。ぞっとするね。まるで、インテリア雑誌の最新号だ。"
ヘプバーンからキスをする。
"好きな部屋は?"
"書斎だ。"
"連れてって。"
ヘプバーンは、ヒューズの服を脱がす。ヒューズも、ヘプバーンの上着を取る。
"君は、本当にノッポだな。"
"肘も膝も、尖っているから気をつけて。"
2人は、書斎のソファに寝そべる。
"明日は、飛行機で、撮影所へ。"
"もう明日だよ。"

ヒューズは、飛行機の機体を撫でる。笑みを浮かべる。スタッフは、安堵する。単葉機となり、リベットの頭は、埋め込まれる。
1935年9月13日速度記録挑戦
"燃料メーターから、目を離すな。2周分しか入っていない。使い果たせば、ガス欠で、墜落死だ。"
"Right."
"気楽に飛ばして、速度や記録を考えるな。"
"パイロットが、20人もいるのに。"
"こんな楽しみを、譲るもんか。じゃな。"
ヒューズが、テスト機に搭乗する。
"始動。"
滑走の速度を高め、飛び立つ。
1周目。
"時速542キロ。"
"凄いぞ。"
"555。"
"いけるぞ。"
"563。"
歓声が上がる。
"いい子だ。"
ガス欠となる。プロペラが止まる。
"クソ。燃料切れだ。大変だ。"
"落ちるぞ。行くぞ。"
ヒューズは、作物畑に着陸し、滑走する。スタッフが、車で追う。
飛行機は止まり、ヒューズが、涼しい顔で、期待に体を預けている。
"ハワード。"
"記録は?"
"最後は、時速563キロだ。"
"まだいける。"

"どこだ。ケイト。"
"2階にいるわ。"
ヒューズは、片足を引きずりながら、階段を上がる。
"Hello. 大変。What happened to you?"
"着陸時に怪我した。"
"手当てするわ。どうだった?"
"まだ信じられない。羽の生えた弾丸みたいな凄い速さだ。"
"記録は?"
"時速563キロ。"
"You did it."
"地球最速の男さ。"
"やったわね。あなたを誇りに思うわ。"
"飛行機も。"
"そうね。"
"大した飛行機だよ。"
"足を見せて。"
"血だらけじゃないの。"
"No no. 赤かぶ畑に落ちて、赤く染まった。"
"What?"
"畑に不時着さ。"
2人は、声を上げて、笑う。
"綺麗にしてあげる。これは、ビニールテープ?"
"オーディが、巻いた。僕が、考えていたのは、君と会う事だけだ。"
キスする。
"I'm so proud of you."
"痛いわよ。"
"剥がれないわ。バスルームに来て。染みをつけないで。"
"大丈夫だ。"
"熱いよ。"
"ゴネないで。"
" Press there?"
"数人ほど。今頃は、情報が伝わって、大騒ぎだ。What is it? ケイト?"
"私は、有名人として生きて来たわ。Longtime. それが、どんな事か、分かる?"
"『Hell's Angel』で叩かれた。慣れているさ。"
"Are you? 私達は、皆んなとは、違うのよ。いつも極端に走るし、奇行も多いわ。だから、気をつけなくちゃ。記者を近づけたら、freaks扱いされるわ。"
"ケイト。ここなら安全だ。"
"踏み込んで来るわ。私の兄が自殺した時、葬儀を盗み撮りされた。礼儀もありゃしない。"
"よく思うんだ。僕の性分について。そう思い込んだが、最後、無我夢中になる。とてつもない未知への挑戦なんだ。"
"Yeah."
"でも、時々、怖くなる。正気を失いそうで。正気を失えば、どこに飛んでいくか、分からない。"
"Do you understand?"
"飛び方を教えてくれた。私がついているわ。"
ヘプバーンは、ヒューズの頭を包む。

"4日間で世界一周"
"大空の寵児、H.ヒューズが、『80日間世界一周』の夢に挑戦。NYを飛び立って、4日で、世界一周。ワイリー・ポストの記録を、3日縮めて、新記録達成。単葉機で、無事に帰還しました。彼こそ、空の勇者、航空界のパイオニアです。リンドバーグのNY・パリ間の記録を、半分に短縮。NYを発って35時間後、シベリアの荒野を飛行。25時間後、リスクの高いアラスカ上空を通過。快調に飛び続けて、新記録を樹立。"
パンナム航空社長ホアン・トリップ。 
"彼とクルーの次なる目標は..."
トリップは、執務室のラジオを切る。
"信じられない事に、彼は、TWAを買収しました。"
"空を飛んでいた筈だろ?"
"飛行中に、無線で指示を出したようです。"
"気がかりな噂のある男だ。彼について、すべて知りたい。情報を集めろ。すべてだ。"

"パンデージズ劇場は、フラッシュの嵐。"
セレブ達が、劇場に入る。
"こっちを向いて。" 
"世界一周の感想は?"
"挙式は、いつ頃?"
"カメラに向いて。"
"次の映画について、一言。"
"次の記録に挑戦を?"
"少しは、笑ってくれよ。"
"目線を。"
"こっちを見て。"
"また世界一周を?"
"今度は、ケイトと世界一周飛行ですか?"
"リンドバーグ氏と話しましたか?"
"リンダ・ダーネルは?"
"こっちを向いて。"
 
"リンドバーグより有名人に。あなたの人気ぶりに、私も片なしね。LB. "
メイヤーのテーブルに行く。
"いつも、堂々として、すぐ分かるわ。"
"とても綺麗だよ。"
メイヤーは、ヒューズに、手を上げる。ヒューズは、いらいらする。
"心配ないわ。ハワード。ご機嫌取りも、女優の仕事のうちよ。"
エヴァ・ガードナー(ケイト・ベッキンセイル)が、声を掛ける。
"『南部のメス虎』エヴァ・ガードナーは、輝く美貌。スターの銀河帝国MGMの新人女優です。"
"『ジェーン・エア』を撮れば、きっと大当たりするわ。"
ヒューズは、洗面室に行き、ため息をつく。持ち歩いている石鹸で手を洗う。" 
大のブースから、松葉杖を突いて、出て来た男が、不思議そうに見る。
"タオルを取ってくれんか。"
"悪いが、タオルは取れない。Sorry."
男は、ヒューズを睨みつけて、出て行く。
"私、馬鹿みたい。本当に悪かったわ。"
ヘプバーンが、階段に立って、待っている。
"もういい。"
"虚しく気取るだけで、何の取り柄もない女よ。"
"いや、君は、いい歯をしている。Com'on."
"また飛行機に乗せて。私が、操縦してあげる。"
"お好きなように。"

コネチカット州ヘプバーン邸
2人は、車を乗りつける。
"心配しないで。私の両親と、きっと気が合うわ。2人とも、あなたを気に入る筈よ。"
人々が、芝生の上で、思い思いに過ごす。
"Hello. Hello."
"キャシー。""キャシー。"
"カメラの男は、誰だ?"
"前夫のラドロー。両親のお気に入りなの。"
"なぜ、ここに。"
"入り浸りなのよ。"
"遅れてごめんなさい。"
"パパ。"
"おじさん。"
"お客さんだね。そう固くなるな。"
ヒューズは、ハンディカメラで撮影される。
"皆んな、ちょっと聞いて。こちらは、ハワード。"
"ハワード。Wellcome."
"食いやしないよ。"
犬が、ヒューズにまとわる。
"珍しく好かれたようだな。"
"芸術を愛する仲間とコロニーを作っているの。ジュリアンは、抽象画家。写真があるのに、具象を描く必要ないでしょ?"
母親がまくし立てる。
"ハワード、政治的な立場は?"
"Excuse me?"
"私達は社会主義よ。"
"違うわ。"
"ルーズベルトをどう思う?"
"笑っている。"
"笑った。"
"No. 犬が、足にじゃれついて。"
"Don't you like a dog?"
"ルーズベルトを笑うのは、許せないわ。"
"違います。"
"犬は?"
"悪い経験が。"
"彼の方が有名で、むかつかないか?"
"犬で、嫌な経験が?"
"いえ。"
"シャイだな。"
"小型犬だったのね。記者は、卑劣よ。"
"ドーベルマンかダックスフントに、吠えられたな。"
"違います。"
"ダックスは、小型犬よ。"
"兵士が、壁に並んで殺されるのは、スペインの絵だっけ?"
ヒューズは、皆で切り分ける肉料理に、顔をしかめる。
"ゴヤよ。"
"そう、ゴヤの絵だ。メキシコ人だ。"
"絵の題名は?"
"記者は、俗悪だ。読書は?"
"情報をsnuffするために、業界誌を。"
"snuff! "
"飛行機関係の雑誌?"
"何ですって?"
"耳が遠いの。"
"飛行機関係?"
"エンジニアリングや航空機の雑誌です。Aviation."
"読書は大好き。"
"彼は、業界紙を読んで、飛行機を設計するの。"
"設計の話を。"
"Very exciting. 例えば、陸軍航空隊の偵察機。これは、双発機で、ユニークなデザインです。後部には、2本のブームが。"
"ラドローが、巣箱を作ったの。そうよね?"
"駄作さ。"
ヘプバーンは、ラドローの顔を押さえる。
"確か、絵の題名は、『18××年5月』。ゴヤは、過大評価されているわ。"
"ピカソは、偉大よ。"
"私は、泌尿器科医だ。"
"いい巣箱よ。"
"ピカソは、怪物よ。"
"コウモリは、巣にこだわるわ。"
"確かに。"
"大きな声で。"
"Nothing. Nothing. "
"言いかけてやめるのは、耐えられないわ。"
"技術学校で、飛行機遊びかい?"
"そうじゃない。"
"3日間で、世界一周したのよ。"
"聞き飽きた。"
"犬の話も。"
"資金作りは?"
"お金には、興味ないわ。"
"金があるからだ。"
食卓が凍りつく。
"もう一度。"
"金に興味がないのは、十分あるからだ。"
ラドローが、何か言う。
"僕が話している。" 
"OK."
"Thank you. 生活のために働く者もいるが、僕は違う。飛行機遊びで、結構だ。Excuse me."
ヒューズは、席を立つ。
"気難しい男だな。"
"寄ってたかっていじめないで。"
"メイヤー氏に、『ジェーン・エア』の話を。"
"あの俗物じじいには、高尚過ぎるわ。新聞マンガより長いものは、読まないんだから。"

ヒューズは、外で、時間を潰す。
"球を蹴らないで、木槌を使って。"
ヘプバーンが、声を掛ける。
"戦場を逃げ出したら、誰にも尊敬されないわ。"
"君が分からない。家族といると、別人みたいだ。"
"あれが、家族の望む私の姿だからよ。でも、本当のケイトは1人。あなたのケイトよ。"

"航空映画のタイクーン。ヒューズが、大事業を計画。映画を編集する一方で、陸軍航空隊と密会。彼の愛国心に喝采。新型機が楽しみです。"
映写室。フィルムが、投影される。
"Uボートに沈められた連合軍の船は?"
"No."
"今年だけで、681隻だ。アメリカに必要なのは、軍隊を欧州に運ぶ新型機だ。船は、Uボートの標的になりやすい。"
"輸送機の設計を?"
"兵士だけでなく、何でも運べる大型機だ。ジープも戦車も。Take a look. "
女優の写真。
"The other side. 全長61m、翼の幅91m、2万4,000馬力だ。これこそ、軍が求めているものだ。"
"本気ですか。"
"巨大な飛行機だ。名付けて、『ハーキュリーズ』
いい名だろ?"
"総重量は?"
"200トン。"
"楽な仕事じゃない。このイメージで設計しろ。フロントを持ち上げて、下に掛かる力を支える。ジェーン・ラッセルのおっぱいを手本に。滑らかな曲線を、作り出せ。技術があれば、できる。"
"おっぱいを露出する映画に、上映許可が下りると?"
"Sure. おっぱいは、好きだろ?"
アメリカ映画協会 映倫委員会
ヒューズが現れる。
"Gentlemen. 遅れて済みません。"
"ヒューズ氏が到着したので、委員会を始めよう。では、議長。"
"ヒューズ。委員会のメンバーてして、『ならず者』を見たが、これほど受け入れ難い作品は、初めてだ。リオ役の女優が胸を見せるシーンは、映画のおよそ半分に及び、豊満な乳房が惜しげもなく、晒されている。よって、『ならず者』を猥褻映画と判断。映倫委員会は、承認印を押すのを、拒否する。以上です。"
"Mr ヒューズ。"
"Thank you. Mr chairman. ブリーンさんとは、前にもお会いした。『暗黒街の顔役』の暴力問題で。今度は、乳房の露出問題。露出過ぎると言う。今までの上映作品で、露出度が最も高いと。それを、覆してみせる。"
キャンバスにかかった布を取り払う。女性の胸元を写した写真が現れる。
"ジーン・ハーロウ。アン・シェリダン。アイリーン・ダン。クローデッド・コルベール。リタ・ヘイワース。ベティ・グレーベル。andジェーン・ラッセル。ラッセルの写真を除いて、すべて、ブリーン氏が、許可した映像です。どの作品にも、これらの乳房が登場します。ここで、私の友人を紹介しましょう。コロンビア大学のブランソン博士です。Dr.ブランソンは、著名な数学者です。では、博士に検証して貰いましょう。ミス・ラッセルの乳房が、他の女優と比べて、大きくない事を。Dr."
ブランソンは、両手を広げる。
"どうぞ。カリパスを。"
ブランソンが、写真の前に立つ。
"委員の皆さん、ヒューズさん。まず、この写真ですが、証拠乳房1番と呼びましょう。胸の谷間の長さを、ちょっと計ってみます。それでは、13cm3mm。次に..." 
"映画界の寵児ハワード・ヒューズは、大忙し。この幸運児は、毎晩、豪華なパーティーに、違う美女をエスコート。TWA社の宣伝を兼ねて、女優たちを連れ歩きます。"
"『ハーキュリーズ』です。『ハーキュリーズ』は、飛行機であり、ボート。そして、空飛ぶ都市です。"
ヒューズが、ジョニーに言う。
"支払伝票は、私に回せ。客に払わせるな。軍が、投資するか、しないか、今夜の気分で決まる。"
"はい。Boss."
"美女は、揃えたな?"
"巨乳美女が、ずらりと勢揃いですよ。陸軍航空隊の幹部に、ご賞味いただく。"
"700人の勇敢なアメリカ兵と戦車12台を収容できます。大西洋をひとっ飛び。Uボートの攻撃も届きません。ジュール・ヴェルヌに、想像できたでしょうか?フットボール場より巨大な翼を..."

ヘプバーン。
"私を侮辱する気?"
タブロイド紙を手に、怒る。
"ただのゴシップ記事だ。"
"毎回、違う女性とツーショット。屈辱だわ。"
"大袈裟な。" 
"J.クロフォード、G.ロジャース、L.ダーネル、J.フォンテーン、B.デービス。呆れるわ。"
"いいか。どの女も、3時のおやつだ。本気じゃない。"
"あら、very nice."
"君は、言ったろ?『男は肉食動物だ』と。ダーウィンの理論だ。"
"結婚後も、女漁りが、ずっと続く訳?"
"どっちが不満なんだ?女か?ゴシップ記事か?"
"アイスクリームは、食器で食べてよ。"
電話が鳴る。
"電話に出る積もり?"
"Yeah. オーディ。今は、都合が悪いんだ。アルミがないと、『ハーキュリーズ』は、造れない。Wait. No. よく聞こえる。大事な戦略計画だと、戦時生産局に伝えろ。ダグラスやボーイングと同じように、アルミをよこせと。"
"Don't set the icecream."
"アルミが無理なら、別の方法を考えろ。代わりになる合金は、どうだ。"
ヘプバーンは、踵を返す。

"駄目なら、木を使うしかない。"
"200トンの機体ですよ。"
車の中で、ヒューズは、打ち合わせ。ヘプバーンは、素知らぬ顔をしている。
"飛行機は、空飛ぶ船だ。船に使う素材は?"
"Oak."
"『ハーキュリーズ』は、飛行帆船だ。"
"1,200トンもある。"
撮影所に着く。 
"しっかり。"
頬にキスして、ヘプバーンを送り出す。
"軽くて、頑丈な木材を見つけろ。"
ヘプバーンは、楽屋に入る。
"Catch."
男優が、リンゴを投げてよこす。
"うちのリンゴだ。好きなら、送るよ。"
"ヒューズ氏とトラブル?"
"彼は、あまりにハワード・ヒューズであり過ぎるのよ。だから、トラブルに。"

ヒューズは、大型機に、乗り込む。
"素晴らしい。"
ロバート・グロスロッキード社長
"クリスマスも仕事かね。"
"油塗れの手で、済まない。"
"見せたいものが。"
"見てくれ。XF-11スパイ偵察機だ。すべて僕の設計だ。最大速度は、720キロ。敵機は、追いつけない。日本のゼロ戦に、H-1機のデザインを盗まれて、改良した。長年の夢の結晶だ。"
"美人だ。"
"OK. 見せたいものとは?"
持参した大型機の模型を見せる。
"驚きだな。"
"座席数60。翼の長さは37m。4つのサイクロン・エンジン。最高上昇高度は、7,620m。"
"総重量は?"
"39トン。翼面荷重19キロ。"
"空気抵抗が少ないな。最高巡航速度は時速544キロ?"
グロスらは、うなずく。
"航続距離は、4,800キロ。大陸横断できる。"
"Non stop."
"ボブ。とんでもない奴だな。"
ヒューズの顔つきが変わる。
"何か、ついているぞ。襟にくっついている。襟だ。Right there. 拭けよ。"
ハンカチを渡す。襟を払う。
"捨てろ。Over there. "
"名前は?"
"『コンステレーション』。変えるか?"
"No. No. Pretty. I like it. それで、どんな取引条件だ?"
"最初の40機を提供する。2年は、独占契約が結べる。"
"2年以上だ。他社は、これを使う発想がない。"
"パンナムより先だ。"
"How much?"
"1機45万ドル。"
"40機で、1,800万ドルか。TWAに、そんな金はない。自腹を切るしかないな。製造して、請求書を、ノアに回せ。感謝する。"
"航空史上最高額の発注を、するなんて。1,800万ドルの請求書が来た。"
"そう、かりかりするな。体に悪いぞ。"
"金がかかり過ぎる。"
"確かに、大金だ。"
"1,800万が、手元にあると、思いますか?"
"伝えるのを、忘れていた。"
"忘れていた?"
ヘプバーンが現れる。
"そうだ。また電話する。"
"冗談じゃない。"
"Honey. 帰りが早いな。"
"あなたは、泣かない人。私だって、同じよ。はっきり言うわ。ある人と出会って、恋したから、出て行くわ。もっと優しく言えたら、いいけれど。でも、無理だわ。お互いに。私達の恋は、大冒険だった。でも、続く訳ないわ。私達は、似過ぎているのよ。"
"男が出来たか?"
"私に、もっと相応しい人よ。"
"もっと相応しいとは、どういう意味だ?"
"私と、もっと波長の合う人よ。"
"僕を見ろ。演技するのは、やめろ。"
"演技してないわ。"
"何も分かっていないな。"
"皮肉はやめて。"
"君は、出て行くと?Go on. 行けよ。"
"女優は、安く手に入る。僕は、金持ちだからな。"
"あなたらしくないわ。"
"これが、本当の僕だ。出て行くとぬかす我が儘女を、丁重に見送れと?"
"もっと大人らしく、冷静に受け止めて。"
"偉そうに。見下した喋り方は、よせ。たかが、映画スターだろ?"
ヘプバーンは、何か返す言葉を探しあぐね、出て行く。
ヒューズは、大量の衣装を焼く。着ている衣装も焼く。

電話が鳴る。
"出ないで。"
ベッドの女が言う。
隣の男は、電話を取る。
"ハワード。" 
"Hey ノア。J.C.ペニーで、服を買って来い。"
"閉まってます。夜中の2時ですよ。"
"そうだった。明日の朝一番で、スーツを2着頼む。明るい色と暗い色だ。Yシャツとテニスシューズも。いや、待て。『ウールワース』で買え。いや、『J.C.ペニー』だ。"
"分かりました。できるだけ、早く買います。"
"録音機を?"
"No."
"会話を録音しているのか?"
"No."
"OK. Trust you. 朝一番にスーツが要る。All right?"
"All right."
"待て。『J.C.ペニー』か、『ウールワース』か?"
"ペニー。" 
"『シアーズ』にしろ。"
"『シアーズ』ですね。"
電話は切れる。 
"済まない。出ないと、鳴り続ける。"

▶︎試練
ヒールを履いて、歩く足元。
"そこで止まって。Miss ドマーグ。"
ヒューズは、指示する。
"美容整形は?"
"No."
"傷やあざは、あるか?"
"No."
"Wipe out lipstick."
口紅を落とす。 
"Much better. 私と契約を結ぶ意味が分かっているか?Pesonaly. You know?"
ドマーグは、ヒールを脱ぐ。
"回って。"
"Very nice. いい動きだ。"
"家族と生活を?"
"Yes."
"なるほど。もう一つ聞く。How old are you?"
"15。"
"まだ若いな。"
2人は、Coconut Grobeで、ダンスを踊る。
部下のカップルとテーブルを囲む。
"登下校は、車で送り迎えよ。高校は、卒業する積もり。ハワードは、教育が、大事だって。放課後は、発声練習と美容院とドレスの仮縫い。"
"驚きだな。"
"パンナムがクラブ経営?ジャック。ホアン、ヘレン、暫く。" 
"元気か。"
パンナム社長が、テーブルにやって来る。
"Good thanks. フェイス・ドマーグだ。"
"かけて。なぜ、ロスに?ダグラス社とDC-4の契約だ。パンナムが導入する凄い旅客機だ。『コンステレーション』は?"
"Good. 最高さ。"
"拝ませてほしいね。"
"無理だ。"
"レイ・ローウィを引き抜いたな?"
"内装デザインをやっている。"
"うちでもだ。So. 内装の色は?"
"秘密だ。" 
"パンナムはボタンか?ジッパーか?"
"I'm sorry? "
"どっちだ?寝台席のカーテンだよ。"
"ジッパーだ。"
"Ah."
"ボタンだ。"
言い直す。
"A ha."
"メキシコまで路線延長か?"
"なぜだ。"
"航続距離は4,800キロ。ロスからメキシコや南米まで飛べる。"
"名案だ。ペンはあるか?"
"大西洋横断だ。"
ヒューズは、言い放つ。
"Honey もう十分だろ?スプーンをくれ。手袋が、べとべとになる。"
"飛べるか?"  
"NYからニューファンドランド、アイルランド、パリ。"
"Well パンナムは、大歓迎だ。予約が、一杯でね。うちだけで、運行するのは、重荷だ。『コンステレーション』は?"
"来年就航だ。DC-4は?"
"Next year."
"Well 期待しているよ。"
"お互いに。"
社長は、席を立つ。
"次の40機を発注したよ。"
"It's Miss?"
"ドマーグ。"
"そうだったな。踊っていたのは、ルンバ?サンバ?"
"サンバよ。"
"サンバか。"
"君が、ダンスの名手とは、知らなかった。ではまた。"
"なぜ、手の内を明かすんです?"
"彼に、妨害させない。"
"パンナムは、全力で阻止する。特大のスコッチだ。"
"何も分かってないな。失礼する。"
ヒューズは、洗面室で、入念に、石鹸で手を洗う。擦り過ぎて、指を切る。シャツの染みが気になり、何度も洗う。
ようやく、気が済むが、ドアノブが気になり、出れない。人が開け、フロアに戻る。
"ジャック。ワシントンの部下たちに、連絡して、ジョーンズ商務長官との会合をセットしろ。"
"落ち着け。"
"アイルランドとフランス路線に進出するぞ。トリップも、次の手を考えている筈だ。"
"欧州よりメキシコを考えろ。"
"奴が、大西洋路線を独占するのは、許せない。フェアじゃない。奴は、パンナムと米国議会と民間航空局を支配。だが、空は独占させない。クソ野郎に、負けてたまるか。気取ったインテリどもと、ずっと闘って来た。ローウィは、くびだ。聞こえたな。トリップのスパイだ。ボタンの事がバレた。内部スパイだ。身内にスパイだぞ。"

夜。戸外で待ち合わせる。
"ハワード。"
"ローランド。"
"さてと。どんな用件だ。"
"写真が欲しい。ヘプバーンとトレーシーのネガを全部だ。公表は、やめてくれ。"
"トレーシーは、既婚のカトリックで、2人とも、映画スター。特ダネだ。"
用心棒が、車から降りる。
"行き先は、伝えて来た。"
"あんたを殺そうなんて、思っちゃいないさ。"
"How much?"
"売らん。"
"How much?"
"Not for sale."
"浮気しただろ?黒人女と寝たな?盗みや殺傷ざたは?"
"Good night, ハワード。"
"共産党の集会に出たな。"
"TWA株を貰う。"
"How much?"
"50thousands shares."
"10。"
"よかろう。"

パンナムの社長とブリュースター・メーン州上院議員。
"簡単には行かない。ヒューズは、与野党に献金して来た。ジャックが、ロビー活動をしている。英仏大使も、ヒューズ寄りだ。TWAは、国際線に参入して来る気だ。"
"OK. ヒューズが有利だ。コミュニティ・エアライン法案を、上院へ提出する時期だな。"
"CABは?"
"間もなく仕上がる。君には、国防調査委員会に出て貰う。"
"委員として?議長として?私なら、有能な議長になれる。公開討論の場は、派手に報道される。"
"トルーマンも。"
"議長だったお陰で、今や、副大統領だ。そういう事だ。私を議長に。どうだ?"
"面白い案だ。"
"これが、DC-4の設計図だ。"

"トランスワールド航空って社名は、どうだ?トランスコンティネンタルは駄目だ。国際線らしい名前じゃないと。"
"トランスワールドがいいわ。"
エヴァ・ガードナーが答える。
"同じ、TWAだな。Right. 機体を塗り直さずに済む。"
"いつもケチるのね。毛皮を取って。"
ヒューズは、後ろから抱きしめ、愛撫する。
"やめて。"
毛皮を着せる。
“いいものがある。待ってろ。"
ヒューズは、小箱を渡す。
"何なの?"
"プレゼントだ。開けてみろ。"
"ゴミ箱ね。よしてよ。"
"中を、よく見ろ。"
ブレスレットが出て来る。
"カシミール・サファイア。やっと探した世界一の宝石だ。"
"Why?"
"Because 君の瞳に、ぴったりの色だ。"
"私は、売り物じゃないわ。"
"ただの贈り物だよ。"
"私は、買えないの。馬鹿はやめて。ダイヤやサファイアをくれるより、夕食をご馳走して。" 
"Jesus."
2人は、車に乗って出掛ける。
"汚い運動靴は、うんざりよ。おしゃれして、ポンコツ車で、外出なんて。"
"エヴァ。結婚するか?"
"No. ハワード。"
"なぜだ?"
"I don't love you. 私は、結婚しているし。あなたには、女が山ほど。ベルエア・ホテルには、ハーレムを持っているわ。"
"あれは、従業員たちだ。結婚する気はない。"
レストランの玄関に着けると、車の横腹に、車が追突する。
"何だ?"
相手の車はバックして、また突っ込む。
"何てこった。""何よ。"
運転席に、ドマーグの姿。
"フェイス。何の積もりだ。"  
ヒューズは、車を下りて、呼び掛ける。  
"馬鹿はよせ。"
"大丈夫か。" 
"彼女と、何しているの?"
ドマーグが叫ぶ。
"夕食だ。どいてくれ。"
"イカれ女を、何とかしてよ。"
"愛していないの?"
"愛しているよ。"
ヒューズたちは、カメラのフラッシュを浴びる。

飛行機の製造ライン。
"トリップとブリュースター議員がグルです。CABが通れば、TWAはお仕舞いですよ。パンナムが、空を制覇する。" 
"卑怯で、非アメリカ的だ。" 
"エールフランスのような外国の航空会社は、競争がないので、安く参入。無駄な競走はやめて、パンナムと友好的に。"
"政府には、媚びない。" 
"こっちへ。"
"待て。"
"うちは、TWAだ。丸か球形のデザインにしろ。"
スタッフが、何かささやく。
"大声で。"
"1コマもカットしない。映倫の承認なしで上映する。"
"どのメディアを使うか、ハーストに聞く。上院選挙に備えて、議員に、渡りをつけておけ。トリップから学べ。再選しそうな議員に、寄付金を送れ。"
"賄賂を?"
"賄賂じゃない。合法的に、議員を囲え。調査班を組んで、ブリュースターの弱味を探れ。行き先、言動、浮気相手、調べろ。"
"了解。"
飛行機の胴体に入る。
"ちょっと待て。"
ディスプレイで、設計図を見る。 
"何だ?"
"方向舵と昇降舵です。"
"これでいい。油圧系統には、予備のシステムが必要だ。別の操縦桿を用意しろ。"
"別の操縦桿?"
"Yeah. 感触が悪い。"
"8,000種類も見た筈です。ここから、一つ選んで。"
"これを?"
"This one. 感触が、一番しっくり来る。"
ヒューズは、ふと掃除夫が、気になる。
"オーディ。掃除している男だが、雇っている男か?見たことあるか?"
"ニックという者です。"
"僕を、見ている。"
"そうかな?"
"Fire. 今後は、濡れモップを使え。呼吸器疾患で、訴訟されるとまずい。"
"OK. 計器盤は、どれにするか、決めてください。"
"青写真を見せろ。"
"ハワード。ぐずぐずしていると、戦争が終わってしまう。この場で決めて、映画から、手を引いてくれ。従業員が、あなたの決断を待っている。"
"オーディ。Take it easy. 君のプレッシャーは分かるが、そう焦るな。Right? 数時間、休め。"
"OK."
"リラックスして、奥さんに会って来い。"
"青写真を見せろ。"
"OK."
"青写真を、すべて見せろ。本気だぞ。青写真を見せろ。青写真を見せろ。Show me the blue prints. Show me the blue prints..."
"兎に角、早く見せろ。Show me the blue prints."
"青写真を見せろ。"を何度も、繰り返す。
"ハワード。"
"青写真を見せろ。"と、何度も、ぶつぶつ言いながら、その場を去る。
車の中で、口を押さえ、大きく息をつく。
"伝染病予防のための隔離。"
"QUA...RAN...TIN...E. QUARANTINE."

1946年7月7日
XF-11テスト飛行
ヒューズが、操縦席に乗り込む。
"将軍、大佐、ご苦労様です。"
"オーディ。聞こえるか?"
"よく聞こえる。すべて作動。幸運を。"
"操縦桿に、ブレ一つない。"
"落ち着いて行け。" 
"音は?"
"僕に囁いている。" 
"歌わせろ。"
離陸。
"飛んだぞ。おめでとう。"
"車輪を引っ込めて、高度1,524mへ。"
"方位2-7-0。車輪を引っ込めて、高度1,524、方位2-7-0に。"
"めちゃ速いぜ。"
"対気速度は?" 
"467。"
"320まで下げろ。"
"No downway."
高度を保ち、雲の上を行く。
1時間45分後
"地上に戻れ。予定の1時間45分が過ぎた。方位0-9-09へ。"
"後10分。"
"駄目だ。すぐ帰還せよ。"
"分かった。方位をセット。0-9-0。降下準備。"
機体が、がたつく。
"どうした?"
"右翼が傾いた。エンジンがおかしい。毎分2,800回転に上昇。右エンジンの回転数が、上昇。駄目だ。機体が降下している。"
"吸気圧を調べろ。"
"問題ない。"
"右のプロペラは?"
"Hold on. 回っているが、右に傾いている。"
"他を試せ。"
"方向舵と補助翼を、一杯にしても、安定しない。"
"現在地は?" 
"高度610m。ビバリーヒルズか?457m。どんどん降下している。カントリークラブの9番ホール辺りだ。"
"ゴルフ場だな。回転数を1,000に下げろ。"
"突っ込むぞ。操縦不能だ。"
家屋の屋根を擦る。別の家屋の2階を、翼で、切り裂く。エンジンが外れ、機体は大破し、炎を上げる。ヒューズは、操縦席で、血に塗れる。操縦席に、炎が迫るが、何とか自力で、脱出する。駆けつけた保安職員に、離れた場所に運ばれる。
"他に誰か乗っているか?同乗者は?"
"No. 僕は、ハワード・ヒューズ。Aviator."
燃える家から、住人が避難する。カメラマンが、瀕死のヒューズを撮影する。

病院。
"全身の78%が、火傷です。"
"肋骨の9本が、粉々に。鼻、顎、頬骨、肘も同じ状態です。"
ノアが容態を聞く。
"裂傷が60か所。胸骨が折れて、左肺が潰れ、心臓が、右に移動している。"
"酷いな。"
"今、輸血中です。"
"Who's blood?"
"I'm sorry."
"Who's blood?"
"stockです。"
"彼は、嫌がる。"
"ディートリッヒさん。好き嫌いでは、済みませんよ。申し訳ないが。"
病室のヒューズを見舞う。ヒューズは、眠り続ける。

"オレンジ・ジュース。病院が出すジュースは、新鮮じゃない。だから、ここで、作らせている。この姿を見ろ。モンスターだ。オレンジ・ジュースは、栄養価が高い。窓の外に、ハエがいた。そうさ。ハワード坊やの好物は、柑橘類。だから。Tell me."
"オイル・シールが、右プロペラから剥がれた。圧力が低下して、プロペラが、逆ピッチに。分かりますか?残念ながら、もう一つ悪い報告があります。Follow me?"
"ああ。空軍が、『ハーキュリーズ』の契約を、キャンセルです。戦争が終わって、もう必要ないそうです。今後は、どうしますか?スタッフの解雇を?"
"どれだけかかる?完成までに。''
"半年。" 
"いや。金額だ。"
"700万ドル。それ以上。"
"造れ。完成させろ。"
"ハワード。『コンステレーション』が、レディングで墜落した。全機に、飛行停止命令が。"
ヒューズは、微笑む。
"知っているか?トリップが、花をくれた。Take a look. "
"他の花は?"
"部屋から出した。油虫が付くからな。油虫は、恐ろしく小さな虫だ。だが、この花は、毎日でも見ていたい。"

"史上最大の飛行機"
"白い象は、本当に飛ぶのでしょうか?聳え立つような巨体。ヒューズ氏の造った飛行艇は、5階建てビルよりも高く、全長67m。電線を切って、移動です。カルヴァーシティから、48キロ先の太平洋まで。60tの移動は、技術的にも、大変です。巨大な機体が、果たして飛び立てるか。肩翼だけで、49m。エンジンは、4つ搭載。翼を広げれば、2倍の長さ。正に、山に匹敵する大きさです。"
ヒューズは、両方の手で、杖を突いて、飛行場に立つ。
"いつまで足留めだ?"
"事故調査が終わるまで、後、数か月。"
"1,400万ドルの赤字だ。早く、旅客機を飛ばさないと。"
"国際線で取り戻す。"
"CABが通れば、パンナム以外は、国内線だ。"
"法案と戦う。"
"その間のTWAの運航は、どうする積もりだ?『ハーキュリーズ』に金を注ぎ込んでも、空軍は、発注しない。ジャックは、楽観的だが、僕は、帳簿を見ている。はっきり言って、深刻な状況だ。どっちか選択を。飛行艇で破産か、航空会社で破産か。"
"信託銀行のT.パーキンソンに会い、TWAの全施設つ資本で、融資を引き出せ。飛行機も担保に。ペンもデスクも担保にして、4,000万ドル借りろ。"
"債務不履行になれば?"
"トリップが、買い上げるさ。"

"私のベッドに、盗聴器を仕掛けたわね。"
"君の事が、心配だったからだ。"
"車の男は、誰?私を、1日中、見張っているわ。"
"君を守るためだ。"
"危険人物は、あなたじゃないの。私は、所有物じゃない。10代の娼婦や飛行機とは、違うわ。"
"盗聴器は、すべて外す。君の居所を知りたいだけだ。"
"Why?"
"心配だからさ。" 
"嘘よ。What do you mean『盗聴器全部』?What do you mean『all』?"
"他にもある。"
"いくつ?" 
"さあ、12個ほどかな。電話にも。"
"電話に仕掛けてあるの?電話を盗聴?"
"そんな真似は、絶対にするもんか。通話履歴を読むだけだ。"
"何を知りたいの?昨夜、A.ショーと浮気した事?一昨日、フランク・シナトラと寝た事?頭が、イカれているわ。ケイトが、捨てる筈よ。"
"黙れ。"
エヴァを突き倒すが、逆に、突き倒される。
"Get out. Freak. Get out."
ヒューズは、よろめきながら、家を出る。
"大丈夫ですか?"
"盗聴器を外せ。"
車に乗り込む。
"寝室の電話は、そのままに。"
"FBIが、家宅捜索です。"

"強引過ぎる。ここにあるのは、私物ばかりだぞ。弁護士も来る。"
TWA社が、家宅捜索される。
"捜査令状だ。邪魔するな。"
レコードや、女優たちの写真も、チェックされる。タバコが、床で揉み消され、絨毯が、土足で踏み躙られる。
"ヒューズ邸に、来客がありました。美人女優でなく、FBIです。" 
"ノア、助けてくれ。これで、10回目の捜索だ。"
"噂によれば、黒幕は、ブリュースター議員。FBIが、aviator の屋敷を、占拠です。"
"奴らが、触っている。ベタベタと触っている。"
"落ち着いて。すぐ行きますから。ハワード?ハワード?"
 
メイフラワーホテル。ワシントンD.C.
1947年2月12日
ブリュースター。
"ハワード君。"
"また会えましたね。"
"中へ。ランチの支度を。"
"Very lovely room. 内装も、趣味がいい。"
"ありがとう。かけて。"
"よく、来てくれたな。2人だけで、 話したかった。オフィスの外で。"
"望むところです。"
"CABに、強く反対しているようだな。"
"あなたは、ゴリ押しだ。"
"私が出した法案だからな。率直に言って、アメリカの国際線は、1社で、手一杯だ。"
"それが、フェアだと。国際線の1社独占が。"
"独占?No, no, no. 1社の方が、上手くいく。無駄な競争もない。旅客のニーズを、第一に考えるべきだ。"
"あれは、何の絵かな?"
南米の女が、ラマを引く絵。
"あの動物は?ヤクの仲間かな?"
"いや、ラマだ。妻が、ペルーで買った絵でね。"
"凄いな。本物のラマか。"
"ペルーで?"
"1年前だ。そうだ。"
"ランチです。"
"OK. 食事にしよう。"
"本物のラマを?"
"No. 絵を買っただけだ。"
"興味深い動物だ。本で、調べてみよう。ラマの綴りは、フェルナンド・ラマスと同じ?"
"いや、動物のラマは、Lが2つだ。テーブルへ。"
"川ますは、好きかな?"
"I love it. Thanks. "
"君は、酒を飲まないから、水でいいかな?"
"Thanks."
"では、仕事の話を。捜査官は、悪事を暴いてくれたよ。明るみに出ると、困るだろ?君を助けたい。"
"ご親切に。"
"私の委員会は、公聴会を開く権限がある。君を救いたい。"
"今更。"
"いいか。戦争成金として、歴史に悪名を残したいか?そうか?"
"どうしたい?"
"私の法案を支持してくれるなら、公聴会は、開かない。"
"断る。"
"Why not?"
"CABは、TWAの命取りだ。"
"TWAは、パンナムに売却を。いい値で、売れる。"
"売れば、公表しないと。"
"調査は、終わり、誰にも、悪事はバレない。皆んな、安泰だ。"
"ブリュースター議員。どうも気になるんだ。あの絵は、去年、購入?"
"Yeah."
"船でペルーに?"
"いや、空路だ。"
"飛行機か。"
"Yeah."
"僕に、挑戦する気か?戦争を仕掛ける気か?"
"戦うのは、私じゃなく、アメリカ政府だ。ドイツと日本に勝ったが、君は、何をした?"
"トリップに伝えてくれ。花のお礼を。僕に、ゴマを擦っても、無駄だってな。"
ヒューズは、辞去する。
部屋を出たヒューズは、激しく息をつき、よろよろ歩く。杖を手にし、その場にしゃがみ込む。"

"詳細なリストを入手した。"
ブリュースターが、報道陣を前に、語る。
"ヒューズ氏は、アメリカ政府から、5,600万ドルを搾取している。戦争の最中、ノルマンディーで、兵士が死んでいる時に、彼は、税金を横領していたのだ。"
"この部屋で。暗闇で。"
ヒューズは、試写室に籠り、服を脱ぐ。
ブリュースター。
"ワシントンの公聴会に、引きずり出し、嘘を暴く。"
"僕の部屋だ。寝床だ。"
"彼には、色々と、証言して貰う。"
"Chair."
"とりわけ、無駄な巨大プロジェクトについて。空飛ぶ材木置き場のような飛行機について。『木のガチョウ』だ。"
報道陣も笑う。
"召喚する。"
ヒューズは、映画を上映する。
"美しい風景だ。砂漠が好きだ。砂漠は、熱いが、クリーンだ。クリーンだ。"
"眠らないと。その前に、何か飲もう。何か飲もう。"
並んだ牛乳瓶。
"待てよ。酸っぱいか?もし、腐っていたら?ミルク瓶を、右手で取るな。右手は、駄目だ。左手で、瓶の蓋を取っては、いけない。ポケットに入れとけ。左のポケットに。"
ドアが、ノックされる。
"ハワード。ケイトよ。話があるの。Can you hear me? 入るわよ。今すぐ、ドアを開けて。"
"それは、できない。"
"嫌なの?顔を見せて。"
"髭を剃っていない。"
"私だって、ノーメイクよ。Com'on. You let me in."
"声は、聞こえる。エンジンのうなる操縦席にいても。"
"私の声が、馬鹿でかいからね。"
"お礼を言いたいの。彼と私のために、密会写真を買い占めてくれて。"
"愛しているのか?"
"彼は、私のすべてよ。ハワード。" 
"役に立てて、嬉しいよ。もう、帰ってくれ。"
"お願い。開けて。"
"帰ってくれ。きっと、すぐに会えるさ。また、一緒に飛ぼう。" 
"そうね。また飛行機に乗せて。私が、操縦するわ。"
"そこにいる?ハワード。いるの?返事して。聞いてる?"

サンドイッチに、蟻がたかる。映写室に、ゴミが散乱する。
"ミルクを持って来い。ミルクを持って来い。"
"右手で、バッグを開けろ。45度の角度で、バッグを差し出せば、バッグの中に、手が届く。紙に触れずに済む。最初から繰り返せ。"
ヒューズは、全裸で画面を見つめる。
"これらの指示に、たとえ僅かでも、変更がある場合は、すべての手順を繰り返せ。最初から。繰り返せ。最初から。最初から、繰り返せ。"
牛乳瓶に、放尿する。
"R、N、T、Q、U、E。"
小便の入った牛乳瓶を並べる。
"I、T、I、N、E、N、E、E、I。"
"ハワード。"
"Hello. Who is it?"
"ホアン・トリップだ。"
"ホアン。ホアンか?会う約束だったな。覚えているさ。風邪をこじらせている。うつすと困るから、外で座ってくれ。君にうつしたくない。君に。"
ヒューズは、口を押さえ、首を振る。トリップは、扉近くに持ってこられた椅子に座る。
"座ったよ。会計報告を持って来た。パンナムの株価は、13ドル63。TWAは、4ドル25。"
"Com'on. 株価の話は、やめろ。Com'on. Com'on. TWAを売る気はない。君に買えるもんか。国内路線は、2倍の価値がある。"
"パンナムの株価は、TWAの3倍だぞ。君の言い分は、通らない。"
"僕が言っているのは、君には、国内線がない事だ。地球を支配する気か。僕は、売らないぞ。絶対に、売らない。忘れるな。ブリュースター works for you. "
"私の力じゃない。メーン州の有権者のお陰だ。"
鍵穴から、タバコの煙が入り、ヒューズは、むせる。
"僕が、公聴会に出たら、厄介な事になるぞ。皆んなにとって。"
"困るのは、君だろ。米国兵士が、戦死している時に、君は、破廉恥な映画を撮り、飛ばない飛行機を造った。"
"フェアじゃない。FX-11は、1時間45分も飛んだぞ。君も乗ればよかったな。爽快な空の旅さ。"
"『木のガチョウ』の言い訳か。"
扉に、物を投げつける。
"『ハーキュリーズ』だ。ちゃんと飛ぶぞ。"
"そう願うね。1,300万ドルは、国民に還元すべきだ。"
"TWAは、絶対に売らないぞ。TWAは、絶対に売らないぞ。"
"だろうな。だが、必ず、手に入れる。君は、公聴会で、名誉を失い、債務不履行に。TWAの追加融資は、受けられん。ヒューズ・クラフト社の経営ミスも暴かれる。倒産の憂き目だ。だが、ヒューズ・ツール社がある。ヒューストンで、帝国を再建しろ。君のためだ。パンナムは、TWAを買収する。『コンステレーション』は、ブルーと白に塗られ、君が戻る頃には、パンナム機になっている。"
"追い詰める気だな。僕を、苦しい立場に。"
"公聴会では、もっと苦しいぞ。晒し者だ。カメラの放列、記者ども。君は、人混みが嫌いだろ?その点は、何とかしよう。"
"Thank you for your concern. ホアン。親切だな。Very moving. 嬉しいよ。ノアが、空港まで送る。安全な旅を。無事で。"
"君も、早く風邪を治せ。"
"Don't you worry. すぐ治るさ。Bye bye."
"公聴会に出れば、世界中に知られるぞ。彼は、正気じゃないと。公聴会は、3日間続くぞ。部屋から引きずり出せ。"
ノアは、黙って見送る。
"Hell's angel"を上映して、画面に拳を上げる。また、火傷の跡の残る体で、のたうつ。ヒューズが、試写室の外に出て来る。
女性社員が、声を掛ける。
"ヒューズ社長?"
"靴がない。用意しろ。" 
"靴?"
靴を探しに行く。
試写室の反対側の扉を開けると、エヴァが立っている。
"私のために、服を着たのね。Can I come in?"
"Yeah. Come in. "
ドアのへりを、ティッシュで拭く。
"よく来たな。"
エヴァのグローブを、ティッシュを手に取り、受け取る。
"まず、お酒を1杯。"
"待て。動かないでくれ。ここなら安全だ。無菌ゾーンだ。分かるか?"
"試してみるわ。"
張り巡らされたテープを、手で払う。
"駄目だ。待ってくれ。"
エヴァは、構わず、電灯を点け、グラスに酒をそそぐ。
"いい男にしてあげる。"
ヒューズの髭を剃る。
"いつ、ワシントンへ?"
"1週間後だ。いや、1週間以内だ。今日は、何日だ?行くのは..."
"焦らないで。"
ヒューズは、蛇口から出るお湯を凝視する。
"心配ないわ。"
"だが、僕には見える。"
"分かるわ。顔を洗って。"
ヒューズは、身構える。
"手を濡らして、石鹸で洗うの。私は、どこにも行かないわ。"
"cleanか?"
"cleanな物は、ないわ。ベストを尽くすだけ。"
"Yeah."
両手で、お湯を受け、顔を洗う。
スーツを着る。
"What do you think?"
"いい感じだ。"
"素敵よ。"
"Marry me?"
"私に夢中なのね。帰るわ。"
"OK. Thanks."
"頑張って。"
▶︎公聴会
1947年8月6日ブリュースター議員の公聴会1日目
ヒューズが、出席する。
記者のカメラ。TV中継のカメラ。
"お静かに。皆さん。審理中は、お静かに願います。"
"ヒューズさん。誓約を。"
ヒューズと弁護士が立つ。
"当委員会に諮る内容について、真実のみ語る事を、神に誓いますか?"
"誓います。"
"大きな声で。君が、難聴なのは、知っている。"
"そいつは、いい。難聴を隠さずに済む。"
笑い声が起こる。
"委員会の目的は。"
"ヒューズ氏から、声明が。"
"では、声明文を、読み上げてください。"
"声明文を。"
原稿を弁護士に渡す。
"私は、公聴会で、正直に話す積もりだ。評判が、失墜した今、持ち札は、すべて出す。上院議員。真っ赤な焼きごてを、私に押し付けなければ、あなたのスタンドプレーに、喜んで、敗北宣言した。黙って、誹謗中傷に耐えただろう。私は、一介の市民だが、あなたは、上院議員だ。権力を持っている。だが、こんな臭い芝居は、沢山だ。"
"そこまで。"
"嘘つき呼ばわりされた。『泥棒』、『戦争成金』と。"
"発言は、控えて。"
"真実を言ったら、どうだ?真実を言えば、いい。この調査が、始まったのは、TWAが、欧州就航を決めた日だ。TWAが、パンナムの領空を侵犯した日だ。"
"着席を。"
"TWAが、航空界の常識に挑戦した日だ。偉大なパンナムの大西洋利権に対して。"
"演説は、禁じる。"
"静粛に。この部屋では、静かに願います。"

"ジョニー・メイヤー氏からの17万ドルの領収書です。"
2日目。
"彼は、部下ですね。"
"そうです。"
"彼の役職は?"
"部下は、大勢いるので、よく知りません。"
"ならば、TWAの広報担当が、勝手に、空軍の代表に、17万ドル支払ったのですか?"
"I don't Know. 本人に聞けば?"
"手配を。"
"手配?"
"ここに、呼び出しを。"
"先週3日間、彼を証人台に立たせた。"
"それでも再喚問したい。呼び戻してくれないか?"
"呼び戻しません。"
"何とか、もう一度。"
"断ります。"
"どうあっても?"
"No. その気はありません。"
"空軍に渡った17万ドルの使い道は、ホテルの宿泊代、TWA株、女性との交際費。これらは、賄賂だと考えられませんか?"
"賄賂でしょうな。"
"もう一度。"
"賄賂と考えられると、言いました。"
"もう少し、説明してください。"
"航空機ビジネスを、ご存知ないだろうが、空軍幹部への接待は、日常茶飯事だ。大口契約を取るために、主要メーカーは、やっている。善悪は兎も角、違法行為ではない。あなたは、立法府の人だ。空軍幹部の接待を禁じる法案を通せばいい。喜んで、従おう。"
3日目。
"あなたの話は、嘘だらけだ。"
"質問事項は、議長に提出を。"
"聞きたい事は、200から500ある。"
"そう思うのは、富と権力の奢りだ。委員会のメンバーを脅迫する気か。"

"質問は、議長に。" 
"ずばり聞こう。2月12日、メイフラワー・ホテルで、あなたは、こう言わなかったか?『私が、TWAをパンナムに売れば、公聴会は中止する』と。"
"言っていない。質問は、提出を。" 
"ホアン・トリップは?"
"よく知っているが、今は、関係ない。"
"この前の選挙で、彼から、2万ドルの寄付を受け取った筈だ。便宜供与の代償に。"
"トリップ氏は。" 
"パンナムから、ただ券を貰い、CABの根回しをしたのでは?"
"違う。"
"法案の起草者は?実際に、CABを書いたのは?あなた自身か?"
"公聴会で、勝手な質問は。" 
"法案があるので、思い出してほしい。『民間航空法改定のための法案S-987』。あなたが、上院に提出した。この法案を、書いたのか?すべて。あなたが?"
"ヒューズさん。"
"パンナム幹部が書いた法案だ。パンナムが、国際線を独占するために。そのために、法案をねじ込んだ。違いますか?"
"私には、世界中から、託された任務がある。"
"メーン州の議員が、何のために、ペルーへ行く?"
"我が州の特産品の販路を開拓するためだ。"
"ペルーで、ロブスターを?"
"この3か月間に、トリップ氏に会いに、何度、NYに行きましたか?Ha? 私から言おうか?"
"いや、いい。彼は、立派なアメリカ人だ。パンナムは、数十年来、米国の航空事業を推進。トリップ氏は、愛国者だ。儲け主義の男とは違う。"
"パンナムの株主は、喜ぶでしょうな。"
"これで、閉会します。"
笑いが起こる。
▶︎エピローグ
"機内からお届けします。ハワード・ヒューズの世界最大200トンの飛行機。軍需契約の調査が行われたいわくつきの大空の巨人です。ヒューズ氏は、言いました。『水上走行試験では、何が起こるか分からない』と。"
1947年11月2日ロングビーチ・ハーバー
"マンモス機の外壁が、大波をかぶるかも知れません。"
突堤に、見物の人々。
"本格的な空の飛行は、来春から。まだまだ未知の飛行機のようです。"
ヒューズも、機体に乗り込む。
"諸君。まだ、拍手は、早い。"
"記者席は、ヒューズ氏の後ろ。窓から、見事な眺望が広がります。"
"教授も、前に来てくれ。シートベルトを締めて、眺めを楽しもう。"
"皆んな、行くぞ。"
"始動だ。"
"第1エンジン。"
"第2、OK."
"第3、第4、OK."
"第5、第6、OK."
"第7、第8、OK."
"スロットル全開。"
"スロットル全開。"
"大声を出さないと、自分の声も、聞こえません。"
"プロペラ始動。"
"了解。フラップ15度。"
"フラップ15度。"
"ハワード。飛ぶには、時速112km必要だ。"
"Yeah. I know. I know."
"南カリフォルニア沿岸は、雲一つありません。澄んだ青空、暖かい日差し。"
"時速40km。48km。56。"
"このエンジンですから、かなり揺れる筈です。"
"落ち着いて行け。"
"64km。"
"右スロットルを絞って、180度旋回。"
"右スロットルを絞って、旋回。"
"クルーは、4名ですが、この処女滑水に、11名の整備員を動員。飛行艇の各所に配置して、万全のチェック態勢です。"
"エンジン音は?"
"問題ない。"
"Professer."
"何か?"
"頼みが。窓から見て、風速を教えてくれ。"
"およそ15ノットの風だな。"
"詰まり、向かい風だな。Professer."
"その通りだ。"

"審理中は、どうぞ静粛に願います。立って、誓約を。"
"4,300万ドルを、受け取りましたか?100機のFX-11偵察機を製造し、空軍に納入するために。"
"I did. "
"アメリカ空軍に、何機、納入しましたか?"
"None."
"もっと、マイクに近寄って。"
"None."
"1,300万ドルは、受け取りましたか?飛行艇『ハーキュリーズ』の試作機製造費として?"
"I did."
"それで、納入は?"
"してません。"
"あなた自身が、今、認めたように、5,600万ドル受け取った。アメリカ政府から、未納の軍用機の代金として。"
"That is correct."
"では、お尋ねするが、その金は、どこへ?"
"それ以上の金を、飛行機に注ぎ込んだ。"
"More? ほかにも横領に、かかわった訳ですか?"
"自分の金を注ぎ込んだという事です。自分の金だ。詰まり。" 
"ヒューズさん。あなたの財力は...彼の話を聞こう。"
"続けて。"
"私の最大の関心事は、何と言っても、飛行機だ。自分の金を注ぐのは、大きな喜びだ。その結果、大金を失った。今後も失うだろう。それでも、構わない。戦時中に、政府の金を使い込んだと言うなら、こう考えてほしい。ほかに、60機以上の発注を受けたロッキード、ダグラス等も納入していない。総額8億ドルが発注されたが、1機も飛んでいない。更に、60億ドルを超える兵器が、納入されていない。なのに、5,600万ドルのヒューズ・エアクラフトだけが、調査委員会に召喚された。飛ばない飛行機よりも、TWAが問題だからだ。"
"指摘の通りだ。"
"待て。この委員会に、もう一つ言う事がある。『ハーキュリーズ』について、私に悪い評判が立っている。気まぐれだとか、プレイボーイだとか。エキセントリックだとも、言われるが、lier じゃない。『ハーキュリーズ』は、記念碑的な大事業だ。史上最大の飛行機で、高さは、5階建てのビル。幅は、フットボール場並み。1街区の規模だ。私の心血を注いだ名誉ある作品だ。だから、表明した。『飛行テストが失敗したら、祖国を去って、戻らない』と。本気だ。ブリュースター議員。何度でも、召喚しろ。逮捕するがいい。私が逃げたと、公表するがいい。茶番は、うんざりだ。Good afternoon."
拍手が起こる。ヒューズは、聴衆に握手を求められる。
パンナム社。
"もう消せ。"
"まだです。"
"終わった。CABは、通過しない。TWAは、NYから、パリに飛ぶ。パリから、モスクワ、日本、ハワイ、勿論、ロサンゼルス。NYにも。負けた。"

"パワー全開。"
"パワー全開。"
"ヒューズ氏は、警告。『凄い馬力なので、しっかりつかまれ』と。"
"時速は?"
"40kmです。"
"48km。行きます。"
"56km。"
"速度は、48kmです。"
"56km。64。"
"スロットルを開けて、64キロ。"
"72km。"
"加速。"
"72km。"
"80km。"
"88km。"
"96km。"
"104km。"
"112km。"
"120km。"
"一瞬、静かになって、空中に浮きました。飛んでいます。ハワード・ヒューズが快挙です。皆さん。本当に、空を飛んでいます。"
"ヒューズ氏の巨大な飛行艇が、L.A.ハーバー上空を飛行しています。正に、感動の瞬間。ヒューズ時代の到来を、予感せずにはいられません。"
港での記者会見。
"この技術こそが、未来への道です。以上です。素晴らしい光景を、ご覧頂いて、光栄です。"
"ちょっと失礼。"
エヴァを連れ出す。
"パリへ行こう。"
"Now?"
"TWAのヨーロッパ就航便は、僕が、操縦桿を握る。"
"買い物の街ね。"
"何でも買ってやる。"
"ディナーは、どう?"
"仕方ない。デートを?"
"付き合うわ。"
"すぐ戻る。どこへも行くな。"
ノアたちに話しかける。
"聞いてくれ。ジェット機のニュースだ。"
"金がかかる。"
"開発を始める。Com'on. 民間機に、ジェット技術を使えば、勝負に勝てる。ジェット技術は?"
"多少、分かる。基礎は、タービン技術だ。"
目つきの険しい見慣れぬ男たちが、近付いて来る。
"ノア。連中は?僕の部下か?"
"皆んなそうですよ。"
"ロッキードのボブに、知恵を借りよう。" 
"分かった。今すぐ?"
"Ofcourse now. 未来への道だからな。"
"4時半か。" 
"今、ボブは、NYだ。向こうは7時半だな。"
"滞在先を調べよう。" 
"電話を?直接、会いますか?"
"会いますね?" 
"明日、こっちで。"
"未来への道だ。"
"ハワード?"
"未来への道だ。"
男たちが、迫る。
"歩こう。手を貸せ。"
"Way the future. Way the future. ..."
"Way the future. Way the future. ..."
ハワードを裏の洗面室に入れる。
"ここにいて。すぐ戻る、ハワード。"
"医者を呼ぶ。誰にも見せるな。"
ハワードは、"Way the future"と、つぶやき続ける。
"用心しないと。"
ヘプバーンの声が聞こえる。
幼い頃の母との会話。
"大きくなったら、一番速い飛行機に乗るんだ。"
"凄い映画を作る。"
"世界一の金持ちになるんだ。"
"Way the future."
"Way the future."
"Way the future. Way the future."
"Way the futurd. Way the future."
【感想】
大作。主演のL.ディカプリオが、制作総指揮に名前を連ねる。実在の大富豪にして、飛行機製造の企業家の半生の物語。ハワード・ヒューズは、幼少期に受けた隔離措置のトラウマで、対人コミュニケーションや不潔なものに対する脅迫神経症的な恐怖があり、時に奇矯な言動に及ぶ。しかし、ヒューズを脅かす理不尽な攻撃、例えば恋人だったK.ヘプバーンの実家の保守的で鼻持ちならないスノビッシュなコミュニティや利権しか念頭にない議員とパンナム社などが、醜悪に描かれ、誰しもヒューズに声援を送る。喧嘩別れした後も、ヒューズに自分と等しいものを感じて、彼を励ますK.ヘプバーンの存在が救いである。ヘプバーンは、さばさばとしたキャラクターとしてケイト・ブランシェットが演じる。

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