一人勝手に回顧シリーズ#ヴィム・ヴェンダース編(8)#ことの次第/映画監督の苦悩

【映画のプロット】
▶︎さまよう家族
ごつごつの岩と砂山の大地。家族と思われる一行は、防護服のような衣装を身に纏い、頭にはキャップ、マスクにゴーグルを付けている。家長と思しきリーダーは、手持ちのカメラで風景を撮影する。
原爆投下後のヒロシマの街並みに似た風景が差し込まれる。
一行は、主の像が掲げられたスペースで休む。小さい男の子マークは、疲弊し切っている。リーダーは、手を下す。
海は遠くないと、リーダーは、声を掛ける。
飛行機✈️の残骸が転がる。逆にアーチを張った、三層の居住施設が打ち捨てられ、下に海を臨む。一行は、海にたどり着いたが、"皆んな"はいない。
監督のフリッツ(パトリック・ボーショー)が撮影をストップし、カメラに意見を求めるが、"撮り直した方が良い"との意見だ。
子役とその母親を捉えるシーン、監督は、子役の目に光が差し込むか、撮影監督ジョー(サミュエル・フラー)も呼んで確認する。撮影監督は、葉巻をくわえ、大物ぶりを示す。短いシーンが撮れる。
監督は、次のシーン、子役が住居跡を駆け抜けて、浜辺へ降りるシーンを指示するが、ジョーは、"もし、撮れたらいいシーンになる"と言う。フィルムが底を尽き、もう撮れないと告白する。
監督は、女優に聞かれ、"金もフィルムもない"と打ち明ける。
女優のアップが撮られ、この日の撮影は、終わりとなる。その翌日も、撮影はない。
監督が、女優に"捜索者"という本を貸す。
若い男のスタッフは、女優に、映画で、全てが破滅だと嘆く。
フリッツは、ジョーを"なぜ、フィルムのことを言わなかった"となじるが、ジョーは、"言ってどうなる"と開き直る。
ホテルで湯船に浸かる男優。"捜索者"を開き、本の表現と現実の酷似に気づき、外を眺める女優。
子連れの女優は、子どもと会話する。フリッツは、子役の娘と妻の三人連れ。ヴァイオリンを奏でる者。その音を聞きながら、"捜索者"を読む女優は、姿見に布を掛ける。湯船に横たわる男は、湯船に沈む。
フリッツとジョーは、プロデューサーのゴードンの消息に気を揉む。
エレキギターを奏でる者。パーティーの身繕いをする者。湯船を出た男優は、血圧を測る。
フリッツは、年長のジョーのアドバイスを聞く。映画が、暗礁に乗り上げたら、"膝当てを当て、ひざまずいて、祈れ"と。
女優が、建物の屋上で、"捜索者"を読む。貸し与えた監督がやって来て、一晩だけ返してくれと、言う。
▶︎それぞれの思い
食堂で、銘々が夕食をとる。
ジョーは、女優に、マリリン・モンローとの昔話を語る。マスクもゴーグルも付けず、我々は"生存者"だと語る俳優たち。フリッツは、子連れの女優に、"皆んなに話しておくことがある。"という。
フリッツは、皆んなの前に立ち、改めて、プロデューサーが金策をしていること、フィルムが尽きたことを伝える。そして、この機会にストーリーを練り直そうと語る。"物語は、物語の中にある"と。
スタッフに、電話と言われ、"演説"は、中断される。
ジョーは、ロサンゼルスのコルビー夫人に電話をかけるが、気が変わり、キャンセルする。
フリッツの部屋。子役の子供たちは、ベッドで🛌ささやき話。子連れの女優は、独白をテープに吹き込む。フリッツは、目を覚まし、子供たちを見やる。
寝付けない女優。無線を聞くスタッフ。ジョーは、ベッドで葉巻をふかし、時報を聞く。午前2時23分。女優と男優が、交わった後、女は"マンネリ"とこぼすが、機嫌をとり直す。フリッツは、床に寝転び、外から木の枝が窓を破り、驚く。
ジョーは、時報を聞いている。午前2時36分、37分。
朝。打ち上げられた車の中でおしゃべりする子役たち。建物の屋上で、運動する男優。ヴァイオリンを奏でる女優。昨日、愛し合ったカップルは、戸外で、男が女のスナップを撮り、遠くからカメラ📷を向ける男に、女は、"リスボンへ行く"と、叫ぶ。
フリッツに、奥さんの容体を尋ねられたジョーは、"3度目で、もうダメかも知れない"と言う。
広場に渡したヒモに、洗濯物を干すスタッフ。歯列矯正などの話を、面白おかしく語る。
フリッツは、ジョーに、奥さんの訃報を告げる。ジョーは、荷物をまとめて、旅立つ。フリッツに、"撮れるようになったら、連絡を"と。"12時間後に撮れるようにする"と。
フリッツは、男優に車に乗せてもらい、空港に向かう。車の中で、男優が、モノクロの良さが分かったと言う。ジョーは、"モノクロの方が、物事ははっきりする"と言う。
フリッツは、電車の🚃ホームで、スタッフに、ゴードンの家を尋ねる。すぐそこを案内される。スタッフは、昨日のスピーチについて、"物語のない人生などはない"と言う。

リスボンの路面電車。女優は、車内で、メモ帳に何か書きつける。街角を歩くジョーを見て、女優は、電車を降り、後をつけ、酒場に入る。
少しためらい、女優は、店の奥に座る。ジョーは、"電話は人類の敵だ"などとバーテンに絡み始める。隣の床屋で散髪していたスタッフが、ジョーに気づき、酒場に入り、女優の隣に座る。何を書いているか、問われ、女優は、"時間の感覚"と題する文章を、読み聞かせ始める。
フリッツは、森を抜けて、宮殿のような建物の正面に出る。玄関や横手の扉は🚪、施錠されている。フリッツは、備え付けのハシゴで二階のテラスに上る。中に入ると、脚本家のデニスが、ベッドに横になっている。
フリッツは、デニスに、"脚本の第一稿に迷いがある。君は愛を知らない"と言う。デニスは、"多少は知っていると思いたい"と言い、パソコンを立ち上げ、これが、ゴードンの頭の中"と、モニターに粒子の粗い画像を映し出す。
"同じ船に乗り合わせた以上、僕は船と運命を共にするよ"。
子役が、海沿いの崖で花を摘む。断崖の上で絵を描く母親に届ける。母親は、自然は全て、光と影、すなわち明暗で出来ていると、子どもに教える。
フリッツとデニスは、会話を続ける。デニスは、"この映画を撮ることは、自殺行為だ"と言う。"自信がない。"今まで10本を撮ったフリッツも、"落ち着いているように見えるが、内心は不安でないか"と勘繰られる。
フリッツは、浜辺を歩く。
フリッツは、車の中で、デニスにもらったイメージを眺め、ライターの火で燃やす。
バーカウンターに、俳優、スタッフが集う。フリッツは、今週末、ゴードンに会ってくると、皆に伝える。"月曜日から、撮影再開の予定"だと。そして、女優に、"捜索者"を、また預ける。
フリッツは、ケイトとベッドでささやき合う。
バーカウンターにとどまる男女をカメラは舐める。金を数えるスタッフ。俳優と会話するスタッフ。歌を口ずさむ女優、ビールをラッパ飲みする俳優、本を読む女優。
デニスは、ホテルのベッドで咳き込む。
フリッツとケイトは、愛し合う。聞き耳を立てる子どもたち。
翌朝。鉄道のホームに向かうフリッツ。建物の屋上で、腕立て伏せする俳優。捨てられた車の中に子どもたち。湯船に浸かる自身をカメラに撮る俳優。メモを記す女優。建物のテラスに置かれたタイプライター。
▶︎ゴードンに会う
フリッツは、ロサンゼルスに降り立つ。レンタカーで、まず、ゴードンのオフィスを訪ねる。
女性秘書も、ゴードンの行き先を知らない。
フリッツは、車で立ち去る。駐車場の外に止まっていた車が、追跡するかに見えて、途中で諦める。
フリッツは、ゴードン(ロジャー・コーマン)の弁護士に会う。弁護士もゴードンの消息を知らないし、"合わない方が身のためだ"と言われる。
ジョン・フォードの"捜索者"が、劇場にかかっている。
フリッツは、留守電を残し、駐車場で待つ。フリッツ・ラングの手形を踏む。一台の車が近寄り、女が"デニスは?"と尋ねる。
フリッツは、"酒浸りだ"と答えると、女は、"ポルトガルのロケ評価20万ドルを、デニスが出したからだ"と指摘する。
フリッツは、ジョーの屋敷に行く。
プールサイドで寛ぐジョーは、"ゴードンは、組織の金に手を付けた。生きているか分からないが、いずれ殺される"と言う。"映画はどうなる?"と尋ねるフリッツに、"考えを改めた方がよい"と答える。フリッツは、"お別れだ"と言って、ジョーと別れる。
フリッツは、車で夕食をとる。犬を連れた男が、注文の品を手に、キャンピングカーの中に入っていく。閃いたフリッツは、車でキャンピングカーに近づき、中に入る。犬を連れていた男に、銃を突き付けられるが、ボスに諌められる。ボスは、車を出させる。
ボスこそが、ゴードンで、フリッツを座らせ、説明する。ゴードンは、このキャンピングカーに、ずっと隠れていると言う。
"今時、モノクロの映画の企画に乗った、自分の判断ミス"、"ヨーロッパの監督を選んだ判断ミス"と嘆く。 
フリッツが、ビデオカメラを取り出すと、ゴードンらは、激しく抵抗する。
二人のスポンサーに、ラッシュを見せたところ、色がないと騒ぎ出した。テーマは、あのままでいい、アメリカ🇺🇸人の監督で撮っていたらよかったのに、と嘆く。
朝になり、ゴードンはハリウッドの歌を歌い、フリッツは、ひとりごちる。
キャンピングカーは、元のファストフードショップに帰って来る。
ゴードンは、犬を抱えて降りる。二人は、抱擁して別れる。銃弾が、ゴードンの背中を貫く。フリッツは、ビデオカメラを構える。しばらく置いて、フリッツも胸を撃たれる。カメラは、地面に落ち、立ち去る車が捉えられる。
【感想】
映画監督が、撮影に難渋するテーマは、お決まりコースだが、トリュフォーの『アメリカの夜』、森崎東の『ロケーション』、ゴダール作品の大概(そのように見えるということ)、たけしの『監督、ばんざい』然りである。しかし、監督が最後に消されてしまうオチは、大概である。かように、本作は、強烈な印象を与える。

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