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はじまりはいつも雨III


「…おい…聴こえるか」
声の主はリーダー格の男だ

「…龍聴こえます。どーぞ」
「猿聴こえます。どーぞ」

「よし、龍班は2人1組に散って裏手にある非常階段、出口を調べて固めておいてくれ。猿班は動きがあるまで待機」

「了解」


俺たちはハイエースからベンツに乗り換えてる
対象の車に追いつかないからだ

S400の黒塗り…繁華街ならこの服装でこの車なら確実に職質対象だ

エンジンは切ってある、手袋を握りしめたり道具のグリップを確認して暇を持て余す

俺は窓の外の暗闇を見つめていた

10分…20分…時間が経つ
車内は相変わらず会話がない…
目を閉じる者、暗闇を眺める者それぞれだ

40分…50分…

雨は降り止まない…
頭の中で何故かチャゲ&飛鳥の「はじまりはいつも雨」がリピートされている


暗闇に目もだいぶ慣れたその時旅館の方へと続く道から人が走ってくるのが見えた

「誰か来たっ」「2人だ」

4人に緊張が走る…よくみると龍班の2人が息を切らして走ってきて言う

「紛らわしい」舌打ちをする

「宴会がもう終わる、先に戻っておけと言われて俺達2人が先に戻ってきた」

丁度インカムが鳴る
「…内通者から伝達で21時半で宴会は終わる正面に待機してる運転手達もソワソワし始めたから動きあるぞ。龍の残りの2人も戻ってくれ。猿は準備頼むぞ。追って連絡する」

「了解」

「そういう事です。自分達はハイエースに乗ります」「わかりました」
そう言って龍班の2人はハイエースに乗り込んだ

「最終確認しておけよ」

靴紐、ポケットにクボタン、反対には結束バンド、手袋、スラッパーと何度も確認した事を最後に確認する

問題ない


丁度龍班の残りの2人が戻ってきた

「準備は万端?」
「じゃあ連絡来たら県道行こうか」

インカムが鳴る

「ジ…準備はできてるか。何人か出てきてるからもう間も無くだ、県道の方に行ってくれ」

「了解」

車のエンジンを掛ける…

車の震えがなぜか身体に伝わって身震いする

ベンツを先頭にハイエース
県道に出る

旅館から高速まではこの県道を使う

ベンツを先に止めハイエースをその後ろに止める
ハザードはハイエースの一台のみ
ベンツはライトを全部消す …

{こうすると後続車はハイエースしか目に着かず、追い越しざまにベンツを初めて認識する。しかし運転手は直ぐ前方を向くため夜道などで2台並んで停まっていても先頭の車両に気が付きにくく、仮に気がついても事故か何かと思う。特に街灯もなく雨の夜で視界が悪い時などは…}

「対象出たぞ!そっち方向に向かう!」
インカムから息を切らして喋る声が聞こえる
鼠班もアルファードに向かってる


「来るぞっ!」

県道の奥に光るライトの動き…

飛ばしてる…

車内に伝わる緊張、強まる雨音、ハイエースのハザード音、自分で唾を飲み込む音が鼓膜に響く

「来た」

ハザードを焚くハイエースを避けるように飛ばす黒塗りのベントレーフライグスパー

「ナンバー練馬◯◯◯◯間違いない」

踏み込むアクセル、唸るエンジン、後ろに持っていかれる体

車間距離約50m

曲がるたびにテールランプが消え、また現れる

速度に変化なし

信号は高速に近づかないとほとんどない

ヤルのか…後付けだけか…

信号待ちか…高速の乗り口か…

力が入る、そんな時こそ深呼吸だ


一瞬対象の車がヨロケル…バレたか…

違う、スモークが濃すぎて中の動きはわからないが多分運転手が車内で動いた拍子に軽くハンドルを切っただけだろう

その証拠に、速度は先程のままを維持してる
バレてたらもっとスピードを上げるだろう


後部座席の2人は交互に後ろを確認し後続車が来ないか確認する


助手席の男が飛ばしの横電(ヨコデン)を出して電話する
【飛ばし:名義飛ばし】【横電:連絡用の電話】


「今付いてますが、怪しい動きはしません。」
「…」
「わかりました、現状維持で後ろに来るの待ちます」


電話が終わる



「今追いつくから現状維持、何もするなとの事だから、後ろちゃんと見ておいてくれ。ケツに付いたらライト消すそうだ」

「了解です」

「自分後ろみときますよ」

俺はそう言って振り向いてスモークで更に暗くなった県道をアルファードのライトが見えないか眺めていた

カーブを何個か過ぎた時、それは目で確認できた

白く光るヘッドライト


まるで獰猛で狡猾な狼が何キロも先から獲物の匂いを嗅ぎつけて、追ってきている様に感じた

「見えました」

「間違いないか?」「はい」

「インカム試してみろ」

インカムを手に取る
カチッ「聞こえますか、こちら猿です」

応答がない

「聞こえますか、こちら猿です。聞こえたら返事願います。どーぞ」

応答がない…

後ろを見る、ヘッドライトはカーブを曲がるたびに消えてはまた出てくる


一縷(いちる)の不安が湧き上がってくる…

その時だった…


「おいっ!」

続く


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