一人勝手に回顧シリーズ#マーティン・スコセッシ編(2)#レイジング・ブル/ボクシング映画の系譜

【映画のプロット】
▶︎かつてのチャンピオン
1964年NY。
"ジェイク・ラモッタとの一夜 今夜8時半から"
"観衆の拍手が、今でも耳に残っている。だが、あの夜は、驚いた。ガウンを脱いだが、トランクスなしでね。受けたフックやジャブも忘れられない。痩せる方法としちゃ、最悪だ。色んな事があった。だが、今じゃ、拍手を受けるなら、シェイクスピア劇で、受けたいね。馬をくれ。馬を。競馬が外れどおしだ。私には、オリビエの名演は無理。だが、彼だって、シュガーと戦えば、こういうだろう。リングより舞台の方がいい。お客を沸かして、自分も楽しむ。That's entertainment."
"ジェイク・ラモッタ(ロバート・デ・ニーロ)1964年"
"ラモッタ1941年"
"ラモッタとリーブスの対戦。不敗のラモッタが、押され気味。かなり打たれています。"
"どうした。黒人に、殴られっ放しだぞ。いいとこ見せろ。"
"最終ラウンドだ。判定じゃ負ける。KOしろ。"
相手セコンド。
"噛みつけ、蹴飛ばせ、ぶっ潰せ。"
"何が何でも、倒すんだ。絶対、KOしろ。"
ラモッタ。  
"じゃあ、お前が行けよ。"
観客席に破廉恥漢。一悶着起こる。
"最終ラウンド開始。ラモッタが、頭を下げて、前進。後退を知らぬ不屈のファイターです。ラモッタ出る。ここで、ラモッタの左フック。"
ダウンを奪う。
"凄い歓声です。リーブスが、立ち上がり、ラモッタが、向かいます。リーブスが、2度目のダウン。10ラウンドで、ラモッタの奇跡的な反撃。ラモッタの左フックが、炸裂。"
左フックから、次々とヒットさせ、袋叩き状態。
"リーブスが、3度目のダウン。ラモッタが、引き離される。レフェリーが、カウント。しかし、時間がない。ここで、時間だ。ゴングで救われました。ラモッタの逆転勝ちか。"
ラモッタは、両手を挙げ、リングを回る。
"勝つとは限らんぞ。よその土地だ。"
"ジョーイ。ガウンを着せろ。"
" Ladies&gentlemen, オハイオ・ボクシング連盟のルールにより、この10回戦の勝者は、審判の採点の結果、全員一致で、ジミー・リーブス。"
"ブロンクスの雄牛。初めて、敗れました。"
"八百長だ。ラモッタの楽勝だったぞ。"
"リングから下りるな。こっちが、勝っていたんだ。" 
"7回もダウンを奪いながら、ラモッタが、負けました。"
ガウンを観客席に放り投げ、ラモッタは、両手を挙げて、真の勝者をアピールする。リングに、椅子が投げ込まれる。観客席は、荒れる。リーブスは、両肩を支えられて、リングを下りる。混乱は、収まらない。
NYブロンクス。1941年。
"完全にのしていた。なのに、奴の勝ちだ。"
"だから、トミーと手を握れ。タイトルマッチだってやれる。でないと、野垂れ死にだ。彼が、うんと言えば、皆も喜ぶ。"
"分かっている。"
" You know. 彼にも分からせろ。"
"何度、同じ事を言わすんだ。俺は、分かっていても、彼が、人に頼るのを嫌う。"
"石頭に、穴を開けるさ。"
"じゃ、自分で説得しろよ。"
"俺じゃ駄目だ。嫌われている。"
"皆んなにだろ。"
ラモッタ。
"皆は、知っていた。誰が、勝ったか。審判の奴らの目は、節穴だ。客は、見ていた。浮気でもしていて、負けたと思うか。そう思っているな?考え過ぎだ。お前は。"
"だから、何よ。"
"遊ぶのは、champになってからだ。できたか?"
"まだよ。"
"焼き過ぎないようにしろ。まずくなっちまう。何している。そんなに焼かずに、持って来い。"
"何さ。"
"さあ早く。持って来いよ。黒焦げにするな。出せったら。"
"欲しいの?"
" Yeah. "
"さあ、ステーキよ。何さ。がっついて。"
"いいだろ。"
"これで、happy? "
"よせ。もういいぜ。"
ラモッタは、テーブルをひっくり返す。
"なぜ怒らすんだ。飯のたびに。"

"トミーの事は、機嫌が良かったら、話すよ。"
"トミーに、早くしろと、せっつかれて、困っているんだ。"
"弟の俺の方が、困る。"
"だが、お前しかいない。"
"分かった。"
"悪いけど、頼むぜ。"
"明日、返事を。"
"どこでだ。"
"多分、ジムにいる。"
ジョーイが、夫婦喧嘩の現場に、割って入る。
"何が、気に入らないのよ。"
"これが、人参か。食い物じゃない。"
"何よ。いつも文句ばかり言って。"
"最低だったぞ。向こうへ行ってろ。"
"静かにしろ。けだもの。けだものめ。"
"人を、けだものだとよ。"
"やめろ。"  
"犬をぶっ殺して、昼飯にしちまうぞ。いいんだな?" 
"けだものめ。"
ラモッタは、窓から身を乗り出し、外を覗く。
"誰がだ。てめえのお袋がだろ。クソ野郎。ワンコロをぶっ殺すからな。"
"近所中に聞こえる。"
"物を壊してみろ。お前も、一緒に、ぶっ殺すぞ。"
"落ち着けよ。"
ラモッタは、腰を下ろす。
"何だ?あれ。もういい。仲直りしよう。休戦だ。"
"好きなだけ食ってると、体重が増えるぜ。やけ酒も、いい加減にしろ。リーブスの事は、忘れろ。次の試合に、備えるんだよ。一体、どうしたんだ?"
"教えようか。Hands. "
" Hands? "
"小さいだろ。まるで、女の手だ。"
"俺のだって。"
"つまりだな、いかに強くなっても、ルイスとは、戦えない訳だ。"
"ヘビー級とミドル級じゃ、当然さ。"
"最高の奴らとは、戦えない。やったら、俺が勝つのに、戦えないんだ。おかしな話さ。"
"そんな事は、考えるな。ミドル級が、ヘビー級と戦うなんて、馬鹿げている。考えても、意味ないだろ。"
"頼みがある。俺の顔を打て。1発食らわせろ。"
"嫌だよ。"
"いいから、殴れ。思いっきり。"
"嫌だったら?"
"年中、喧嘩していたろ。殴れよ。怖いのか?ホモ野郎、さあ打て。"
"ホモじゃない。"
"全力で殴れ。"
"馬鹿な事をさせるな。"
"ジョーイ。殴れと言ったら、殴るんだ。"
"嫌だね。"
"兄貴として、命じる。"
"嫌だと、言ったろ。怒ったって、構わない。関係ないぜ。絶対、嫌だ。どうせ、グローブもないしな。"
"あれを使え。タオルだ。手に巻くんだ。早くしろ。"
"本気か?殴るのか?"
"ありったけの力で、KOしろ。"
"いいんだな。"
2人は、立ち上がり、構える。1発殴る。
"弱い。"
また打つ。
"女の子のお仕置きじゃないぞ。もっと強く。"
続けて、打つ。
" Harder. Harder. "
"これで、精一杯だ。"
"タオルを取れ。"
" Com'on. 馬鹿げている。"
ラモッタが、ビンタする。ジョーイが、パンチする。
"何するんだ。"
またビンタが飛ぶ。
"さあ殴るぞ。"
"やめろ。"
ジョーイが殴る。
" Harder. "
"傷口が開いたぞ。何のために、こんな事を。"
ラモッタは、ジョーイの頬をつまむ。妻が、戸の隙間から、見ている。

ボクシングジム。スーツを着た男たちが、スパーリングを見学にする。
"しっかりやれ。"
"ジェイク。好調だな。"
"いいか。よそで待て。"
"ジョーイ。"
"怒っているぜ。"
"話は、通してある。"
ラモッタとジョーイ。
"呼んだのか?返事しろ。" 
"友達だぜ。"
"生意気な野郎だ。2度と呼ぶな。"
ゴングが鳴る。
"兄弟で、ホモってやがる。" 
ラモッタは、ジョーイが、座り込むまで、連打する。
"明日、電話する。"
"ジェイク。Watch yourself. "
老トレーナーに、声を掛ける。
"変わりないか?困った時には、呼べよ。"
"手を振れよ。"
"何だよ?ヒトをこけにしやがって。トミーが、力を貸そうってのに。"
"力を貸すだと?連中が?ピンハネする気だ。そういう奴らさ。俺は、自分でやる。2度と来させるな。"
"石頭め。勝手にしろ。"
スパーリングが、再開され、今度は、ジョーイが前に出る。ラモッタがリングを下り、ジョーイは、グローブを投げつける。

▶︎ビッキー
ビル屋上のフェンスに、子どもたちが、群がる。
市民プール。ラモッタとジョーイが、やって来る。
" Give me a coke. "
男たちが、ナンパしている。
"ダンスは?"
" Who's that girl? "
"あのブロンドか。ビッキー。"
"どこから?"
"この辺の女だ。"
" Last name は?"
"ビッキーとしか、知らない。"
"連中の仲間か?"
"毎日、プールへ来るから、顔見知りになったんだろ。"
"デート相手は?"
"いるもんか。まだ15だ。ナイトクラブには早い。"
"奴の女が、ブロンドの美人だと聞いた。彼女かな?"
"違うだろ。やけにご執心だな。簡単には、寝ないぜ。"
"俺に、気安い言い方は、するな。お前の仲間とは、違う。時々、頭に来るぞ。"
"兎に角、すぐsex は、無理だ。じっくり手間暇かけなきゃ。"
"寝たのか?"
" No. "
"正直に言え。"
"正直に言ったぜ。くどく聞くな。嘘ついたって、バレるだろ。I dedicated to No. デートは、したがね。"
"それで、何もせずか。"
"努力は、したがね。"
"だが、フラれた。Natural. 若い娘にしては。"
"何でだ?"
"お前と、できたって、評判を落とすだけだからな。"
ナンパ組。
"君に話かけたろ?"
"同じ奴か?"
" Yes. 確か、昨日も来てたぞ。"
"俺は、ずっと家にいた。"
"見つけ次第、叩こう。"
"連中を見ろ。重役会議だ。わざわざ、プールで。大法螺吹いて、彼女に聞かせる気だ。偉そうに。"
ビッキーが、プール際に、座る。
"素手で向かい会えば、震えあがるくせに。Tough guyか。笑わせるなって。"
"何を言っているんだ?兄貴は、もう女房がいるぜ。終わりだよ。娘は、任しときな。"
"あん畜生。"
ビッキーの足が、水を蹴る。

ラモッタらは、身支度を整える。
" Com'on. 今、出ないと、出そびれる。"
"どこへ行くの?"
"うるさい。仕事だ。"
"じゃ、私も出て行くわ。"
"勝手にしろよ。"
"帰りなんか、待つもんか。イタリア野郎のホモ兄弟。いつも2人で、くっついて。仕事が、聞いて呆れるよ。"
"隣の野郎。ここに同類がいるぞ。お前んちのワンコロと。あばずれが。だが、女房だ。"
"つけ上がらすな。"
"殴っているさ。"
"私は、犬じゃないよ。"
階上から、妻が叫ぶ。
"行くがいい。ホモでも、なんでもしに。"
"黙れ。近所中に、聞かせたいのか?"
"サマー・ダンス・パーティー"
"やあ、ビーンズ。ジェイク。"
"ビーンズのテーブルに行く。"
"それは、誰だ。"
"ビーンズさ。ここの用心棒だ。"
"彼女は?"
"来てれば、席から見える。Com'on. Let's go. "
"ビーンズ。どうも。心配事か?"
"下に変なのが、2人ばかりいるだけさ。"
"やあ、神父。"
"女でも、拾いに?"
"行く前に、皆にお祈りを。"
"今週は、寄付したか。"
ラモッタは、ビッキーを見つける。
"ああ、見えているさ。"
"チャンスだ。行けよ。"
男とパーティー会場を、後にするビッキーを追う。ビッキーは、男女が乗り合わせた車に乗って去る。
"さっさと出て行け。このよそものめ。早く行けよ。このクズが。とっとと帰れ。"

"ビッキー。ビッキー。ビッキー。"
プールの外から、ジョーイが、呼ぶ。
" Hi ジョーイ。"
"元気か?"
"あなたは?"
"まあね。何しているんだ?"
"あの車は?"
"兄貴のさ。会った事あるか?"
"あの人?"
" Yeah. 紹介するよ。ジェイク。来いよ。"
"兄貴のジェイクだ。Champになる。"
"やあ。よろしく。"
" Nice car. "
"車が好きか?"
" Nice. "
"家は?"
"この近所。"
"乗るかい?"
"いいわ。Give me a few minutes. 着替えるから。それじゃ。"
"車にいる。"
" OK. "
2人は、ドライブデートする。
"こっちへ。"
ビッキーが、少し身を寄せる。
パターゴルフ場。
"初めてなの。"
"いいから、打て。コツを教えるよ。あそこへ。"
球は、溝に逸れる。ビッキーが、覗き込む。
"あったか?"
" No. "
ラモッタも、反対側から覗くが、見つからない。
"どういう事?"
"ゲーム終了さ。Let's go. "

ドアを叩く。
"親父。"
ビッキーと2人、家に上がり込む。
"買い物に出たのかな?Dady. きっと、買い物だ。"
"何か食うか?要らない?"
2人は、テーブルに向かい合って座り、飲み物を飲む。
"ここへ来いよ。もっと近くに。部屋の反対側にいるみたいだ。"
ビッキーは、立ち上がり、近くに座る。
"さあ、来いよ。ここへ座れよ。"
ラモッタは、ビッキーの手を取り、膝の上に座らせる。飲み物を取る。
"要らないわ。"
"家を見るかい?"
" Yeah. "
"親父に買ってやったんだ。"
" Well. ボクシングで?"
"そうさ。決まっている。"
家の中を案内する。
"ダイニングだ。鳥がいたが、どうやら死んだらしい。"
"座れよ。"
寝室に移動して、ベッドの端に座る。ラモッタが、ビッキーの腰に手を回すが、ビッキーは、身をかわして、立ち上がる。ボクシングポーズを取っている写真に見入る。
"ふざけている写真さ。弟と。"
"ハンサムね。"
"何がおかしい?君は、綺麗だ。言われたことあるか。いつもだろうな。"
ラモッタは、キスする。何度もキスする。

"シュガーとラモッタの再戦です。"
"対シュガー戦。1943年"
"去年10月のNYでは、シュガーが勝ちました。華麗なフットワークが特徴のシュガーに対して、パワーが売りのラモッタ。ロープに追い込んだ。ラモッタの攻撃。左と右が、顎に炸裂。シュガー押され気味。8ラウンドで、優劣は、依然、不明。ラモッタが、顔を攻撃。シュガー苦戦。右をボディに。しかし、右を返した。ラモッタ、徐々に追い込む。シュガーが、リングの外に。そのままダウンです。シュガーにとっては、初めての屈辱。ゴング間近。ラモッタ攻勢。不敗を誇るシュガー・レイ・ロビンソン危うし。ラモッタの左フック。"
ゴング。
"判定の結果、ロッシ氏は、8対2で、ラモッタ。マーフィー氏も、7対3でラモッタ。ラモッタの勝ちです。"
"ブロンクスの雄牛ラモッタが、負けを知らぬシュガーに、プロ転向以来、初の苦杯を。不可能と思われたシュガー打倒を果たしました。これで、タイトル戦挑戦に、一歩、近づいた訳であります。"

ビッキーとラモッタ。
"本当にいいの?" 
"来いよ。"
"試合前は、駄目だと。"
"来ないと、殴るぞ。"
ラモッタは、ベッドに誘う。
"もう2週間も、何も。"
ようやく、ビッキーは、ベッドのそばに。
"傷にキスを。君がキスすれば、治っちまうさ。"
"さあ、ズボンを。ズボンを脱がせろ。"
ズボンを脱がせる。
"その下も。"
"坊やを起こすなと言っていたわ。"
"いいから。"
濃厚なキスをする。
"パンティを脱げ。"
ビッキーは、ラモッタの体にキスする。
"たまらないわ。ジムの匂いが好き。"
ビッキーの口は、次第に下に落ちて行く。
"よし、もういい。シュガーとの試合が、すぐだ。"
ラモッタは、洗面室に行き、水で、下腹部を冷やす。背後から、ビッキーが、体にキスする。
"よせよ。困らせないでくれ。"
ビッキーは、唇を求める。2人は、立ったまま、暫く愛撫し合う。

"対シュガー戦。デトロイト1943年"
"ラモッタとシュガーの3戦目。この2人は、今や宿敵です。ほかの選手たちが、彼らの強打を敬遠するために、3週間目で、この対戦に。2人の対戦成績は、1勝1敗。ゴングで、各自のコーナーに。7ラウンドで、シュガー優勢。逆転KOが、起きるか。強烈な左フック。シュガーが、生涯2度目のダウン。2度とも、ラモッタです。カウントを見守るラモッタ。レフェリーがグローブを拭いたが、棒立ちだ。ラモッタが行く。しかし、採点は、シュガー優勢。シュガーが、フックで、反撃。"
ゴングが鳴る。
"発表します。主審ラナハン。8対1。1ラウンド同点で、シュガー・レイ・ロビンソン。副審も6対2。2ラウンド同点で、シュガー勝利の判定です。"
控室で、ジョーイは、壁に椅子を叩きつける。
"あの判定は、シュガーが入隊するからだ。"
"ダウンさせた。あれ以上は、無理だ。"
"兄貴の勝ちだよ。あんな無茶苦茶な判定は、初めてだよ。"
"きっと身から出たサビなんだろ。俺って男は、ついていない。"
"大事な一戦だった。タイトルマッチ前の..."
"ビッキーだ。"
"会いたくない。家へ送り帰せ。"
"大丈夫か。"
"彼女を頼む。"
ラモッタは、鏡に映った己の姿を凝視する。

"対ジビック戦。デトロイト1944年1月14日"
KO勝ち。ラモッタ、ジョーイと妻のビデオスナップ。車の前に。若かりし頃。

"対バソラ戦。NY1945年8月10日"
勝利。ラモッタとビッキーの結婚。プールで戯れ合う2人。

"対エドガー戦。デトロイト1946年6月12日"
勝利。ジョーイの結婚式。ビルの屋上のパーティー。

"対サターフィールド戦。シカゴ1946年9月12日"
ラモッタは、ビッキーを抱っこして、新居に入る。弟夫妻とのバーベキュー。

"対ベル戦。NY1947年3月14日"
勝利。 

"ブロンクスの家1947年''
ラモッタが、ジョーイに言う。
"おい、ジェニロとの試合は、止めるぞ。中止だ。"
"何の話だ?"
"見ろ。168ポンドだ。"
"食うな。"
"黙れ。"
"止めろと言ったぞ。"
"嘘つけ。155ポンドまで落とせると言ったぞ。それで、話を。"
"155は無理だ。160だって危ない。155で契約して、落とせないと、1万5,000ドル取られるのか?それが、managerのやる事か。"
"やるぞ。"
"心配だよ。" 
"タイトルは?"
"そりゃ欲しいが、無茶だ。赤ん坊にも分かる。"
"3年間も勝ち続けて、対戦相手がいない。皆、尻込みしている。OK. そこへジェニロだ。日の出の勢いだから、誰とでも戦うぜ。鼻を、へし折ってやれ。Right. 心配は何もない。"
" weightだ。さっきから言ってるぞ。"
"減量で負けたとしよう。皆が、兄貴を舐めて、挑戦する。Good. 片っ端からなぎ倒せ。最後は、タイトル戦だ。"
" Give me a coffee, please. "
"理由は、兄貴しかいないからだ。"
" Coffee. "
" Minutes. "
" Coffeeだったら。いつまで待たす。"
"その逆に、ジェニロに勝ったとしよう。当然、勝てるだろ? Right? "
" Yeah. "
"勝っても、タイトルマッチだ。分かるか?理由は、前と同じ。誰もいなくなる。挑戦者になれる。詰まり、勝っても、負けても損は、ない。それも自力でだ。誰の助けも借りずに。だから、何が何でも、155に落とせ。食わなきゃいい。簡単だろ?できるな?"
"そうよ。ジェニロはいい男で、人気があるから。"
"いい男とは、何だ。"
"人気者だから、負かせば。"
"なぜ、褒める?"
"あなたのために。"
"偉そうに言うな。出て行け。出て行け。赤ん坊も一緒にだ。"
"なぜ、いい男と分かる?会ったとでも、言うのか。"
"違うわ。"
"なぜ、お前が?"
"八つ当たりね。"
"横から口を出すな。兄貴とビッキーの話だ。お前は、関係ない。赤ん坊を連れて、向こうへ。"
"いろと言われても、嫌よね。"
"おしめを変えろ。臭いぞ。"
"親のくせに。"
" Make you cry. "
"体重を落とすには、traning campだ。気が散らず、女房も電話もない。邪魔されずに減量できて。"
"待てよ。しかしだ。留守にしても、平気かな。"
"ビッキーか?" 
" Yeah. "
"何がだ?"
"あっちの方さ。"
"別に、心配ないだろ。"
"見張ってくれ。"
"大丈夫だって。"  
"兎に角、留守は、頼む。"
"少し、考え過ぎだぜ。"
"お前だって、女を知っているだろ。条件さえ整えば、女って奴は、何だってする。違うか?"
"まあな。そうだが、さっきのは、まずかった。weghtの心配から、彼女に当たり散らした。かえって浮気されるぞ。"
"だが、敵を褒めた。"
"ありゃ、兄貴のためだ。"
"俺のため?いい男と言ったんだぞ。"
"じゃ、顔を潰せ。"
"兎に角、見張れ。"
"とりあえず今は、あっちへ行って、仲直りしろ。出発前の気晴らしをさせるんだ。食事して、喜ばせりゃ、スッキリして合宿に行けるよ。"
"だが、どこへ?"
"どこでも。ただし、ビッキーに耳打ちしろ。女房には内緒だ。連れていかない。"
"ほかの女を?"
"心配するな。好きにしろ。"
ラモッタは、ビッキーの所へ行き、無理矢理キスをする。

"やっぱり、コパカバーナは、楽しい。そこの人、笑って。私も笑ったよ。あなたが、来た時。今夜は、special guest が、見えてます。ミドル級の世界的なプロ・ボクサー、ブロンクスの雄牛。では、拍手を。ジェイク・ラモッタ。"
ラモッタは、立ち上がり、拍手を浴びる。
"名前は?" 
"ジャネット。" 
" Sorry. ジャネットか。そうだった。では、飲もう。"
ステージに、コメディアンが立つ。
"同じフックでも、金物のフックは、痛い。"
"どこへ?"  
"トイレよ。"
ビッキーに、男が言い寄る。
"ビッキー。綺麗だ。ジョーイは?"
"ジェイクと一緒。"
"トミーと来ている。後で、寄れよ。一緒に飲もう。"
ラモッタは、不審そうな顔をする。男が、ラモッタの所へ来る。
"元気か?" 
"それは、酒か?"
"ジョーイ。" 
"やあ、サルビー。"
"楽しそうで、結構。トミーと一緒だ。顔を出せ。"
"トミーか。珍しいな。"
"後でな。"
"凄いスーツを着ているぜ。"
コメディアン。
"最高のジョークだ。"
"ビッキーです。"
トミーに紹介する。
"やあ、ビッキー。久しぶりだな。まあ、兎に角、座れ。"
"でも、ジェイクが向こうに。"
"そうか。分かった。ありゃ、いい娘だな。"
"夫が悪い。もう100回は、殴られている。"
ビッキーが、席に戻る。
"長かったな。"
"挨拶を。"
"見えていたさ。So long. "
"挨拶して、すぐ戻ったわ。"
"トミーは、何て?" 
"かけろと言ったけど、断って、ここへ。"
"サルビーの話は?"
"ジョーイが、いるかと。それから、トミーに挨拶をと。"
"奴が気になるか?"
"どうしてよ。"
"じゃ、興味ないのか。"
"ええ。" 
"という事は、ほかの誰かに?"
"また始めるの?うんざりだわ。"
"殴られたいか?"
"トミー・コモ様からです。" 
飲み物が、配られる。
"お下げしますか?お飲みに?"
"まだ飲んでいる。"
コメディアン。
"こいつは、はげのオカマさんだ。"
ジョーイが、トミーに挨拶する。
"飲み物をどうも。"
"ジェイクは?" 
"来たがらない。"
トミーは、グラスを掲げる。ラモッタも応じる。
"でも、あなたが呼べば。"
トミーが、手招きする。
" I'll be back. "
"なぜ、電話もかけん。たまには顔を出せ。薄情だな。電話一つできんのか、なぜだ?"
" Busy. 試合で、よく町を出る。"
"こいつ、むきになってるぞ。冗談だったのに。彼は、最高のファイターだ。ほかの連中が、恐れをなしているもんな。 All right? "
" All right. "
"力があふれているか?じゃあ、ジェニロは、大変だな。"
"そう思う。"
"彼では、稼いだ。" 
"奴も弱くない。"
"女にも、モテるし。Mask is clean. "
"少し、太ったようだが。" 
"このくらいなら、簡単に減量できる。"
"一つ聞きたいんだが、いいかな。実は、考えているんだ。今度のジェニロ戦では、君に賭けようと。どうだ?いいと思うか。" 
"有り金をはたいていい。全財産を。ケツの穴を開かせる。いや、失礼。叩きのめす。お袋が、産んだ事を、後悔するほど。"
"何か恨みでもあるのか。"
"いい奴さ。男っぷりも。なんなら、おかまにしたいくらいだ。"
2人は笑う。
"奴とおかまするか。"
"おかまされるかも。"
"誰に?" 
"ジェニロ。"
"君にさせようか。"
"俺に?御免だね。"
"できるぜ。君らをリングに上げて、ぶったたいてな。"
"血だらけに。"
"慣れているだろ。"
"よし、皆んなで乾杯だ。"
"勝てよ。"

ラモッタは、寝室に入り、寝ているビッキーのそばに、腰を下ろす。
"ビッキー。起きているか?聞けよ。男の事を、考えた事は?ベッドの中で。アレしてる時さ。"
ビッキーは、目を閉じたまま、かすかに頷いている。
"ないわ。"
"なぜジェニロを褒めた?"
" What did I say? "
"いい男と言ったろ。"
"ろくに見てないわ。"
"じゃ、なぜ言った?"
"もう忘れたわ。彼の顔だって。寝てよ。"

"対ジェニロ戦。NY1947年"
ラモッタが、攻勢。ロープに追い込み、顔面を何度も殴る。鼻から、体液が噴く。ジェニロは、ダウンする。そのままKO. 
リングサイドのトミー。
"いい男だったのに。"
"この10回戦の判定は、全員一致で、ジェイク・ラモッタの勝ち。"
減量中のラモッタ。
"少しでいいから、氷を。舌を濡らす。"
"駄目だ。"
"死ぬぜ。石頭め。"
"後、4ポンドだ。そのまま続けろ。"

"ジェニロ戦は、凄かった。目を疑ったよ。"
ジョーイ。
"鼻をへし折ったもんな。ぶら下がっていた。"
"次は、誰とやるんだ。"
"トレーニング中だが。"
"タイトルマッチさ。" 
"彼は、カーティーだ。"
"噂は、かねがね。"
"いずれやる。"
"お陰で、儲けたよ。"
"兄貴以上だろ。"
"オスカーの時以来さ。彼は、まだいるのか?"
"落ちぶれて、死んだかも。"
ビッキーが、4、5人連れでやって来て、座席につく。
"構いやはしないわ。"
"気のいい奴だったがな。"
"ウイスキーを頼む。"
"ちょっと失礼。すぐに戻るよ。後で。"
" OK. "
ビッキーのテーブルに行く。
"ジョーイじゃないか。"
ビッキーを連れ出す。
"何か変だ。揉めている。飲もう。"
ジョーイとビッキー。
"黙れよ。"
"私は囚人?男とは、話もできないの?"
"そんな事、言っていいのか、人妻が。"
"勝手でしょ。つけ回さないで。"
" Shut up. "
" No. 兄弟で見張るなんて、最低よ。私は、20歳よ。毎晩、独り寝は嫌。"
"結婚は?"
"好きだったから。でも、最近はSEXもないわ。"
"挑戦者だからだ。Champになれば、娼婦の真似もせずに済む。"
"敵が多いから、なれないわ。" 
"その敵と。"
"飲むくらい、いいでしょ。"
ビッキーは、その場を去る。
"コートを。"
ジョーイが、追って来る。
"すぐ帰るんだ。兄貴の顔に、泥を塗るな。"
連れの男に言う。
" Shut up. 引っ込んでいろ。"
"思い過ごしだ。"
"うるさい。"
"何もない。飲んでただけだ。"
ビッキーと女は、席を立つ。
"落ち着こう。"
"よし、分かった。"
"友達だぜ。変な事は、していない。"
"じゃあ、話を。"
ジョーイが、グラスの中身を、男の顔に、ぶちまける。つかみ合いが始まる。
"何もしていないだと。この助平野郎。"
ジョーイは、振り切って逃げる。
"手を離せよ。"
"あのアマ。"
"ぶっ殺すぞ。"
ジョーイは、外に出て来たビッキーの連れに、暴行する。不意打ちで倒れた男を足蹴にする。
"トミーの名なんか出すなよ。誰の名前も、出すな。"
トミーの手下が、いさかっている。ジョーイは、タクシーの扉をつかんで、何度も開閉する。
"彼女が中に。"
"うるさい、下がっていろ。"
もみくちゃになったジョーイは、タクシーの屋根を乗り越えて、逃げる。

"社交クラブ デボネア"
"なる程、お前らの言い分は分かった。だが、暴力は、いかん。ああいう目立つ店で、今後は、騒ぎを起こすな。皆で、相談したが、今回は、大目に見とく。"
ジョーイと片腕を折った手下は、トミーに諭される。
"本来なら許せんが、特別に許す。ここで、2人で握手して、すべて水に流せ。恨みを残すな。それが、何より大切な事だ。Com'on, shake hands. "
"そっちがよければ。"
"2度と御免だぜ。"
2人は握手する。
"我々も、そう思う。"
"すぐに治るさ。"
"サルビー。ちょっと外せ。" 
"それじゃ、また。忘れていたよ。"
"馬鹿野郎。殺す気かよ。"
"家の者たちは、元気か?"
"お陰様で、皆んな。"
"どうした?Can't talk? "
"話している。"
"だが、どうも変だ。態度がな。なま返事して、切り上げたがっている。ここを出たいのか?" 
"そうじゃなく、パッとしないから。試合や、色々。"
" Listen me. ジェイクは、最近、俺の顔を潰している。これじゃ、周りの連中にも、示しがつかないんだ。縄張りの中で、好きにされちゃ困る。なぜ、奴は、険しい道ばかり歩き、楽な道を歩こうとしない。まったくの石頭だ。"
"うまく言えないが、彼は、あなたを買っていますよ。皆とは、一緒にしていない。ただ、一度決めたら、強情で、脇目も振らない。キリストが、十字架から降りても、彼は、知らん顔で、自分の道をまっしぐらだ。"
"詰まり、自力で、champになれると思っているのか?夢みたいな事を。人をこけにして、なれると思ったら、大間違いだ。この俺が、許さん。いいか、君からよく言っとけ。奴が、どんなに偉大なボクサーで、世界中のシュガーやジェニロを倒しても、我々を無視したら、タイトル戦は、させん。頭を使う事だ。君から、よく言っておけ。"
急な雨の中、ジョーイは、プールの屋内施設に駆け込む。
"畜生。20ドルの靴なのに。トミーから話が。どうした?なあ。"
"ここで、会った。ビッキーと。"
"だから、何だ。彼女が、何をした。"
"何かしてるさ。その現場を何とか。"
"いい事を教えよう。彼女を、おっぽり出せ。さもないと、共倒れだ。そうなるぜ。このままじゃ、もたないよ。トミーの話は?"
"いいのと悪いのと、両方だ。いい方は、タイトル戦をやらせる。悪い方は、八百長をやれだ。"
"常道だな。"
"変わり映えしない。"
"今回は、どっちだ?"
"負けろさ。"
ラモッタは、笑う。

"ビリー・フォックス173と4分の3ポンド。ジェイク・ラモッタ167ポンド。"
"変な噂が立っている。ちょっと前までの君は、大人気だった。それが、急に賭け率が12対5だ。変だな。"
"俺は、何も。"
"何もなければ、なぜ変な噂が立つ?誰も賭けない。金の動きを見る限り、負ける気だ。"
"言いがかりだ。"
"じゃ、賭けるか。受けるぜ。フォックスに賭けろ。悪いがいただきだよ。分かったろ。どうも。"
"そんな与太話で、ここまで?"

"対フォックス戦。NY1947年"
" Ladies&gentlemen, マジソン・スクエア・ガーデンにようこそ。今夜の対戦は..."
コミッショナーが現れる。
"お写真を。"
"ビリー・フォックス。" 
トミーも来場。
"兄さんは、退院したか?"
"お陰で。"
"良かった。替わってくれ。"
"グローブを合わせて。"
ゴングが鳴る。いきなり、左フックで、ロープに飛ばす。
"さあ来い。かかって来い。何している。打つんだ。"
"どうした。ぶっ飛ばせ。"
トレーナーが、ラモッタの頬を張る。
"何をもたついている。リングは、遊び場じゃないぞ。"
"心配ない。彼は、スロー・スターターだ。"
"今度は、しっかりとな。"
"賭けているぞ。"
ラモッタが、棒立ちになり、パンチを浴びる。TKO。"
"汚ねえぞ。八百長だ。"
"なぜ、沈まないんだ。"
"4ラウンド2分26秒で、レフェリーストップ。テクニカル・ノックアウトで、勝者は、依然、不敗のビリー・フォックス。"
ラモッタは、トレーナーの胸で泣く。
"やめろ。拳闘なんか、やめちまえ。"
"何でだ。何であんな事を。"

"ボクシング委員会。ラモッタを出場停止"
"ひでえ事をしやがる。負けただけじゃ、駄目か。沈めと言うのか?そいつだけは、断る。"
"手を上げろ。見せてやろう。"
ジョーイは、崩れ落ちる。
"これが、難しいのか。" 
"お前は、全然、分かっていない。相手は、でくの棒だぜ。触っただけで、ふらついた。放っておくのか?助け起こすなんて。奴が倒れたら、事だ。連中が、目をむく。
"賞金は、調査終了まで、検事局が留保。見ろ。責任は、こっちだ。こき下ろされる。"
" What? "
"皆の笑い物だ。"
"トミーがいるよ。死なない限り、タイトル戦だ。"
"誰がだ?"
"トミー。生きている限り、挑戦者にしてくれる。"
"病気持ちか?" 
"そうじゃない。"
"なぜ、死ぬ話を?"
"彼が、死なない限りって事だよ。"

▶︎タイトルマッチ
"2年後。デトロイト1949年6月17日"
" Championセルダン対挑戦者ラモッタ"
"屋外だぜ。雨の中で試合させる気か?もう少し様子を。"
"ジョーイ。24時間は、待てないぜ。"
"だから、様子を見るんだ。Hello. ふざけるな。"
"切っちまえ。まともに話す事はない。彼は出ない。何度も言ったろ。"
"今、忙しいんだ。いちいち電話するな。Thank you bye. うるさい奴らだ。"
"ほっときゃいいのさ。"
"腹が減った。何を食う?" 
"要らない。"
"だが、何か食わなきゃ。体力をつけとけ。ステーキで。噛んで吐き出しゃ、体重は平気だ。注文するぞ。食いたくなきゃ、手をつけるな。君は、何を?"
ビッキーが答える。ら
" Only a cake. "
" A piece of cake? チーズバーガーくらい食え。その方がいい。"
"じゃあ、そうするわ。" 
"待てよ。やけに素直だな。" 
"食べたいの。"
"命令される事はない。" 
"勧めただけさ。"
"あれは、強制だ。" 
"彼女が、何を食おうと、俺は、構わん。"
"チーズバーガーを。"
"じゃ、注文してやれ。"
止血の練習をしているトレーナーらに噛み付く。
"一体、何秒かかっているんだ?"
"40secs. " 
"試合の時は、30秒で、縫い上げろ。"
ラモッタは、ベッドで休む。トミーが、部屋にやって来る。
"トミー。"
"チャーリーだ。"
"どうも。"
"どうだ?"
"まあまあだ。"
" Are you feeling good? "
"リングへ出て、戦えば、よくなるさ。"
"景気づけに、来ただけだ。必要な物は?"
" No. " 
"ほんとか?"
" No thank you. No. "
"それじゃな。頑張れ。心配するな。"
" Everybody thank you. Good bye. ''
"トミー。待って。"
ビッキーが、呼び止める。
"わざわざ、どうも。"
"さよなら。"
"彼をよろしくな。何かの時は、すぐ電話しろ。"
2人は、キスする。
"その顔、なんて顔だ。信じられんよ。ますます美しくなった。" 
" Byebye. "
"じゃ、また。" 
"ビッキー。ビッキー。"
ラモッタが呼ぶ。
" Hey come in. "
"ありゃ、何だ。"
"何がよ。"
"トミーとだ。"
"お礼を。"
"まるで恋人だ。"
"だって。"
"もっとサラッとできた筈だ。"
ラモッタは、ビッキーの頬を張る。
"俺の目の前で、舐めた真似をするな。分かったか?分かったか?"
"ええ。"
"よし、戻れ。"
"もうやめとけ。" 
ジョーイがとりなす。
" Shut up. 出しゃばるな。Shut up. お前ら、頭に来るぜ。畜生。"
ラモッタは、寝室に籠る。

対戦前の控室。ラモッタは、ガウンを羽織り、リングに向かう。割れんばかりの歓声。
"ミドル級世界タイトルマッチ15ラウンド。ブロンクスの雄牛、挑戦者ジェイク・ラモッタ。"
グローブを合わせる。
"対ミドル級チャンピオンセルダン戦。1949年"
最初から、激しい撃ち合い。次第に、チャンピオンの足が止まる。11ラウンドの開始前。
"委員長。試合を中止する。"
レフェリーが告げる。
"セルダンが、継続不能。レフェリーストップです。10ラウンドで、テクニカルノックアウト。怒れる雄牛、ラモッタが、新しいチャンピオンに。チャンピオンベルトを巻かれ、両手を挙げ、歓声に応える。

ブロンクスの家。1950年
"揺するなジェイク。かえって悪くなる。"
TVが映らない。
"いたの。"
"どこへ?"
"外出よ。どうして?"
"TVが駄目だ。どこへ行ってた?"
"買い物して、姉さんの家へ。"
ビッキーは、2階に上がる。
"何だよ、あれ。口にキスなんかして。"
"義理の姉さんだ。"
" Cheek じゃ不足か。俺は、お袋だってcheekだ。" 
"お袋には、皆、そうさ。"
"同じだ。どうだ?"
"いくらかいい。" 
ラモッタが、TVの前に回る。
"腹で見えないぜ。"
"なぜ、睨むんだ。Champになったら、途端に食うし。今までの苦労を忘れたみたいだ。来月は、初防衛戦だ。そう食っちゃ、返上になる。"
"コパで、サルビーと何があった?殴っただろ。"
"車のドアに、頭を叩きつけた時の事か。I told you about. " 
" No. "
"本当に?"
"聞いてない。" 
"何て事なかった。酒の席での喧嘩だ。トミーの前で、仲直りして終わりさ。" 
"なぜ、黙っていた?"
"関係ないだろ。"
"あるだろ?じゃ、誰に関係がある?ビッキーか。"
"だから、言ったろ。サルビーと俺の喧嘩だ。関係があれば、もう話している。"
"違うようだ。"
"違うって?" 
"噂と。"
"どんな?"
"聞いたよ。"
"喧嘩の事をか?そりゃ、ぶん殴ったさ。" 
"聞いたんだ。"
"何を?" 
"色々と。"
"心配するなら、来月の防衛戦の心配をする事だ。本気でやばいぞ。TVを。" 
"サルビーは、ビッキーとできているのか?"
"ジャック。また病気が始まったな。"
"見張れと言ったぞ。"
"見てたさ。"
"なぜ、殴った。"
" I told you. 奴と俺の喧嘩だよ。つけあがったんで。"
"嘘だ。"
"本当さ。" 
"騙すな。"
" Hey. I'm brother. 信用しないのか?"
"しない。女房に関しては、誰も信用しない。事実を言え。"
"ありのままを話した。つけあがったんで、奴を殴り、トミーが仲裁した。"
"信用しとこう。そこまで言うんなら。だが、嘘だったら、誰かを殺すからな。Kill somebody, ジョニー。"
"勝手に殺せ。殺し回れ。ビッキーも、サルビーも、トミーも、俺も。だが、その前に、食い過ぎで死ぬな。"
"なぜ、お前を殺すんだ?"
"いいから、最初に殺せ。このままじゃ、頭がおかしくなっちまう。このワンマンの殺しやめ。"
"なぜ、お前を殺す?" 
"何が、なぜだ。"
"訳も分からず、言ったのか?それとも、お前が、トミーやサルビーと同類と言う事か?いいか、この返事は重大だ。"
"兄貴は、異常だぜ。彼女のせいで、おかしくなっているよ。" 
"女房と寝たか?"
" What? "
" Sex したか?"
"よくもそんな事を、弟に向かって。それ本気か。だとしたら、救い難いぜ。"
"答えろ。"
"そんな馬鹿な質問には、答えない。"
"お前は、利口だよ。これだけ話しても、ボロを出さない。答えるんだ。Did you or did not. "
"答えない。そんないかれた質問に、誰が答えるか。I'll leave. もういられない。ここは、いかれた男の病院だ。気の毒に思うよ。今後は、食わずにsex しろ。2階で仲良くすれば、八つ当たりせずに済む。分かったか?いかれた下衆野郎。You know? 愛想が尽きた。" 
ジョーイは出て行く。ラモッタは、階段を上がる。ビッキーは、ベッドを整えている。
"外出先は?"
"姉さんとこ。"
"その後は?"
"映画へ。"
"何を見た?"
" Father of the bride よ。"
ラモッタは、ビッキーのポニーテールを引っ張る。
"コパの事を、なぜ内緒に?"
"何を?"
" You know. なぜ、黙っていた。なぜ、隠したんだ?"
"何の話だか。"
ラモッタは、往復ビンタを食らわす。
"弟とアレしたのか?"
"放してよ。Pig. No. "
ビッキーは、洗面室に逃げ込む。
" Open the door. 話す事がある。"
"もう沢山。"
"なぜ、弟にさせたんだ。"
" Get away. "
" Open the door. "
" No. "
扉を破る。
"なぜなんだ。なぜだ。"
"何もしてないわ。"
"なぜだ。なぜ、あんな奴らと。"
"言わせたいのね。皆としたわ。"
"誰とだ?"
"トミーたちやあんたの弟。口も使ったわ。"
"口でだと?"
"そうよ。町中の男のを。あんたなんか、目じゃないわ。"
ラモッタは、殴る。家を出る。
"弟の方が、立派だったわよ。"
ビッキーが、追いすがる。
"どこへ行くの?このろくでなし、けだもの。"
背中に取り付くと、逆に、歩道に押し倒される。
"放してよ。くそったれ。"
ジョーイの家。食事中。
"今度、手を皿に付けたら、許さんぞ。皿から、手を離しとけ。"
"少しは、静かにして。"
ラモッタが、入って来る。
"まともな食べ方を..."
いきなりラモッタが、つかみかかる。床に押し倒す。
"ジェイク、やめろ。"
"女房に手を。"
ビッキーもやって来て、ラモッタを止める。
"ぶっ殺す。"
ジョーイを小突き回す。
"嘘よ。"
ラモッタは、ジョーイから引き剥がされるが、またつかみかかろうとするが、ビッキーを払いのけると、家を出る。
"行って。"
ラモッタは、映らないTVに向かっている。ビッキーが帰宅する。ビッキーは、荷物をまとめる。ラモッタが、そこへやって来る。
"ビッキー。行かないでくれ。"
"君や子どもがいないと、俺は、駄目になる。"
ようやくビッキーは、翻意し、2人は抱き合う。
"対ドーティーユ戦。デトロイト1950年"
"セルダンから奪った王座が、風前のともしび。彼の飛行機事故の後、同じフランスからの挑戦。試合は、最後のラウンドを残すのみ。ベルトを奪われるか。ラモッタが、ドーティーユに、打たれています。しかし、ここまでは、彼の作戦か。彼が、猛反撃に転じました。形勢逆転です。ドーティーユは、打たれるがまま。そして、遂にダウンです。ドーティーユがダウン。レフェリーがカウント。果たして立てるのか。立てません。ラモッタのKO勝ち。最終ラウンドのゴングの13秒前。ボクシング史に残る逆転勝ちです。"

ラモッタとビッキー。
"ひと言謝って。だって、弟なんですものね。私がかけるわ。謝って。後は、好きな話を。"
長い沈黙の後、コインを渡す。
"金を。"
記者が通りかかる。
" May I ask you a question? "
"今は、駄目だ。大事な用だ。さあ行けよ。早く。Get out early. 行かないのか?"
電話を変わる。 
" Hello. Hello. サルビー。また悪戯か。Do you? ちゃんと息が聞こえてるぞ。Listening? やめないと、お袋を象にやらしちまうぞ。分かったか?"
電話が切れる。
リングのコーナーで休むラモッタに、何か液体が掛けられる。腹をマッサージされる。マウスピースが嵌められる。シュガーも、準備が整う。
TVに、ラモッタの試合の映像が流れる。
"バーで、ご注文は?と聞かれたら、パブスト長くビールをどうぞ。"
"ラモッタの連続パンチ。シュガーとは、1942年以降、5度目の対戦。しかし、タイトルマッチは、これが初めてです。ラモッタが攻勢ですが、足りません。"
ジョーイは、TVで観戦する。
"力を出し切った。"
"いよいよ魔の13ラウンド。ブザーが鳴ります。宿敵の2人。シュガーが、打って出る。ラモッタは、反撃できず。強烈な連打が効いています。ラモッタ、動けません。" 
ロープを背にして、ラモッタが叫ぶ。
" Com'on. 何している。"
"打ち疲れ気味のシュガー。ロープで、身を支えるラモッタ。"
2人は、相手の様子を、じっと伺う。シュガーが、連打する。ラモッタは、棒立ち。血しぶきが上がる。
"必殺の連打。しかし、倒れません。恐るべき執念です。ここで、レフェリーストップです。"
シュガーの片手が、掲げられる。
"行き詰まる熱戦が続き、場内は騒然。しかし、勝利の女神は、死闘の末、シュガーに。ラモッタも、最後まで、戦い続けました。"
ラモッタが、シュガーのコーナーに歩み寄る。
"レイ。沈まなかったぜ。ダウンしなかった。だろ?倒れなかった。"
ラモッタは、抱えられて、自コーナーに戻る。
"魔の13ラウンドで、世界チャンピオンのベルトは、挑戦者のものに。チャンピオン、敗れました。もうすぐ正式な発表が、リング上で行われます。ラジオをお聞きの皆さん、新チャンピオンのインタビューはその後で。さて、発表の時が迫りました。書類が、リングアナへ。発表します。13ラウンド2分4秒。テクニカルノックアウト。ミドル級新チャンピオンシュガー・レイ・ロビンソン。"

▶︎転落
"マイアミの家1956年"
ラモッタが、インタビューに臨む。
"辞めた理由は?" 
"ボクシングは、もう結構。終わりだよ。気がついたんだ。weightの心配ばかりが、人生じゃないって事に。後悔は、していないがね。お陰で、いい家や子どもや美人の女房を手に入れた。What's your name? "
"ボブ。"
"ボブ。1枚頼むよ。さあ、撮ってもらえ。"
"笑って。"
"今度は、皆んな一緒だ。Everybody smile. "
"奥さん。彼の引退については?"
"踏み切って、良かったと思います。一緒にいられるし。"
"ところで、いいかな?店を買ったんだよ。ナイトクラブだ。名前分かるか。Take a guess. "

"ジェイク・ラモッタの店"
ラモッタにスポットライトが当たる。
"よし。もういい。Thank you. 試してみた。美人をこすったら、どんな音が。"
ラモッタは、隣の女性の二の腕で、マイクをこすり、キスをする。
"私に賭けて、損した人が、今夜はお揃いだ。"
ウエイトレスが、酒を届ける。
"いい娘だろ。乾杯。あの娘なら、父親に紹介できる。助平親父ならね。品がないね。こんな素敵な皆さんの前に立つのは、スリルだよ。脚が、がくがくする。だが、今の話を真に受けたら、皆さんは、カモ。実は、妻と結婚する。いや、こいつは変だ。彼女、来てるかな。ビッキー。いない。本当は、結婚記念日を祝う。もう、11回目だけど。友達にも、独身と女房持ちがいて、女房持ちが独身に、浮かない顔だな、俺を見ろ、お前を見ろ、俺を、お前を。疲れた。俺なんか、帰ると、女房が酒を注ぎ、風呂を沸かして、マッサージしてくれ、こってり愛されてから、夕食になる。羨ましくないか、すると独身が、家出される前の話だろ。名優オリビエも、シュガーと戦えば、言うだろう。私には、やはりリングより舞台の方がいい。だから、私も、怒れる雄牛だった私も、舞台がいい。客も自分も、楽しめる。エンターテインメント。"
ラモッタは、立ち上がり、両手を広げ、客席に頭を下げる。舞台を降り、フロアでステップを踏む。
"よかったな。シュガーがいなくて。"
"先週も言った。年で、同じ事を何度も。
"彼は、ブロンソン検事。奥さんだ。"
"残念でした。揺する気なら、来週どうぞ。うけましたね。"
"変わった冗談だ。"
"冗談で済めば、結構。後でまた。奥さんで?"
" Yes. "
"お美しい。初めまして。いいご主人だ。あなたも、冗談が好き?"
ラモッタが、身を寄せてキスをし、グラスがこぼれ、夫人のドレスを濡らす。
"カーロ。酒のお代わりだ。こぼした。Come in. "
"細君は?"
"ビッキーか?来させない。狼がうようよしている。特に検事さんが危ない。気を付けなさいよ。冗談ですがね。Good night. "

"どうした?"
"21歳に見えないので、身分証明をと。"
"いくつだ。"
"21よ。"
"21?証明できるか?では、してくれ。"
2人はキスする。
"これだけのキスができれば、パスだ。君は?"
"21よ。"
"本当に21か?証明しろ。"
キスする。
"その人も21?"
"そうとも。間違いなく21だ。"

積み上げたグラスに、シャンパンを注ぐ。
"オーナー。"
"見てろ。" 
"奥さんが。"
"今、忙しい。"
シャンパンを注ぎ終える。くしゃみするフリをして、周りが笑う。グラスを女たちに配る。

朝。ラモッタは、店を出る。駐車場の車から、ビッキーが睨む。
"夕べは、忙しくて。家は、どうだ?"
"別れるわ。"
"またか。"
"今度は本気よ。手続きも済ませたし。"
"どきな。"
"殴る気でしょ。"
" Open the door. "
" No. "
"子どもと家は、私のものだそうよ。"
"入れろ。"
" No. I made my mind. 絶対に、離婚するわ。家に来たりしたら、警察を呼ぶわ。それじゃ。"
ビッキーは、車を出す。
ラモッタは、店に帰り、寝る。
"ジェイク。ジェイク。Com'on wake up. "
"何だ?"
"検事局だ。"
"分かっている。皆んな同じ顔だ。"
"聞く事があるらしい。連行を命じられた。"
"だが、容疑は何だ?"
"見覚えは?" 
昨夜の自称21歳の少女の写真を見せる。
"クラブにいた。"
"同じ娘かい?" 
" Yeah."
"知らないね。" 
"君が、男に紹介したと。"
"商売柄、人の紹介は、始終だ。女だけでなく、彼を男に紹介したりな。自白じゃないぞ。"
"彼女は、14だ。靴を履け。"
"いくつ?" 
"14歳だ。"
"写真を。聞くがね。この娘が、14に見えるか?正直に言えよ。" 
"関係ない。さあ急ぐんだ。"
"警察へかい?小娘1人のために?"

家のドアをノックする。
"俺だ。"
"何よ。"
"保釈で出たが、1つ要るものが出来たんだ。"
"子どもたちが。" 
"起こしやしないよ。"
"静かにね。"
チャンピオンの盾を取る。
"何なの?"
"弁護士が、1万ドルで、不起訴にできると。"
"脅しよ。"
"だが、14の娘が証言したんだぞ。新聞も、有罪と見ている。"
"何を?" 
"宝石だ。"
盾から、ペンチで抜き取る。
"友達から借りたら?"
"いないよ。"
金槌を使う。
"皆が、目を覚ますでしょ。駄目よ。やめて。" 
一層、激しく叩く。棚から、食器が落ちる。
"皿ぐらい、ちゃんとしまっておけ。"

"チャンピオンベルトを売るという話では?"
"ベルトの石だ。"
"しかし、ベルトと別だと、値打ちが。外す前に、相談してほしかったですな。"
"2,000だ。2,000で売る。"
"1,500なら。"
"2,000だ。"
"1,500です。お気の毒ですが。"
"返せ。たたく積もりだろ。よそへ持っていきゃ、2倍で売れる。"
公衆電話で、電話する。
"10,000ドルが、出来ない。I tryed, I tryed. どうする。なら、ぶち込まれるさ。Fucker どうとでもしろ。"
"フロリダ州デイト郡刑務所。1957年"
収監に抵抗するラモッタ。
"ここで、頭を冷やせ。"
"抑えててくれ。"
警吏の1人が、独房の扉を開ける。
"さあ、どうだ。"
"見ろ。ここで暮らしな。"  
"分かったか?"
"やかましい。この出来損ないどもめ。Fuck you. Fuck you. Fuck you mother. "
壁に、頭を打ち付ける。  
"馬鹿やろ。"
壁を殴る。 
" Why? Why? "
また頭を打ち付け、肩を入れる。
"くそったれ。"
泣きながら、咆哮する。
"手が。何でだ、この馬鹿。お前は、馬鹿だ。救い難い馬鹿だ。何がけだものだ。そんなに悪くないぞ。なぜ、こんな目に遭わされる。悪くないのに。俺は、悪くない。"
"亭主が帰ると、浮気中の女房が言った。大変、世間に知れるわ。"

"NY1958年"
"ありがとう。少し、寂しいが。最初の夜、この店の主人に、トイレは?と聞くと、ここさ。"
" Com'on. Let's go. Let's go. "
"邪魔をするなよ。"
"うるさい。"
"おい、また拳闘をやらせる気か?Fuck you. 馬に、カマ掘られてしまえ。後ろの騎兵隊も。"
"笑わせるぜ。"
"それが、仕事だ。彼に、もう1杯やれ。小便を入れて。この辺で、ご婦人と交代だ。世界を回って来た、おばばだが、諸君には、若い美人に見えるだろう。どうせ、ラリっている。名前は、エマ。ボインだよ。"
音楽が始まり、年増の女が、体を揺らす。
エマとラモッタは、店を出る。
" Taxi. "
ラモッタは、通りの向こうを見る。
"俺は、歩いて行くよ。用が出来たんだ。All right? "
" See you later? "
"すぐ、帰るからな。"
" Thank you. "
" Be careful. "
ラモッタは、向かいの雑貨屋の前で待つ。ジョーイが、出て来る。
"おい。どこへ行く?ジョーイ。"
無視して歩く。
"なぜ、知らん顔する。"
"ジョーイ。Turn around. ""ジョーイ。"
ジョーイは、パーキングに停めた車に乗り込む。ラモッタが、ドアにすがる。
"どうした?" 
"あーん。" 
"そう、おっかない顔するな。仲良くしよう。弟なんだからな。そうとも。冷たくするな。キスしろ。さあキスを。"
"女房や子どもが見たら、たまげるぜ。"
"もう許せ。随分、昔の話だ。さあ、キスを。"
ラモッタは、一方的に、抱きしめ、キスをする。
"キスしろよ。"
渋々キスする。
"その後、どうだ?無事にやっているか?家族たちも?"
なおラモッタは、キスする。
"みっともないぜ。2、3日中に電話する。"
"ほんとか?"
"絶対だぞ。"

"ジェイク・ラモッタとの一夜。出し物は、シェイクスピア、テネシー・ウィリアムズほか"
"人間は、ツキさ。映画『波止場』の元ボクサーが、いい例だ。有望な若者が、落ちぶれて、確か、車の中で、兄のチャーリーに、こう言った。" 
楽屋で、鏡に向かい、語りかける。
"悪いのは、兄貴なんだ。あの夜、控室で言っただろ。ウィルソンに勝たせて、稼がせろ。それで、わざと負けた。本当は、勝とうと思えば、勝てたのに。その後、奴は、タイトル挑戦。俺は、結局、芽が出ずじまい。あの夜で、ツキが変わったのさ。坂から、転げ落ちるように、駄目になった。酷いぜ、チャーリー。兄貴のくせに。弟の事を考えなかった。面倒を見るどころか、八百長なんかやらせて、あぶく銭稼ぎに、夢中になっていた。You know. Understand. あの時、俺が挑戦者になっていりゃ、道も開け、こんなクズにはならずに済んだ。そうだろ?悪いのは、兄貴だ。兄貴なんだ。"
"どうだ?"
"用意は?"
"後、5分だ。"
" OK. "
"要る物は?何も?"
" I'm sure. 入りはどうだ?"
"混んでいる。"
ラモッタは、身支度を整える。
"やっつけろ。"
鏡に向かい、パンチを繰り出す。
"俺が、Bossだ。Boss. Boss. "

"そこで、パリサイ人たちは、盲人であった人を、もう一度、呼んで言った。神の前で、真実を述べよ。イエスが、罪人である事は、私たちには、分かっている。すると、彼は言った。あの方が、罪人であるかどうか、私は知りません。ただ一つの事だけ、知っています。私は、めしいであったが、今は、見えるという事です。新訳聖書ヨハネによる福音書第9章24-26節"
【感想】
チャンピオンに登り詰めたボクサーの半生記だが、トレーニングや減量に苦しむシーンはほぼ皆無。ラモッタは、腕っ節の強さだけで、のし上がる。直情径行で女好きのラモッタは、年若い妻と再婚するが、嫉妬にかられ、妻に、たびたび手を掛ける。絶頂期にあったラモッタも、チャンピオンの防衛戦に敗れてからは、転落の一途。こうした唯我独尊、鼻持ちならぬ男を、イメージと異なり、ロバート・デ・ニーロが演じる。腹の出た、ぶくぶくの姿をも晒す。エンディングのクレジットに、ヨハネの福音書の警句が、流れる。そう、この映画は、一人のボクサーの愚行録であったが、ラモッタは聖人になった。

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