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一人勝手に回顧シリーズ#ヴィム・ヴェンダース編(11)#パリ,テキサス/揺さぶられる魂

【映画のプロット】
▶︎トラヴィスの生還
切り立った岩山と砂漠の荒野。どろどろのダブルのスーツに、赤いキャップ、髭だらけの男(ハリー・ディーン・スタントン)が、とぼとぼ歩いている。持ち歩く水を飲み干し、容器を捨てる。また、歩み始める。
蛇口を見つけ、ひねるが、水は出ない。そばの食堂に入る。冷蔵庫を開けるが、水はなく、製氷機の氷をすくって、口に含むが、男は、倒れ込んでしまう。
男は、町の医院に運ばれ、医師の診察を受けるが、"名前は?"などの問い掛けに、一切返答しない。持ち物の中に、名刺を見い出し、医者は、電話をかける。相手先は、ロサンゼルスだ。
看板制作業を営むウォルト(ディーン・ストックウェル)は、電話を受ける。テキサスの病院まで、兄のトラヴィスを迎えに行きますと、返答する。ウォルト夫婦は、トラヴィスが残した息子ハンターと、3人で暮らしている。
飛行機✈️とレンタカーを乗り継ぎ、ウォルトは、テキサスの病院に着く。
医者は、"何事も喋らないので、手を焼いた。何かあったのか"と問う。
ウォルトは、"4年間、会っていない"と答える。
医者は、"この地では、面倒ごとを起こした奴は、少々高く払う。"と言う。
面会を求めるウォルトに、医者は、今朝、姿を消したと、言う。代金を払えば、預かった所持品は、返すと言う。
レンタカーの運転席で、ウォルトは、途方に暮れるが、レンタカーを道なりに進める。すると、トラヴィスを見つける。
トラヴィスは、停車した車を行き過ぎようとするが、ウォルトの"トラヴィス"の呼びかけに、足を止める。渋るトラヴィスに、車に同乗を勧める。トラヴィスは、助手席を嫌がり、後部座席に乗り込む。
車中、ウォルトは、色々話しかけるが、トラヴィスは、一言も発しない。
二人は、モーテルの一部屋を借りる。ウォルトは、トラヴィスにシャワーを🚿勧め、その間、町に、トラヴィスの着替えを買いに行く。シャワーをひねったトラヴィスは、鏡に🪞映った自分を眺め、部屋を出て行く。
買い物から帰ったウォルトは、またトラヴィスの捜索に向かう。
トラヴィスは、線路の上を歩いていた。ウォルトが、近づくと立ち止まる。ウォルトは、"どこへ行きたい?"と、線路の先を見やる。"何もないだろ?"トラヴィスを車に乗せる。
別のモーテルに、二人は入り、トラヴィスは、着替え、あごひげを落とす。トラヴィスは、鏡に🪞映った自分を、不思議そうに眺める。
ウォルトは、自宅に電話📞する。電話📞に出たハンターに、"君の父さんに会っている"と伝える。ハンターは、父親は、痩せていたくらいの記憶しかない。
ファミリーレストランで、ウォルトは、トラヴィスに、"ハンターを覚えているか"と聞く。そして、ハンターを引き取った経緯を説明する。
更に、"何があったかは聞かない。ただ、一人で話し疲れた。何か話してくれ。"
トラヴィスは、眠らない。モーテルの窓から、外を見る。雨が降っている。
レンタカーは、ガソリンスタンドに立ち寄る。
ウォルトは、"何かしゃべれ"と、ケンカ腰で迫る。すると、トラヴィスが、"パリ"と。"行ったことあるか?今から行こう"と。ウォルトは、妻のアンは、行きたがるが、仕事が忙しくて、行けないと答える。トラヴィスは、テキサスの地図を見ている。
レンタカーは,空港の駐車場に止まる。"どこへ行く?"と聞くトラヴィスに、"ロスアンゼルスまで飛ぶ"と説明する。土を離れることを恐れるトラヴィスを、無理矢理、機内に押し込めるが、離陸を開始した飛行機✈️を止めて、二人は、機内から追い出される。
ウォルトは、妻のアンに、帰宅が予定より遅くなる旨を電話📞で伝える。
レンタカーでは、さっきまで乗っていた車に固執する。
真っ直ぐな道路を走るレンタカー。トラヴィスが、前に身を乗り出して、ウォルトに"パリ"の写真を見せる。看板が立った何もない土地。
"パリ"は、テキサスの地図に載っているし、トラヴィスは、通信販売で買ったと言う。
夜のドライブイン。食欲を取り戻したトラヴィスが、ハンバーガーを頬張る。ウォルトに、運転を代わろうと申し出る。トラヴィスが、ハンドルを握り、ウォルトは、"4年間、何があったか話してくれないか"と言う。トラヴィスは、"覚えていない"と答える。
ウォルトは、荒野の道端で、目を覚ます。"トラヴィス"と呼ぶと、捨てられたピックアップトラックに、トラヴィスが腰掛けている。ウォルトは、"なぜ、高速道路を降りたのか"と問い詰める。トラヴィスは、"また高速道路を探すよ"と答える。
車の中で、ウォルトは、ハンターについて語る。もうすぐ8歳になる。トラヴィスのことをお父さんと伝えたが、これまで、ウォルトとアンを両親と思って暮らしてきた。4年の不在は、ハンターにとっては、人生の半分で、長い。
トラヴィスが、土地を買った理由を思い出す。"パリ,テキサス"は、父と母が初めて愛し合った土地と聞いたからだ。僕の出発点が、あそこにある。
▶︎親子の暮らし
ウォルトらは、家に帰り着く。
アンは、トラヴィスとの再会を喜ぶ。
ハンターは、2階から降りて、階段の手すりにもたれ、二人の再会は、ぎこちない。
4人で食卓を囲む。アンは、トラヴィスの飛行機✈️嫌いに同情するが、ハンターは、飛行機は好きだと言う。アンは、ジェーンから、一緒にダラスへ飛んだと聞いたと、言う。
ハンターは、一人でTVゲーム。
アンは、トラヴィスのための寝床を作る。
トラヴィスは、眠らない。鼻歌を歌いながら、食器を洗う。アンは、ベッドから🛌様子を伺う。塀の上に、靴が👞並ぶ。トラヴィスが磨き上げた。空港を見下ろす、裏のテラスで、双眼鏡を覗く。
アンが、朝食に誘うが、首を横に振る。
アンは、ハンターを車で学校に送る。トラヴィスは、帰りは迎えに行って、歩いて帰ろうと提案する。ハンターはぐずるが、時間がないので、そうすることにする。
放課後。トラヴィスは、ハンターを迎えに、学校に行く。
ハンターは、トラヴィスを見つけ、隣の同級生に、"君の車に乗せて"と耳打ちする。
食卓で、アンは、トラヴィスに謝罪する。
トラヴィスは、"あの子も辛いんだ"と理解を示す。
ウォルトが、ガレージのクルマの中にいるハンターを見つける。トラヴィスの思いを語って聞かせる。
食卓で、ウォルトは、5年前に、テキサスを訪ねたことを覚えているかと、聞く。撮影したフィルムがあるから、みんなで鑑賞することになる。トラヴィスは、前方で。上映が始まる。5年前の皆んな。そこにいないジェーンの無邪気な振る舞い。
トラヴィスとハンターは、少し心を通わせる。
ハンターは、着替えをしながら、アンにトラヴィスとジェーンは、まだ愛し合っていると思うと、言う。
トラヴィスは、機嫌よく、食器を洗う。瞬時、手を止め、もの思いにふける。
トラヴィスが、雑誌を広げていると、メイドが"何か探し物か?"と尋ねる。
トラヴィスは、父親らしさを探していると答える。
メイドは、ウォルトの衣装で、トラヴィスをドレスアップする。威厳ある歩き方を指導する。
トラヴィスは、三揃いのスーツに、色を合わせた帽子を被り、学校に出向く。
トラヴィスに気づいたハンターは、友だちに、"あれは、パパ"、"パパの兄弟"、"パパが二人"などと説明する。歩道を別れて、歩み出す。ハンターも、嫌ではないらしい。バスの陰に隠れたトラヴィスは、後ろ向きで歩いたり、スキップを踏み、ゴミ箱に蹴つまずく。ハンターも真似る。
トラヴィスが、ハンターの歩道に歩み寄る。二人は、寄り添って帰宅する。
帰宅後も、二人は一緒にくつろぐ。トラヴィスは、ハンターと一緒に、古い写真を見る。トラヴィスの父が、死んだと話をすると、ハンターは、"死んだ実感があるか?"と聞く。
ハンターは、"パパを死んだと感じたことはなかった、ママもだ"と言う。
アンが、寝室で、トラヴィスが来てから、何もかも変わり、ハンターを失いそうで怖いと、ウォルトに、不安を訴える。ハンターを失いたくない。
テラスで夜景を眺めるトラヴィスに、アンは、"ウォルトもハンターも知らないこと"を打ち明ける。トラヴィスとの関係が行き詰まってから、ジェーンは、テキサスのあちこちから電話をかけてきた。1年前から電話はなくなったが、最後の電話で、ハンターの銀行口座を開かされ、毎月の5日に送金があると。
日付を確認すると、今日は1日だった。
眠れないハンターは、横になったまま、人形で遊ぶ。
トラヴィスは、未明の街を歩く。ハイウェイに向かって、警世を発する男。
トラヴィスは、ウォルトと看板の現場に上る。トラヴィスは、"高いところは怖くないが、落ちるのが怖い"と言う。
ウォルトは、アンが不安を訴えていると言う。トラヴィスは、家を出て、ジェーンを探すと言う。ウォルトは、4年間、何があったか話せと迫るが、最後は、金とクレジットカードを貸すことを承諾する。
▶︎ジェーンを探す旅
トラヴィスが、ピックアップトラック🛻で、学校に乗り付ける。ハンターを呼ぶ。
学校から離れた場所で、車の荷台で、昼食をとる。トラヴィスは、ジェーンを探しに行くと打ち明ける。4年間、どこに行っていたと尋ねられたトラヴィスは、"メキシコ🇲🇽"と答える。"それしか思いつかなかった。"
ハンターの意思を確認すると、一緒に行きたいとのことだった。二人は、旅を始める。
トラヴィスは、ハンターに、家に電話をかけさせる。トラヴィスに代われと言われるが、受話器を置く。
ウォルトとアンは、呆然とする。
モーテルのベッドに寝るハンターに、トラヴィスは、"ママのことを覚えているか?"と聞く。"あの8ミリしか記憶にない"と答える。
トラヴィスは、3人が映った写真を、ハンターに持たせる。
二人は、モーテルを泊まり歩く。荷台のハンターと運転席のトラヴィスが、トランシーバーで交信する。
二人は、ヒューストンに着く。ジェーンが、送金を依頼する銀行に着き、二手に分かれて見張る。トランシーバーをそれぞれ持つ。
ジェーンが、ハンターの目の前に、赤いハッチバックに乗って、現れる。ハンターは、トランシーバーでトラヴィスを呼ぶが、トラヴィスは、寝ている。ようやく起きたトラヴィスは、ハンターを拾い、赤い車🚗を追う。
下町に入り、ピックアップトラックは、駐車場に、赤い車の🚗後ろに止まる。トラヴィスは、ハンターに車に乗り、中からロックして、誰に聞かれても、"パパはすぐに帰ってくる"と言えと、言う。
トラヴィスは、ビルの階段を上る。2階にピンクサロン。奥のバーカウンターに、ジェーンらしき背中が大きく開いたニットの女を認めるが、店員に、追い払われる。
1階に下りると、仕切られたブースが。カーテンで目隠しされている。
ブースに入ると、鏡と電話。電話を取り、ブロンドの25歳くらいの女と要望を伝えて、待つ。
鏡に現れたのは、ナース姿の別の女。女の側からはこちらの様子は見えないことを確認して、トラヴィスは、ブースを出る。
トラヴィスは、別のブースに入り、待つ。今度は、ジェーンが現れる。トラヴィスは、話さない。ジェーンが、セーターを脱ごうとすると、トラヴィスは、制止し、"話がしたい"と言う。
トラヴィスは、"店の外で客に会い、家に連れ込んだら、別料金はいくらか?"と尋ねる。ジェーンは、ほかの子に変わると言って、席を立ちかけるが、トラヴィスは、謝って引き留める。受話器を置いたまま、トラヴィスは、ブースを出る。
▶︎旅立つトラヴィス
車の中で、ハンターに、"いたんだね"と聞かれたトラヴィスは、首を縦に振る。
酒場に立ち寄り、トラヴィスは、酒をあおる。
ハンターに、"パリ,テキサス"の写真を見せ、トラヴィスは、3人で住もうと思っていたと、語る。
コインランドリーの待合室のソファで、二人は眠る。トラヴィスは、ハンターに、お母さんは、とても実直で素直だったが、お父さんは、妻はパリの人間と言っているうちに、目の前のお母さんは、目に入らず、空想にのめり込んでいったと、言う。
翌日、トラヴィスは、ホテルに部屋を取る。
ハンターがいない間に、ポータブルラジカセに、ハンターへの伝言を吹き込む。"ママと3人で暮らすことは、無理だと分かった。君は、ママと暮らせ"と。
ハンターは、ホテル高層階から、外を眺めながら、伝言を聞く。
トラヴィスは、マジックミラーの店に行く。
そして、現れたジェーンに、鏡に背中を向けて、語りかける。
男女のカップルがいた。女は、17、8歳。男は、年を食っていた。男は、女を、想像を超えるほど愛し、女が笑えば、嬉しかった。次第に、男は、仕事に出て、女と離れるのが嫌で、仕事を辞める。金がなくなれば働き、また仕事を辞める。そのうち、男は、女と仕事で離れていると、ほかの男と会っているのではないかと妄想する。
男は、酒に溺れ、女を試すために、わざと遅く帰った。しかし、女は、心配するだけで、男は、怒り、トレーラーの物を壊した。
ジェーンが、"この間の人?"と尋ねるが、トラヴィスは、否定する。
女が、妊娠していると告げる。男は、酒を断ち、仕事に打ち込んだ。3人の家を作るのに躍起だった。しかし、女に変化が現れた。いらいら、当たり散らし、子どもが邪魔なようだった。2年間、二人は元の二人に戻ろうと努力したが、無理だと悟った。
ジェーンは、涙を流す。
男は、再び酒に溺れた。タチの悪い酒で、酔い潰れて帰ると、心配も嫉妬もなくて、自由を奪われたと、責める。女は、逃げ出す夢を見る。男は、女の足に鈴を付け、それでもベッドから逃げる女をストーブに結えた。女の泣く声、子どもの泣く声が聞こえるが、男は何の痛みもなく、ただただ眠りたかった。
ジェーンが、"トラヴィス"と呼び掛ける。
鏡の中のジェーンの顔に、トラヴィスの顔が重なる。トラヴィスは、ジェーンの側の電気を消させ、ジェーンがトラヴィスの顔を確認できるようにする。
トラヴィスは、"ハンターと一緒だが、会いたいか"と尋ねる。
ジェーンは、"アンから写真を送ってもらっていたが、断った。写真だけで、実際の成長を目にできないから"と言う。
トラヴィスは、"ハンターは、君を必要としている。"と言い、ホテルのルームナンバーを伝える。
ジェーンは、"行かないで"と言うが、トラヴィスは、会えないんだと言う。
ジェーンは、ずっと独りぼっちだったが、トラヴィスと会話していたと言う。それが、ある時途絶え、ここに来てからは、男の声が、皆んなトラヴィスに聞こえる、と打ち明ける。
トラヴィスは、受話器を置いて、去る。

トラヴィスは、ホテル屋上の駐車場に佇む。
ジェーンは、ホテルの部屋を訪ね、親子は、優しく抱き合い、見つめ合い、固く抱き合い、グルグル回る。
トラヴィスは、ピックアップトラック🛻を走らせ、夜の高速道路を行く。
【感想】
もう何度目の鑑賞か。今回も、親子の情愛を描くロードムーヴィーを堪能した。ヴェンダースの旧作から観てくると、車での移動が、思いのほか、短いことに気付いた。しかし、ウォルトの道行を思えば、ロスアンゼルス・ヒューストン間を一往復したことになる。
親子再会の一方で、ハンターを失うウォルトたち。何より、ジェーンとの再会を忌避して、一人旅立つトラヴィスの喪失感やいかに。

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