あきことジョン

あきこ。元気にしていますか。

あきことは予備校のバイトで知り合った。
あきこのことをけっこう思い出す。
思い出すひと、たぶんナンバー1。

あきこと私は似ているところが
いっこもなかった。
なのにちょこちょこ出かけ、旅もした。
あ、いっこあった。
私たちには彼氏がいなかった。
これが最大の共通点で意気投合ポイント。

あきこは、私といると気がラクだと言った。
私はあきこといると気をつかった。
あの頃の私はなんにでも気をつかって、
ひとといて、いつもつかれていた
(そう考えるとかなりラクになった)。
でもあきこのいろんなところが好きだった。
私の持っていないものが好きだった。
おしゃれで、さばさばしていて
あこがれだった。

今、ジョンメイヤーを聴いている。
だからだ。時々ジョンメイヤーを聴くから、
そのたびにあきこを思い出してしまう。

あの夏の日、あきこは行政書士の資格を
取ると言ってマルイの上にある予備校に
通っていた。私は何かを返すために
昼休みか何か会いに行った。
その時に、あきこが渡してくれた。
ジョンメイヤーのCDを。
あきこが貸してくれたなかったら、
私はジョンメイヤーを聴くことは
多分なかったでしょう。

あきこはELLE(雑誌)が好きだった。
私はELLEを読んだことがない。
海外で暮らしたいと言ってて、
本当に行きそうだと思った。
さみしくなるな、と思った。

お互い苦戦した就活。

あきこは冷たいようで優しくて、
「ほら、泣いていいんだよ」
とカラオケに連れて行き、
私の頭をなでて言った。
泣かなかったけど。

あきこは就活でくやしくて、
めずらしく電話をかけてきたことがあった。けれど、それは一度だけだった。
あきこはたった一度泣いた。

鎌倉の海岸とか
アウトレットとか
スケートとか
小さな島旅行とか
中華街とか
とても楽しかったのになあ。
デートみたい!
卒業旅行にフランスに行こう、
と言ってくれたのに、それは行けなかった。
行ったらどんな思い出が残っただろう。

社会人になったある日、
ケンカじゃないけれど
ぷつりと会わなくなった。
私が悪かったのかもしれない。

「琴線にふれてしまったね」
とあきこが後でメールをくれて。
琴線という言葉を知らなくて、
辞書で調べてその通りだと思った。
琴線だって。

もうお互いに連絡先も知らない。

ジョンメイヤーを聴くから、
思い出すんだな。
あきこは私のことを思い出すのかなあ。

あの頃、あきこといる時間が好きだった。
親友とも違う。
もしかしたら、私はあきこのことが
好きだったのかもしれない。
ちょっとだけ、そう思う。


ジョンメイヤーのCDが終わる。
ちょっとせつない。
ジョンメイヤーって酔わせてくれる。

リピートする。

さあ、今日がはじまるぞ!