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一人勝手に回顧シリーズ#マーティン・スコセッシ編(17)#アフター・アワーズ/悪夢の一夜

【映画のプロット】
▶︎マーシー
オフィス。
"入力して。最初に、画面をリフレッシュしよう。じゃ、フォーマットして。"
ポール・ハケットは、男のデスクの傍に座り、PCの設定を指示する。
"このファイルを?"
"Right."
男は、キーを押す。
"今、書き込みを?"
"Right. 次は?コード表に登録して。"
ファイル名を入力する。
"Good. 覚えが早いな。"
"一時しのぎですよ。生涯、ワープロに、しがみつきたくないな。重役には、言わないで。"
"OK."
"本当に、やりたい仕事は、出版です。それも、できれば、自分の雑誌と呼べるものを作り出したいな。討論の場です。"
ポールは、書類ケースを抱え、オフィスを目で見回す。
"作家やインテリに、自由に発言する場を与えたい。それも、特殊な読者層を狙わず、大衆本位で、しかも何か意味のあるものを、つかませる..."
"もう行くよ。"
閉まりかけの、門をくぐる。帰宅して、TVの画面を、しきりに切り替える。夜のダイナーで、"北回帰線"を読む。向かいのテーブルの女が、声を掛ける。
"それ、好きよ。"
"その本、好き。"
"Oh yeah. ミラーは、偉大な作家だ。"
"『これは、本ではなく、長い侮辱であり、芸術にはきかける唾だ。真実や美や神を汚して』。確か、こうね。"
"That's right."
"これだけよ。"
"前に読んだが、もう一度、読み直している。あまり、再読はしないが、これは、気に入ってね。『南回帰線』より、好きだ。『プレクサス』や『ネクサス』よりも。自分の口を舐め回して、まるで。"
マーシーが、椅子から立ち上がる。ポールの前に座る。
"あのレジ係、何だか変じゃない?妙な動きを続けている。"
社交ダンスのイメージトレーニングをしている。
2人は笑う。
"ああして、スカウトされるのを待っているんだ。"
"コーヒーでも?"
"No. 友達の家に行くから。"
"方角は?"
"ソーホーよ。"
"いいね。屋根裏かな?"
"彼女、彫刻家なの。最新作は、石膏製のチーズ・パンよ。"
"Really?"
"文鎮として、売る積もりよ。"
"Paperwate? 買いたいね。いくらかな?"
"知らないわ。電話で聞いて。243の3460よ。"
"243 3460。OK. "
"彼女は、キキ・ブリッジよ。"
"キキ・ブリッジだね。OK."
"楽しかったわ。"
"Yeah. 僕もだ。"
手帳に、メモしようとするが、インクが出ない。
"Excuse me. ペンを貸して。"
レジの男に言う。レジ係は、ターンして、ペンを渡す。
ポールは、家から、キキに電話する。
"Yeah."
"キキさんを。"
"私よ。"
"あなたの文鎮の事で、お電話したんですが。"
"Yeah."
"あなた、彫刻家?"
"Wm."
"今夜、出会った女性が、そこだと言って。"
"マーシーの事?"
"名前は、知らないが。"
"待って。"
"ただ彼女から、あなたの彫刻の事を聞いて。"
"Hello?"
"マーシーかい?"
"Yeah."
"ポール・ハケット。さっき君と出会った。"
"ええ。覚えているわ。How are you?"
"勿論、all right. 今、家に帰って、手帳で、君の番号を見たので。"
"Good. お電話くださって。So."
"あのコーヒー・ショップの近くに、勤めているの?"
"あの近所にいる親友を、訪問したの。でも、酷い喧嘩をして。"
"Too bad. "
"Yeah. Yes."
"でも、きっと仲直りできるよ。"
"そう思う?仲直りした方がいい?'.
"よく分からないな。どんな事情か、知らないけど、問題は。いや、僕の知った事じゃないな。"
"こっちへ来ない?"
"うぇ?"
"来てくれない?"
11時32分
"いいよ。今すぐ?"
"勿論よ。"
"そこの住所は?"
"ハワード街28。ソーホー区よ。名札は、フランクリン。"
"ブリッジじゃ?"
"消してあるわ。名札の下のブザーを押して。"
"OK. 45分後に?"
"いいわ。それじゃ。"
"Yes."
"お電話、嬉しかったわ。"
"Me too. OK. See you later."
"Bye."
"Bye."
ポールは、タクシーを拾う。
"20ドルで、お釣りは?"
"Sure. No problem."
"ゆっくり。"
タクシーの運転が荒い。しきりに、車線変更を繰り返し、ポールの体が、右に左に振られる。
コンソールに置いた20ドル札が、風で飛ばされ、ウィンドウから、飛んで行く。
"Excuse me. 畜生。困ったな。"
"Excuse me. 札が、窓から飛んで行った。"
フラメンコが、鳴る。
目的地に着いた。
"6ドル50。"
"だから、札が、窓から飛んで行った。台の上に、お札を置いた途端、猛スピードで。持っていない。金がないんだよ。済まないな。説明するよ。"
ポールは、車を降り、運転手に説明する。
"ここ(財布)に20ドル札があったんだが、今は、もうないんだ。"
タクシーは、黙って走り去る。
"フランクリンは、どこかな?あった。"
ブザーを押す。
上から、女の顔が覗く。
"ポール?"
"Yeah."
"受け取って。"
女は、鍵束を放る。
鍵を開ける。
部屋では、下着姿の女が、粘土をこねている。
"Hi. 君の鍵だ。"
"そこへ置いて。"
もがき、叫ぶ男の半身像。
"気に入った。"
"本当?"
"とてもいいよ。ムンクの絵を思わせるね。確か、『悲鳴』。"
"『Scream』よ。"
"そう、『Scream』だ。まるで、あの絵の立体版を見る思いだな。マーシーは?"
"深夜営業のドラッグストアへ。"
"具合でも?"
"いいえ、別に。"
"とても広いね。ほかに、同居人は?"
"暫く、この彫刻をやってみない?簡単よ。"
"何、言ってる?君の作品だ。勝手に、手を加えるなど。"
"簡単よ。材料を、こう置くだけ。"
電話が鳴る。
"今、出るわ。"
"Yeah. 勿論、来ているわ。"
"嫌よ。あたしから、言えないわ。"
"言い合う気?急いで。"
"調子は?"
"快調だ。今、肩を作っている。"
"シャツを汚して。"
"本当だ。"
"洗濯するわ。"
"いいんだ。"
"30分で済むわ。"
"大丈夫だから。"
"Com'on. これから、マーシーとデートでしょ?"
"All right. 20分だね。"
ポールは、ネクタイを外し、シャツを脱ぐ。
"これを着てて。1日中やっていると、肩が凝るわ。"
"マッサージは?"
"読心術師ね。やって。"
"上手じゃない。見様見真似でね。"
"あたしが、痛いと感じれば、そこがツボよ。"
ポールは、キキの肩を揉む。
"見事な体だ。"
"Yes. 傷も少ないし。"
"It's true. 僕も少ない。"
"体中、傷だらけの女もいるけど。Not me."
"傷跡?"
"醜い傷跡よ。そういう女いるわ。"
"どうかな。僕が、子供の頃、扁桃腺切除の手術を受けた事がある。手術が済んだ後、小児科病棟が一杯で、火傷病棟に回された。でも、連れて行く前に、看護婦が、まず、僕に目隠しをさせて、決して、取るなと言った。取ったら、また手術だと脅かしてね。扁桃腺と眼が関係あるのは、変だと思ったが、兎に角、その夜、確か、夜だったが、手を伸ばして、目隠しをほどいて、そして、見たんだ。"
キキの頭が、ポールの顔に寄り掛かる。キキは、寝息を立て始める。
ポールは、立ち去ろうとするが、マーシーが、階段を上って来るのを見て、部屋にとどまる。
"先程は...お待たせしたわね。"
"いいんだよ。How are you?"
"勿論。"
"とうとう来ちゃったよ。ここへ。"
"私の部屋に、行きましょう。"
"君のルームメイトに、手伝いをやらされてね。芸術家の気分だよ。"
マーシーの部屋に入り、ベッドに腰掛ける。
"彼女に何を?"
"何も、しちゃいないよ。眠っただけさ。ただ疲れていたんだ。何をしたと?"
"変な意味は、ないのよ。ちょっと、シャワーを浴びて来るわ。OK?"
"Sure. リフレッシュには、シャワーが一番だ。"
"まるで、コピーライターね。"
"明日の朝は、ゆっくりね。"
"そう急がない。"
"色々、お話をしたいの。でも、今夜は、何だか、あたし、めちゃめちゃになりそう。凄い事が、起きそうだわ。なぜだか、とっても、興奮しているの。Really. よく来たわね。"
"まあね。"
"マリファナもあるわ。"
"後でね。"
午前1時40分
電話が鳴る。
マーシーは、シャワーに行った。おずおずと、ポールが、受話器を取る。
"Hello."
"マーシーは?"
"今、電話に出られませんが、伝言は?"
"グレッグからだと。"
"Sure."
電話を切る。
"戻った?"
起き出したキキが、尋ねる。胸をはだけている。
"ああ。"
キキは、踵を返す。
籠に入った袋を手に取る。軟膏のチューブが入っている。ラベルに、"マーシー・フランクリン 第2度火傷"の文字。
マーシーが、戻って来る。
"気持ち良かった。"
"窓、閉める?"
"私がやるわ。前の住人は、凄い力持ちよ。"
"名札のフランクリンって?"
"大人しく、ベッドにいてよ。後、1分だけ、待ってちょうだい。"
"All right."
"あなた、最高。"
軟膏の袋を取り、消える。
女の喘ぎ声が聞こえる。キキが、男にまたがり、腰を振っているのが見える。
マーシーが、声を掛ける。
"何よ?ポール。"
"Why?"
"What did you say?"
"別に、何も。"
"今、何か言ったでしょ。"
"何も言っていない。"
"確かに、今、何か言ったわ。"
"Well. 言っていない。"
"今夜は、眠れそうにないわ。"
"この匂いは?亜麻仁油?"
"肌が荒れるから、クリームを。"
"柔らかい肌だね。"
"やめて。"
"What's the matter?"
"別に。もう少し、お話でもしない?"
"Ofcourse."
"グレッグから。"
"電話ね。あのホモ、よくここが。また愚痴でもこぼす気で。"
"そういう友達は、扱いにくいね。"
"仕方ないわよ。"
"そりゃそうだが。"
"でも、今夜は、うんざりだわ。電話くれと、言った?"
"言わなかった。"
"あなたが電話に出た以上、彼、感づいたわね。怖いわ。"
"何が怖いのかな?"
"私、レイプされたの。実は、この部屋でね。昔、住んでいたの。男は、非常階段から侵入し、私に、ナイフを突きつけ、声を出したら、舌を切ると。ベッドに縛り付け、ゆっくり私を犯したの。6時間も。"
"酷いな。それで、その犯人は、捕まった?"
"No. 私の男友達だったのよ。行為中、私は、眠っていたし。詰まり、そういう事。"
また電話が鳴る。切れる。
"コーヒー、飲みに行かない?"
"賛成だ。でも、店が開いている?"
"まだ2時前よ。"
マーシーの支度を待つ間、ポールは、叫ぶ男の像を見回す。新聞紙に混じって、20ドル札が貼られているのを見つけ、剥がそうとするが、マーシーが現れ、手を引っ込める。
"Ready?"
2人は、電車車両のようなコーヒーショップに入る。
"どうしても聞きたい事がある。フランクリンって誰?"
"あたしの夫よ。"
"Really? すると、あの部屋は、ご主人の?"
"彼が、家主なの。"
午前2時15分
"同居している?"
"No. 今、トルコよ。若い頃の結婚で、夫婦生活も3日だけ。夫は、movie freak. 特にこだわっていた映画は、『オズの魔法使い』よ。いつも、その話ばかり。無邪気だったわ。結婚の夜、私は、virgin だったの。あなた、あの映画は、見た?"
"『オズの魔法使い』?見たよ。"
"私たち、SEXの時、彼は、クライマックスでいつも、こう叫んだの。『降参しろ。ドロシー。』って。そうよ、あの映画のセリフ。"
"Wao."
"まともなうめき声は、出せずにね。気味が悪かったわ。彼に、そう、言ったけど。あの人ったら、やめようと、しなかったわ。自分では、少しも気が付いていないんですって。だから、関係も解消よ。"
"悪かったね。色んな話を、させてしまって。"
"大丈夫。慣れているわ。まだ、彼を愛しているの?毎日、手紙を書いている。この話、したくないわ。"
マーシーは、ポールの手に触れる。
"勘定を。"
"結構で。奢ります。時間外のサービスにしときましょう。"
"ありがとう。"
"楽しい一夜を。"
店主は、マーシーに、ウインクする。
2人は、部屋に帰るが、部屋に入る前に、ポールが引き止め、キスをする。マーシーは、泣き出す。
"帰ってほしい?"
ポールは、ベッドに腰掛け、待つ。床の分厚い本を取り上げる。"火傷患者の復元とリハビリ"
中身をめくるが、痛々しい写真に、耐えられない。
マーシーが、キャンドルを持って、戻る。
"お待ちどうさま。"
今度は、マーシーからキスをする。
"マリファナでも?"
"Yeah. Good idea."
ポールに、1本手渡す。ポールは、吸う。
"これの種類は?"
"コロンビアン。"
"インチキだ。"
"What?"
"これは、マリファナじゃないよ。"
"売人を信じたのに。"
"その売人は lier だな。こりゃ、カスだ。"
"もう、この売人から買わないわ。"
"分かるもんか。"
"大丈夫?"
"石膏の文鎮は、どこだ。それがここへ来た目的だ。それに、君に会う事も。でも、文鎮はどこ?すぐ見たいな。"
"What's the matter?"
"だから、石膏製のパンの文鎮を見たい。"
"Right now?"
"Just right now."
"キキの寝室に。"
"取って来い。この間にも、僕の書類が、文鎮がなくて、風で飛んでいる。"
"分かったわ。"
マーシーが、部屋を出て行き、ポールは、上着を羽織る。女の啜り泣く声が聞こえる。ポールは、マーシーの家から、抜け出す。外は、雨。
地下鉄の切符を買う。
"本降りだね。"
"酷い降りだ。"
"1枚。"
"1ドル50だよ。"
金を突き返される。
"Why?"
"深夜は、割増で、1ドル50だ。"
"You are kidding."
"97セントだけだ。"
"No."
"土砂降りだぜ。"
"No."
"助けてくれよ。家に帰りたい。"
"わしも、クビになりたくない。"
"こんな事、ばれないよ。"
"パーティーで酔っ払って、口を滑らすかも知れん。"
"切符をくれ。"
"駄目だ。渡せない。97セントで売ったら、会社の損害だ。"
"ほら、電車が来たぞ。早く売りやがれ。"
チケットの販売係は、チケットブースのマイクを切る。
ポールは、自動改札を飛び越え、警官に咎められる。
"何か?"
"今の電車に乗りたかった。"
また、改札を乗り越え、逃げる。
"待て。話をしている。"
"済まない。悪気はない。どうかしていたよ。97セントしかなかった。もう、決して、乗ろうとしないから。あれに乗りたかったんだ。もういい。"
"頭が、おかしいようだ。"
ポールは、また地上に出る。
▶︎深夜のバー
ずぶ濡れのポールは、バーの明かりを見つける。
バーに入ると、客は、ダンスを踊る1組のカップルだけ。
"ご注文は?"
"97セントしかない。"
"懐が寂しいのね。"
"そう。そういう事。注文しないで、座っていてもいい?"
"いいわよ。"
ウエイトレスが置いていった伝票をめくると、
"助けて。この仕事、嫌い"と、書いてある。
ウエイトレスの方を見る。
洗面室で、壁の落書きを見ながら、用を足す。
戻って来ると、ウエイトレスが、テーブルの向かいに座っている。ポールは、カウンターに座る。
"何にします?"
グラスを拭きながら、バーテンが、聞く。
"ここに座っていたいだけだ。いいかい?"
"Sure. 友達が欲しいんなら、待っても、無駄。今夜は、しけている。"
"Yeah. もう遅いからな。"
"でも、この辺は、普段は、客が多い。"
"僕は、雨宿りしたかっただけだ。早く、雨が上がると、いいんだが。家へ帰りたい。"
"地下鉄は?"
"金がないんだよ。"
"そうか、 give you a money."
"Really? 助かったぜ。"
"やれやれ。また来た。"
店の窓を叩く眼鏡の男。
"何が?"
"あいつは、今夜3回も、ここへ来てね。この近所で、3度も強盗をしたと言う。自宅の戸締りの事を、思い出していたんだ。時々、うっかり忘れてね。そうだ。"
レジが開かない。バーテンは、レジを叩く。
"It's all right. 金は。"
レジを蹴る。
"小銭なら、もういい。忘れてくれ。"
"客が混んだら、困るんだ。"
"そりゃそうだ。そのレジのキーは、どこ?"
"俺のアパートだよ。"
"そりゃ、困ったな。"
"あんた。キーを取りに行ってくれ。"
"僕が?"
"どうだ。"
"行こう。"
"スプリング街158。最上階。おい、待てよ。"
"お互い、初対面だし、僕は、泥棒かも知れない。そうだな?僕は、泥棒なんかじゃない。人の物を失敬するという発想は、僕にはない。家へ帰りたいだけだ。見ろよ。僕のキーだ。預けておく。戻らなかったら、全部、君にやる。これでいいだろ。持っていろ。"
"分かった。いいよ。"
バーテンは、キーを渡す。
"レジのキーは、スイッチの上だ。下にある警報装置の赤の点滅を確かめて。"
"スプリング街158だな。すぐに戻る。"
ポールは、レジのキーを取る。洗面台で、顔を洗い、顔を拭いた紙を、便器に流す。しかし、便器が詰まり、水が逆流する。
部屋を出る。
"葉書か?"
"羨ましいね。日焼けしているらしい。"
2人組が、ポールに声を掛ける。
"よく来ている泥棒かい?欲しい物盗った?それとも、まだ?"
"誰だい?見かけないな。"
"トムの友達。"
"トムは、ここには、3人いる。"
"僕は、泥棒じゃない。手を離せ。"
"どのトムだ?"
"名字は知らんが、最上階にいるトムだ。"
"それで?"
"キーを渡された。見ろ。このキーで、入ったんだ。"
"済まない。今週は、8回も泥棒が入った。"
"知らなかった。"
ポールは、バーに向かう。
"あの電器屋に行くか。"
"来週は、新型が入荷する。"
2人組が、キキの石膏像を、車に積み込もうとしている。
"Hey. それ、どこで?"
2人組は、TVと石膏像を、落として、車で逃走する。ポールは、石膏像を、肩に担ぎ、キキの部屋を呼ぶ。猿ぐつわをかまされたキキの顔が覗く。
"キーを投げろ。気をつけて。"
"そうだ、うまく投げろ。"
キキは、咥えた鍵束を投げる。ポールは、階段を駆け上がる。
部屋には、後ろ手に縛られたキキがいる。
"何て、凄い結び方だ。賊は、船乗りか?ほどくには、何時間もかかる。進入路は?"
"誰の?"
"泥棒たちの。"
"泥棒たちって?"
"君の彫刻とTVを盗んだ。"
"ニールとペピ?あの2人は、私の友達よ。300ドルで、TVを売ったの。なぜ、私の彫刻を?"
目つきの険しい男が、現れる。
"この男か?"
"Yeah."
"ホルストだ。"
"I'm ポール。"
"彼女に、無作法だったな。恥ずかしいと思え。"
"分かっている。さっきは、どうかしていた。"
"自制心がない。"
"多分ね。"
"ねえ、さっきの続きをやって。"
"マーシー。ポールだよ。"
ベッドルームに入る。マーシーは、寝ている。
"Hi. Listen. 君に謝りたい。あんな態度をとって、済まなかった。僕としては、君とは、上手く行かないと、思ったんでね。弁解は、しないが。少し、脅えていたんだ。君の夫の話とか。Boy friend の話が、気味悪かった。分かるだろ?それに、まだ気になる事が、あった。君に、火傷があるらしいという事だ。その事に耐えられなくてね。どうかしていたよ。出会いが、まずかったんだろう。もう行かないと。マーシー。"
手を握る。
"マーシー。"
脇机に、空っぽの"セコナール(睡眠剤)"の容器。
"Oh Jesus."
マーシーの目を開ける。
"大変だ。息をしろ。キキ。キキ。Oh Jesus. "
扉が閉まっている。勢いをつけ、体当たりして開ける。
"キキ。どこにいる?"
石膏像にメッセージを書いた紙。"ホルストと私は、飲みに行くわ。気が向いたら来て。クラブ・ベルリンにね。 キキ"
電話を掛ける。
"警察を。死亡者の報告を。"
マーシーが、被っているシーツをめくる。パンティだけまとった裸だが、火傷の痕はない。
"死者あり"の貼り紙をして、部屋を出る。
▶︎ジュリー
また雨が降る。
バーのウエイトレスが、声を掛ける。
"Hey. あたしよ。やったわ。仕事辞めたの。"
"だから?"
"飲みに行くの。お祝いよ。"
"勝手にやってくれよ。僕は、あのバーで、キーを取り返し、家へ帰る。"
2人で、バーに戻る。
店の入り口に貼り紙。
"こりゃ、何だ?"
"閉店。30分で戻る"との由。
"どうする?信じられん。トムは、どこ?"
"私のアパートは、すぐそこよ。来ない?"
石膏像泥棒の車が、通りかかる。
"ニール、ペピ。待て。知らなかった。"
"さっきの奴だ。逃げろ。"
"知らなかったんだ。本当だよ。"
"うちへ来る?
元ウエイトレスの家に上がる。
"モンキーズ、好き?"
"What's your name?"
"ジュリー。"
"僕は、ポール。"
"酷い夜だった?疲れているみたい。"
"今夜、下町まで来て。何てこった。全然、知らない女だったのに。"
ポールは、泣きじゃくる。
"本当だ。"
"待ってて。"
ジュリーは、レコードを替える。
"これ、どう?『チェルシー・モーニング』。何の事か、私に話して。"
"何でもない。すぐに出て行く。下で、バーが開くまで、待たして貰うだけ。キーを貰ったら、家へ帰る。"
窓の外、バーの明かりを見つめる。
"何でも、話せば、楽になるわ。"
ジュリーは、スケッチを始める。
"I don't think so."
"深刻ぶらないでよ。何なの?そんな難しい顔してないで、話すのよ。"
"何を?"
"Com'on. 悩み事を。"
"トムは、どこだ?今、何時?"
"遅いわ。"
ベッドの周りに、ネズミ取りが、沢山、仕掛けられている。
"Jesus."
ジュリーは、ポールの顔を描いている。
"本当に、あの仕事が嫌い?"
"どっちの仕事も、嫌いなの。"
"もう一つの仕事は?"
"下のコピー屋で、働いているの。"
"この下の?"
"Yeah. 鍵も持っているわ。店を見る?"
"No. 今夜は、もう何も見たくないな。"
"冴えない仕事だけどね。自分のコピーは、無料よ。"
"よかったね。"
"『よかったね。』とは、何よ。適当にあしらう気?本当に失礼しちゃうわ。それが、今風の答えなの?もっと気をつけて、口を利いて。ちゃんと分かっているの。お客が、私の悪口言うの、聞いたわ。"
"僕は、別に。"
"外は、雨だから、私の部屋に入れてあげたのに。損しちゃったわ。"
"君は、頭がいい。"
"でも、勘定書きの税計算は、苦手よ。8%の税率が悪いの。間違いがあるのは、当たり前。訴えなさい。"
"I'm sorry. 謝るよ。"
機嫌を直したかに見える。
"座りたい?こっちへ。"
"僕の無礼を、許してくれ。もう、泣かないで。酷い夜だ。"
"ポール。この髪型好き?"
"Guess. 気に入っている。"
"それじゃ、触ったら?"
"乱したくない。"
"平気よ。"
"触ってほしい?"
"Yeah."
髪の毛に、指で触れる。
バーが、開く音がする。
"音が聞こえた。トムだ。よかった。家へ帰れる。失礼するよ。"
"何でもないわ。別に。"
"あなたに好かれているって、自信があるのよ。雨宿りだけで、帰ってしまわないわね?"
"分かったよ。それじゃ、こうしよう。これから、バーへ行って、彼のキーを返し、僕のキーを貰う。そして、戻って来る。2分で済むよ。"
"Sure."
"ジュリー。2分だよ。いいね?"
バーに戻る。
"遅かったな。"
"色々あってね。"
"遅過ぎるんで、あんたは、泥棒かと思ったよ。だから、アパートに調べに行ったが、はっきりしなかった。だが、戻って来た。心配させやがって。1杯どう?飲みたそうな顔だ。"
"あれの方に、よく効く薬は、ないかい?"
"女が、感じない?"
"僕の方だ。付き合う羽目になったのでね。お宅の女の子と。"
" '65年型ヘアの子?"
"気は進まないが。"
"嫌なら、逃げれば、いい。"
電話が鳴る。バーテンが取る。
"そうだ。僕のキーをくれ。家へ帰るよ。"
バーテンは、背中を向け、嘆息している。
"What's the matter?"
"俺のガールフレンドが、ついさっき、自殺したそうだ。睡眠薬を飲んで。俺が、少しきつく言い過ぎたよ。My fault. 気の毒に。マーシー。"
ポールは、目を伏せる。
"マーシー、マーシー、マーシー。"
バーテンは、カウンターを叩く。
ポールは、声を掛けあぐねる。
"本当に、何と言ったら、いいか。"
"お前の責任でもあるまいし。"
客のゲイのカップルの片割れが言う。
"すぐ戻って来るから、落ち着いて。"
ポールは、ジュリーの部屋のブザーを鳴らす。
"You all right?"
"勿論よ。2分と言ったわ。"
"I know, I know. 済まない。"
"寂しかった?"
"こんな切ない思いをしたのは、初めてだ。自分で、信じられない。本当に、寂しかったんだ。優しいのね。"
ジュリーは、キスする。
"贈り物があるの。"
"やめてくれ。気は遣わないで。知り合って、まだ、1時間だよ。"
"No,no,no. 約束どおり戻って来た。近頃、稀な事だわ。だから、表彰よ。"
白いドーナツ状の物を、手に取る。
"これ、ご存知?"
"No."
ネズミが、ネズミ取りにかかる。
"これは、石膏製のパン型文鎮よ。キキという彫刻家の作品。知っている?"
"ジュリー。僕は、約束どおり、戻った。でも、もう帰らないと。眠りたいんだ。Don't you? また必ず会おう。約束するよ。OK? All right?"
"なぜ、いつも聞くの?頭がおかしいんじゃない?"
"お互い、電話番号を教え合おう。名案だろ?君の番号は、これ(スケッチブック)に書く。よし、言って。"
"私の番号は、5の4433。とても簡単よ。"
"5の4433。少し短過ぎないか。OK? "
"違う。KL5の4433よ。"
"OK. Sorry, sorry."
ポールは、部屋を出る。
ジュリーが、文鎮を持って、顔を出す。
"そんなもの、差し出すな。"
"Really?"
ジュリーは、引っ込む。
"きっと仕返しするわ。"

▶︎さすらい
"冗談じゃない。また閉めているよ。こりゃ、何だ。"
ニールとペピ。
"今夜はやめよう。腰が痛いよ。"
"俺の彫刻を捜そうぜ。この辺にある筈だ。初めて、金を出して、買ったのにな。だから、物は、盗むに限るよ。この辺を、少し流そう。きっとある筈だ。"
ポールは、トムの部屋に行く。
"トム?ポールだよ。"
返事がない。階段を上がる人の声がする。
"泥棒に出会いそうで、おっかないよ。"
"ヤク中毒もいるし。"
"ナイフを持っていたら。"
"今夜、3件だ。"
"家を、1時間開けたら、カメラやレンズを盗まれた。"
"保険会社に?"
ポールが見つかる。
"あの男だ。Hey."
ポールは、逃げる。
"奴を逃すな。"
ポールは、地下に隠れ、やり過ごす。
"こっちだ。"
ポールは、ダイナーに入る。
"そんな薄汚え面は、消えやがれ。"
"おい、どこへ行く?"
"トイレへ。"
"うちのトイレは、お客様専用なんだ。"
4時10分
"後で、何か注文するから、使わせてくれ。OK?"
追い出した男が、また入って来る。
"聞こえないのか?お前さん、とっとと消え失せるんだ。"
ポールは、トイレを出る。
"そこにメニューがある。寛いで。"
"Thank you."
キキのメモを取り出す。
"クラブ・ベルリンに、飲みに行くわ。"
"駐車メーターを見て来る。そうだな、注文は、ハンバーガーとコーヒー。"
ポールは、嘘をついて、クラブ・ベルリンに行く。
屈強な門衛に訊く。
"入れる?"
"今は、入れないね。"
"そっちの都合のいい時間になれば、入れるかな?"
"可能だが、今は、駄目だ。"
"そんなに入りたければ、突破したら?金はある?"
"あるとも。金が欲しいのか?最初から言えばいいのに。大してない。これだけだ。"
有り金を全部、渡す。
"受け取ろう。お前の気が済むんならな。これは残せ。"
モヒカン刈りがやって来る。
"後、数分、待つんだ。"
"なぜ、彼は入れる?"
"今夜は、『モホーク刈りの夕べ』なのさ。"
"Com'on. 餓鬼じゃあるまいし。兎に角、入れてくれよ。"
"どうしても?"
"急用だ。中にいる知人が、僕を待っている。Let me in."
"Sure?"
"Yes. I'm sure."
"通してくれ。"
門衛に、付き添われ、中に入る。
"左に曲がって、後は、まっすぐだ。"
髪を刈り上げている男たちの所へ、連れて行かれる。
"モホーク刈りだ。"
"喜んで。"
大群衆、大騒音の中、呼び掛ける。
"キキ、ホルスト。マーシーが死んだ。ニールとペピは、賊だ。文無しだ。助けてくれ。"
頭に、バリカンを当てられ、逃げる。
ポールは、店を飛び出し、走る。
"何て酷いんだ。殺してやる。野蛮人ども。毛がない。銃を。"
キキのアトリエに戻る。石膏像から、紙幣を剥ぎ取る。外を窺うと、住民が、夜回りしている。
外に出て、停車中のタクシーに声を掛ける。
扉が開く。
"I'm sorry."
女性客が降りる。来た時のタクシー運転手。
"金を取り戻したぞ。見ろ。これで、アップタウンに。"
"Great. じゃ、またな。どんなもんだ。"
運転手は、紙幣を受け取り、走り去る。
"Oh. No,no,no. I don't believe it. You see that?"
"腕から、血が出ているわ。大変よ。うちへ来ない?手当てするわ。"
"大した事ないよ。"
"来るのよ。"
"No. 電話ある?"
"Yeah."
女性の部屋に上がる。
"I'm sorry. 今夜、僕は、信じられないような一夜を過ごした。"
"あたし、アイスクリームを売っているの。"
"何だって?君の仕事など、聞いていない。酷い夜だった。"
"いい仕事だわ。自分用の営業車も、持っているんだもの。特殊運転免許が、必要なのよ。実力で、取ったんだから。"
ポールは、電話する。
"ピーター・パツァクの番号を。"
"鉛筆は?"
"マルベリ街。"
"Thank you."
"5、8、1、9、6、2。"
電話をかけれない。
"こいつは、おかしい。''
また電話する。
"マルベリ街のピーター・パツァクの番号を。"
"5、8、6、2..."
"やめろ。"
女は、笑い転げる。
"番号を忘れたよ。どうかしたのか?You are all right?"
女は、笑い続ける。
"僕は、大変な夜を過ごしたんだ。Do you understand?"
"楽しませているのよ。"
"余計なお世話だ。怒鳴って、ご免よ。僕はね...情けないんだ。今夜、どうしても、家に帰れないから。だから、必死になって、泊まる場所を探している。ただ、眠りたい。スプリング街は、お断りだが。"
"そこへ、行けばいいのよ。"
"そこに住んでいるバーテンの女友達が、自殺した。"
"アウトね。"
"アウトだよ。どう考えても、不可能だ。だから、電話をかけさせてくれ。僕が、どんなに助かるか。"
"I can wait. まず、あなたの腕の傷の手当てをしたいの。"
"All right."
ポールは、シャツを脱ぐ。
"これは、何?"
腕の汚れを示される。
"紙粘土をいじっていた。"
"この記事は?『昨夜、男が1人、怒った暴徒によって、ばらばらにされた。マンハッタンのソーホー区だ。被害者の身元は、分からない。衣類は、裂かれ、身分証明もない。顔全体が、打ちのめされ、識別できない。』。"
"やめてくれよ。"
"顔を打ちのめされた?"
"痛いな。"
"きっと、うんでいるのよ。はがすわ。"
"触るな。"
"焼くわ。"
"いや、焼くな。"
"隣で、マッチを借りるわ。"
"おい、よせ。"
"私は、ゲイル。"
"やめろ。"
ポールは、シャツを着て、部屋を出る。
"マッチは、要らん。"
"どこへ?"
"家へ帰る。歩いて。"
"近いの?"
"東91丁目。"
"そんな遠くまで?あなたが、好きなの。営業車で、お宅まで、送ってあげるわ。"
ポールは、いぶかる。
"車は、どこ?"
"その先よ。"
並んで歩く2人。ゲイルが、立ち止まる。
"Com'on. Com'on."
ゲイルは、電柱の貼り紙をはがす。
"What's the matter?"
"Shut up."
"What?"
"Shut up."
"What?"
"Shut up."
"どうした?"
"終わりよ。"
ゲイルが、ホイッスルを吹く。
"What are you doing? 何だい?ゲイル。どうした?"
ゲイルは、1人、営業車に乗り込む。
"送ってくれる?なぜ、そんな目で?"
"奴だ。笛が聴こえた。捕まえろ。"
夜回りが、集まって来る。ポールは、逃げる。営業車と夜回りが、追いかける。アパートに駆け込む。ブザーを押す。
"助けて。Call police. ご子息の同級生ですよ。ママ。開けてくれよ。僕だ。"
応答なく、路地裏に入り、梯子を上る。
覗き見えるアパートの部屋で、夫が、妻に撃たれる。
"僕のせいになるぞ。"
また走る。
"この僕が、何をしたと言うんです?ただのワープロ技師ですよ。"
散歩する男に出会う。
"Excuse me. 大丈夫。助けてくれないか。お願いだから。"
"何をすれば、いい?"
"君の家まで、連れて行ってくれないか?"
"ご注文に応じ切れないプレイもあるんだ。前もって、言っとく。"
男の家。
"始める前に、断っておくけど。男性の相手をするのは、これが、初めてだからね。緊張気味なんだ。"
"電話、いいかい?借りるよ。"
"警察につないで。お巡りさんですね。僕は、ポール・ハケット。場所は、ソーホー区。実は、今、凶暴な自警団に追われているんです。それで、僕の命が、大変な危険に晒されているます。それに、この地区では、盗難事件も、絶えず起こっています。"
"少し眠れ。"
電話が切れる。
"Hello. Hello. Hello."
"何てこった。あれでも警察か。信じられないよ。"
顔を洗い、男に対する。
"I'm sorry. よければ、ソファーで、少し眠らせてくれないか。"
"家へ帰ったら、どう?"
"一晩中、その事を考えていた。"
"それで、なぜ、帰れない?"
"今夜、出会った女が、電話番号を教えた。帰ってから、電話した。彼女に呼ばれた。途中で、札が、風で飛んで行った。彼女は、僕の好みじゃないので、すぐ別れた。地下鉄に行ったら、料金が上がっていた。知っていた?僕は、知らなかった。帰る金がなかった。でも、親切なバーテンがいてね、金を貸してやろうと言うんだ..."
"その2人は、確かに彫刻を買った。僕は、知らなかった。キキが、怒るのも無理ないよ。マーシーに、冷たくした。それで、謝りに行ったら、彼女は、自殺していた。"
"その後、バーテンのところに、急に電話がかかった。彼の女友達が、自殺した。偶然の一致か?死んだのは、まさしく、僕が出会った女だ。自殺したのは、同じ人物なんだ。彼は、自分の女友達と僕との関係など知らない。知っていたら、僕の顔は、ひん曲がっていた。幸い、そこへ女が現れて、電話を使わせてくれたが、意地悪だった。僕は、おろおろしただけさ。その女が、今、僕を殺そうとしている。女の子との一夜の楽しみを求めただけだ。でも、そのために殺される。You know? ジュリーがいたぞ。あの女だ。見ろ。ジュリー。"
ジュリーが、ポールの人相書きを、電柱に貼っている。
"ジュリー。It's me. What are you doing? 来いよ。あの女だよ。"
ポールは、戸外に出る。ジュリーの姿はない。
電柱のお尋ね者のビラを見る。
ゲイルの車と夜回り隊が、やって来る。
ポールは逃げる。貼り紙をはがす。
店に、トニーの姿が見える。店に入り、トニーの前に座る。
"どうした?"
"僕を助けてくれ。"
"おい、しっかりしろ。水をくれ。"
"連中に言え。僕は、何もしなかったと。"
"もう少し、分かりやすく説明してくれ。何の事だ?"
"外に、暴徒がいる。僕を泥棒だと思い、殺す気だ。でも、この僕が、いつ、盗みを働いた?僕は、泥棒なんかじゃないよ。Right? 泥棒じゃない。"
"分かった。ここにいろ。"
"Where are you going?"
"キーを取りに。"
"僕のキーだな。ありがとう。行ってくれ。ここで待っているから。よかった。"
店主が、ハンバーガーとコーヒーを、黙って置く。パンクファッションの女が入って来る。クラブ・ベルリンのパーティーのチラシを渡す。
ゲイルの車が、店の向かい側に停まる。トニーが、夜回りの連中と話している。
"中にいるわ。"
ポールは、チラシを握り、逃げる。クラブ・ベルリンに行き、中に入る。パーティーは終わり、喧騒はない。
"ご注文は?"
"空いているね。"
"貸切で。"
"皆は、どこ?"
"さあね。家にいるんでしょ。"
"彼女は?"
"ジューン。いつもいます。誰にも気づかれない。興味があるのなら、急いで。すぐに閉店です。"
ポールは、洗面室で、身なりを整え、ジュークボックスに、コインを入れる。
 "私が、少女の時、家が、家事になったの。"
 "あの時の父の顔は、まだ忘れられないわ。"
   "炎の中から、救ってくれたの。"
   "私は、パジャマ姿で、震えながら、すべてが、
 燃えるのを見たわ。"
    "消火が終わって、自分に尋ねたの。"
    "これが、火事というものなの?"
    "これが、すべてなの?"
♪これだけの事なの?
 これが すべてという訳?
"Excuse me. つい、あなたの方に、目が行ってしまって。"
ポールは、ジューンに話し掛ける。
"どうです?僕と、1杯付き合いませんか。ただ、お話だけを。とても辛い一夜を過ごしたのに、誰も、相手が見つからない。ただ、僕と、一緒に座って、黙って、怒鳴らなければいい。詰まらないお願いですが、でも、これが、僕の正直な気持ちです。僕は、心を裸にした。ダンスを。"
♪そして 恋に落ちたの 世界一素敵な男性とね
 線路のそばを 散歩したり 何時間も座ったまま
 お互いの目を見つめ合ったわ
 でも ある日 彼が去り
 私は 死のうと思ったわ
 でも 死ななかった
"なぜなの?誘ったり、タバコをくれたり、踊ったり、優しくしたり。なぜなの?"
"僕はね、生きたい。"
"もう看板です。''
"僕はね、ただ、生きたいんだ。"
"一緒に下へ。"
    "あなたは、心配になるのよ。"
    "彼女が、そんな気持ちなら。"
    "自殺でも、するのかな。"
    "でも、あたしは嫌。"
ポールは、ジューンに身を預け、髪を撫でられる。
    "まだ死にたいとは、思わないわ。"
    "分かっているの。こうして、お話をしながらも。"
    "あたしに、最後の瞬間が来た時には、自分にこう言う積もり。"
扉を開けようとする音が聞こえる。
"奴らだ。"
"What is it?"
"Listen. 奴らは、僕を殺す気だ。ほかに出口は?"
"No."
"出口は、ほかにないって?"
"そこに入らないで。"
大量の袋に入った土。
"これは、何?"
"No. 触っちゃいけないわ。"
ポールは、頭から、灰色の液体を浴びる。
"一緒に、来て。Come with me."
ゲイルら夜回り隊。
"閉店は、知っているわ。でも、すぐ済むわ。"
"誰もいない。"
"何とかしてよ。"
ジューン。
"動かないで、痛いわよ。このメッシュは、ここに。"
ゲイル。
"静かに。"
"迫力に、押されない?"
ジューン。
"大丈夫。これは、毛穴をふさがないわ。"
ポールに、布を巻く。
"徹底的に捜すのよ。"
ポールは、布の上から、石膏液を、塗りたくられる。
"腕を上げて。"
ゲイル。
"このドアは?"
"個人の部屋だ。"
"ノックして。"
"俺がする。"
店員が言う。
"何の用?"
"君の部屋を、調べたいそうだよ。泥棒とか。"
"あたし、今、仕事中よ。"
"この男、見なかった?"
ジューンは、ポールに、新聞紙を貼り付ける。
"優しそうね。"
"ほかに出口は?"
"No. That's it."
"All right. Move on. お邪魔して、悪かったわ。皆んな、出て。暇を食ったわ。"
"行ったわ。"
"Great. 助かったよ。それじゃ、これを剥がして。"
"まだ、このままの方が、安全よ。"
"君には、感謝するが、ここから出してくれ。"
"私の言うことも、聞いて。また戻って来たら、どうする?"
"兎に角、今すぐ、ここから出してくれ。ここから出せ。"
口が、新聞紙でふさがれる。
"これで、済んだわ。上を調べて来る。すぐ、戻るわ。"
マンホールが開き、ニールとペペが、アトリエに侵入する。
"言ったとおりだろ。これを見な。逸品揃いだ。"
"This is junk."
"ガラクタ?すべて骨董品だぜ。"
"偽物さ。"
"今夜の仕事は、お仕舞いだ。"
石膏像が喋る。
"ニールよ。俺の彫刻だ。"
2人は、ポールの石膏像を、運び出す。
"おい、気をつけなよ。"
"本当に、値打ち物?"
"気は、確かか?これは、芸術だ。"
"芸術は、醜いな。"
"知らんのか?芸術は、醜いほど、価値がある。"
"それじゃ、高価だな。"
"有名なシーガルの作品だからね。TVで、バンジョーを弾いている。"
"見た事ねえな。"
"お前の教養は、そんなものさ。"
"帰ろうぜ。俺なら、ステレオの方が、いいな。"
"ステレオなんか下らねえよ。Art is ever."
車に積み込まれ、車は走り出す。夜が白む。
曲がり角で、石膏像は落ち、砕ける。白い粉をふいたポールの前で、会社の門が開けられる。
ポールは、デスクに座る。
PCが、"GOODMORNING, PAUL"と表示する。
続々と出勤する人たち。
【感想】
そこそこ男前の独身サラリーマンに降り掛かった一夜の災難。軽く、プレイボーイぶりを発揮する積もりが、持ち金が、タクシーの窓から飛ばされたことから、苦難が始まる。これでもかの災難は、一夜の出来事にしては、多過ぎる。
彼の打ちのめされぶりを、ただ、楽しむ娯楽作。

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