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珈琲屋でズギャン

朝ドラ「らんまん」が終わった。
まんちゃんとすえちゃんが
しみじみ良くて大いに泣いた。



頭をなやませていた仕事に区切りがついて、嬉しくて自転車をはしらせる。今日はゆるす。行きたかったところに行こう。珈琲屋さんが目に入る。よし、行こう。

ドアについた鈴がなる。カランカラン。何ヶ月ぶりかの珈琲屋さん。今日もにぎわっている。何を注文しよう。アイスにするか、ホットにするか。まだ決まらないのに、店員さんをよぶ。何にしようと思いながら、ホットのカフェオレにした。ゆっくりしよう。

桜が描かれたカップに熱々のカフェオレがなみなみと入っている。熱いし暑い。今日はアイスだったかもしれない。

ん?あの人。

モーニングからランチに切り替わる時間で、メニューを裏返しにきた男性店員がいた。はじめてこの店に来た時に、「わ、気になる…」と思ってしまった人だ。左ななめにいた老夫婦が男性に話しかけている。

「ねー、あなたここにうつっている人?」
「そうです」
「○○さんね?」
なにかの冊子に、
その男性は載っているようだ。
「私もね、○○って言うの」
老夫婦と男性は同じ苗字で、
繰り返し男性に伝えている。
「私もね、○○。同じだねえ。
あなたメガネとったら
こんな顔してるんだね」
「そうなんです」
「いい顔だね」
照れる男性。
その後ろ姿を私は見ていた。
シュッとしめたエプロン。
後ろで組んだ手が
照れに比例するかのように動く。

やっぱりこの人だ。


「ちょっとかっこいい人がいるんだよ」
私はそう言って、
母を誘ってこの店に来たことがある。
男性がいた。
「あんたが言ってたひと、あの人?」
と聞かれて「そうそう」
と言ったものの、何かが違う気がした。
あの気になる感がないんだよなあ。


老夫婦と男性の会話は続く。
「へえ、ここ経営してんの?すごいねえ」
「兄と経営してるんです」
『あー、そういうこと』
謎が解けた。
前に見た方は、お兄さんだったのか。
よく似ている。けれど何かが違う。
老夫婦が、もうかってるんだろ?
隣の駅にもつくってよ、など
ぐいぐい話しかけている。
なかなか、男性をはなさない。
私はその後ろ姿を見ていた。
かっこいい、かもしれない。
いや、かっこいい。そう思うと、
なんだか落ち着かなくなってきた。
ボーッとしようと思っていたのに。
ボーッとできなくなってきた。

カフェオレを飲みほし、店を出る。



まんちゃんがすえちゃんに「ズギャン」と言ったシーンがある。台本にセリフではなく(ズギャン)と書いてあったそうだ。万太郎演じる神木くんは、どうしてもこの(ズギャン)を口に出して言いたかったそう。キュンもズキュンも超えたかのような言葉、ズギャンを。あさイチで神木くんが楽しそうに話していた。このエピソードが私は面白くて忘れられずにいる。

つまり、珈琲屋で私は
ちょっとしたズギャンであった。