見出し画像

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(16)#青春の夢いまいづこ/ブルジョワと庶民

【映画のプロット】
▶︎学生生活
テニスの🎾試合。応援団の先導で、学生は、拍手を送る。
キャンパス。学生がたむろする中、斉木は、本を手放さない。教官の腕に触れ、教官は荷物を落とすが、気がつかない。
"有名な商科2年の勉強家ですよ。"
"できるんですか?"
"惜しむらくは、中学生の頭ですよ。"
斉木は、道に置かれた岡持にぶつかる。
お繁(田中絹代)が、岡持を取り、斉木に言う。"嫌な斉木さん、勉強ばかりして。"
斉木は笑い、応援団を見て、笑う。
"あなたはどうして、堀野さんや熊田さんみたいに、応援団に入らないの?"
"僕は、母一人子一人で貧乏だから、とてもみんなのように、のんきに遊んじゃいられないんだよ。"
応援が終わる。
二人は、応援団に手を振る。
応援団が、お繁をかっさらって行く。
"堀野がおごるんだ。一緒に行こう。"
斉木は、腕を取られる。
ベーカリー"ブルーハワイ"。お繁は、アイスコーヒーを淹れる。
堀野と熊田は、将棋を指す。
覗くお繁は、堀野のシャツの綻びに気づく。
熊田が待ったする。堀野は、取った駒を、がま口に入れる。
堀野の綻びを、お繁が縫う。
"堀野、お前贅沢だぞ。"
"そねめ、そねめ。"
熊田も、シャツの綻びを強調する。
"熊田さんみたいなバンカラさんは、少しくらい破けてる方が、元気に見えて、いいわよ。"
用務員が、鐘を鳴らし、学生たちは、教室に入って行く。
堀野と熊田は、将棋盤を持ち出し、まだ将棋を指している。
堀野と斉木は、校門で別れる。
堀野は、車に乗り込む女を見る。

堀野の父親が、夕食をあてに、ビールを飲んでいる。
"旦那様は、夕方、ビールを召し上がる時が、一番おうれしそうでございますね。"
"こうして裸で飲んでいる図は、とても堀野商事の社長に見えないな。"
"今日もまた、山村の男爵夫人が、モガ令嬢を連れて来ているっていうじゃありませんか。"
"食事中だって断っても、帰んないだよ。あの親子には、困ったもんだ。"
堀野が言う。"赤坂のおじさんも、何で変わり種ばかり紹介するんですかね。"
"お前も、見込まれたのが、運の尽きだ。思い切って、あの娘をもらっちまうんだな。"
堀野は、父にビール🍻を注がれる。
"この際、お父さんから、きっぱり断っておくんなさい。"
"断るのはいいが、またおじさんに、怒られても知らないよ。"
山村嬢が、タバコ🚬に火をつける。
母親が言う。"ここに来るときぐらい、タバコ🚬やめたら、どう。"
"ママの時代と違うのよ。"構わず、タバコ🚬を吸う。
堀野の父が、部屋に入る。
"哲夫はただいま帰りましたが、少し酔っ払っておりますので、失礼させていただきます。"
"哲夫さんは、お酒を召し上がりなさるの。"
"酒は、かわいい魔薬と、フランス🇫🇷の詩人が歌っているわ。私も、酒を飲みますもの。"
"しかし、酒を飲むと、無茶苦茶に乱暴しますんでね。"
"そんなに乱暴されるんで、ございますか。"
"恋と冒険。男の乱暴は、女にとって大きな魅力ですわ。"
"それに、一番困ることは、酔っ払うと、必ず人の物を盗む癖がありましてね。"
"哲夫さんは、泥棒を遊ばすんですか?"
"私も、早く、哲夫さんのお心を盗みたいと、思っておりますのよ。"
堀野は、部屋を一旦出た父親と、言葉を交わす。
"何から何まで理想的だわ。あたし、すっかり気にいっちゃった。"
"泥棒をかい。"
"猟奇的で、面白いわ。"
堀野と父が、部屋に入って来る。
堀野は、山村嬢と握手するが、腕をぶんぶん振り回す。
堀野は、タバコ🚬に火をつけ、マッチを乱暴に、放る。
"ご覧のとおり、でしてな。"
母親は、おろおろする。
堀野は、山村嬢のブレスレットを奪うが、"紛い物は、返してやるよ。"
"これで、正直なところは、ありますよ。"
堀野は、今度は山村嬢のバッグ👝を取り、ほこりをつまみ上げ、またバッグにしまい、タバコの吸い殻をバッグに捨てる。"
"ご覧のとおりでしてな。"父親も同調する。
堀野は、バッグを👝部屋から放り出す。
山村母子は、退散する。
"成功、成功。さあ、大願成就の祝盃だ、祝盃だ。"父子は、喜ぶ。
山村母子は、車で立ち去るが、別の車が後をつけ、停車させて、男がドアを開け、挨拶する。
堀野父子は、ビールを飲み直す。
女中が告げる。"赤坂の旦那が見えられて、只今、玄関先で山村様の奥様と、何かお話をなさっていらっしゃるようですよ。"
堀野は立ち上がる。
"今、逃げ出すのは、卑怯だぞ。"
"また何とか誤魔化すさ。"
赤坂のおじさんがやって来る。 
"無頼漢。たまげた奴だ。"
おじさんは、父親の向かいに座る。
"わしが、折角、お前のために骨折っている縁談を、一つ一つつぶすとは、まったく言語道断だ。"
"そう怒るなよ。わしだってあんな娘嫌いなんだから。"
"兄さんも兄さんです。息子のわがままを賞揚するとは、何事ですか。"
▶︎会社を継ぐ
やがて、学期試験。堀野の答案は埋まらない。
堀野は、熊田らにサインを送る。
用務員が、教官に何か告げる。
堀野は、呼ばれ、父が危篤と伝えられる。
"追試験を受けることにして、大急ぎで帰りなさい。"
堀野は、教室を飛び出す。
お繁に会う。"もう試験は、終わったの?"
"親父が急病なんだ。"
堀野は、また走り出す。
堀野は、車で帰る。
自宅には、多数の車が詰めかけ、人が集っている。
父親は、熱を出し、伏せっている。 
"あ、お坊ちゃま。"
おじさんが言う。
"全く不意だった。会社で書類を見ていながら、脳溢血で。"
"お父さん、哲夫です。分かりますか?"
"今朝、あんなに元気だったのに、一体、どうしたって言うんです。''
堀野は、父の手を取り、頬に押し当てる。
女中が泣き崩れる。堀野も泣く。
この結果、堀野は、大学を中途で退いて、父の遺業『堀野商事』の社長に就任することになった。
堀野商事社内に、社長就任の挨拶が、告知される。
"副社長の挨拶が始まって、1時間半になるぜ。"
"この上、社長の挨拶があるんじゃ、やり切れないや。"
社員は、あくびし、堀野もあくびし、女性社員が笑う。副社長の演説が終わる。
堀野は、"親父同様、よろしく。"とだけ述べる。社員の喝采を浴びる。社員は、散開する。
副社長が言う。"社長になった以上、威厳を示してもらわんといかん。"
"しかし、僕は、おじさんみたいに、難しい顔をしている訳にはいかないんです。"
"重役は、貫禄が大事だ。"
女性社員が噂する。
"私、今度の社長、気に入っちゃった。"
"彼となら、ドライブくらい付き合ってもいいな。"
"そんなの向こうから、お断りよ。"
社長と副社長は、社員をねぎらう。

それから一年。学生が卒業する頃になっても、社長の学生気質は、治らなかった。
"気のせいか、この頃、お坊ちゃまも、だんだん社長らしくお見えになってまいりましたよ。"
"お前もだんだんしわくちゃ婆になって来たよ。"
若い女中が伝える。
"学生時代のお友達3人様が、いらっしゃいました。"
熊田、斉木らがいる。
"早速だが、俺たち3人を、君の会社で雇わないか。"
"俺たちみたいな成績抜群の秀才は、ほかの会社は、どうも気に入らんみたいだ。"
"そりゃ誰でも考えるさ。"
斉木が言う。
"君の会社でも、ダメだろうか。"
"それよりか、君たち、学校の方は、卒業できるのか。"
3人は押し黙る。
"兎に角、背広を注文しちゃったんだ。"
"入社試験は、カンニングできないから、君たち難しそうだぞ。"
"武士は相身互いだ。その点は、社長の権威でどうにかならないか。"
女中が入って来る。
"会社から、すぐにご出勤くださるよう、お電話ですが。"
"そうやってると、君も堂々たる社長タイプだな。"
"とたんに、ゴマをする奴がおるかい。"
"その辺まで、ぶらぶら一緒に行こうか。"
"ベーカリーのお繁ちゃんは、近頃、どうしてる。"
"女史だけは、相変わらず朗らかさ。"
"なんたって、学生時代が一番さ。"
車が止まり、堀野が乗り込む。
入社試験においてすら、熊田ほかカンニングが横行する。
堀野が試験会場を覗く。
監視官が、入れ替わりに出て、堀野は、熊田らのカンニングを黙認し、斉木に、"ナニヲボンヤリシテルンダ"と、手帳に書いて、示す。
斉木は、"キミニモラッタテガミヲナクシタ"と、返す。
堀野は、デスクに戻り、小僧に、"入社試験の問題を出した者を呼べ。"と、命じる。
"参考に、この問題の答案を見せてくれ。"
堀野は、答案を受け取り、職員を下がらせる。
また試験会場に行き、答案を落とし、斉木に拾わせる。
斉木は、答案を書き写す。 
一難去ってまた一難。
社長室で、副社長が女性を面談し、堀野は、じりじりする。
"わしは、これから会議所に行くから、お前は、お嬢さんと、活動でもお付き合いしたらどうだ。"
"哲夫さまさえ、お差し支えなければ。"
"無論、哲夫は、ご一緒しますよ。"
二人は車に乗る。
"シネマなんか詰まらないわ。どこか二人きりになれる所に行かない?"
"大磯の坂田山でも行ってみますか。"
"嬉しいわ。"
堀野は、心ここにあらず。
堀野は、歩道を歩く3人を見つけ、車を止める。
人力車で荷物を運ぶお繁に出くわす。
"おじさんが、店を畳んで、4、5日前に田舎に帰ったものですから。"
"この頃は、学生さんまで不景気になって、ベーカリーにも、昔の面影がなくなったものですから。"
車に残されたお嬢が、うらめしそうに見る。
"私、どこかデパートの売り子になろうと思うんですの。"
"僕の会社に入ったら。"
"学校の連中も、今度、2、3人入ったから、きっと君を歓迎するよ。"
堀野は、女に声をかける。
"僕は、これから引越しの手伝いをしますから、ここで失礼します。"
"どうぞ、僕にお構いなく。"
女は、むくれて車を降りる。堀野は構わず、お繁の荷物を車に積む。
新居に着き、堀野も掃除に精出す。
花束💐を抱えた斉木が、現れる。
"会社は、サボって来たのか?"
"たまにはサボってもいいや。月給が安いんだもの。"
"僕は、そんな気持ちじゃないんだよ。どうか今日だけは、大目に見てくれたまえ。"
"君は、相変わらず真面目だな。"
"喜んでちょうだい。明日から、私も会社のお仲間よ。"
"ボンヤリしていないで、君も手伝えよ。"
"僕は、これからまた会社に帰るよ。"
斉木は、お繁に花束を渡して、部屋を出る。
堀野は、部屋に立ち尽くす。
"今の斉木の態度を、お繁ちゃん、どう思う?"
"斉木ばかりか、熊田や島崎ですら、妙に、僕を社長扱いするんだよ。"
"それは、仕方ないんじゃありません。みんなあなたに雇われているんですもの。"
"さびしいな。"
あくる日。
堀野は、副社長に叱られる。
"お前は、幾度、わしに恥をかかせる気だ。これで、5度目だぞ。"
"6度目ですよ。"
"6度目とは、ますますもって、不都合千万だ。"
"実は僕、学生時代から好きな娘が一人いるんですよ。"
"それならそれと、なぜ早く言わなかったんだ。2年も3年も、人に無駄骨を折らすとは、不届至極だ。"
"一体、それは、どこの娘だい。"
"まあ、暫く預けといてください。"
お繁が、皆に、挨拶して回る。
"学生時代に、お繁ちゃんは、俺たちの共有財産だった。"
"その人を、俺が独占しようとする以上、俺は、諸君の意見を聞くべきだと思うんだ。"
堀野は、斉木、熊田、島崎を前に、語る。
"斉木は、どう思う?"
"僕に異論はないよ。"
熊田が、言う。"僕たちにも、異論はないよ。"
4人は、乾杯する。斉木は、うつむきがち。天井のファンが止まる。
"先程から、斉木さんのお母様とおっしゃる方が、お待ちになっておりますよ。"
斉木の母は、何度もお辞儀する。
"僕は、つい、2、30分前まで斉木くん達と、銀座で飲んでいたんですよ。"
"あんな男で、さぞお役にも立ちませんでございましょうが、何分、どうぞよろしくお願い申し上げます。"
"お恥ずかしい品でございますが、私どものほんのお礼のしるしでございます。''
"この不景気に就職難にもあわず、無事にお宝をいただけますのも、全く貴方様のお陰だと、私ども毎日、お宅様の方を拝んでおります。''
"僕を拝む前に、一日も早く、斉木君に嫁でももらって、お母さんも楽をすることですね。"
"それがまた、大変都合よく良い嫁が見つかりましたんでございますよ。"
"ご存知でございましょうが、学校の前の洋食屋におりましたお繁さんという娘。"
堀野は、はっとする。
"来てくれることになったんでございます。"
"それは、いつ頃からの話です?"
"卒業する1か月前に、初めて私に、紹介したんでございます。"
お繁の家を、堀野が訪ねる。
"早速だけど、お繁ちゃんは、斉木と結婚の約束をしたのかい?"
お繁は、うなずく。
“なんだって、斉木なんかとそんな約束をしたんだい?"
"僕は、学生時代、君に対してどんな気持ちを抱いていたか、君には分かってもらえなかったのか。"
"あたし、あなたはもう二度と私の所には、帰って来てくださらないと思ったんです。"
"あたしは、あなたを待っていることが、自分だけの夢だと思ってあきらめたんです。"
"そう思ってあきらめた時、ちょうど斉木さんから結婚の話があったんです。"
"いつも皆さんの後から、とぼとぼと付いてくるような斉木さんの姿が、私は、気の毒でたまりませんでした。"
"あたしは、斉木さんのあの灰色の生活を、あたしの力で、せめて明るくしてあげたいと思いました。"
"あたしのような者でも行ってあげなければ、誰があの人の奥さんになるでしょう。"
堀野は、立ち去ろうとして、お繁に引き留められる。
"お怒りになったの?"
"その気持ちでいつまでも斉木を愛してやってくれたまえ。"
堀野は、顔を強張らして、去る。
お繁は、部屋にたたずんだ後、窓から外を眺める。打ち上げ花火が上がる。
斉木の家。熊田と島崎と、押し黙って、ビールをちびちび飲む。
"口じゃ何と言っても、あいつも普通の社長さ。""社長と女事務員。おあつらえの型さ。"
"おまんまをいただくのも、当世では、随分難しくなりましたねえ。"
"お繁ちゃんばかりが女じゃない。気を落とさないでしっかりやるさ。"
斉木は、うなずき、一同は、散開する。斉木は、二人を見送るが、駆けて行き、二人に追いつく。
"僕も、その辺まで、一緒に行こう。"
車が通りかかり、3人はよける。堀野が車から下りて来る。 
"皆んな一緒で、ちょうど良かった。実は、斉木に少し話があって、やって来たんだ。"
斉木は、家に来るよう、堀野を促す。
"君のお母さんには、聞かせたくないことなんだ。"
4人は、原っぱへ行く。
"君は、どういう気持ちで、お繁ちゃんと僕との結婚に、賛成したんだ?"
"君は、俺が、友達の恋人を奪って喜びような男だと思っているのか?"
"斉木、ぐずぐずせず、返事をしろ。"
"斉木だって、君に厚意を示したくてしたことで、そう頭から責めては、可哀想じゃないか。"
"僕は、君たちに言い分がある。"
"君たちは、それでも僕の友達なのか。"
"俺の前に出ると、犬の🐕ように尻尾を振って、それでも俺の友達なのか。"
"いつ俺が、そんなことをしてくれと頼んだ?"
"いつそんなことをされて、俺が喜んだ?"
"学生時代の友情は、どこ行った?"
3人は、考え込む。
斉木は、堀野に歩み寄る。
"僕ら親子が無事暮らせているのは、君のお陰だ。"
"社長の君に逆らうことは、僕たち自身の生活に逆らうことだ。"
"そんなことで恋人を譲るのか。馬鹿。"
堀野は、斉木を殴る。
"俺は、斉木の卑屈な根性を叩き直してやるんだ。"
仲間は、堀野を抑える。
"俺の言い分が間違っていると言うのか。"
"異存があるなら、殴るなり、蹴るなり、好きにしろ。"
"友情の鉄拳だ。骨身に染みて覚えておけ。"
堀野は、斉木の頬を何度も張る。斉木は、地面に崩れ落ちる。
熊田と島崎は、堀野に謝る。
"すまなかった。"
堀野は、斉木に謝る。"許してくれ。"
二人は手を取り合い、涙を流す。
オフィスビルの昼休み。ビルの屋上で、熊田と島崎はキャッチボール。
堀野が熊田に声を掛ける。"もう、汽車が出る頃じゃないか。"
"やっぱり送った方が、良かったんじゃないかなあ。"
"新婚旅行は水入らずに限るよ。照れさせちゃあ、可哀想だ。"
斉木とお繁を乗せた列車が、オフィス街を通る。
"いた、いた、窓からこっちを見て、手を振っている。"
3人は、手を振り返す。
【感想】
斉木は、同級生の輪に入らず、孤独である。周りは、彼を構うが、斉木は、溶け込めない。
そんな斉木が、裕福で会社社長の堀野と、一人の女を奪い合う事態に。
斉木は、一旦は、堀野に譲るが、堀野は、斉木の根性を叩き直すために、退く。
堀野が、何度も何度も、斉木を打擲するシーン、堀野も涙を流す。
ビルの屋上から、3人は、斉木とお繁の乗った列車に手を振る。
そこには、ブルジョワか貧民かの差はなく、人を癒す普遍的な摂理がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?