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はじまりはいつも雨Ⅱ


車を走らせる事1時間近く…会話はない。


各々が頭の中で考えを巡らせているのだろうか。
俺は頭の中で、どんな内容なのかだけ気にしていた。


「おい、高速降りるぞ」
その合図でまた3人は俯き、1人は怪しくない程度に顔を隠し料金所のカメラに注意を払った。


「アレ出せ」助手席の男が言うと後ろの席の奴が動き出した「電源入れてチャンネル合ってるか確かめろ」黙々と作業する男。

手慣れてる、経験してるのか…そんな風に思った矢先ぶっきら棒にインカムを手渡された。
シールが貼ってある。それも今の状況とは不似合いな可愛い猪のシールだった。


「説明する」始まった、急に喉が乾く…


「これから行くのは某旅館。そこでは某暴力団組織が慰安旅行をしている最中だ。人数は内通者の情報だと40名以上。こちらは4人と現地合流組8人、合わせて12人だ」


…現地で8人と合流か…12人、それでも圧倒的に不利だ。こっちの武器はスラッパーと熊用スプレー…スプレーは攻撃よりも逃げる時使用、実質武器はスラッパーのみ。
合流する人間達が違う武器持っているのか?

…「おい!聞いてんのか!」
「すみません」「ちゃんと聞いてろ!今回の対象は1人、車は黒のベントレーフライングスパーで対象と運転手だけでお付きはなし。堅気だ。ただの堅気じゃないけどな。」別の1人が聞く「Sですか?」
「あぁオーナーだ。」


「宴会を主催してる組の頭のダンベで、そいつが今回の対象。今日はあくまでもヤサを突き止めるだけ。チャンスがあればやるかもしれん」
【ダンベとは資金提供者の事を言う】


ヤル…


「着くぞ、パッシング3回必ずしろよ」車内の空気が変わった。緊張が走る。

車が温泉街を抜け角を曲がって林道に入ると広い空き地に出た。そこにはライトを消した車が2台ベンツとアルファードだ。車の側に何人かの人影が見え車内からでも異様な雰囲気が伝わった。


「オザッス」助手席の男が挨拶する。その場に立ってた男達の緊張が解けたのが伝わる。「おせーよ」リーダー格だろうか、機嫌が悪いようだ。


12人全員揃った。こちらの4人は黒ずくめ。ベンツ組はラフな私服。アルファード組は作業着だ。

「じゃあ全員揃ったところで説明する。」

雨の粒が少しだけ大きくなった…ように感じた。


「大まかな事は各々道中で聞いてると思う。3班に別れる。俺らは鼠(ベンツ組)、こっちは龍(アルファード組)、そっちは猿。班内ではインカムの動物で呼び合え」

インカムの猪は干支だった。

「まず俺らは建物の中、駐車場に偵察に行く。龍達は建物周辺を頼む、猿達はいつでも動けるように待機していてくれ。動きがあれば連絡するから追跡頼むぞ」
「質問あるか?」

「それだけ相手の人数多いなら面割れてる可能性もある、知ってる顔が居れば警戒するんじゃないか?」

「その危険性もある、だから各班で新人1人ずつ連れてきてるはずだ。新人の奴等は上の人間の指示通り動け、決して気を回して余計なことはするな、わからないことはすぐに聞け。」

「それと…無いとは思うが一人で居て万が一囲まれたり、危険になったら逃げろ。絶対に捕まるな。」
「他に質問は?無ければ行くぞ20時…いい時間だ…」

各々動き出す。俺達は車に戻り他の班の人間達は暗闇の中光る旅館目指して消えていく…

雨脚が少しだけ強くなってきた…

興奮してるな、女を抱きたい、ふとそう思った…

「…」インカムが鳴った…

続く


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