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はじまりはいつも雨Ⅳ


電話がしつこく鳴ってる…


「おい、電話出ろよ」
女が気怠そうに全裸でベットから出て固定電話を取る
「はい?…少し待って下さい…モーニング部屋の前に届いたみたい」
「直ぐ支度するから待ってて下さいと」
「直ぐ開けるので待ってて下さい…すみません」
下着を探す…バスローブを取りに洗面所へ

「お前のバスローブ。下着あったか?早く着ちゃえよ開けるぞ」
「待って」無視して開ける
ウェイターが2人
「おはようございます。お部屋失礼致します。」


女が慌ててバスローブの前を留める
「テーブルになさいますか?ベットの前に設置致しますか?」
「テーブルで」
洗面所で顔を洗い終えて椅子に座る、女は洗面所で髪を整えてる
「料理の説明は大丈夫ですよ置いといてくれれば」
「わかりました。では失礼致します。ごゆっくりお過ごし下さい」
ウェイターを見送り部屋の鍵を閉める
洗面所で髪を整える女を横目にもう一度椅子に座る

目の前にはブレックファースト
俺の目的は3杯のオレンジジュース
一階にある千疋屋の搾りたてオレンジジュースが最高だ

窓を見ると淀んだ雲が建設中のスカイツリーと下町の空に居座ってる


「雨かよ」
4日も雨だ、窓に雨が当たってる…
部屋のBGMはランダム再生でフランクシナトラのmy wayが流れてる

昨日スカイラウンジで飲み過ぎた事を後悔する
マンダリンのマティーニは美味い

女を待たずに好物のジュースを飲む
曲は終盤に差し掛かる


"For what is a man, what has he got?
If not himself, then he has naught
To say the things he truly feels and not the words of one who kneels
The record shows I took the blows and did it my way!"
人とは何なのか 手に入れたのは何なのかと問われれば
俺じゃなくても 結局 持ってるものなど何もない
感じたままに言ってるんだ 跪いてきた人間の言葉じゃない
痛い目にも遭ったが 俺が自分の道を生きてきたことは 人生の記録が証明している

嫌いじゃない


淀んだ雲と窓に当たる雨粒を眺めて、なぜかあの日の事を思い出した…




「おいっ!」



「おいっ‼︎」
自分だとは思わなかった
「後ろ来てるのか⁉︎違うのかどうなんだよ⁈」
「まだわかりません‼︎ライトはアルファードです‼︎」
急にトーンが下がる
「対象、勘繰ってるか?…少しずつ速度上げてるよ。それにもう少しで高速だし、何やってんだあの人達…インカムまだ反応しないか?しないなら横電で連絡してみ」

「了解です」
インカムを鳴らす
カチッ
「インカムの調子が悪い!今聞こえるぞ。曲がって次の直線で追いつくからライトは曲がったら消すぞ!対象はどうだ?」
一縷の不安は消えて安心した…

「対象は勘付いている可能性有り、速度を上げました。このまま高速乗るつもりです。その前に止めますか?それとも高速の料金所で止めますか?」


返答の時間が長く感じるのではない、実際に長いのだ。考えているのか確認しているのか
我々4人は前のベントレーに目を向けて追いながら指示をただ待つ

間も無く高速だ
「何キロ出てる?」助手席の班長が聞く
「90出てます」「飛ばしてるな…連絡遅いな」


「ジ…ジッジ…聞こえるか?」
「聞こえます」
「様子をみろ、手は出すな、対象が気が付いているならそれでいいから後をつけろ、スピード上げないようなら高速で前後入れ替えだ」
班長が言う「マジかよ…」
「わかりました」

「という事です」「了解、高速乗って様子をみるしかない」


料金所を通過する…
単純に帰路を急いでいるだけなのか…
俺達は追いかける身
勘繰ってるんじゃないか、それとも気が付いているんじゃないかとこちらが勘繰る

速度は加速する…90…100…120…

160以上でアルファードは付いて来れなくなる…


メーターは140で安定してる…

「なんだ?気が付いてないのか?」

追い越し車線をひたすら走る…

横電が鳴る…

「はい…わかりました…はい…了解です」
「指示は?」
「インカムはもう閉まっていい、俺達の班は後の鼠班にバトンタッチし対象を追い越して先回りする。仮に後付け気が付いていて、追い越したら油断するだろうし対象の動きがわかる。
降りる場所は、渋谷か外苑のどちらからしい。龍班の仲間が外苑、鼠班の仲間が渋谷、我々は先回りして渋谷出口で待機組と合流」
「飛ばすぞ」

黒塗りのベントレーを横目にベンツは急加速する、追い越す瞬間運転手がこちらを見ていた

そんな気がした…


速度を上げ高速を走る物凄いスピードで追い越して行く雨が強く窓にアタル…




「ねぇ!」




「ねぇ!」
「何ボーッとしてんの」
「悪い」「考え事?」「そんなところ」


「今日どうするの?買い物行きたい。それともう4日目だから場所変えないの?」
「パレスに変えるよ」
「お風呂入れておいたから入ってきなよ」

(柄をかわしてもう半年が経つ…)
湯船に浸かる…又あの日の事を思い出す…




雨が弱くなってる





「もしもし、間も無く渋谷出口です…はい…わかりました…失礼します」
「渋谷降りたら左側に牛丼屋がある、路肩に練馬ナンバーの黒のアルファードが2台並んでるから乗り換えるぞ」

「了解です」
つくづく思うこの組織力の凄さを…

アルファードが2台、パッシングする


後ろのアルファード、運転席から1人降りてきた
こちらも降りて乗り換える
会話は班長以外しない

ベンツは信号を左、青山方面へ消えていった

「車出してトンネル潜って信号の先の路肩に駐めて待機。交番の先でいい」
「了解です」

もう一台のアルファードとすれ違う時軽く会釈する

「後は連絡待ちか」ボソボソと班長が言う

渋谷で降りれば出口で待ってた奴等が
外苑なら龍班の仲間が後をつける
後付けが捲れていれば予測不能だ…

時刻は間も無く11時半
小雨がウザい

車を乗り換えて30分過ぎた頃横田が鳴る

「はい…問題ないです。わかりました…連絡待ってます」

対象は外苑で降りる可能性が高い。
そっちは待機していてくれ。
ヤサは龍班の仲間が突き止める。
追って連絡する。

12時半横電が鳴る…

「いくぞ、場所は六本木けやき坂」
3人は今日初めてハモった「了解です」

ヤサを突き止めた
車内の全員がそう確信した

けやき坂
裏の公園

両車線2台ずつ
ある建物の車寄せを取り囲むように駐まってる…
ヤサだな…

車からは決して降りない
街頭のカメラに気を使うのは当たり前のことだ

横電が鳴る
会話が終わる

仮にあの場所がヤサならマズイ
セキュリティーは固い
カメラもある
エレベーターは階にしか止まらない
ヤサの周辺もカメラだらけ

「どうするんですか?」


今日はこれで撤収だ。
我々が直接動く事限りなく無いだろう。そして後は龍班の人達が動くそうだ。
それ以上は聞くな…

はい…

「雨止まないですね」

雨?雨は降っててくれたほうがいい
足跡を消してくれるからな

必ず晴れが来るように、必ず雨は降る


はじまりはいつも雨




ー最後に…


これが普通なのか、それとも異常なのか
そもそも異常と正常はどうやって決める
この物語が真実か嘘か
真実が嘘で、嘘が真実のこの世界
何を信じて何を疑うか
目で見て耳で聴いたことでも真実と言えるのか


この物語の続きは今でも続いてる…



血で血を洗い流す物語


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