怪物牝馬現る
絶賛開催中のロイヤルアスコットで昨日ニューヒロインが誕生。
その名もインスパイラル。
昨シーズン、デビュー4連勝でフィリーズマイル(G1)を勝利し世代No.1の呼び声を早々と手にした2歳女王。
翌春の1000ギニーでも大本命筆頭と目され2021年シーズンを終えたものの今年に入ってから思わしくない状態が続いた。予定していた英1000ギニーは回避となり、3週間後の愛1000ギニーも後に回避が決定。世代No.1の座が徐々に遠のきつつあると同時に、フィリーズマイルで負かしたカシェイとプロスパラスボヤージが自身の出走できなかった英1000ギニーでワンツーフィニッシュと、ライバルにも遅れを取っていた。
そして迎えたコロネーションS。
巡り巡っての今季初戦。昨シーズンの勝ちっぷりや負かした馬たちのその後の活躍なども評価されて1番人気に支持されたものの、万全な状態とは到底言えない臨戦過程で半信半疑という戦前のムード。
相手はフィリーズマイルで負かした前出の2頭に仏1000ギニーでカシェイを破ったマングスティーヌなど多士済々。
スタートしてダッシュが付かず後方からの追走となり、道中も入れ代わり立ち代わり前に入られる厳しい競馬で気づけば後方3番手。
直線入口、大外に回すかと思いきやフランキーは馬群の内寄りを選択し、先頭集団めがけて仕掛けを開始。前にいたディスカバリーズ(3着馬)が左へヨレたことで行き場を失ったかに思えたが切り返す素振りは一切なく当馬の左へ強引に持ち出し、ようやく進路が空く。
そこからの脚はまさに圧巻。
みるみるうちに加速して後続を置き去りにし、悠々と先頭でゴール板を駆け抜けてみせた。後続につけた着差は4馬身3/4。とても直線スムーズさを欠いていたとは思えない圧勝劇であった。
馬群を割ってきたインスパイラル自身のド根性も凄まじいが、何よりフランキーの度胸が恐ろしい。
道中焦りはなかったのか。直線迷いはなかったのか。おそらくあの勝ちっぷりから推測するに大外を回していても勝っていただろう。しかし馬群の間を割って抜け出してきた。
よく分からないが、この騎乗ぶりに"フランキーのフランキーたる所以"を感じた。51歳の現役ジョッキーにして生きる伝説と呼ばれ、誰よりも華がある理由が何となくわかったような気がする。そんな神騎乗だった。
今季のロイヤルアスコット開催でフランキーことL.デットーリ騎手は勝利を挙げられていなかった。同時にインスパイラルのトレーナーであるJ&T.ゴスデン調教師も開催未勝利で、名手・名トレーナーが今年のロイヤルアスコット開催で不振だと話題になるほど。
しかし、それら不安を全て吹き飛ぶような圧巻のパフォーマンス。名タッグの開催初勝利がこんなにも鮮やか過ぎるとは誰が想像しただろうか。
これでインスパイラルはデビューから無傷の5連勝。14戦無敗で伝説となった父・フランケルのようにこの先も不敗神話を続けていってほしい。
同世代の牝馬に敵がいない事を証明した次の狙いは牡馬か、或いは古馬牝馬か。マイル路線を極めるのか、はたまた中距離戦線に挑戦状を叩きつけるのか。競馬ファンの声としては欧州現役最強マイラー・バーイードとの対決が多く熱望されているが、それも含めて楽しみで仕方ない。
L.デットーリ×J&T.ゴスデンの名タッグから誕生した新たなスーパーホース。この先の更なる活躍を心から期待し、追い続けていきたい。
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