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ゆりねの天ぷら

富良野産のゆりねだと書いてあった。
ゆりねを私は食べたことがない。どんな味なんだろう。息子の習い事で知り合った方と一緒に蕎麦屋に入る。その方が、おいしいよ、と教えてくれて。十割そばと一緒にいただく。十割の意味も分かっていなくて、その方に「十割って何なんですか」と聞く。「そば粉が十割って意味だよ」と教えてくれる。ランチで2000円くらいして、ちょっと迷ったけれど、その方は一切の迷いもなく即決していたので、私もそうしてみた。ゆりねはとてもおいしかった。きめの細かいじゃがいもと言うか、いや、じゃがいもじゃないけど、ほくほくとした食感。他に似ているものがない。

一週間前に食べたゆりねを思い出す。

次々入ってくるお客さんも「ゆりねの天ぷら」を注文していた。この暑い季節にそばはいい。わさびをきかせて食べるそばはおいしい。これが十割か、と思って食べた。想像していた、ものすごいそばの主張は感じなかったけれど、丁寧なのは分かった。

おいしかったなあ。

合宿の調整が必要ということで(例えば体育館の使用について他団体とやり取りするなど)、わざわざ合宿場所まで行った。研修という名目だったけれど、実質は調整。ちょっとした小旅行だった。私は助手席で、その方に運転してもらう。

私は、その調整のためだけに行こうと思っていたけれど、その方は「ちょっと早めに出てランチしませんか」と言ってくれた。そしておいしいお蕎麦屋さんまで見つけてくれた。申し訳ない、と思いながらちゃっかりその方のプランにのっかり、助手席に座る。
「ここの道の駅はいいよ。まだ時間あるから、よっていこう」クルマをとめてくれる。とても楽しい。やはり、道の駅で売られているものはおもしろい。庭先で取れたあじさいなのだろうか。三種類のアジサイがセットになって150円で販売されていた。その方は、カートにじゃんじゃん野菜や果物を入れていた。本当になんでも思い切りがいい。ビーツを買っていた。何を作るの?と聞いたら「ボルシチ」と答えてくれた。「ボルシチっておいしいよね」と。私はレモンバームの苗とねじ花のポットを買った。ねじ花が嬉しかった。公園にも生えているけれど。2つで200円くらい。

田園を走る。
その方は「ねえ、知ってるよね?」と聞いてきて。私は、知っていたから「知ってます」と答えた。それは、…泣き叫ぶくらい壮絶なこと。あなたの気持ち分かります、なんて言えるようなことじゃない。そのことについて簡単にふれられないことだった。なんで?なんて聞けない。

その方はとても明るい。明るくなるしかなかったんだと思う。今、抱えている困っていることも「わたしね、誰にでも言うの」と言って笑う。いつも笑っている。

「深刻になるな。真剣になれ」

運転しながら、その方はさらっと言った。この言葉を大切にしていると教えてくれた。私は「手帳にメモしとかなきゃ」と言って本当に書いておいた。この言葉に出会うのは実は二回目だったけれど、二回目ということは私に必要な言葉なんだろう。

「一日一緒だったね」と言われて、
「本当に。小旅行でしたね」と答える。

息子の習い事を通して、こんな日がやってくるなんて。いい日だった。あの方が、いい日にしてくれたんだなと、つくづく思った。