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リーゼンフーバー神父に会いたい

ある日、仕事をしていると上司の執務室に呼ばれた。東京で3日間の研修会があってそれに行ってこないかという話だった。若い職員が行った方がいいのではないかという話もしたが押しきられた。退職前の最後の東京だし行ってきたらいいのではということかと思った。
プライベートでも行く機会がなく、20年ぶりに東京に行くことになった。20年前は30代で6年間東京の本社で働いていた。東京時代の思い出の場所に顔を出してこようと思った。

東京時代は忙しかったが、職場の定時退勤デーを利用して、当時カトリック教会の入門講座になんとか通った。
四谷のイグナチオ教会というカトリック教会のホールで講座の案内を見るとたくさんあったが、定時退勤デーの曜日にちょうど合致する講座は、金曜日19時からのリーゼンフーバー神父の入門講座だった。
若い頃、プロテスタント教会で洗礼を受け、カトリックへの改宗を考えていた私のような社会人を、リーゼンフーバー神父はていねいに受け入れて熱心に指導してくださった。3年間入門講座に通って、お世話になりながら、カトリックへの改宗を無事に果たした。
改宗後もリーゼンフーバー神父の主宰するアガペ会という集まりに関わり始めたが、そんな中、北海道に帰ることになり、お別れを告げた。北海道に帰ってからはあちこちの地方都市を転勤して歩いた。そして退職が5年後になって、今回の東京出張である。

研修会の前日、飛行機で北海道の地方都市から出発した。2時間もかからずに羽田空港に着いて、研修会場近くの宿には夜に入ればよく、日中たっぷり時間があるので、四谷に向かった。
ズボンの右ポケットにはロザリオが入っていた。北海道に帰ってからロザリオの祈りをするのに買ったものだ。カトリック信者は通常そのような聖具を手に入れると、神父に「祝別」といって、使うあなたに神様の恵みがありますようにと祈ってもらう習慣がある。リーゼンフーバー神父様の祝別を受ける機会がいつかあると信じて、身近な神父の祝別は受けていない。
慣れない東京の暑さにくたびれながら、四谷のイグナチオ教会の横を通って、上智大学の構内に入り、SJハウスを目指す。リーゼンフーバー神父が居住している場所だ。
SJハウスの受付でリーゼンフーバー神父への面会を求めてみると、もうここにはいないんですという返事だった。そうだ、もう20年も経っているのだ。神父様ももう引退しているのだろう。
すっかり時間を余して、四谷駅近くのカフェに入る。店内の冷房とアイスのカフェラテでひと息ついた。神父様と会えず残念だったが、人生はこんなもんだと思う。ポケットの中のロザリオがひんやり冷たい。
3日間の研修会を無事に終わって帰った。

「リーゼンフーバー神父様、お元気ですか。
2003年12月23日に神父様のもとでカトリック教会に入り堅信を受けた者です。
とてもたくさんの人たちが神父様の指導のもとで洗礼などを授かっていますし、私も当時、北海道から勤め先の出向で東京に勤務しており、4年間くらいしか神父様の指導は受けられませんでしたが、入門講座を中心に、上石神井での黙想会などに参加しました。
北海道に帰ってから今まで、カトリック教会の信仰を続けています。北海道内を3年くらいで異動します。
日曜日にはミサにあずかり、毎日、ロザリオをしています。
アガペ会にも所属していますが、異動が多く住所連絡などしないまま疎遠になってしまいました。
9月中旬に20年ぶりに東京出張の機会があり、SJハウスに行ってみましたが、神父様はもうここにはいらっしゃらないとのことでした。手紙の形で神父様に届くことを期待して、SJハウスあて送ってみることにしました。
20年たった今になって、懐かしく思いだします。神父様の導きのもとで、キリストの体である教会に加えていただきました。ありがとうございます。
お元気でお過ごしください。」

フランシスコ教皇来日はニュースになったので、皆ご存じだと思う。フランシスコ教皇が大規模なミサを挙げたり、政府の要人などと会談したりして、3日間の日程を日本で過ごしていった。
そんな中、Twitterにある写真が上がった。フランシスコ教皇と握手する車椅子だと思われる座ったリーゼンフーバー神父様だった。教皇は来日中、日本のカトリック教会に貢献した神父やシスター、信者にも多数会って握手していったが、そんな中の一コマだった。リーゼンフーバー神父様は私が知ってる20年前とあまり変わっていなかった。

ある春の日、仕事をしていると、携帯電話が鳴った。知らない番号だったが、2回目の着信だったので出てみる。アガペ会ですという女性の声で、リーゼンフーバー神父様が療養先で亡くなった、お祈りください、葬儀ミサのYouTube配信が明日の16時からありますとのことだった。時間休暇をとり、YouTube配信を観た。
結局、祝別されないままのロザリオを一生涯使うことになりそうです。リーゼンフーバー神父様、一目お会いしたかったです。

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